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元自衛官、異世界に赴任する  作者: 旗本蔵屋敷
11章 元自衛官、内乱に加担する
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179話

 ひぃい、こんな予定じゃなかったのに!!!!!

 

「そこ、柵の位置が視界を塞ぐ形になるから敵に付け込まれ易くなるから修正!」

「なんで物資を完全に一塊にするのさ! ”囮集積”で一部残して後はもっと安全な場所に移動!」

「夜の警戒が薄すぎる! 最低14人は夜間警備に増員して、音と視界で拠点に空隙が出来ないようにしてよね!」


 嘘でしょ?

 オっさんとオジさんが居なくなったら、全部ボクが面倒見なきゃいけないの!?

 エカシさんはおおよそ全部を監督してはくれるけど、それでも情報の処理と更新までは出来ない。

 なぜかって?

 トウカって言う子の様子を見に行ったり、彼女の代理で今回の蜂起筆頭者だからそんな余裕が無いから!!!

 

 ── こっちも大変だろうけど、頑張れよ ──

 ── いやはや。常備と傭兵と民兵を纏め上げるのは、新でも御免被りますね ──


 あの二人がなんでそんな事言ったのか、やっと理解したよ!!!

 人が集まるとその統制と維持で凄いリソース割かれる!!!!!

 エカシのおっちゃんの所は良いよ、見慣れた常備兵ばっかりだもん。

 けどさ、トウカが生きてたって知って集まった民兵連中や、金になりそうだからとやって来た傭兵連中の三竦みが解消するのがめんどくさい!

 

「オっさん、ボクを軍師かなにかにするつもりじゃないよね?」


 喚きたくなるけど、的確な指示が無線越しにやってきてる。

 しかも、それは今のところハズれた事がない。

 

『民兵と傭兵は”それぞれの隊長格を選抜”しつつも”一定の混合化”を図ること』

『戦いにおいては完全に別けて、けれども食事や睡眠時含めて交流を必ず何かしらの目的で実施』

『エカシのおっさんが決めた地点での拠点構築時に、必ず常備を班長として傭兵と民兵を混ぜて作業をさせること』

『キツい作業を行う場合、必ず飲食や休息、酒などの娯楽に関しては緩めろ』

『問題が生じた場合、必ず常備に解決させるようにして、常備はそれを上に通させるようにしろ』

『”理想”の為に、エカシのおっさんに全部背負わせれば良い』


 変に”仕返し”もしている。

 そりゃボクだって、何か思わないでもないけどさ。

 それで全滅! とか、そういうことに……なる、傾向が見られないんだよね~。

 とは言えだ、エカシのおっちゃんに任せてたら傭兵も民兵も一緒くたに扱って不和が生じかねなかっただろうけどさ。


『傭兵の皆は経験があるだろうから陣地構築の為の木材の運搬支援、民兵の皆の仲から伐採経験がある人は同行して伐採と材木加工。民兵の皆は木材が来た時に柵を作れるように準備』


 よくもまあ、あんだけボクも喋れたもんだよね。

 けれども、それで上手くいったのだから少しだけ落ち着いた所だよ。

 それに……何だかんだトウカも暇してるから見回りくらいはしてくれるし、それで少しお話しするだけで意気高揚に繋がるんだから安い。

 

 ── 正当性は無くとも勢いは敵にある ──

 ── 速攻をかけなかった場合、各地から兵を集められて撃滅掃討されかねない ──

 ── 此方は正当性こそあれど寡兵な上に傭兵と民兵で連携と統制は低い ──

 ── だから、相手に先手を打たせながらも時間稼ぎをして。奇策、策と繋げなきゃ終わる ──


 正気じゃないよね? 正気じゃないよね!!!

 普通の感性じゃないって、絶対!

