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元自衛官、異世界に赴任する  作者: 旗本蔵屋敷
四章 元自衛官、休みに突入す
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69話

 夢と言うものは、理想だとか希望と言う正の物として語られることが多い。

 子供の頃の夢、将来の夢、叶えたい夢──。どれもキラキラ輝いていて、応援したくなるものだ。

 しかし、悪夢と言うものも存在する。

 自分が死ぬ夢、誰かを失う夢、何かが見つからずに当て所無く彷徨い続ける夢……。

 俺の見る夢は、悪夢ばかりだ。大体毎日見るもので、それから逃れるために酒を飲む。


 不健全な睡眠だが、そうでもしないと頭がおかしくなりそうだった。

 あるいは、もう狂っているのかもしれないが──。


 英雄四人と一緒に、俺は神聖フランツ帝国に向かう事になっていた。

 それは要請でも有り、圧力でもあったという。

 外交関係の悪化や、これ以上の言い逃れは出来ないと”ガス抜き”目的で俺たちは向かっている。

 途中で船に乗って二日ほど揺られる予定だったが、今の俺を揺らしているのは船が浮いている事での揺れではなく、波そのものに直接揺られていた。


「うえっ、ぺっ……」


 口内に入った異物を吐き出し、それが海水と砂利だった事で目覚めは最悪。

 流れ着いた浜辺で身体を起こすと鳥が俺を遠巻きに眺めていた。

 ハゲワシか、タカか……何でも良いが、俺を凝視しているあたり目的は肉だろう。


「あっち行け。まだ、死んでないぞ……」


 そう言うと、アテが外れたのか凝視されなくなった。

 俺は疲弊しきってだるい身体を起こし、自分を叩き起こしたコールに反応する。

 左耳に指を宛がって、カティアからの通話に応答した。


 さて、なにから話そうか……。皆は無事だろうか?

