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元自衛官、異世界に赴任する  作者: 旗本蔵屋敷
5章 元自衛官、異国へ赴任する
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77話

 マリーと約束したとおり、魔法に連なる事で付き合う事になった。

 しかし、今回はどうやら趣向が違うらしく門を出なければならなくなり、若干そこで手間取ってしまう。

 それでも彼女が機嫌を損ねなかったのは、自分としてはありがたいことだった。


「さって、と。今日はアンタに色々教わりながら、そのついででアンタに魔法戦闘と言うのを教えてあげる」

「あ~、外に来たって事は。周囲に被害が及ぶような事をするって事?」

「とうぜん! アンタはなんか色々教わってるみたいだし、私も少しは教えないと不公平じゃない」

「それは思いつき、それとも義務?」

「ん~。私がアンタを好きで、私のできる事を知ってもらう事と、その力の一部をアンタのモノに出来れば相互利益が発生するでしょ。今は私もアンタも前線は譲ってる状態だし、丁度良いと思ったのよ」


 そう言って彼女は魔導書を出す。

 彼女達英雄の連中は自分の武器等を概念化しているらしく、普段は携行しないで意志のみによって出したり引っ込めたり出来るようだ。

 フアルも何だか似たような事が出来るみたいだけれども、彼女は”召喚”と言うよりはカティアと同じように”魔法による装備の作成”に近いようだ。

 そこらへん大タケルに説明してもらった。彼女は魔法が使えるけれども全くの無学らしく、説明できないので投げていた。

 

「なんでマリー達は魔導書や武器をそうやって出し入れできるのに、魔法に関しては詠唱だとか刻印や動作が必要なんだろ」

「武器は身体の一部だし、伝説に欠かせない代物だから一緒に伝説化したんじゃない?」

「そんな適当なので良いんだ……」

「そもそも肉体全部が魔力で構成されてると言うのが一番非常識でしょ」

「確かに」


 そう言いながら、念のためにと準備運動をする事に。

 マリーは完全に中~遠距離が役割だからそこまで体をほぐさなくても良い。

 しかし、自分は銃と言うものがありながらも”戦闘に決を与える”と言う普通科の役割どおりに、最終的には近接もこなさないといけないので十分に暖めておく。

 野戦突撃で肉離れや攣りで役に立たないとか一番笑えない話であり、行軍をしているのならまだしも最近は歩いているだけの毎日だ。

 アイデンティティというか、やはり身体を動かさないと鬱屈するというのは正しい気がしてきた。


「さて、と。それじゃあアンタに問題。相手の攻性魔法への対策は何かしら」

「当らないこと、あたっても軽減するための防性魔法を自身に張っておくこと?」

「ええ、正解。んで、アンタは剣を持ってるから思い出したのを教えてあげる」

「ん、お願いします」

「魔法の基本、基礎というか、どんな属性になろうが根っこは魔力で出来てる。アンタも私も、肉体があっても、魔力の身体であってもこれを空っぽにした時点で死ぬ、大事なものね」

「吐き気がしたり、頭痛や眩暈がしたり、眠くなったり色々あるね」

「それは置いといて。剣に魔力を纏わせておくと、咄嗟に相手の魔法を斬ったり無力化できたりするの。さ、準備準備」


 そう言ってさっさと講義を終わらせ、実践に入るあたりやりやすくて助かる。

 剣を抜き、魔力を剣に纏わせる。

 そこまでだと何だか贅肉と脂肪のついた魔力のようになってしまい、刃のように鋭くするイメージを持つ。

 片目では魔力が纏わり、イメージどおり薄っすらと剣に張り付いているのが見えた。

 そうやって準備を整えている間にマリーは距離を開き、対応が間に合わなくて直撃しないようにしてくれる。


「それじゃ、一応加減はするけど死ぬ気でやりなさい。私の魔法って、威力特化だからこの前渡した保護の装飾品を身に付けていても重傷よ」

「って、前に渡してくれたアレはそうだったんだ……」

「それについては後で。それじゃ──まずは対応がしやすい炎から!」

「お願いします!」



 ──お願いします。自衛隊の訓練でも散々言ってきた言葉だ。

 礼儀の一環として、或いは新米兵士が胸を借りるという意味もある。

 空手や柔道、剣道などでも礼儀は大事だからあまり深く考える必要もないかもしれない。

 そしてマリーが軽く。本当に軽く手を振るうと、明らかに人を飲み込んでもおかしくないくらいの火球が飛んできた。

 自信が無い、どうして良いか分からない、やろうとしている事が正しいかどうか分からない。

 無い無い尽くしで戸惑ってしまうが、やる事は若干分かっていた。

 タイミングを合わせ、火球を垂直に叩き斬った。

 斬られた炎が自分の両脇を通り抜け、熱さを感じながらもダメージを皆無でやり過ごせてホッとする。


「これで良いのかな?」

「たぶんそんな感じ。私も理論や理屈を聞いただけだけで、真似を何度かやったくらいだけど」

「へえ」

「因みに、魔力を帯びなくても力量や技術でも魔法って斬れたりもするから覚えておきなさい。あの屋敷で言うザカリアスがそういう系統ね。魔法使いが相手でも、魔法が使えない身分でも対向出来るとしたらああいう人」


 脳裏に公爵家に使える老年の執事を思い出す。

 あの人軍事演習にも兵を率いてヴァレリオ家の長男と次男の別働隊を押さえ込んでいたし、技術力と経験から来るものなのだろう。

 ただ、力量や技術って言ったからには、その二つが一定量水準に達していないと出来ないということかも知れない。


「相手がどんな相手でも、少し力量があって頭が回れば魔法の無効化方法は幾らか見つかるから、絶対動揺しないこと。これからどっちに重きを置くか判らないけど、相手によっては魔法が利き難い相手も居るから、即座に仲間を頼るかアンタの場合は物理に切り替えなさい」

「なるほど……」

「後、面白いことしてあげるから同じように炎系を私に向けて放ってみなさい」

「ん、判った」


 片手を判りやすく掲げ、頭の中でイメージを固めて指を鳴らすことで始動させる。

 気分は焔の錬金術師だが、でかい火球がマリー目掛けて飛んでいくも、途中でその動きが止まってしまった。

 何だろうかと考え込むと、向こう側でマリーが片手を挙げているのが見える。

 その動作と火球の挙動で宇宙的な危機《Dead Space》を連想し、直ぐに剣を構えた。

 次の瞬間、火球が容赦なくこちらへと飛んできてそれを慌てて切り裂く。

 ギリギリだったけれども対処が間に合い、冷や汗が流れた。

 