 頭がおかしいんじゃ──



 ── ☆ ──


「オっさん、自分がしてる事が、代償行為だって自覚はある?」


 オっさんが出立する前、あまりにもむちゃくちゃが過ぎたからそんな苦言をたたきつけた。

 本来なら無縁な事柄で、ヘルマン国なんていう連中の事は無視して国を飛び出せばよかったんだ。

 あのトウカとか言う、姫様を連れて。


「代償、行為?」

「オっさんさ、大失敗して逃げ出したんでしょ? あれ、居場所が無くなったから出てきたんだっけ? まあ、いいけどさ。結局、後悔ばかりしてて振り切れてないから”代わりの何か”で満たそうとしてる。──あ、違うや。代償行為じゃなくて”負い目”か」


 そう言った時の、オっさんの顔は何処までも透明だった。

 困惑しているわけでも、図星を突かれたという顔でも、失態を晒すような顔でもなかった。

 ただただ、何処までも”どう反応して良いか理解していない”みたいだった。


「欲求とは、ちょっと違うんだよね。”こうしたい、どうしたい”という願望を達成したらさ、普通は”満たされてる”んだよ。勝ちたいと願って、勝てば満足感が。守りたいと願って、守れたら安堵が。負けたくないと願って、負けなければ危機感が。だけど、オっさんの場合そうじゃないよね。何かをしなきゃいけない、けれども何をしたら良いか分からない。自分にはこれしかない、なら場面も相手も条件も理由も違うけど達成しなければならないという”呪い”にしか見えないよ」


 オっさんは、それでも能面のように透明な顔をしていた。

 それでも”無反応はマズイ”と考えたのかも知れないね。

 直ぐに、いつものように表情と感情を浮かべる。


「あれ、学者とかじゃなかったか? マスクウェルって」

「色々な人を喰ったからさ、そういったメンタルヘルス関連の人も居たよ」

「なるほど。そういった人の知識が該当するのか、なるほどなあ……」

「けど、その反応だと”そんなことを考えもしなかった”って感じだね」

「考えたくも無かった、の間違いだと思うけどね。ただ、そうなんじゃないかなとは思ったことはある」

「やっぱり」

「別にさ、良いよ? 人間ってそういうものなんでしょ? けどさ、それで巻き添えになる人のことも考えて欲しいんだよね」

「──分かってる」

「い~や、絶対に分かってないね! 今オっさんは皆の中心人物になってるんだ。そんな人が”仲間の為に残る”って言い出せばどうなると思う?」

「……何人かは、離脱する覚悟もあったんだけどな」

「い~や、残念だけどそうはならないね。オジちゃんとか、獣使いの嬢ちゃんとか絶対にオっさんに付いて行くじゃん。で、執行者の人も溜息つきながらついて行くだろうし、ボクなんか何もツテも無いんだからさ。やってる事、一種の脅迫や恐喝と同じだって理解してる?」


 そう、相手が否定しないだろうと考えてやるものは”相談”とはいわない。

 オっさんはそうは思って無くても、結果として一択しかない問いをしたわけだ。

 獣使いの子はオっさんについていくために国を出てるんだから、今更引き返すわけが無い。

 オジさんはオっさんを主人として登録してるみたいだから、命令が無きゃ見捨てるわけが無い。

 執行者は”一応”傭兵としての素行などを確認する為に来てるんだから、戦争に首を突っ込もうと決断するまでは離れない。

 

「──……、」

「ボクが今いっとかないと、オっさんはこれからも同じ失敗するよ?」

「代償行為と負い目か……」

「心当たりくらいあるんじゃない?」

「まあ、無いという方が難しいけど。逆を言えば、心当たりがありすぎるからなあ」

「メンタルヘルスやっとく? オジさんが沢山医薬品とか回収してくれたし、デバイス経由で転送できるから幾らでもお薬あげられるけど」

「……必要な時に、疲れや眠気を吹き飛ばすお薬と。逆に眠る必要があるときに眠れる睡眠導入とか、睡眠薬が欲しい」

「覚醒剤はいらない? 軍用品の準合法品の奴」

「Jet と Buff out, Psycoだったら欲しいかも」

「あるよ」

「あんのかい!!!」


 まあ、お薬を上げるけど。

 少しだけ考えてから聞く。


「ちなみに、参考として”何が代償行為や負い目”になってるか聞いても良いかな? 大丈夫、口外だけは取り込んだ連中のプロ意識に賭けてやらないよ」

「……全ての始まりは、家族との失敗なんだと思ってる。そこから、自衛隊を負傷して出て行くことになって、5年も引き篭もってた事もあるし。じゃあ、全部取り返そうと思ったらさ、そんなの無茶でさ。学園での生活は学生時代を思い出せて、その中で色々あったけど友人や仕えるべき主人と相互理解を深めたりして……少しずつ、歩めて来てたんだ」