 周囲を見て、同じように流れ着いた二人の人物を見て、思考を纏めながら回想に浸る。

 そう遠くない過去、港に到着した所まで思い返した。

 俺が海に投げ出される前、船がモンスターの攻撃によって沈没する前、船に乗り込む前……。

 語る事はそう多くないんだよな──。



 ~ ☆ ~


 二日目。

 俺たちは日が昇ってから半日位を歩いて港までたどり着いた。

 昼は俺が作った簡単なチャーハンで満足してもらい、特に敵対的な相手と遭遇する事もなくたどり着けた。

 お茶の時間位で、自由を満喫できるくらいの余裕もあった。


「明日の出航まで時間は有りますから、今日はゆっくり出来ますよ。ヤクモさん、御身体の方は異常ありませんか?」

「ん? いや、全然平気。最初はちょっと不安だったけど身軽だから負担も軽かったし、これでバテてちゃやってけないって」


 事実、行軍よりも楽だった。

 むしろ気分はお散歩であり、二駅隣まで足を伸ばして散歩をちょくちょくしていた。

 夜間外出は人気が少なくて怯える必要も無かったし、警察はむしろ共同訓練で何度かお付き合いがあるのであまり怯えずにすんだが。


「まずは宿を確保しよう。それから自由時間にしないと、良い部屋はどんどん取られる」

「ではそうしましょうか。はいはい、マリーもアイアスくんもつまみ食いは後にして、まずは部屋を見つけないと」


 もう今日の行動は終わったとばかりに浮かれている二人をヘラが呼び戻す。

 しかし、既にその両手には紙袋に包まれた何かを買っていた。

 こいつら、行動が素早すぎる。本当に元良い家の子息か? 完全に餓えた子供なんだが……。


「ロビンははしゃがないでくれて助かるよ。正直な話、ロビンまであっちの二人と同じだったらヘラしかまともなのが居ないから困ってた所だ」

「──ヤクモ、まもれっていわれた。だから、はなれない」

「あ~、成る程ね……」


 ロビン、弓の名手であり英雄の一人だ。

 デルブルグ家の公爵によって召喚され、公爵と主従関係を結んでいる。

 その公爵に命令──ではなく、ただそうするようにとお願いされたのだろう。

 ピョンコピョンコと「なでて~」何てしている英雄がいてたまるか。

 撫でるとロビンは地蔵のようになるのだが。


「──もっとほめる」

「なあ、ヘラ。こんな気安い関係って、フランツ帝国でやったら──」

「はい、間違いなく不興を買うでしょう。しかし、それぞれに認められる理由があって、それを乗り越えて親しくなったのですから、堂々としていれば良いのです」


 アイアスには手合わせを通じて認められた。

 マリーには魔法関連でも一目置いて貰えているし、命を助けたという事もある。

 ロビンは分からないけど、関係は良好だ。

 ヘラにいたっては妹であるマリーを救った件で恩があるので、多少は大丈夫だろう。


「命が惜しければ、或いは敵を増やしたくなければ控えていただければ賢明かと」

「へい、了解。ロビン、頼みごとがあるんだけど良いかな?」

「──ん、まかせる」

「食材や調味料──。食べ物に関する店の場所を全て把握してきて欲しい。どこに、どんな店が、何件あるか」

「──てーさつ?」

「そう、偵察。俺は部屋を確保しに行くから、それが終わったら直ぐに必要な買出しをしておきたいんだ」

「──ん、わかった」


 ロビンは頷くと、残像を残して一瞬で消えた。

 周囲を見やると、建物の屋根の上にいつの間にか乗っている。

 凄いなと思いながら、俺は考えを巡らせた。


「俺が部屋の確保をしてくるから、ヘラは──アイアスとマリーの面倒でも見ててくれよ。上手くいかない可能性と買出しを踏まえて一刻後に集合できれば良いからさ」

「宜しいのですか?」

「連れて行っても役に立たないしな~。それに、もう浮かれてる二人を現実に引き戻すよりも、浮かれっぱなしにさせておいたほうが楽しいだろうし」

「──では、お任せします。宜しくお願いしますね」

「りょーかい」


 俺はヘラ達とも別れて一人で部屋を確保しに行く。

 現代と違って部屋の確保は若干難儀で、客を実際に見て判断するという面もある。

 信用できなさそう、或いは迷惑な客などには引き取ってもらう。

 そういう可能性もあったが、俺には公爵から渡された家紋入りの指輪があった。

 これが神聖フランツなら通用するかは分からないが、公爵家の事を知らない人はまずいない。

 

 先日とは違い、大部屋を借りる事ができた。

 逆を言えば男女同じ部屋とも言うのだが、そこら変は目の数でカバーしてもらうしかない。

 アイアスが酔った勢いで不逞を働かないとも限らないが、時間をかけて探すだなんて余裕は無かった。


 部屋を押さえる事が出来て安心しながら店から出ると、俺は横合いから人に衝突される。

 一瞬死を覚悟してしまい、刺されたのだろうかと勘違いしてしまったがその様子もない。

 何かスラれただろうかと考えたが、相手が地面に倒れこんだ様子からそれは違うようであった。


 相手は頭までスッポリとローブで全身を覆った人物だった。

 怪しいと言えば滅茶苦茶怪しいのだが、人にぶつかって「わぁ~!?」なんて声を上げて倒れるだなんてスリや殺人にも使えない。


「とと、ゴメン。怪我させてないかな……大丈夫?」

「ごっ、ごめんなさい! ちょっと、前を見てなくて……」

「立てる?」

「すみません……」


 手を差し出して、相手が俺の手をとって立ち上がった。

 声を聞くに女性っぽいけれども、顔ですら隠す意味はあるのだろうか?

 そこらは個人の事情だろう、あまり踏み込むことじゃない。


「その、人と逸れてしまって……。教会に仕える方を見ませんでしたか?」

「俺も今港に着いたばかりで、そこまで注意して周囲を見てなかったから役にはたてそうには無いかな。ごめん」

「そうですか……」


 迷子らしいが、周囲を眺めても教会に仕えるような人は見当たらない。

 探すべきだろうかと思ったが、曲がり角から一人のシスターっぽいのが見えた。

 俺は彼女の手を取ると、そのシスターへと接近していく。

 そして肩を叩き、相手の顔を見て──驚くしかなかった。


「貴方様は──」

「ア、ニエス?」


 女神アーニャ……いや、下界ではアニエスと名乗っているのだが。

 俺がこの世界に転生・転移をするにあたって担当してくれた人物であり、何かと世話になっている。

 時折天界からではなく下界にも直接来て色々とやっているらしいが、教会で見習いのような真似事をしているようだ。


「あれ、確か……。どこかに行くって……」

「その、神聖フランツ帝国まで行くはずだったのですが──。あ! もしかして、そちらの方を連れてきてくれたのですか!?」

「うん、まあ、そんなとこ?」

「感謝感激です! すみません、はぐれてしまって……大丈夫でしたか?」

「その、私はだいじょうぶだよ? うん、全然平気だから」


 どうやらアーニャの連れのようだ。

 素性を隠しているらしい彼女もどうやら安堵したらしく、声が幾分和らいでいた。


「ですが、貴方様は何故こちらに?」

「いや、ちょっと……。名が売れて、神聖フランツまでちょっと挨拶をしにいくはめになって。その途中」

「英雄ヤクモ、地方で名が売れたみたいですしね。嬉しいですか?」

「認められるのは嬉しいけど、面倒事と抱き合わせ商品だったら要らないんだよなぁ……」

「それは贅沢と言うものですよ」

「ヤ、クモ……」


 俺の名を聞いたローブ姿の女性は、俺の名を聞いてビクリと反応していた。

 ちょっとばかり後ずさり、まるで俺が化け物であるかのように振舞われる。

 いや、或いは名が売れたせいで恐れ多いとかそういう話だろうか?