「直感なのか本能なのか経験なのか──反応は良いわね」

「え、今もしかして相手の魔法を魔法で制御して返した?」

「ええ、そう。けどこれって、走ってる人をそのまま向きを変えるようなものだから消費と操作が難しい事になってるかしらね。怖気づけば捕らえられない、焦れば早すぎる。一歩も退かず、心の波は静かに保って──掴む」


 そう言ってマリーは手を握り締め、開いた。

 その動作の意味は分からないけれども、純粋に凄いなと思った。

 英雄の名に恥じない事をしているし、出来ると言うことなのだろう。


「──その一握りでも、ミラノに教えてあげられればなあ」

「ダメよ。私にとって魔法は武器であり、商売道具であり、私が私である為に構成している大きな存在だもの。それに、あのチンチクリンは自分でやると言ったんだから、自分で歩かせなさい」

「じゃあ、自分が色々言うのは良いんだ」

「アンタは色々な発想や意見を持ってるけど、基盤が無いから試行錯誤含めてやらせるのも良いかもね。私は仲間の仲間は仲間と思うような甘い事はしない。だからアンタは私を裏切らないようにしなさい」

「はあ、厄介な相手に懐かれたものだな──っと。さあ、ドンドン行こう」


 その後、様々な攻性魔法に対して剣を用いた回避や防御、無効化の訓練を積み重ねる。

 港町でやっていたら大騒ぎだ。そもそも魔法使いの大半が特別階級だから尚更ヤヴァイ。

 マリーは良い教師だった。それはつまり、座学だけじゃなく、実践も織り交ぜて頭と肉体で理解させる形式だったからだ。

 自分がアルバートにやっている戦闘訓練と同じで、山本五十六の言葉を参考にしている。

 『やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば人は動かず』と言っている。

 ただ、マリーが褒めてくれているかどうかは判断に困るのだが。


「まあ、剣が有ればそんなものかしらね」

「え、剣無しとか有るの?」

「やってる事は同じよ。ただ、武器を使わない分魔法に自分を曝け出さなきゃいけないから、消費魔力を多くして防御に回さなきゃいけないの。だから奥の手だし、私が思いついた物だから覚えておけば役に立つかもね」

「──ポップの真似事が出来るなあ」


 脳裏でダイの大冒険終盤を思い浮かべてしまう。

 不死鳥を象った焔の口に両手を突っ込み、思いっきり左右へと裂いて魔法を無効化した展開があった。

 あれと同じで素手でも出来るのか……。そんなの童心に帰ってやりたくなる。


「──やってみる?」

「やるやる!」


 剣を収め、全身に魔力をめぐらせる。

 それからどうしたら最効率かつ低燃費で、ダメージを抑えつつ出来るかを考える。

 剣が無くなった分を手に集中する。その分魔法に身体が接触するから防御を考えて……。

 

「死ね、アホぉ!!!」


 マリーがそんな事を叫びながら魔法を放つのだが──。

 今までのが加減されていたと判り易いのが来たぁ!?

 矢でも放ったのかと言わんばかりの速度で焔が飛ばされてくる。

 防御? パリィ? そもそも受けて良いのこれ?

 判断に迷っても身体は既に前進していた、回避と言うよりも殴りかかっているような状態だ。

 それでも、もはや手まで伸ばしてしまったのだから遅すぎる。

 手が触れた瞬間、剣の時とは段違いな抵抗が生じた。

 ミットでも思いっきり殴ったのかといわんばかりに手が痺れ、衝突の勢いを加え手を基点に腕が飲まれてしまう。


 それでも、直ぐにもう片腕も後追いで焔へと突っ込んで扉をこじ開けるように魔法をこじ開けた。

 もはや技術でも何でもない、ただの力技だった。

 引き裂かれた魔法が爆発し、そんなのありかよと自分の状況が一瞬わからなくなり掛けた。

 だが、防御越しに焼かれた腕をはじめとする全身が異状を訴え、痛みで直ぐに復帰する。

 マリーが物凄く嫌そうな顔をしていた。


「チッ、加減しても耐えたか……」

「死ねって言ったよね!? というか、今までの火球と全然違うんですけど!!!」

「だって、実戦で使う奴に殆ど近い奴だもの。素早く飛んでいって、突き刺さるように命中して、その速さを騎兵と同じに見立てて防御を突き破って、ぶつかった勢いで爆発しながら火を撒き散らして周囲を焼く奴だし」

「致死! 殺意の塊!」

「とまあ、相手も馬鹿じゃないからこういう対策をしてくるって事を学べてよかったわね」

「よかない!」


 死ねと言われた時点で相当ビックリしたのに、放たれた魔法まで殺意の塊。

 剣と同じ要領で手を突っ込んでみたら滅茶苦茶抵抗されるし、無理矢理無力化したら爆発するしで散々だ。

 最近じゃ自分に回復魔法をかけることも珍しくない、全身のステータスを確認したら殴った拳は骨に亀裂が入っているし、両腕軽度のやけどまで負っている。

 その全てを完治させたら朝食食って間もないはずなのに腹が減ってきた、血糖値まで下がってる。

 アーニャとの会合で貰ったコーラがストレージに突っ込んであったので、有りがたく飲んでおくことにする。

 久々の炭酸飲料だ、涙が出るね。甘いし美味しいし、満腹感も得られる。

 直ぐにストレージに突っ込みなおし、身体の痛みが大分低減されたのを確認した。


「今のでとりあえずは放出系の魔法に対する咄嗟の抵抗くらいは学べたと思うから、次は設置系ね」

「設置系か……」

「設置系に使う行使手段は何か覚えてるかしら?」

「魔方陣と魔力陣──それと、刻印式だっけ」

「大正解。アンタ、頭良いのね。何も知らないのに」

「名称とそれが何を指してるか位は流石にね……。けど──そういえば、マリーと会うまでは刻印式って言ったらお札とか紙に詠唱や術式を記入するってイメ……物だと思ってた」