「それが失敗したと」

「ズルして、覚悟とか尊厳を踏みにじってるみたいな……そんな感じのこと言われたよ。死んでも、無理やり生き返って──一個軍隊、単独で退けて、主人を助けに行ったらさ。そう言われたんだ」

「あ~、うん。まあ、死んでもやり直せるのなら、ハードルは下がるよね。それこそ”英雄的行為”ですら、やりやすくなるもん」

「なるか? なると思うか? 痛いんだぞ? 恐いんだぞ? しかも痛みと恐さは回復しても、経験や体験として自分に刻み込まれる。それをこれからも先味わうのかと考えると恐くて仕方が無い。しかも、何日も寝ないで、時には休息や食事も無しに戦い続けなきゃいけない。その辛さと虚しさを前になんども”もういいんじゃね?”とか”良く頑張ったよ”って言い訳を前に心が折れそうになる。お前は、本当に、楽だと、思うのか?」


 少しだけ考えて、自分の腕を強く掴んでみる。

 ギリギリと、手加減をしてても鬱血していくのを感じるし、痛みを感じる。

 このまま全力を出せば、それだけで皮膚から筋繊維、神経や骨を潰して腕を千切る事が出来る。

 ボクも一応は概念的生命体だから、死なんて物は無い。

 けれども、痛いのが大丈夫かといえばそうじゃないし、なんなら辛い事や疲れだって嫌だ。

 

「自分だってこんな面倒くさい状況、投げ出して逃げたいよ。けどさ、いま他国に逃げ出したら外交問題化しかねないし、それで将来変な連中が結託して多国籍軍みたいなのまで作って国境関係無しに追跡捜査までしだしたらって考えると、ここいらで断ち切っとかないといけない……絞首刑の縄がかかってるような、難しい状態なんだよ」

「勝ち目があると思って始めてるの?」

「少なくとも自殺行為だと思わなかったかな。それでも、大分しんどいけど」


 ……しんどいのは、個人的な感想なのか、それとも現在の状況なのか。

 オっさん、連日よくもまあ徹夜や睡眠時間を削っての情報収集や勉強、命令や指示出し、作戦会議なんかしてるよね。

 ボクだったら会議したらもう一週間は会議したくないかな。

 だって、何時間やってるのさ? って感じだし。

 そもそも民兵の代表者とか傭兵の代表者とか、各チームのリーダーだとか。

 何処まで細かく相手して話をしてるのさ。

 

「んじゃ、とりあえずお薬は出しとくよ? というか、突っ込まなかったけどオっさんの話、なんか変だよね。肉体年齢的には21歳程度でしょ?」

「異世界転生って奴?」

「……うわぁ。オっさん、ちょっとイタイよ」

「うるさいな……。自分だってこんなの体験しなけりゃ、神の事だってただのツールにしか思って無かったっての」

「大体さ、タイムマシンの構図に手をかけたところで人類滅んでるんだし、異世界って……。オっさんが言ってるのって、ヤクキメて”新しい世界を見た”とか、宗教にのめりこんで”真なる世界に目覚めた”と同義だって分かってる? 現実逃避だよ、現実トーヒ!!!」

「じゃあ、何で生き返れたんだよって話になりません?」

「え? 人の蘇生って一定の条件内であれば楽勝だよ? それに、スキャンして脳のデータ化が出来てれば頭が吹き飛んでても代用物にデータ書き込んで修復も出来るし。内臓も代用から引っ張ってこられるし、頭さえ無事ならそこだけ仮死状態で凍結しておいて身体を再生処置してから接合しなおしてハイ復活! って出来るくらいだよ? それに、わき腹に穴が空いても再生薬を患部に直接注射すれば短時間で素肌にまで治るってお薬もあるし」