 苦笑するしかないが、それもため息になってしまった。


「──って事は、一緒なんだ」

「そうみたいですね。これは、運命の赤い糸とか感じちゃいますね!」

「知り合いが居るのは嬉しいよ。俺の連れは全員英雄でさ、俺だけ生きた人間で若干困ってた所なんだ」

「英雄と一緒!?」


 ……さっきからなんだろう、この女の子。

 もしかして英雄と言う単語に反応してるのだろうか?

 そう考えると同時に彼女は思い切り頭を下げる。


「ごっ、ごめんなさいっ! そんな人にぶつかった挙句、人探しを手伝ってもらったなんて!」


 どうやらキーワードは『英雄』だったようだ。

 英雄といえばこの世界では二種類だが、そのどちらも言ってしまえば名の売れた人物だ。

 一つはアイアスやロビン、マリーやヘラといった『かつて人類を勝利に導いた英雄』だ。

 もう一つは『功績や活躍によって誰かがそう語った生きた人』である。

 俺は後者であり、地方での名声でしかない。

 前者はこの世界では莫大な意味がある、それこそ歴史や宗教に名が載るくらいに。


「いいよ、そんな気にしなくても。自分に出来る事を──最善を尽くしたなら、他になにが必要だろうか? って言葉もあるし、やれる事をしただけだから」

「そんな! 私なんかがぶつかって、しかも挨拶に行く途中なのに迷惑をかけたなんて……。本当に、本当にごめんなさいでしたっ!」


 何度も彼女は頭を下げた。

 その度にローブがめくれていき、相手の顔が明らかになる。


「──顔を上げて欲しい。気にしてないんだからさ、これでお互いに手打ちにしよう」


 俺は、ちょっとした好奇心からそう言った。

 もしかしたら顔を上げたときに、チラとでも相手の顔が見られるかもしれないと。

 だが──その考えは間違っていた。

 チラリズム? そんなものはないね。

 彼女は自分の頭まで被っていたローブが外れていることに気がついていないのか、それともテンパって居たのか……。

 そのまま、顔を曝け出したままに顔を上げたのだから。


「……あの、なにしてるの? クロエさん」

「え? ソンナヒト、シリマセンヨ?」

「いやいや、ローブ外れてるし、その顔見覚えがあるし……。と言うか──」


 ミナセが悲しんでいたんだ、忘れるわけがないだろう。

 その言葉は飲み込んで、俺は言葉を選んだ。


「──死んだかと。ミナセから、そう聞いたんだ」

「ミナセくんが……?」

「酷く、悲しんでいた。俺も、そこまで付き合いは長くはなかったけど、ショックで……。無事でよかった」


 音信不通だった旧友にかける言葉のようになってしまった。

 今の言葉を吐いていた俺は大分老け込んでいた事だろう、そう思えるくらいに真面目になってしまった。

 クロエはローブを急いで頭まで被ると、周囲を見渡す。

 何かに怯えているようでもあったが……。


「アニエス。何で彼女と一緒に? 無事だったのなら、学園か──或いは休みで家に帰ってる筈じゃ」

「それが、この前夜遅くに教会の近くで倒れていて、拾ったんです。どうしても国に行かなきゃと、お腹を空かせながら言っていたので」

「いやいや、学園に戻れば食事くらいは食べられただろうに。何かあったのか?」


 言葉を選ぶ。踏み込みすぎず、かといって差し障りのない言葉を選ばないようにして。

 刺激を与え、或いは相手が口を滑らしやすいような言葉を選び、情報を得ようとする。

 踏み込みすぎれば逃げられる、かといって踏み込まなければそこで話は終わってしまう。

 だが、俺のそんな目論見はアーニャによって遮られた。


「こ~ら、そうやって人の言い難い事を聞くのは良くないことなのですよ? 目的が何であっても、それが困っているのであれば手助けするのが、人としての道では有りませんか?」