 マリーは膝上まで──言ってしまえばスカートの丈にまで届くようなソックスを履いている。

 そして暑かろうが何だろうが長袖だし、さらにはロングパーカーのようなものを羽織って露出は可能な限り排除している。

 刻印を経由する魔法を行使すると魔力によって反応し、光ってしまうというのもあるからだろう。

 彼女の両腕や両足だけじゃなく、話によれば腹部や背中なども刻印が刻み込まれているそうだ。

 片腕で一つの魔法、片足で一つの魔法。腹部と背中でそれぞれ一つずつの魔法だとか言っていた。

 魔導書を見た事は無いが、その一冊でさえも彼女は自分で製作したもので、まさに魔法に全てを捧げている勢いだ。


 ──ただ、身体に刻印を刻み込んだのは苦渋の選択だったらしい。

 マリーが刻印を刻み込んで行使している魔法を自分はイメージと動作によって発動できるので、それを知っていれば肌に刻印をいれたりはしなかったと喚いていた。

 しかもその時喚きながら漏らしていたが、地味に結婚願望があったらしい。

 そもそもマリー達は英雄の多くは良い身分だったらしいので、そういうのも変ではないのだろうが。


「魔方陣は道具を使って地面とかに線や図面、字を書き入れる奴ね。それを道具とかを用いずに中空に描く為に魔力で構築するのが魔力陣。その二つは言うなれば詠唱と同じで完成させないといけないの。けど、刻印式は最初から完成させた状態にしておけるから便利ね。私の魔導書がそれに近いかしら」

「勝手に捲れたりしてて凄いよね」

「使いたい魔法にあわせて勝手に捲れてくれるのよ。いちいち頁を捲らなくても良いのが利点ね」

「──それさ、自分がやってる『使いたい魔法を頭で想像する』に該当するんじゃ」


 使いたい魔法を想像すると、記述や記入がしてある頁を勝手に開いてくれる。

 ……それ、なんで迂遠的な事をしてるのかといいたくなった。

 数秒の沈黙。その後にマリーは見るも綺麗な笑みを浮かべた。


「もう一回言って?」

「だから、何で『使いたい魔法を想像する』と魔導書で該当する頁が開かれるって言う遠回りしてるのかなって」

「あはは~……」


 マリーはゆっくりとこちらに向かって歩いてきて、俺の顔面をワッシと掴んでくる。

 万力のように締め付けてくるその握力に痛みを訴えるしかない。


「痛い痛い痛い痛い!?」

「アンタにとっては『馬鹿じゃね?』みたいに思える遠回りでも、私にとってはこれが最善だったの!」

「判った、判りました! マリー様は自分に出来る最善かつ最高を追求した結果魔導書だったんですよね! 判ります判ります!」


 必死に懇願とも命乞いとも謝罪ともわからぬ言葉を並べた。

 そうやって居るとマリーが解放してくれ、何とか一息つける。

 くそう、俺にとっての当たり前が彼女達にとっては当たり前じゃないのか……。


「これだから嫌い……」

「いや、ホント御免って」

「あとは、そうね。これは絶対とっておきの中のとっておき。今は制約が有るけど、敵にとっての脅威で味方にとっては頼もしい魔法」


 気を取り直したのか、マリーは仕切りなおして話を進めてくれた。

 必殺技のような類だろうかと思いながら素直に聞く。


「前に使った大爆発はとっておきじゃないんだ」

「あんなものただの爆発だし、確かに強いけど”戦争”では場合を選ぶじゃない。戦争において勝利する為に必要不可欠で、相手よりも多いほうが好ましいのは何かしら」

「──……、」


 物資、兵站、人的資源、士気──指揮官。

 色々思いついたけれども、マリーはそういった事に携わっていないと言っていた。

 じゃあそういうものではなく、戦いにおいて……という風に認識するなら──。


「兵、兵士?」

「ご名答。召喚魔法……今の歪んだものじゃない、本当の召喚ってのを見せてあげる」


 彼女はそういうと、一歩──こちらに近づいた。

 抱き合えるような距離間隔に脳が錯覚──いや、誤解を生じそうになる。

 しかし、それは彼女が素早く口ずさむ言葉によって断ち切られる。


「──の者の力を、一時ひととき我に貸し与えたまえ」


 ミラノの詠唱を長い上に回りくどいと彼女は言った。

 その言葉を一度たりとも、彼女は嘘にしない。

 とっておきと言ったが、それでも詠唱は短く素早い。

 そして決の言葉を言った。


「『サモン・メモリー』」


 彼女がそういうと、自分とマリーの周囲に淡く光が立ち込めた。

 一瞬警戒してしまうが、身構えた自分の認識が寸断されて時系列が判らなくなる。

 周囲に召喚された”モノ”を見て、自分が今どこに居てどんな時代に居るのかを錯覚してしまった。

 

「マリー、これ──」

「アンタの記憶の中から、”召喚”させてもらったわ。アンタは軍隊みたいな所に居たって言ってたし、それだったら土地の記憶からじゃなくても良いかなって思って」

「はは……」


 周囲に召喚された数名を見て、涙腺が緩みそうになる。

 全員が同じ服装、同じ柄を身に纏い、似通った装備をしている人間だ。

 しかも、言った通り自分の──俺の知っている人物ばかりだった。


「これは、本人……じゃ、ないか」

「記憶だもの、本人を召喚した訳じゃないから」

「そっか」


 残念だなと思いながら、召喚された記憶の人物達を見やる。

 全員が自衛隊時代の知っている人物ばかりで、その中には同期や後輩、先輩や上官が居る。

 同じ中隊に配属された同期が、当時のようにLAM《対戦車弾》を持たされている。

 他の面子は八九小銃を持っているが──MINIMI持ちが見当たらない。

 そういえば、自分がMINIMIを持っている事が多かったかなと思い出した。


「なあ弦巻。お互い、もう自衛隊辞めたって知ってるか?」


 召喚された、魔力で構成された同期に声をかける。

 反応は当然のように無い。それを寂しく思いながらため息を吐き、気を取り直してからマリーを見た。


「で、昔はもっと沢山召喚できたと」

「魔力が許す限りはね。姉さんに魔力を譲ってもらいながら、召喚した兵士達に戦ってもらう──そういう事も大分重要だったのよ。あの時召喚したのはこんな兵士じゃなかったけどね」