「なにそのチートアイテム。お前らの方がよっぽど異世界だよ……」


 ……異世界というより、ただの”未来へのジャンプ”と言うのがオっさん的には正解なんだろうけどさ。

 それだと、あの時代の科学技術で時間跳躍をどうやってやったのさって話になっちゃうんだよね。

 それに、オっさんは確かに死亡届が出された正式な死亡者扱いになってる。

 ちょっと機密にまで触れてるけど、同姓同名の隊員が所属していた事も判明してる。

 常に首から提げてるドッグタグの番号で検索したら、一発で符合した。

 ……ン百年以上昔の人間だよ!

 そりゃ、ボクたちの科学技術ですら”魔法”と同じように思えるだろうケドさ。


 異世界と思えるくらい、未来に来たと思えば正しいんだろうけど。

 人格や人間性から考えると”嘘”じゃ無さそうなんだよね。


「で、勝算はあるわけだね?」

「無けりゃ早い内に落とし所を検討してる。けど、今のところは蓋を開けてみなけりゃ分からないかな」

「戦場の霧、ね」

「その通り。どんな有利な状況であったとしても、狙いを定めておきながら引き金が壊れてたり、バネがヘタったりして弾が外れる事だってあるし、そもそも薬莢の排出で失敗して噛む事だってある。最期の最期まで気が抜けないし、数で負けてる以上は”劣勢である”としか言えないね」

「……数がまだそのまま戦力の優劣に繋がる時代、か」


 ランチェスターの法則って奴だったよね。

 剣や槍と言った”一騎打ち方式”である場合、数がそのまま戦力の優劣に繋がるというお話。

 それが銃や砲弾と言った”集団戦”に変化していくと”足し引き”じゃなくて”確立殺”になる。

 剣や槍ではどうやっても一人を殺せないけど、銃なら連射で複数名撃てる上に砲弾は範囲で複数名殺せるからね。

 まあ、他にも”戦闘員の素養や資質は同等である”とか”扱う武器や兵器の性能は同等である”とか、様々な条件が加えられるわけだけど──。

 今回は、オっさんは表立って戦いには参入しないといってる。

 オジさんもそれに倣って、援護はするけれども肝心の戦いでは裏方になるといっていた。

 つまり、銃火器という優勢を捨てることになるから、一次元式で戦力を計算せざるを得ない。


「……頼むよ、オっさん。相手が4倍とか、地獄以上の何者でもないからね?」


 残念だけど、300人で数万の軍勢を撃退できるような地形は無い。

 むしろ平原と森林が斑に広がっている感じで、出来ることといったら伏兵と釣り野伏せといった奇襲くらいで──。

 なんで、ボクらはこんな相手の真正面から堂々と行軍して行ってるんだろう?

 

 とは言え、もうオっさんもオジさんも出ちゃってる上に作戦行動を開始しちゃってる以上は、後戻りは出来ない。

 ボクだけ逃げた所で、常識もなんにも分からないから更にキツい事になりそうだし。


「……面白い事を教えてやろうか。何で昔は”英雄”が存在したのかを」

「まあ、答えはわかりきってるけど。どうぞ?」

「戦いの本質が一騎打ちに近かったからってのと、情報伝達速度や指揮統制に関して大味だったから。ナショナリズムが芽生えてない中、英雄が敵に居たとする。そうすると、どうなると思う?」

「そりゃ、兵士ならいざ知らず、傭兵や民兵からしてみればヤな相手だよね」

「ま、そういうことでもあるけど、帰結するのは”集団心理”が影響しやすかったんだよ。なんで複数列で横隊陣が組まれるかって、後ろの奴が前列の奴を逃がさないように押し込む為でもある。つまり、分かりやすい”逃亡防止策”でもあったわけだ。けど、結局”ダメだ”ってなった時、一番崩れやすいのは多数派の部隊の方でもある。維持できなくなるんだよ、部隊を」