 などと、指差し説教されてしまった。

 俺は呆気に取られつつも笑ってしまい、直ぐに誤魔化すように考え込むフリをした。


「そんなつもりはなかったんだ。けど、旅は道連れ世は情け……目的が分かってる方が、多少はお互い動きやすいんじゃないかってさ」

「あの! あのその、えっと……。私の家に戻って、家族とお話して、また戻ってくるだけ──です」

「敬語、丁寧語禁止。学園での日常のように喋って欲しい」

「──う、うん……」

「まあ、勝手に憶測で語るけど。事情があって、死んだ事になってて、けど表舞台に出る事が出来なくて、家族に連絡を取りたいって感じで良いのかな?」

「だ、大体そんな感じ……かなっ!」


 ……おかしいな、何で首を突っ込んでるんだ?

 いや、違う。好奇心を発揮させた結果背負わなきゃいけなくなっただけだ。

 自己責任、自己責任……。


「えっと……概ね行動予定はこんな感じになってるから。面子はこの五名、通る道や街、村とかも書いとくから、何かあったら助けくらいにはなるよ。とは言っても、俺も重大な責務背負ってるから、余裕のある旅路じゃないけどさ」


 そう言って俺はメモに字を書き込んだ。

 アーニャが居るから日本語でも大丈夫だろうと素早く書いたが、受け取った彼女は親指を立てる。

 どうやら理解してもらえたみたいだ、手間が省ける。


「二人だけ?」

「はい、二人だけで行動してます。私は元々行かなきゃいけない理由が有りましたので、クロエさんは一緒に来てるだけですね」

「……それ、危なくない?」

「それが、クロエさんが強いので助かってます! 凄いんですよ? 猪に襲われた時、ズガッ! って殴って倒したんです!」

「それは、また……」

「え、えへへ──」


 クロエを見るが、どう見ても細腕だ。

 ミナセと並んで勉強が苦手な子だったし、休日は街で教会のボランティアに勤しんでいたような──良い子でも有る。

 人畜無害、平和主義者。そんな文字が似合う気がするし、何よりも似合わない。


「あの、アニエス? 流石にそんなひとが居たらおかしくない?」

「はえ? そうでしょうか。ドワーフだのエルフだの獣人族だのと沢山居ますし、そういう人が居ても良いのでは?」

「そ、う……なのかな? ──まあ良いや」


 もう面倒臭いので思考放棄だ。

 馬鹿の考え休むに似たり、変に追求した所でお互い損しかしないのでやらないにこした事は無い。


「明日の朝船に乗るんだけど、その時同じなら楽しそうだ」

「と言うか、同じですね。これは、楽しくなりそうな予感です!」

「あのあのあのあの。アニエスさん? 寝るところ探さないと、また馬小屋生活ですよぅ……」

「ハッ!? そうでした! すみません、このような去り方で悪いのですが、貴方様の行く先々と未来に幸あらんことを……」

「ヤクモくんに神の大いなる導きと、英雄達の標がありますように」


 一瞬「アーメン」と言いそうになったが、これもまた二人なりの祝福の仕方なのだろう。

 クロエが再びローブを被り、アーニャと去っていく。

 それを見送ってから、ため息を吐いた。


「俺、厄介事に首を突っ込んでるのか、厄介ごとが向うから来てるのか分からないな」

「──じんせい、そういうもの」

「──……、」


 背後にロビンがいつの間にか立っていた。

 俺は驚く事もできずに思考が空白になるが、何とか復帰する。


「は、早かったな。偵察は終わったのか?」

「──ん。あんない、かのー」

「そ、そうか……」

「──しょーかい」

「はい……」


 脅されてないんだけど、脅された気持ちにさせられる。

 ロビンには一度蹴られて脅威を認識してるから、言う事を聞かざるをえないのだが……。

 あれ、そう考えるとアイアスやマリーよりも、ロビンとヘラの方が怖くないか?

