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花は微笑まない  作者: 青空
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帰還


帰りはピナの牡鹿とランスの狼の背に乗せてもらうこととなった。

動物の背中に乗せてもらうことはあまりないから、私もレオンも最初はピナやランスにしがみついていたのだけれど。それもすぐに慣れて景色を楽しむようになっていた。

「この国はやはり活気があるな」

「なんたってあの王様が治める国だからな!」

ランスの呟きにレオンが自慢げに胸をそらす。

なぜアンタが鼻高々なんだと言いたいが、自慢したいのは私も同じなので黙っておいた。

「うんうん。王様はすごいよね。でもあたしたちだって負けてないんだから!」

ピナがにっと笑い、ね、と牡鹿に話しかける。すると彼は返事の代わりにグンと走るスピードを上げた。

「そういえばプリュイさんがクレッシェ女王は侮れないって言ってたわね」

それも額に手を当てて、疲れたような、尊敬しているような目で。

「あの方は本当に侮れませんね。下手をしたらこちらが喰われてしまう」

と、この国の敏腕宰相であるプリュイさんにあそこまで言わせられる人なんてなかなかいないと思う。

「えー、あたしはー?」

「ピナは妹ぐらいにしか思われてねぇんじゃねえか?」

頬を膨らませるピナにレオンが返す。

確かにプリュイさんは私たちにとっての母代わりであり、兄代わりだ。まさか侮れないとまでは思われていないだろう。

「ピナ様、日々精進です」

ランスの厳しい言葉にピナは、

「もう頑張ってるよー」

とうなだれたのだった。


狼と牡鹿の背に乗って駆けること一刻。

やっと私たちは王宮まで帰ってきた。部下たちの敬礼やおかえりなさい!という声に応えつつ、ピナたちと共に王宮の白亜の門をくぐる。向かう先は王様の執務室だ。

いざ扉の前に立ち、ノックをしながら、

「王様、プリュイさん。ただいま戻り…」

と扉を開けた瞬間。

「王よ!アンタはおとなしく王様業をしていてください!」

「嫌だ!オレも魔物討伐に行く!」

「待ちなさいウラノス!」

執務室から王様が飛び出してくるのと、プリュイさんが投げたペーパーナイフが壁に刺さるところが目に入った。

…入るタイミングを間違えたわ。

私はそっと扉を閉めた。

「相変わらず派手だねー、王様とプリュイさん」

ピナが楽しそうに笑う。

そう、今のやりとりが常の賑やかなふたりこそ、この国のツートップであるウラノス王とプリュイ宰相なのだ。

「さっさと帰ったって報告しようぜ」

疲れたようにレオンは頭を掻いてドアノブを握る。それを、

「やめておいた方が良い。夫婦喧嘩に横槍を入れるのは無粋だろう」

と、何故かランスが止めた。

あれ?なんでここで夫婦喧嘩なのかしら?

一応ランスは隣国の族長の息子だというのに、この王宮に仕えているいる人たち並みには王様とプリュイさんのことをよくわかっている。ふたりがこの王宮に仕える者たちに夫婦と呼ばれ慕われていることも、それをプリュイさんが否定していることも。

これも国同士が良い関係である証拠よね。

…だけれどひとつ、間違いがある。

「プリュイさんは男性よ」

ランスも知っているはずだし、冗談を言うような性格ではないと思っていたのだけれど…。

首を傾げると、

「あれ?王様まだ妖精の粉使ってないんだ」

とピナの口から恐ろしい言葉が飛び出してきた。

「妖精の粉?」

レオンが目を瞬かせる。きっとコイツは知らないのだ。

「それって性別を変えられる秘薬じゃない!」

どうしてそんなものを…。…まさか。

「はぁ⁈じゃあ王様、まさか…!」

レオンが目に見えて蒼ざめる。

「ええ、まずいわね」

レオンも私と同じ考えに行き着いた確信して、顔を強張らせる。

もし推測が正しければ、とんでもないことになる。

「王様、女になるのか⁈」

「プリュイさんを女性にするのよね⁈」

…沈黙が落ちた。

「え、王様はないでしょう」

「いや、プリュイさんこそねぇだろ」

いやいや、ないないとお互いに首を振る。

「だってあの王様だぞ?プリュイさん手に入れるためなら何でもするだろ」

「だからこそプリュイさんを女性にするんでしょう?」

「んなことしたらプリュイさんの特大の雷が落ちるじゃねぇか」

「王様が女性になったって落ちるわよ」

お互いに顔を見合わせて、ついではああ、と大きなため息をついた。王様が取り寄せたという妖精の粉の用途方法を考えると、やっと帰ってきたばかりだというのに心が沈む。

プリュイさんを怒らせると怒らせた本人に特大の雷が落ちるのはもちろん、周りにも被害が及ぶのだ。

例えば周りにいる人たちにも正論すぎて言い返せないお小言をつらつらと並べ、ひどい時は職務放棄して大量発生した魔物狩りや盗賊狩りに行くのだ。

もう宰相とは何だったかとわからなくなる所業である。

「阻止しましょう」

「ああ。アレだけは使わせられねぇ」

珍しくも私とレオンはお互いの手をギュッと握り合う。

レオンの手の力が強すぎるのも、今回だけは許してあげよう。そんな些細なことなんて気にならなくなるくらい、プリュイさんは怒らせてはならない相手なのだ。

…私もレオンも王宮に引き取られてから散々プリュイさんに怒られたからね。魔法の研究室を爆発させたり、この国の兵士たちに馬鹿ないたずらしたりして。

「まぁまぁふたりとも!面白そうだしいいじゃん」

諸悪の根源があはは、と笑う。

「ピナ様もお小言の対象ですよ。特に妖精の粉をウラノス王に送ったのは貴女なのですから」

と歯止めをかけるランスがいる。

げ、と顔を強張らせるピナをランスが軽く窘める。彼ならきっとピナのことを止めてくれるだろう。

「まずは妖精の粉ってヤツをなんとかしようぜ」

「妖精の粉は燃やせば効力をなくすはずだわ」

なんて、執務室の前で堂々と話していると。

「もう遅いですよ、レオン。フィオーレ」

聞きなれた穏やかで低い声が耳に届いた。その瞬間に心臓が凍りつく。

「プ、プリュイさん…」

顔を突き合わせて話し合っていた姿勢のまま固まった私たちに、プリュイさんはそれはもう優しい笑み(ただし目の奥には冷たい怒りが宿っている)を浮かべた。

「おかえり、ふたりとも。ご苦労様でしたね」


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