「戦力じゃなくて?」

「あのさ。飯も陣地も勝手に沸いてくる訳じゃないぞ? 人数に応じて物資も陣地も変わるのに、沢山逃げたらそれも維持できないし、それで輸送能力にまで影響与えたらもう戦線の維持自体が無謀になる。それに、仲間に囲まれてるという安心感は敵を前にしても、英雄を相手にしても落ち着きを与えてくれるけど、左右の味方が逃げたらどうなる?」

「……そりゃ、脇を守ってくれる人が居なくなるから。逃げるしか、ない?」

「そゆこと。さあ、そうやって逃げ出されても、即座に穴を埋めるように詰めて復帰できるのなら少数精鋭という味方も出来るけど、それをするには指揮官が傍にいるか、ある程度権限や責任を与えられた班長とかが居なきゃいけない。けど、負ければ責任を追及されるだけで権限を持たずに責任だけ押し付けられた奴はどうする?」


 ツラツラと、戦場における兵士の心理学のようなものが出てくる。

 その中には、ボクの齧った人間心理も当然出てきていて、その上でデータベースに乗っているような歴史上の戦いに準拠した出来事も踏襲していた。


「あ、だから檄にはそういう意味もあったのか」

「そゆこと。相手は多数派でも、正当性を俺は崩しにかかった。前王を弑逆した事や、王のしでかした事、息子に離反されたことも触れてる。いやぁ~、つれぇぞぉ~? 大事にしていた息子が、父親である王に『王に非ず!』と歯向かわれたんだから。対するこっちは、トウカは悲劇の王女さまだ。その上弑逆された両親と現王による無様な執政や淫蕩に満ちた日々、しかも傭兵をやることで国民との交流を重ねたゾルザルは言ってしまえばこの国での”英雄”になる。心に迷いと戸惑いを持った兵士が戦場に出たとき、”英雄”と相対して戦いに集中できるかな?」


 ……おかしいな。

 ボクの記憶だと『自分にヘイトを集める』のが目的だったハズなんだけど。

 獣人のおっさんの事には一回も触れてないし、そもそも”攻撃”しかしていなかったはずだけど。

 ああ、これが──悪意ってやつか。

 人を騙す、人を利用する、人を裏切る、人を切り捨てる。

 ボクは……あの培養液の世界の中で、悪意だけは学んでなかったんだ。


「──それらの話が本当だったとしても、今のその疲れ切った身体で出来るの?」

「出来なさそうだから、薬をくれ」

「はぁ……分かったよ」




 ── ☆ ──


 薬、大量に渡しちゃったけど、アレでうまくやれんのかな……。

 まあ、それはそれとして……だよ。

 本当に作戦を成功させたいのならやらなきゃいけないことって”修正作業”じゃ無いんだよね。

 別働隊には獣人のおっさんが居る、これは英雄という駒に該当する。

 オっさんは首都に乗り込んで工作活動をしてる、これは”怨敵や無視できない相手”として有効だ。

 けど、だ。

 本体であるボクらには足りないものがある。

 それを戦いまでに満たさないといけないわけだ。


 ── お前にはやってもらいたい事がある ──


「これは、高く付くよ?」


 仕方が無いなと、少しだけ考える。

 条件や目的の再確認、その為の必要条件を再確認。

 それらに関わる要素の再認識、全ての項目の接続……。


「ま、やるしかないよね」


 後でオっさんには色々食べさせてもらおう。

 それでとりあえずは我慢する。

 じゃないと、何もかもを失いかねないもんね。





 ~ ☆ ~


「ならん!」


 あ~、今日もやってる……。

 エカシさん、マーちゃんが入ってから話し合いをしてるらしいけど、うまくいってなさそうだな~。

 けどマーちゃんは今まで部屋から出てこなかったし、ご飯も部屋で、身体を洗うのも水を運ばせてやってたのに、珍しいね。

 ……何かあったのかな? ちょっと覗いてみようかな。


「だからさ~、話の分からない人だな……。姫さんを出さないのなら、今の戦力差じゃ負けるのはボクらだって分かってる?」

「そんなもの、老骨に鞭打って、姫様を慕う全員皆死兵となって打開してくれるわ!」

「あのさ、そもそも兵士だけだったら兵力差4倍じゃすまないって理解してる? お金や名声、利益目当てで集まってきた傭兵は身体と命が最大の利益を生む卵なんだから、命を賭してまで作戦に付き合ってくれると思う? そもそも、義勇兵のように集まってくれた皆の方は連携も無ければ共通の軍の精神も持ってないんだ。崩れたら終わるんだよ」