 

 そんな事はさて置き、だ。俺は二人の事を説明する。

 一人は以前立ち寄った教会にいた人で、何かと世話になった事。

 もう一人は──俺は知らないとだけ答えた。

 ただ部屋を借りた後でぶつかり、アーニャ……アニエスと逸れただけの一般人と言う事にしてある。

 同じ目的地まで一緒らしいという事も伝えて、俺は話を終えた。


「出来る範囲で気にかけてあげて欲しい。女性二人旅みたいだし、馬小屋生活とかしてるみたいだから不慣れっぽい」

「──ん、りょーかいした」

「……というか、ロビン。もう少し自己主張しても良いんだぞ? アイアスやマリーほどじゃなくても、多少やりたいことがあれば優先しても良いし」


 ロビンがあまりにも何も言わないし、俺に追従するだけで何もしないので困り果ててしまう。

 買出しに足を伸ばし始めたが、彼女は本当に自己と言うのがないように思えてしまった。

 或いは、完璧な付き従いの人──従者のような感じがする。

 買い物において、交渉はしてくれる。

 商品を受け取って、金銭のやり取りの間にスムーズな進行を心がけてくれている。

 有り難いと言えば有り難いのだが、ワンコを飼っているつもりはなかった。

 しかし、ゆっくり……ゆっくりとロビンの首が傾げられた。

 

「──それ、めーれー?」

「何で命令なんかしなきゃいけないんだ……。お前ら全員面倒臭すぎ! と言うか、今回の旅程の先導者はヘラなんだから、指揮者に聞けって」

「──ヤクモにしたがえって、いわれた」

「ありがたいね……」


 公爵の指示なのだろう。

 面子的に俺が苦労するのが分かりきっているから、あえてロビンを味方にさせる事で負担を低減させようとしたのかもしれない。

 その配慮には今度礼を言わなければならないだろう。


「けど、俺の用件は終わったから好きにして良いよ」

「──じゆーこーどー?」

「そうそう、自由行動。買出し部隊はその任を解き、解散とする。以上、別れ」


 そう言ったが、ロビンは微動たりともしない。

 俺は数秒考え込み、まるで……なんだっけ? 天界から来た誰かさんを想起させた。


「やりたい事は無いの? アイアスやマリーみたいに食べたり飲んだりしても良いし、ヘラみたいにちょっとお散歩しても良いし」

「──ない」

「そっか……。それじゃあ、合流までの時間暇だから昔話を聞いても良いかな」


 途中で買ってきた間食をストレージから出す。

 シシケバブのような物だが、大分時間は経ったにもかかわらずまだ熱々だ。

 その一つをロビンに渡し、俺も一本を食べる。


「ロビンは、どういう事をしてたんだ?」

「──んむっ、いまひょ、かわらはい」

「飲み込んでからで良いから」

「──んぐっ、いまと、かわらない。だれかにつかえてた」

「仕えながら、弓を使ってたと?」

「──ん。しってるひと、狩り、とくいだった。そのひとにおそわった」


 ロビンの話を纏めると、こんな感じだ。

 誰かに仕える護衛だか従者だかをしていた。

 弓やナイフの扱いは狩りをしていた人に学んだらしく、そのための技術や知識も一通り学んでいた。

 マリーやヘラ、アイアスたちに比べるとかなり身分は下だったらしいが、それでも特別階級ではあったと。


「アイアスは自分を最弱って言ってたけど、本当なのか?」

「──ん。いちばん、よわかった。おくびょーで、りそうだけたかくて、けどふんばれなかった」

「今のアイアスは、どれくらいなんだ?」

「──アイアス。だれよりもふつー。わざもふつー、ちからもふつー、まほーもまりょくもふつー」

「うへぇ……」

「──けど。だれよりも、いちばんへいしにすかれてたし、だいじにできた」


 ……そりゃ、一つの才能だろうな。

 兵士を上手く指揮できる奴が、兵士に好かれているとは限らない。

 兵士に好かれている奴が、上手く指揮できるとも限らない。

 つまり、臆病で、だれよりも普通だからこそ立ち上がった時に、兵士に慕われたって事だろうか。

 頼りない奴だけど、憎めないから守らなきゃ。

 今は蹲ってるけど、立ち直ったら誰よりも立派になれると思わせられる人物。


「──いちばんよわかった。けど、かこけー。へいしを大事にしながらたたかう、アイアスしかできない」

「そっか……ありがとさん。因みに、他の十二人はなにが得意とか有るんかな? マリーは魔法、ヘラは回復とかの支援で。ロビンは……弓?」

「──わたしは、てーさつとそげき。えらいやつ、ころす」

「成る程ね……」

「──ひとりでも、いきていける。くさとか、いきものたべる。そうやって、てきのよわいところ、さがす」


 完全に特殊部隊か何かなんだよなぁ……。

 レンジャー隊員のような感じだろうか?

