僕は私の夢を見る。
僕の日常は退屈で退屈な毎日だった……
けれど、ある夜僕にとって変わり始める一夜があった。
あれは……僕が私の夢を見るそんな一夜……
あの夜から僕の一日は変わった。
だから、これから話す話は僕が私の夢を見るそんなお話。
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今日もいつもと同じ一日だった。
当たり前の授業……当たり前の教師……そして、当たり前のクラスメイト。
そんなものを目の当たりにして、僕は何度もため息を吐いた。
僕を子供として見ない大人達に僕を子供と見ないクラスメイト達。こんな環境で僕は僕としてあった。
親からも愛されず、他人からの評価を気にする生活……そんな生活には飽き飽きしていた。
「……はぁ、今日も一緒か。何をやっても毎日毎日同じことの繰り返し……こんなものは僕は望んでいないんだけどな……」
今日も代わらない一日が終わり、僕はベッドへと足を向けた。
「明日も……同じなのかな」
僕はそう呟き夢の中へと入って行った……
□□□
「アリサ!アリサ!」
その声は『私』を呼んでいた。
「あ……サリア……」
その声の主は『私』の友人である。サリアの声だった。
どうやら『私』は授業の終わりまで寝ていたらしい。
「もう、貴方は何も出来ないんだから、授業ぐらいはちゃんと聞いてなさいよ」
「ごめん……」
サリアは『私』にそう言った。
『私』はそれに謝り、今の自分を見ていた。
そうなのだ……『私』のわけがないこれは僕でないといけないはずだ。
僕が知らないこの光景は『私』は知っていた。
でも、今の自分は何か違うと言う感覚が支配していた。
「もう、またぼーっとして。行くよ」
「う、うん……」
『私』はサリアにどこかへと連れられていった。
ただ、僕は知らないけれど『私』はどこへ行くかは知っていた。
それは、ある一つの部屋だった。
そこでは、いろいろな僕が知らなくて『私』が知っている不思議な現象、そう魔法を扱う部室だった。
『私』はこの部の一員で、何も出来ない代わりに雑用を受けもっていた。
そうして、今日の一日は過ぎていった。
『私』は家へ戻り、親からは愛され温かいご飯を食べ、暖かい布団の中へと入って行った。
『私』は知っているうれしいという感情。でも、僕は知らないそんな感情……僕はとてもそれがうれしかった。
そして、『私』は寝に入った。
□□□
「……夢」
僕は朝起きると夢の中であったことを思い出していた。
自分であって自分ではない他人の生活をしていた。
その中では僕は男ではなく女であり……そして、今の僕とは真逆の生活を歩んでいた。
僕はまたその夢を見れるのかなと思い、今日の変わらない退屈な日を始めるのだった。
そして……その日が終わり、また僕は夢を見た。
その夢はやはり、現実で……僕にとってとても充実できる夢であった。
僕はこの日から学校が終わると、すぐに食事を終わらせすぐに寝に入ることが多くなった。
□□□
「アリサ!次はそれを取って」
「はい!」
『私』は今日も一日、雑用をしていた。
この雑用は今まで男の僕ならば、苦もせず簡単に終わらせられていたが、『私』だと簡単には終わらせられず、誰かに気を使われたり、誰かから負の感情をぶつけられたりと今まで味わったことのないことを与えられていた。
「ねぇ、サリア?最近のアリサ変わってない?」
「そう?いつもと一緒だと思うけど……?」
僕をよそにサリア達は『私』のことを見てそう言っていた。
けれど、僕のときと違い、気にされているという気持ちが僕を満たしていた。
やはり、夢の世界だけれど……僕はこの世界のことが好きになっていった。
そして、今日も『私』の夢は終わった。
□□□
あれから、毎日僕は寝ることが多くなった。
それを両親は不思議とは思わず、無関心を決められていた。
けれど、それはそれで僕にとっても問題はなかった。
そして、今日も夢を見る。
□□□
それは、ある晴れた日のことだった。
『私』はある一部の生徒に校舎裏に呼ばれていた。
「ねぇ?アリサ、最近何か調子乗ってないかな?」
その生徒はいきなり『私』にそう言ってきた。
『私』には調子に乗るといったことはまったくといっていいほど心当たりはなかった。けれど僕にはなぜ、こんなことをこの生徒達が言うのかは大体分かっていた。
そう、今まで『私』はできないものは本当にできず、それを見てこの生徒達はあざ笑っていた。