「姫様を見捨てて逃げると申すか!」


 あ~……。

 なんか、珍しいな~とは思ったけど、バチバチにやり合ってるな~。

 けど、このやり取りを見てると学園の頃が懐かしく思えてくる。


 ── アンタのは魔法っていわないの! ──

 ── うそぉん!? ミラノたちにいわれたことを、俺なりにやったつもりなんだぞ!? ──

 ── アンタなりにやるな! 言われたとおりにやれ! ──

 ── け、けどさ。長すぎるというか、無駄が多すぎ…… ──

 ── あ゛ぁ゛ん゛!゛?゛ ──

 ── なんでもないです、はい ──


 魔法のお勉強してた時、ダイちゃんとそのミーちゃんがそんなのしょっちゅうやってたっけ。


 ── だ~か~ら~、アンタの言ってる事がさっぱり分からない! ──

 ── 自分が何をしたいのか、どうしたいのかを考えながら必要な要素を言うだけですぅ~!!! ──

 ── はぁ~? そんな事したら、祝詞にならないし神様へのお祈りの効果もなくなるって言ってるんですぅ~!!! ──

 ── じゃあ俺がやってるのは何なんですかねって事になりませんかねぇ~? ──


 ふふ、楽しそうだったなあ……。

 学年主席を連続で取り続ける、今の学園で最年少の双子の姉妹。

 ダイちゃんが来るまでは、お人形さんみたいに静かな人だった。

 けどね、ダイちゃんが来てからは色々な顔を見せてくれるようになってたっけ。

 笑った顔も、怒った顔も、心配する顔も、悲しむ顔も。

 けど、アルくんもそうだったけど、上が居ないから退屈だったんだろうな~ってのは思ってた。

 何をやってもかなう相手が居ないミーちゃんと、もっと強くなりたいのに家柄や敗北から相手をしてくれる人が居なくなったアルくん。

 ダイちゃんは、結構大きな事をしてたんだなあ……。


「ぬ、テュカ様……」

「あ、姫さん! 聞いてよ、この頭でっかちのおっさん、精神論で何とかなるとか思ってるんだよ!」

「勝つ気迫すら持たぬで事が成ると思うてか!」

「はぁ、これだよ……。あのさ、気迫や心構えじゃ空腹は紛れないし、武器や防具は直らないし、疲れも隠せない。それで失敗した国があるって知ってる? 大日本帝国って言うんだけど」

「それはその国がどこかで失敗したのであろう!」

「気迫とか意志だけで全部が全部何とかなるのなら、今頃どこかの国が世界征服してるって気づかないかな。あ、違うか。魔物や魔王に支配されてるか」

「貴様ァ!!!」


 あ、やばい。

 マーちゃん、エカシさんを怒らせちった。

 間に割り込んで、ギリギリで刀を掴む。

 ちょっと早かったかな、掌がちょっと斬れちった。


「テ、テュカ様!?」

「あ~らら。自分らの神輿に傷つけちゃった」

「エカシさん、ちょっと冷静になろうよ。それと、マーちゃんもさ。怒らせなくてもいいじゃん」

「だってさ……」


 あ~、こういうときダイちゃんがいろいろ考えてたんだな~ってのが分かる。

 ダイちゃんなら相手をどうしたいか考えはするけど、それでちゃんと自分の望む方向に話は持ってくし。

 そういう意味では、マーちゃんはお話が下手なんだなあ。

 じゃあ、私が色々頑張らないといけないね。


「マーちゃんは、何のお話をしてたの?」

「テュカ様のお耳に入れるようなことでは──」

「エカシさん。私は”聞きたい”んだけど、邪魔するの?」

「ぬぅッ!?」

「ねえ。私も聞く権利はあると思うんだけど、違ったのかな~?」


 ちょっとイラっとした。

 私はもしかしたら、本当にお姫さまなのかもしれない。

 けれども、話を聞いてからというもののダイちゃんとかから遠ざけられてきた。

 理由は単純に”そんな事は考えなくていい”というものだけどさ。

 それって、私を利用するだけのクセに私は参加させてくれないって事だよね?