 サバイバル技能を修得し、その場にあるもので命と戦闘能力を繋いで長時間単独行動をする。

 

「──とおくのものでも、みわたす。それ、すごいやくだつって、ほめられた」

「まあ、それは納得してるよ」


 ロビン、舌っ足らずと言うか、喋りがグリムに比べるとたどたどしい。

 しかしその技術や技能は本当だろうなと思えるし、先ほど「偵察」と言って店の場所などを把握してもらったが、それを──彼女の所有品なのだろう、紙に鉛筆のようなもので地図にしてしまった。

 見下ろし図になっているそれは正確であり、尺寸も良かった。

 どうやら俺がアーニャやクロエとやり取りをしている間に把握を終わらせ、俺と合流する前には外観だけでも完成させてしまったようだ。

 俺を案内しながら更に記入し続け、それこそ作戦図に使えるようなものが出来上がっていた。


「ロビンが居れば大分助かるな」

「──ん。もっとほめる」

「それはちと遠慮させてくれ……」


 ロビンは頭を撫でられるのが御礼だと思っているようだ、大戦時の仲間達は見過ごしてきたのか?

 俺が撫でないと知ってロビンはションボリするが、俺は話題を変える。


「ヘラの得意な事って何か分かる?」

「──てあて。まほーつかわなくても、くさとかほーたいつかって、らくにする」

「マジで? 全部魔法で治癒す……そっか、出来ないか」

「──ん。たべもの、たりない。みんな、うえてしぬ」


 治癒魔法は万能ではなく、ただの新陳代謝の活動を活発化させることで短時間に負傷を回復させる魔法だ。

 つまり、負傷部位の細胞の活動が何倍にも高められ、それこそ切り傷や火傷だろうと短時間で治してしまう。

 出血多量で死にかねない負傷でも、即座に怪我を埋めてしまう事で延命する事が出来るのだ。

 ただ、当然ながら活動を活発にすればエネルギーが必要になる。

 つまり、食事などで摂取したエネルギーを消費してしまうのだ。

 そんなものが通用するのは食事に困らない状況であり、滅亡するかどうかの状況で飲食に困ってないかどうかと言われたら困ったに決まっているだろう。

 ……そう考えると、助けられたかも知れない兵士が餓死してしまうトラウマも有るわけだ。

 俺だったら頭抱えて何年も夢に見るだろう。


「それを聞くと、この時代は平和だねえ……」

「──ん。へーわ」

「マリーたちは自分たちが召喚された以上は何かあるって言ってるけど、何も起きなければ良いな」


 俺はそんな事をぼやくが、ヘラがアイアスたちを引き連れて戻ってくるのが見えた。

 手を振って認識すると、ロビンはそっと漏らす。


「──そのために、みんながいる」

「まだ四人だけだけどな」


 英雄達はどれくらい居て、後どれくらいの召喚のチャンスがあるのだろう?

 実は十二人集めないと、消え去った一人と抹消された裏切り者も仲間にならなくて全滅エンドとかはないよな?

 さすがにあの英雄殺しと肩を組んで仲間になる光景は想像しづらいぞ……。

 

 だが、そんな考えをよそに彼女は俺を見ていた。

 そして、ポツリと漏らす。


「──ヤクモも、いる」

「……そうかい、ありがとさん」


 クシャリと、彼女の希望であった頭を撫でてやる。

 だが、そう言われると同じように負担となって胃が痛くなるのだが……。

 期待されたからには多少は頑張らないといけないなと思ってしまうわけで、それは結局俺の負担に繋がる。

 だれか、俺に精神と時の部屋をください……。俺の時間が、あまりにも有りません。



 ~ ☆ ~


 マリーとアイアスは間食しまくったはずなのに、全部魔力にでも変換したのだろう。

 夕食時、また先日のように飲み食いしてから大部屋へと入っていく。

 アイアスはまた酔いつぶれた。

 吐かないだけマシなのだが、毎度毎度寄りかかっていびきをかき始めるからうっとおしい。


 なにが悲しくてイケメンにしなだれかかられなきゃいけないのだ。

 ヘラとマリーはザルどころかフチなのでその可能性は無いし、ロビンは匂いだけで酔うので長居もできない。


「アイアスくんも、楽しんでいるみたいですね」

「大分調子に乗ってるからなぁ……」

「いえ、そうではなくてですね? そもそも酔い潰れるほどまでに酒を飲むという事が無かったんですよ。だから、楽しんでるんだなと思いまして」

「俺、ずっと絡まれまくって、滅茶苦茶背中叩かれまくってるんだけど。たぶん赤くなってるって……」


 ステータスの耐久度関連が、毎日叩かれまくって成長している。

 下手すると行きと帰りの二十日だけで、何とも無くなってしまうのではないだろうか?

 やだな、そんなあたり稽古みたいな成長の仕方。

 壁に体当たりし続けてみよう、そのうち剣でも切れない肉体の完成だぜってか?