「なるほど」

「簡単な指示くらいなら出来るけど、私にこの兵士は扱えないからなんて言えば良いのか教えて」

「あ、俺が隊長扱いになるのか。それじゃあ、前方4百に敵影あり。防御態勢」

「前方四百に敵影あり。防御態勢」


 復命復唱するマリー。その瞬間に召喚された俺の記憶に存在する中隊の仲間達が──家族が行動する。

 少しでも身を隠せる場所を見つけ、それぞれに身を隠した。

 たぶん仮想敵が居るとした場所から見れば、全員が見つけられないようにしているだろう。

 同じ部屋の後輩が自分の傍で地面に伏せて小銃を構えている。そして構えながら三百に設定してあった照星を一つ奥へと押し込んで四百メートル射撃に切り替える。

 

「これが防御態勢?」

「状況想定を設定していけば行動は変わるけど、今回は何も言ってないから即座に出来る行動を全員が取っただけ。──全員装填、安全装置解除」

「全員装填、安全装置解除」


 マリーが言うと全員が同時にスライドを下げて弾丸を装填する。

 そしてカチチと安全装置が解除されて射撃できる状態になったのを音で確認した。

 不器用と言われた同期でさえ、LAMを首からぶら下げながら命令どおりにしている。

 微笑ましく、懐かしい。


「LAM手、障害物の排除の準備。二名は組前進、その他の者は支援射──」


 順々にマリー経由で指示を出していく。

 マリーはたぶん言っている事の多くを理解はしていないだろうが、自──俺の記憶と知識の中に有るからその何も問題なく進む。

 最終的に二名の組前進を同行させながら同期も前進し、敵が居るとされた箇所にLAMを打ち込もうとしたところで「状況終了、二列縦隊集まれ」をかけた。


「なんか、私の知ってる軍隊とか部隊と違うけどこれで良いの?」

「俺の──あぁ、御免。自分の居た場所ではこれで良いんだ。相手も同じように射撃武器を持ってるから、綺麗に隊列を整えて前進したりはしない事になってるし」

「ふ~ん……。まあ、部隊指揮はアンタに任せる。私は簡単な命令しか出来ないし。あ、もう還って良いわよ」


 マリーがそういうと、かつての仲間たちは──家族たちはあっさりと消えてしまった。

 名残惜しいと言うか、少しの間自衛官気分に戻れたのに、気力が萎んで戻ってしまった。

 そんな自分の脇をマリーが肘で突いてくる。


「ほら、取って置きを見せたんだから喜びなさい。これで判ると思うけど、一応咄嗟に自分の身は護れるから」

「けどさ、あの英雄殺しと戦ってた時はチェックメ……詰んでたじゃん」

「アンタが来る前に斬り伏せられたのよ。倒されたらその時点で霧散するから、その姿も見てないと思うけど」

「あぁ、なるほど」

「それに、人数を増やせば増やすほど魔力の消費は増えるし、詠唱とかの手間も増えていくんだから。例えばさっき魔法の打ち合いをしたような距離だと、二~三人位かしら、呼べても」

「それは自分じゃなくてあの英雄殺しの速度でも?」

「ええ」


 そう言って頼もしそうにうなずいた。

 ただ、それを知ってやはり”逃げ”たくなる。


「──聞いてよかったのかな、そこまで」

「そういうの禁止。私はアンタを信じたんだから、アンタを信じた私を信じなさい」

「遠まわしに裏切るなって言われてるみたいだ。けど、下手に甘い餌をぶら下げられるよりは──期待に応える、みたいでまだ良いしね」


 そう言って気楽に構えると、一瞬だけ──本当に一瞬だけ。マリーが寂しそうにしたように見えた。

 しかし、瞬きとの合間で見た光景だったこともあり、何時ものように都合よく何かを解釈しようと脳が生み出した錯覚や誤解だと思った。


「そういや、マリーもそうだけどさ。アイアスとかも、何で徒歩での旅を今回選んだのさ」

「変かしら?」

「まあ、理解が浅いからね。元々家柄が良かったって聞いてるから、馬車とかを好むと思ったけど」

「そこら変の話、してなかったかしらね。まあ、これも良い機会だししておきましょうか」


 そう言って彼女は指を鳴らす。

 すると、俺の足元が揺らぎ、立って居られなくなったと思ったら尻餅をついたりしないで座った姿勢になる。

 見れば隆起して作られた土が、途中で石に変わって座になっている。

 細かいなと思ったが、彼女も同じように石で出来た椅子へと腰掛けていた。


「まだ人類が追い詰められてるとは知らない中、ただの外交上の名目で派兵に付き合った事があった。あの時は本当に何も出来ない邪魔者で、それなのに知った顔して色々やるから直ぐに何も出来る事が無くなった」

「──……、」

「けど、その内派兵された先で敵の方が強くなって来て、お手伝いをさせてもらえるようになったんだけど──それでも、私は現実を知らなかった。私達の居た陣地が襲撃されて、その時の怪我を理由に送り返されたりもしたけど──それは飛ばす。アイアスが兄弟と一緒に戦ってる間、私は屋敷で甘えててね~。まあ、それもお屋敷ごと潰れたんだけど。その後──アイアスとロビンの所で世話になって、私は暫く塞ぎこんでて。姉さんはまだ体調が良くなくて、私は恨みから立ち直ったんだけど。そこから私の才能は発揮されたといっても過言じゃないわね。勉強した、沢山本を読み漁った──そして、魔法への理解を深めていった」


 長い話だった。

 とうぜん、細かい所や感情的なところなど、多分な情報が抜け落ちていることだろう。

 それでも自分は黙って聞く。飲み物が無いのが惜しまれたくらいに、口が挟めない。


「アイアスの兄弟と家族もやられて、アイアスが落ち込んでる時に入れ替わりで私が練習台のように敵に魔法を色々試してみたの。それが大分上手くいってたんでしょうね。おかげで私は英雄扱いされ始めた。その魔法の使い方をロビンや姉さんにも少しずつ教えながら、寝る間も惜しんで毎日魔法の呪文の作成と改良ばかりしてた。食事中も、移動中も、戦闘中も、何をするにしても魔法の事ばかり考えてた。目的がハッキリしてるし、沢山魔法を使って──そうね、アンタみたいに具合が悪くなったり、死に掛けるまで使った事もある。そうやって沢山の経験と発見でここまで来たけど──何の話だっけ?」

