迷子の話
「そういえばお前の母ちゃんってどんな人なんだ?」
レオンがふと思い出したように尋ねた。
するとカラは曇りのない目で自慢げに胸を張って、
「すっごく強い魔導師なんだ!お父ちゃんはカッコいい剣士でね、えいゆーってやつなんだよ!」
と答えた。
すごく強い魔導師とかっこいい剣士の子、かぁ。…魔導師ってことは人間の魔法使いね。それもすごく強いってことは、私の知っている人かもしれないわね。
カラの魔力の光も、よく見ればどこかで見覚えがあるものだし…。案外王宮魔導師の誰かの子なのかもしれないわね。
「そうか、カラの父ちゃん母ちゃんはすごい人なんだな!」
「うん!」
レオンがワシャワシャとカラの髪をかき混ぜる。
カラがほっぺたを赤く染めて、体が揺れるほど大きく頷いた。きっとカラはご両親が大好きなのだろう。
やっぱり家族を褒められると嬉しいわよね。私にお父さんとお母さんはいないけれど、家族みたいな仲間たちを褒められたら嬉しいもの。
「早く会えるといいわね」
声をかけると、カラは少し間を置いた後に頷いた。
その日の夜は、王宮から持ってきたブランという小麦粉を水で練って焼いたものと干し肉で手早く済ませて、早々に眠りについた。
朝が来て、私たちは昨日のように空を飛んでフォルティス方面で王都から一番近い街テナーを目指した。
今日は空を飛べない人が二人いるから、杖に私とレオンの間にカラを挟んだ三人乗りだ。
ちなみにルーナは人を抱えて飛ぶことができないので、今日も隣を並んで飛んでいる。
「わぁあ!フィオ姉ちゃすごい!お母ちゃんみたい!」
「そう?ありがと」
魔法を使うたびに喜んでくれると、もっともっと魔法を見せたくてうずうずしてしまう。
この子に魔法を教えているお母さまはきっと楽しいでしょうね。
魔導師は魔法を愛している者が多い。愛する魔法を人に…しかもこんなに目を輝かせてくれる我が子に教えられたら、きっとどんなに幸せかしら。
「カラ、剣も強えんだぜ!俺が教えてやろっか?」
レオンがわくわくとカラに尋ねる。
どうやらレオンも剣術を広めたいみたいね。そういえばよく、王宮見学に来た子どもたちに派手な型の剣術を披露してはしつこく騎士団に勧誘していたし…。
相変わらずの剣術オタクね、なんて思いながら会話を聞いていると。
「レオ兄ちゃは剣が使えるの?フィオ姉ちゃとレオ兄ちゃ、お母ちゃんとお父ちゃんみたいだね!」
「…え」
思わず目を瞬かせた。
「わぁお。子どもって正直ー」
ルーナがピュイッと口笛を吹く。その目が面白がるようにレオンに向けられている。
つられるようにしてレオンの方を振り向こうとすると、
「バッ…!見るな!」
と頭を掴まれた。頭蓋骨がメリメリと軋む音がしそうなほど強い力で押さえつけられ、顔を上げることもできない。
「ちょっ!痛いわよ!」
「いいから前向け!」
「なら手を離しなさいよ!」
「ぜってぇこっち見んなよ⁈」
レオンが騒ぎながらもゆっくりと手を離す。
まったく、運転中になんていう暴挙をしでかすのかしら。
顔を上げて前を向く際に、チラリとレオンの顔が視界の端に映る。その顔がいつもよりも心なしか赤く見えた。
…あれ?もしかして熱でもあるのかしら?
「…レオン、アンタ体調が悪いなら早く言いなさい」
「は?別に悪くは…あ、こっち見ただろ!」
「見えたのよ!」
答えながらも、レオンが暴れても落ちないように杖の制御に集中する。
まぁ、こんだけ騒げるくらい元気なら大丈夫でしょ。
「やっぱりお父ちゃんとお母ちゃんみたいだ」
カラが楽しそうに笑っていた。
テナーに着いたのは太陽が空のてっぺんに昇る頃だった。
「テナーって確か、アシミさんが住んでるとこだね」
ルーナがテナーの街を俯瞰して呟く。
「ええ。薬草のお菓子を病気の子供たちに配っているわ」
「あー、ばあさんお菓子作り得意だったもんなぁ」
レオンが懐かしそうに目を細める。
アシミさんは私たちを5歳まで孤児院で育ててくれたシスターだ。つまり、私たちの祖母のような人に当たる。
「アシミさん?」
「おー、ふたりを育てたパワフルなおばあちゃんだ」
ルーナがな、と肯定を要求する。確かに、何かいたずらをすると容赦なく拳を降らせるパワフルな方だった。
「おう」
「ええ、そうね…」
幼い頃数え切れないほど怒られたのを思い出して、思わず遠い目をする。
昔はアシミさんのお説教が一番恐かったのよね。二番目は安定のプリュイさんだ。
「せっかくテナーに来たんだし、ばあさんにも会ってこうぜ」
「ええ、そうね。ルーナとカラもいいかしら?」
レオンの提案に密かに心を弾ませつつふたりに確認を取る。
「オイラはいいよ」
「僕も!」
ふたりが頷いてくれる。
やった、久しぶりにアシミさんに会えるわ!しばらく会っていなかったけれど、お元気かしら?
「じゃあ早く行こうぜ!」
レオンがパッと笑顔になる。
「もちろんよ!」
テナーの街に向かって下降しながら、私はアシミさんとの再会に心躍らせたのだった。