 笑えなさすぎ……。


「明日の予定を再度確認しよう。ヘラ、頼むよ」

「そうですね。明日は日が昇る前には起きて準備をして、日の出の出航には間に合うようにしたいと思ってます。船に乗ってしまえば後はやる事も無いので、必要なら休んでも大丈夫かなと」

「船旅か~……。私、前に飛空挺に乗って気分が悪かったから苦手なのよね……」

「飛空挺? そんなものが昔はあったのか?」


 イメージは気球だとか飛行船だが、俺が生まれたときにはもう飛行機が飛び交っていた。

 ヒンデンブルク号爆発事故、興味が無ければ誰も知らないだろう。

 つまり、安全性や利便性の問題から歴史から排除されていったものだ。

 熱気球ならまだやってると思うが、そこらへんも何時の情報か曖昧だ。


「あ~、えっと。平和だった頃に一度だけね。魔力結晶を沢山使って、空を飛ぶ乗り物みたいなのが有ったの。その一番機の搭乗に行ったんだけど、気分悪くなっちゃって」

「あの時は、楽しかったです。人があんな高さにまで飛べるとは思ってもみませんでした」


 ヘラとマリーはそんな事を言っているが、ロビンはピクリとも反応しない。

 多分乗っていないのだろう。あるいは、どうでも良いから反応していないのか……。


「その乗り物、今も有るのかな?」

「さあ、無いんじゃない? 有るとしても数年後?」

「一号機が出来て、間も無く侵攻が始まりましたから。試行錯誤をしている余裕も無くなりましたし、その一号機も破壊されて跡形もなくなりましたので」

「けどさ、魔法でも個人なら飛べるだろ?」

「高く飛べば飛ぶほど魔力の消費は激しくなるのよ。つまり、高く飛んだら降りてくる計算もしなきゃいけないから、着地よりも前に魔力が切れたら落ちるだけ。お分かり?」


 などとマリーが言う。

 ……つまり、飛行魔法は簡易的なエンジンだとか何とかと同じような働きで飛んでいるということか。

 推進力と重力の兼ね合いで、高く飛べば飛ぶほどに速度が落ちるとか、負担がでかくなるとか……なんか、そんな感じだった気がする。

 けど、それって──。


「魔力結晶を身に付けて、それを個人装備にすれば空飛べるんじゃね?」


 まあ、そういう発想ができるよな。

 魔力結晶で空を浮いたというのなら、それを身に付ければ何らかの恩恵を得られるので空を飛ぶのは楽になるだろう。

 それこそ、推進力や魔力変換と言う事を考えるのなら一つよりも二つ、二つよりも四つで不足を補えば良い。

 

「アンタ、自分が何を言ってるか分かってる? 一つ、魔力結晶はヴィスコンティじゃ採掘量が少ない。二つ、そんな技術や知識は誰も思いついてないから馬鹿げてる。三つ、魔力結晶を加工するだなんて初めて聞いた」


 どうやら俺の発想はマリーにとって不愉快なものだったようだ。

 しかし、魔力結晶がどういうものかは分からない以上、絶対に飛ぶだけのものじゃ無いと思うんだよな。

 そもそも、ユニオン共和国じゃそれを使って銃のようなものを作ってるんだろ?

 と言う事は、だ。魔力結晶は、魔法の指定や変換に値する機能を有していると言う訳だ。

 ゲームをunpack《データの解凍》して中身を覗いた時に、様々な命令文だの指定だのが有ると思う。

 それと同じ理論や理屈だと思うんだけど、ダメなんかな……。


「そもそも、付呪に連なる魔法技術が無ければ無理なの。残念でした~」

「──……、」

「あれ、怒った? 怒っちゃった? 怒って……ない。あれ、おかしいわね。何で真面目な顔を──。え、うそ。やめて」

「あ~……」

「やだ、聞きたくない。何を言うか分かっちゃったから、言わないで!」

「俺、付呪系統もいけるんだ」


 いけるんだ。いけるんだ、いけるんだ……。

 その言葉を聞いた直後にマリーが大きな絶叫を上げ、隣部屋から壁ドンがされる。

 「うるせーぞ!」という声を無視しながら、マリーがベッドに突っ伏してワナワナ震えているのを見ながら、俺は自分がその条件を満たしているのを理解した。


「その、ゴメンな?」

「天は二物を与えずの法則はどこに行ったぁ!」

「まあ、落ち着くんだマリー。良い情報が有るから、それを聞いてからでも遅くないだろ」

「あによ……」

「俺は魔法の知識は皆無だし、呪文の数もクソほど無い。付呪も一度は使ったけど、知識もヘッタクレも無いから。むしろ──俺が発案して、マリーがそれを元に魔法をドンドン新しく作っていけば良いんじゃね?」