「何で徒歩での旅が好きか、だね」

「あぁ、そうだった。……見た目だけ若いってのも何だか違和感有るわね」

「それを今言われてもなあ」


 そう言いながら、ストレージから簡易ティーセットを出した。

 水は魔法で代用出来る、牛乳と砂糖はストレージ保管してあるので劣化は心配しなくて良い。

 お茶を作りながら、マリーが考えを纏めるのを待った。


「ああ、そうね。アイアスが立ち直ってから、私達は暫く旅をしていたのよ。魔法を沢山知るためにも、兵を出してもらう為にも。アイアスは兄弟を失って、悲劇のヒーローだった。ロビンはそんな中でもアイアスを助けた忠臣として褒め称えられた。だいたいその頃にタケルとファムと知り合ったかしらね」

「そういや、タケルとファムって、今一緒の二人と名前に照るよね。タケルはそのまんまだし、ファムとフアルでほぼ一緒」

「それは今話に関係ないから切り捨てるわね」


 切り捨てられた。しかし、何だか偶然な気はしないんだよなぁ……。

 いや、ツアル皇国が日本っぽいというのであれば名前を受け継いでいくとかも有るかも知れない。

 そもそもファムだって「フ」しか合ってないじゃないか。

 こじ付けが過ぎるよな……。


「アイアスが立ち直ってきたくらいで、ようやく私達も全員落ち着いてきた感じがした。私は復讐の為に魔法を特化させるよりも、姉さんやロビンとか仲間に魔法制御のコツを教える事も考え出してた。アイアスは自分に出来る事は何かを考えながら、召喚されたばかりのアンタのように何でもやってみて自分に何が出来るのかを考え始めていた。姉さんも若干体調が落ち着きだしてて、ロビンも受身じゃなくなって来た。アイアスが沢山荷物を背負って歩いていて、毒ッ気も抜けてた。名ばかりの英雄で、やってる事は国の道化師。悲劇と喜劇を背負い込んで幾つか国を渡り歩いて、仲間や味方を増やすようにって言われたけど、全くうまくいかないの」

「どういう理由でうまくいかなかったの?」

「誰もが他人事で、自分の事しか考えてなかったからよ。良くて口約束や悲劇をもてなし、喜劇を褒め称えたくらい。けど、最悪なのは一晩共にしろって言う”提案”だったわね。あのクソ野郎……っ!」


 表情を沈め、凄惨な笑みを浮かべるマリー。

 相当屈辱だったのか、或いはむかつく事だったのだろう。

 僅かに犬歯が見えるくらいに表情を歪めて笑っている、その笑みは決して他人に見せて良いものではない。

 苦笑するしかその場を乗り切る手段を持ち合わせておらず、彼女の怒りが有る程度収まるのを待った。


「──けど、その旅路は決して安全じゃなかったし今までの生活からは考えられないような楽しさや新しさがあった。ロビン位しか簡単な料理が出来ないし、その料理も塩と胡椒を振った肉を焼くか燻製にしたりとか、本当に酷かったんだから」

「他には?」

「他には……そうね。アンタがそうしたように、野営──野外で眠るのにあんな快適だった事は無かったかもね。酷い時は木の密度が濃い所で地面に転がったり、外套に丸まって横穴とかに入ったりね。こんなところで言うのも何だけど、アンタが管理してくれる旅は楽で楽しかった」

「あれ、タケルやフアルと一緒だったんじゃ?」

「あの三人……じゃなくて、二人とは時々一緒だったくらいでずっと一緒だったじゃないし。あの頃のファムは今ほど料理好きじゃなかったから」

「その二人は料理できるんだ」

「タケルは簡単な、小腹を満たす簡素な料理くらいだけどね。フアル……じゃなくて、ファムも料理する余裕は無かったし」


 成る程なあ……。けど、英雄タケルは簡単な料理が出来るのか。

 それとは別に、英雄ファムは料理が出来る方? なんだか話がよく判らないなあ──。


「ファムって料理が出来るんだ」

「あの子は気分屋なのよ。時々料理してくれたけど、やっぱり今ほどしてくれなかったわね」

「今? 会った事あるの?」

「前に! そう、前にちょっと会ったの!」

「なんでそんな必死なのさ……」

「アンタが部屋の隅をひっくり返すように細かい事を気にするから! ったく……。ええっと。どこまで話したかしら」


 準備していた紅茶を受け取り、彼女はそれで喉を潤すとまた少しばかり考え込む。

 言葉にすれば「召喚される前」で終わる話だが、彼女からして見ればン百年前の一日である。

 召喚されるまではどうなってるのかなんて知らないけれども、生きているのに近い状態なら──そりゃ、食事や自由が恋しくなるか。


「魔法もそうだけど、知らない事や分からない事って言うのは考えようによっては面白いものだし。あの時は余裕が無くて嫌な思い出だったとしても、今は余裕が有るから懐かしんで居られるから」

「その──召喚される前って、どんな感じなのか聞いても良い?」

「それはどういう意味で?」

「召喚されて再び生を受けるまではどんな感じなのか」

「──意識はぼんやりとある、けど夢見心地のようなまま眠ってる感じかしらね。まだ日が昇らないけれども薄っすらと明るくなり始めてる時間帯に、ちょっと目が覚めちゃってまた寝るような感じ」

「その例えは、分かるような分からないような……」

「とにかく、召喚されなければずっと眠ったままよ。眠ってるから、どれくらい寝ていたかなんて分からない。けれども、あそこに居た時は──幸せな夢をずっと見てたかしらね」

「どんな夢?」

「私が英雄にならない夢よ」


 数秒の間、その言葉の意味を考える。

 それから直ぐに「何も失わなかった自分」という意味なのかと行き着いた。

 なるほどと細かく頷いて納得していると、彼女はこちらが回答に行き着いたものとして話を進める。


「父さんがいて、母さんが居て。姉さんが居て、兄さんが居て──私の下から騎士が去らなかった世界。ボロボロの兄さんが父さんと一緒に帰って来て、母さんが父さんに文句を言いながら兄さんの心配をしてたり。姉さんが本を読んでる途中で窓際で寝落ちてるとか、私も本を読んで時間を忘れて──横から騎士に声をかけられて、お茶を出されながら時間の経過を忘れてるのを気付かされたりとか。兄さんと騎士が手合わせや鍛錬・訓練をしているのを眺めてたり……色々」