けれど最近の『私』は僕によって、本当にできないものでもしっかりとやれるようになっていた。ただ、要領が悪いと言うことには代わりが無かったが。
「えぇ?調子になんてのってないですよ?」
「嘘だ!お前……最近私達を見て、笑っていただろ?」
「……?」
『私』はとぼけてやった。
そう、この生徒達はさっきも言ったとおり『私』ができないことに笑っていた。けれど、『私』ができるようになり、逆にできないこの生徒達を『私』が笑っていた。いや、僕が笑っていた。
「てめぇ……」
一人の生徒が怒りに震えていた。
そして、その生徒は『私』に目掛けて殴ってきた。
『私』はそれを避けずにそのまま受けた。
「……そんなものですか?」
『私』はその生徒にそういった。それもとびっきりの笑顔で……
「……なんなんだよ、最近のお前は!前までのおどおどしてたのは演技か!」
「さぁ?演技かもしれませんし、演技じゃないかもしれません。」
「……ぐっ、てめぇ……」
そして、その生徒は『私』に向けて攻撃を仕掛けてきた。
けれど……
「そこままです。」
そのタイミングで先生がやってきていた。
「くっ……」
『私』はその先生が来るタイミングで相手生徒ににっこりと微笑んでやった。
「謀ったな……」
「どういうことでしょうか?」
「くっ……」
そして、その生徒達は先生に連れて行かれた。
「あは……あははは……愉しい……こんなに愉しいのは初めて」
『私』は……僕はとても愉しい気持ちに包まれていた。
そして、今日の愉しみが終わり……夢の一日が終わった。
□□□
「……くくく」
僕は夢から覚め、その夢を思い返していた。
何も出来ない、そんな体でもしっかりとやればできると言うのは僕は知っている。
僕の知識で知っている。
その体を動かすと言うのは何でも出来るのが当たり前であった、僕にとって、とても新鮮だった。
そして、僕はそれを使って僕を落とそうとしていた者達を返り討ちにあわせてやった。
あれほど愉悦を感じることなんて初めてだった。
「あぁ……あの世界が本当の世界であったなら……僕はどれだけ愉しいのだろう」
僕はそう呟いていた。こんな退屈で退屈な世界なんて僕はいらないあの世界での『私』それが欲しかった。
「夢で無ければ……よかったのにな……くくく」
僕はそう呟いて、今日の一日を始めた。
そして、今日は終わり、また夢の世界へと入っていった。
□□□
「アリサ?……最近、出来るようになってきたのね」
「うん、サリア。今まで何でやれなかったのか私は不思議だった」
「そう」
『私』はサリアと話していた。
それは『私』の日課だった。
『私』が目覚めると、そこには必ずサリアがいた。
サリアが『私』を起こし、『私』が起きてサリアと話す、それがいつもの一日だった。
けれど、今日は違った。
なぜなら、『私』が目覚めたのはいつもの教室ではなく自分の部屋だったからだ。
『私』はいつもの通り、制服を着て、学校へと登校した。
そして、サリアと出会い会話を交わしていた。
「貴方はそろそろ完全になるんじゃない?」
「……どういうこと?」
「さぁね」
サリアは意味深に『私』に言った。
『私』は疑問に思ったが、まぁいいかと簡単に流していた。
「今日もこの一日愉しもう……」
『私』はそう呟き、今日の一日が始まった。
今まで通り『私』は雑用を受け、いつものように過ごしていた。
あの、『私』をあざ笑っていた生徒達は私を見ると、逃げるように去っていった。
『私』はそれを見て、静かに笑っていた。
「この日常がやっぱり私の日常……あぁ、覚めなければいいのに」
『私』はそれを心から願っていた。
そして、今日もただいつも通りの愉しい一日が終わった。
「……はぁ、今日もおしまいか。」
『私』はそう呟き……布団中へと入っていった。
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そして次の日になった。
『私』は『私』で僕ではなかった。
「……えっ」
そのことに『私』は驚いていた。
いつも、その日が終わり、寝に入ったら僕に戻っていた。
いや、夢なのだから覚めていた。
けれど、今は、『私』であった。
「これって……まさか……あは……あははは」
僕はいや……私は笑っていた。
そうである、私が望んでいたことが叶ったのだ。
これを笑わずしてなんになる……
そして、今日も私の一日が始まった。
だから、このお話は私が『私』の夢を見る話……