「……たしかに、ウダウダとアンタに文句言うよりは建設的ね。だけどね、感情として納得が出来ない!」


 二度目の壁ドン来ました。

 それと同時にアイアスが面倒臭そうに目を覚まし、壁ドンからドアドンに変わったのに対応しに行った。

 数秒後、ゴスっ! という音一つが聞こえ、アイアスは欠伸を漏らしながらベッドに転がると再び寝落ちた。

 ……アイアスは寝起きが悪い。あるいは、酒を飲んだら起すなって事だな。把握。

 と言うか、こいつら全員「とりあえず殴れば解決する」ってのを念頭に置きすぎじゃね?

 マリーはまだ誰も殴ってないが、その内殴りだすかも知れない。


「付呪関係を扱える仲間は居なかったのか?」

「居たけど、戦いが終わる前の話だから」

「あ、なに。もしかして大戦終結時に生き延びてた奴しか呼ばれないの?」

「たぶん、そのはず……ね」


 と言う事は、十四人居た中で……生存していたのは、十名程度、か?

 気に食わないが、あの英雄殺しを含めれば既に六名が出現している事になる。

 あと……なんだっけ、ツアル皇国に二人だっけ? 八名居るじゃん。

 後二人がまだ未確認で、その大半が出尽くしているとか、実際問題やばいんじゃねぇかな。


「──さっきの言葉、覚えとくからね。アンタの発想を私が解釈して魔法にする……。うん、これって素晴らしいわ!」

「俺に何の利益も無いんですけどね? まあ、良いけどさ」


 装備を幾つか外しながらも、直ぐに手が伸びる位置へと置いておく。

 上着を脱いでTシャツ姿になって寝るのに適した格好になるとベッドで横になる。

 ──煎餅マットよりはマシか。

 野営や野宿よりも楽なので、雨風しのげるだけありがたいと思わなきゃいけない。


「感謝の言葉でも貰っとく?」

「マリーから感謝の言葉とか、珍しすぎて価値は有りそうだな」

「じゃあ、ありがとう。どういたしまして、さようなら~」

「一人で完結してるんだよなぁ……」


 と言うか、ロビンの反応が無さ過ぎて大丈夫だろうかと気になったが、死んだように眠っているだけのようだ。

 棺桶に突っ込まれた人のように、直立不動のままに横たえたように見える。


「ロビン、大丈夫かな……」

「お酒に弱いんです。それでも皆が気にかけないで楽しめるように頑張ったんだと思いますよ」

「いつもならあんな飲みの場には近寄らないか、一歩離れた場所に居るのにね~。……寝てる間にイタズラでもしてやろうかしら」

「やめろやめろ。下手すると負ぶって歩くの俺なんだぞ。ロビンだけじゃなくて、巡り巡って俺に優しくしようってつもりは無いのか」

「……ないかな」


 言い切ったよ、チクショウ!

 ヘラも寝るために身軽な格好になり、全員が就寝準備が出来る。

 とは言え、ロビンはそもそも軽装だし、マリーなんて脱ぐつもりが無いようだ。

 明かりをあまり使いすぎると追加料金が取られるので、さっさと寝ようという話になる。

 火を消そうとしたが、マリーとヘラがそれぞれに何かを呟いていた。

 俺がたどり着く頃には火は自然と消え、部屋は暗くなる。


「……魔法が上手なこって」

「褒め言葉として受け取ってあげる」

「というか、これでも魔法使いですから」

「──そうだった」


 ベッドに横たわって、呼吸を繰り返す。

 ……毎日飲んでるけれども、アイアスとロビンが酒に弱くて助かった。

 マリーとヘラは酒に強いみたいだけれども、ヘラ自身は別に飲酒が大好きな訳ではなく付き合いで飲んでいるだけのようだ。

 つまり、アイアスが酔い潰れればロビンも連れ出せる、その結果マリーとヘラしか残らないがヘラがストップをかけるのでそれでおしまいだ。

 

 暫くは、静かになった部屋の中で徐々に明かりが消えていく街中を窓から眺めていた。

 しかし酔いが徐々に回ってくると、眠くなってきたので俺は眠りにつく。

 ……アーニャとクロエはどうしているのだろうか?

 それに、なんだか順調すぎて嫌な予感がするんだよな……。

 



 ──まあ、予感と言うよりは確信なのだが。

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