「──……、」

「けど、そのどれも叶わなかった事だけどね。それに、アイアス達との旅は楽しかったからそれは否定しない。アイアスが料理を覚えようとして大失敗して二度とやら無いと言いながら皆で得体の知れ無い物を突きながら空腹で一夜明かした事、ロビンが料理できると言って期待させておきながら猪を引きずって帰って来て焼いただけの肉を料理と言い張った事。旅の途中で身の汚れが気になって、川とかで清めたりね。だから……イライラするのよね、苦労と地獄と喪失を味わう事無く考えれば私と同じ場所にたどり着けるとか勘違いしてる奴を見ると」


 それがミラノの事を言っているのだろうと、考えずとも分かった。

 そういえば、ミラノはマリーに魔法の事を教えて欲しいと言ったんだっけか。

 マリーからして見れば、多くを失い、自分の多くを差し出して得た今の高みに易々と連れて行くのは癇に障るといった所か。


「私の知っている魔法は、全て攻撃に費やしてきた。その意味を考えないで学んだってうまくいかない」

「意味って?」

「正しいと思ったら、或いは間違ってないと思えるものの為であれば遠近問わずに害するという事。アンタがお遊びでも”ジュー”を誰かに向けないように、私の魔法は邪魔するものを魔物であれ──それこそ、敵対した人間でさえ屠って来た。アンタは吐いててそれ所じゃなかったけど、あの盗賊の命は私だって奪ってるし、そもそも目的も信念も見えてるから揺らがないだけ。その覚悟が、あの子にあるかしらね」

「さあ、どうかな……」


 自分は、多少なりとも自衛隊に入った時点でその覚悟自体はしていた。

 そしてあの瞬間だけ──防衛の意識があったから大丈夫だった。

 しかし、ミラノは公爵家の娘であり……多少なりとも壮大な過去はあったが、それでも悠々自適な生活をしてきた事は否めない。

 マリーが指摘したとおり、魔法使いとしてもっと優秀でありたいと思って試行錯誤するのは良い。

 しかし、その先に何が待っているのかを考えていないし、相手が人じゃないにしても亜種の生命を奪う所から思考が飛び出ていない。

 

 ──魔法で命が奪えるという事は、魔物だけじゃなく人も殺める事ができる。

 そしてそれを国によって要求されるかも知れないし、突発的であれそうせざるを得ないかもしれないのだ。

 自分があまり有名になりたくないというのは、結果として利用される可能性を減らしたいという所もある。

 そもそも最悪の事態を想定して色々学んだんだから、いざとなって「殺せません」ってのはダメだと思う。

 まあ、入隊理由なんて人それぞれなんだが。


「アンタの考える幸せって、なに?」

「ノンビリして、グータラして。思ったままに生きる事かなあ」

「前はそうじゃなかったの?」

「活きるって言うのと、生きるって言うのは別なんだよ。やりたい事があって、日々何かを積み重ねていくのが”活きる”のであれば、ただ何の目的もなく漫然と日常を繰り返して──生きた年数に見合わないほど何も得ないのはただ”生きただけ”って言うんだ」

「けど、それだとアンタのその”幸せ”って……なんだか現実味が無いし、りそ──あぁ、ダメダメ。踏み込んだ、ごめん」

「いや、これは指摘されても仕方が無いから。散々誰かに尽くすとか、国に尽くすって言いながらその対象を見出してないのに、じゃあ別の生き方を模索してるかといえばそうでもなくて。ただ苦痛と退屈じゃない日常なら幸せなのかなってぼんやりした事しか考えてないから……マリーみたいに、明確な幸せってのは無いし──」


 言っていてから両親の事を思い出し、弟と妹と赤ん坊の事を思い出した。

 しかし、だからと言って「家族全員で一緒に居られれば良いか」と問われれば違う気がする。

 結局認められたいというのが自分の中で既に芽を出し、根っこを体中にめぐらし、思考を支配している。

 それでもまだ──まだ、外に漏れ出ていないから普通に思われるだけだ。

 欲が外に漏れ出た時、他人に主張しだした時点で人としてダメになる。

 だから積み重ねるしかない。認められるために、時間と実績を。

 

「──……、」


 死にたいと口にして言いかけてしまう。

 口を開いてから慌てて噤んでしまい、見られただろうかと警戒したが──運良く”運の悪い魔物”が現れてくれたので、それが一つ動作で撃退される。

 ……頭が二つある熊とか始めてみたが、アレは魔物なんだよな?

 核によって荒廃したアメリカに存在する二頭牛バラモンを連想してしまい、アレは家畜だったはずと思ってしまった。


「あぁ、ごめん。ちょっと攻撃性の高い魔物が来てたから。で、なんだっけ? あぁ、そうだ。幸せの定義?」

「あぁ、うん。もういいよ、なんでも」


 立派だったろう毛皮ですら一瞬で焼かれて丸裸にされた二頭クマは辛そうに、出てきたときよりも遅くほうほうの体で去っていく。

 火傷でもしたのだろう、哀れだなと思いながら心の中で合掌するしかない。


「アンタってさ、自信無さげだけどなんでなのかしらね」

「自分で掴み取ってきたものや、積み重ねてきたものが無いか──それを評価されたり、肯定された事が無いから……かなあ」

「けど強──い、って言っても、誰が使っても同じ強さになるわね」

「剣とかと違って技術や力量じゃないからなあ」

「魔法が使え──るって知ったのは、最近だったかしら」

「召喚されてから初めて魔法使ったし、無まで使えるって分かっても魔法の取り扱い種類が少なすぎてね」

「アイアスとも有る程度対等……って言っても、そっか。アンタはアルバートかオルバかアイアスくらいしか”手合わせ”してないし、私を殺そうとしたアイツや魔物の群れに関しては命をかけたとは言ってもあまりにもかけ離れすぎてたもんね」


 まだ、この世界の力量具合が良く分からないってのはある。

 魔法に関しては魔力の総量と全ランクの魔法が使えるのは保障されてるけど、魔法を全く覚えてない状態。

 色々功績を積み重ねたかもしれないけど、そもそも一番頑張ったのは崩壊した城壁に群がって頑張った兵士達だし、俺なんかは浸透してきた一部を相手に”隠密・無力化”しかしてないので戦闘とは言い難い。

 

 そして戦闘能力自体だが、そもそも手合わせをした相手が少なすぎるのでなんとも言えない。

 英雄で、なおかつ一番弱いとか言ってるアイアスと引き分けたのを誇れとか言われても、英雄殺しには相打ちどころか二人がかりでボロ負けも良いところだ。

 オルバとアルバートを相手には一応勝ちに近い状態だったものの、今一緒のタケルやフアルの戦いぶりを見ていると顕著すぎてこの世界じゃどれくらいに自分が位置してるのか分からない。

 そうやって悩んでいると、彼女はゆっくりと立ち上がり指を鳴らして自身の座っていた椅子を消した。

 その動作がゆっくりしているというか、ゆったりとしている。

 まるで成功の後の余韻から叩きつけられる寸前のように思えて、嫌な予感がした。


「なら、私とも勝負してみて一つずつ自分に何が出来て、何が出来ないのかを理解していくのが一番早いわね」

「……ま、嫌な予感はしてたんだ。なんだか穏やか過ぎて、落ちると思ってた」

「御託は良いから立って。そうね、やる気出させてあげようか?」

「あぁ、良い。どうせ拒否しても無駄だろうし、それくらいだったら最初から前向きに──」

「私に勝てたら一晩相手してあげる」

「はっは~? 二人揃って二日酔いだ。けど、たまにはマリーがこっちの面倒を見て、それで飲むってのも良いかも」


 そう言いながら自分も立ち上がる。

 レッグホルスターに入れている実銃をストレージにしまい、可変銃を出した。

 実銃に比べると軽く感じて、不安から利便性よりも安心感から最近じゃお役御免だった。

 魔力を弾にして撃てる上に、威力を使用者の意志によって調整できるのが強みだ。

 少なくともマリーに向けないが、対魔法で何かしら役に立つかも知れないと装備を変更。

 かつてのように地面に銃口を向けて一発だけ放ち、威力調整をしてからホルスターに収める。

 それから剣を抜いて日の光に浴びせてみせる。

 手加減するには剣か素手が一番だな。


「あ、間違っても剣を私に向けないで」

「そこまではしないけど、なんで?」

「──その剣、半分は伝説の剣だから。アンタが調子に乗って魔法ごと私を真っ二つ! とか、洒落にならないし」

「……はんぶ、え? なに、ホンモノ?」

「私の魔法を簡単に切り裂いてたのに、素手だと苦労したでしょ? その剣、質がかなり良いモノだから大事にしなさい。名前はもう出てこないけど、あの人が使ってた奴の片割れだから」

「これがねえ……」


 確かにマリーの魔法を剣で斬った時はほぼ無抵抗だった。

 それに対して素手だったときは壁でもぶん殴ったのかと云わんばかりに硬かったし、手には亀裂が入る大怪我をしていた。

 可能性としてはありうる話か。


「けど、片割れ?」

「中に納まってるのがホンモノじゃないから、今は外面の切れ味と中に収めてるドワーフ鍛冶の剣でそれなりの性能を出してるだけ。その内中の剣がダメになるから、過信してあんまりズパズパ斬らない事」

「因みに、両方そろうとどれくらい凄いの?」

「そうね。人の力では太刀打ち出来ないくらいに強固な防御を誇るゴーレムの手足を寸断して、薙ぎ払おうとした竜の尾を切り飛ばしてしまえるくらいには」

「……あれ、確かゴーレムって魔法じゃ無いと攻撃が通らないって聞いたような」

「それと、魔法や魔力に対する適性が高いから、魔力を滲ませて魔法を斬っても剣が痛まない。普通の武器だと何度かやってると魔力同士の衝突で消耗して壊れちゃうんだから」

「へえ」

「それと──伝説? かしらね。そういうのは聞いてる。二つで一振りのその剣を集めると、眠れる力が解放されるとか何とか……。まあ、結局見つからなかったんだけどね」


 なんかありがちな、ゲームとかでよく聞く”神話”って奴に近いものなんだなと思った。

 しかし、伝説が都合よく転がってるものだな。

 これが作品とかだったら「ご都合主義」とか言われたり思ったりするんだろうけど、なんだか俄かには信じられなかった。

 けれども、あれだ。クラーケンにぶっさしたらあっさりと真っ二つに出来てしまったし、信じても良いのかもしれない。


「それじゃ、条件を設けるわね。私達はこの広い場所を使って、お互いに出来る事を全て用いて勝利を目指す。私はアンタを無力化、或いはアンタが何も出来ないままに隠れたり防御や会費だけをして睨み合ったままに時間を経過させたら、『エクスプロード』でこの一帯を吹き飛ばしたと言う事で勝ち。アンタは──そうね、初めてだから私に触れる事が出来たら勝ちで良いわ」

「距離は? こっちの装備とかに制限は? そもそも遠距離での撃ち合いになるんだから降参しても見えないんじゃ──」

「……こういう時だけ生き生きするのね」

「まあ、殺し合いじゃないしなあ」


 色々考えて、立ち回りや戦術を考えておく。

 しかし、そんな自分にマリーは笑みを浮かべた。


「ああ、それと言っておくけど」

「ん? なに?」

「常に……魔法防御を張ってなさい。じゃないと勝負にならないから」

「どういう意味さ」


 言葉の意味が理解できない。

 さっき教わった魔法をぶった切る方法が使えるのなら、弾くという事だって出来る。

 回避だってすれば良いし、それこそ”防御”の手段は得たので撃ち合いになれば多少は大丈夫なはずだ。

 常に魔力を消費して対魔法防御をしろと言うのはどういう意味か理解できずに居る。

 しかし、次の瞬間に全身の間接が悲鳴を上げる音が聞こえた。

 身体の芯が冷え、焦って防御魔法を発動すると身体が楽になる。

 

 システム画面が警告を多重に発しており、今の一瞬だけで幻惑・加重・魔力吸収等々の状態異状が発生していた。

 身体が軽くなったと思って安心していたら、地面が隆起して空中に放り出され、雷撃が空から飛んでくるし、炎が飛んでくるのを視認しながらそれよりも先に胸部へと袈裟切りの様な切り傷が生じて血が溢れた。

 どれ対処できたのが炎だけで、空中で足場を作るイメージで姿勢制御をして復帰する。

 数メートル高く打ち上げられた自分があのまま落下していればその場でゲームは終わっていた。

 受身で落下の衝撃を逃がしながら直ぐに立ち上がるも、複数の方向から魔法が飛んできて、今度はその全てに対処する。

 回避と弾き、そして斬撃による無力化で三つは同時に対処できる。

 しかし、それを乗り切って不気味な静けさの先に彼女は居る。


「──私が誰も率いなかったのは、ただ無能だからじゃない。誰彼問わずに領域で破壊を撒き散らす、”破壊の魔女”だからよ」


 その言葉は、きっと本当なのだろう。

 ずっとシステムが”状態異常をレジスト”だの”攻撃を受けています”と警告し続けている。

 マリーがやる気を出した瞬間、周囲に目に見える事の無い攻撃が吹き荒れたと言って良い。

 それでも、魔法防御が低かったからか、普通に貫通されている箇所もある。

 防御に回す魔力の出力を増すと「痺れ」だとか「毒」等も消えていく。

 状態異常の固まりか? 暫くすると、ドサドサと何かが落ちて来る。

 攻撃かと思ったが、そうではない。通り掛かった鳥や生物全てが侵されている。

 

 痙攣するもの、もはやピクリとも動かないもの、身体を重そうに動かすもの──様々なありようだった。

 防御をしていれば大丈夫だろうかと考えたが、彼女が指を鳴らすと俺の周囲にシャボン玉が出現する。

 触れたら不味いんだろうなと思うが、そんな数を対処できる訳が無い。

 動かない方が良いという意識が、逆に自分を──俺を追い詰める。

 一斉にぶつかって来たシャボン玉がバチバチとショートするような音を上げ、まずいと思ったときには手遅れだった。

 小規模の爆発が連続して発生し、それら全てを受けきってしまうとメッセージが響く。


 ──防御に回していた魔力が消滅、リチャージまで数秒かかります──


 そんなシステムメッセージと共に再び全身が異常で蝕まれていく。

 マリーとの距離感が掴めないどころか、彼女が複数存在しているように認識させられる。

 空は赤い血の色、自然は全てモノクロ基調、落ちてきた鳥が──全て、災害派遣で見かけた亡骸として見えている。

 幾つか……弟や妹、家族の亡骸まで混じっていて──ハハ、こりゃ仲間にも嫌われるわと思いながら苦笑した。

 精神汚染──トラウマ、その人物が嫌がる事や嫌う事でさえ見せてくる。

 風景や背景が溶けて、周囲は黒で支配された。

 剣を杖に立ち上がり、足の裏に地面の感触はある。

 だが、地面でさえも黒で塗りつぶされて”無”の世界に放り出されたかのように思えた。

 見た事のある人の死体の中、どこからか人がすすり泣く声が聞こえる。

 いや、そのすすり泣く声が誰のものか──俺は知っている。

 

 ──リチャージ、完了しました──


 その言葉と共に、状態異常が解除しやすいものから順に消えていく。

 周囲に風景や光景が戻り、色も自然なものになった。

 すすり泣く声は消え、鳥の苦しそうな鳴き声に戻る。

 死体たちは落ちてもがいている鳥に戻り、マリーは遠くでぼやけたりする事無く一人だけ存在する。


「はは、やっべ。すっげぇ……」


 百聞は一見にしかず。これですら大分手加減されていると分かっていても、恐怖が伝わってくる。

 彼女が本気なら殺される、警告されていなかったらもう殺されていた。

 何も分からず、恐怖に沈みながら精神毒と肉体毒で磨耗しながら、緩やかに殺されていただろう。

 呼吸を整え、脂汗を拭う。

 衰弱させられていた身体を回復させて持ち直し、精神的ダメージは全て置き去りにして奮い立つ。

 自然と──笑みが漏れた。マリーがそんな自分を、俺を見て嫌な顔をする。


「──アンタって、ほんとおかしいのね。今この数秒だけで、何回……何重にも死の機会があったのに、笑うなんて」

「楽しい、だろ? 全力で……そう、全力でどうしたら良いか考える。対抗策を考えて、どうすれば踏み込めるか考えて、強者に追いつける機会なんてそうそう無い。また学べる、また成長できる、また俺の価値が高まるのなら何でも良い」

「私ですらその成長材料と言うわけね。その不遜な思い込みは良いけど──」


 耳が聞こえなくなり、視界が真っ白になる。

 ただ自分が転がっているという事が感覚のみで理解できて、何とか受身からの踏みとどまりで姿勢を制御したが、片耳と片目が見えず聞こえずという状況だった。

 見れば──周囲一帯が均されている。先ほどまで蠢いていた鳥が気絶したのか、死んだのか──静かに横たわっている。


 ──鼓膜にダメージ、出血による聴力の喪失。強い光による一時的な視力喪失──


 システムメッセージが状態異常を全て伝えてくれる。

 肉体全てが等しくダメージを受けており、再び防御魔法が砕け散っていたのを蛇口を捻るように魔力を流し込んで無理矢理に張りなおす。

 たぶん爆発系の魔法を使ったのだ。前に一緒に自爆した時に受けたようなものだ、全身が熱を持ちながら寒いほどに冷えている感覚がそれらしくこの論を後押ししてくれた。


 床にしゃがみ込み、決して軽くないダメージを受けた俺を前にしてマリーは冷たくこちらを見つめている。


「アンタ、自分が死なないとでも……? 私が、温く優しく、アンタの様子を見ながら、徐々に力を加えていくとでも? だとしたら──」


 彼女が魔導書を出した。バラバラとめくれていくページ、そして彼女の頭上に八つものそれぞれ違う属性の魔法が表れる。

 どれも規模はでかい。考えに考え、対処法と順番と行動を考えなければ……それこそ、死んでもおかしくないものばかりだ。


 火達磨になるか、風刃で真っ二つにされるか、大きな岩で全身の骨を粉々にされるか、水撃で穴をあけられるか、氷で串刺しになるか、雷撃で心臓が止まるか、魔法防御が削がれて毒で衰弱死するか。

 対峙した時点で消耗を強いられ、一つの魔法しか扱えないという今の俺の中で存在していた常識でさえも簡単に打ち砕いてくれた。

 こちらがやけっパチの笑みを浮かべていると、彼女は逆に冷え込んだ──そこに何の価値も見出していない機械の様な表情でこちらを見下ろして死刑を宣告する。


「アンタ、甘すぎ」

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