 

「ねえ。私の為に来てる人も居るはずだよね? その人たちがこれからどうなるかくらい私にも分かるよ? なのに、私は聞いちゃいけないって……おかしくないかなぁ……?」


 ……ダイちゃんが私たちの事を置いていった時も、たぶんこうだったのかもしれない。

 けど、決定的に違うことがある。

 ダイちゃんは自分が狙われてるから、私たちの為に置いていった。

 けれどもエカシさんのしてる事は、私の為じゃない。

 ”姫”の為だから、私はそれがすごいイラつく。

 

「聞かせてよ」

「ぎょ、御意に──」

「ま、まあ。つまりはだよ? 姫さんも戦いたいんだよね? なら、参加してもらった方が皆の鼓舞に繋がるだろうなって事で、エカシのおっちゃんとそれで何とかならないかなって話をしてたとこ」

「で、ですが。テュカ様の御身に何かあれば一大事故、ならぬと申していたところに御座いまする」

「……私は出たほうが良いと思うな」

「な、なりませぬ!」

「だってさ、そもそも今いろんな人が集まってる中で4倍くらい相手のほうが多いんでしょ? で、ゾルくんのお父さんだって昔は将軍だったんだから、私の為に来てくれた人たちとか、傭兵の皆の所に圧力をかけて崩すの狙ってくると思うんだ。それで崩れちゃったとき、どうしようもないんじゃないかな」

「それは……」


 これは……うん、ダイちゃんがいってた言葉だったかな。

 夜遅くまで頑張ってお勉強してるんだけど、疲れてくると独り言が増えるから。


 ── 人が足りない。糧食も足りない。連携も錬度も足りない ──

 ── 援軍のあても無い。策を覧じる地形も無い ──

 ── ゲリラ戦法で……いや、それは禍根を残すし長期化する ──

 ── どうしたらもっとうまくやれる? どうしたら…… ──

 ── 中隊長が居れば。小隊長が居れば。班長が居れば ──

 ── 部隊の、皆が居れば…… ──

 ── いや、駄目だ。思考停止するな ──

 ── 俺が、俺の判断で死地に皆をやるんだ ──

 ── 言い訳なんかできないくらい、背負わなきゃいけないんだ ──


 毎日夜遅くまで悩んで、考えて、疲れて。

 それでも会議には必ず出て、その上でまた新しく考え事をして……。

 限界が来て何度か机に取れこんで寝てたり、仰向けに倒れてたりした事もあった。

 けれども、目を覚ますとすぐに”誰かの為に”頑張り続ける。

 じゃあさ、私も頑張らなきゃいけないわけじゃん?

 

「エカシさん。私も戦うよ? だってさ、少なくとも私のために集まってくれて、戦おうとしてる人が居るし。それにさ──私の為に残って戦うことを選んでくれた皆が居るんだもん。私はさ、まだ自分が姫だとかそういうのは分からないけどさ、仲間や慕って来てくれた人を裏切るのは……違うと思うんだ」


 ……私が拾われてから、おっちゃんはそうしてきたから。

 裏切られたり、切り捨てられたりする事もあった。

 けど、おっちゃんは自分から見捨てたり、裏切ったり、切り捨てることはしなかった。

 そうやって私の事を育ててくれたんだから、それを裏切りたくない。


「──危険ですぞ」

「皆そうだよ」

「死ぬならまだしも、手足や目などを失う事だって御座いまする」

「そんな人、たくさん見てきたし、それくらいの怪我をした事だってあるもん」

「……座してはくれぬと申しますか」

「や~、だよ。やっぱさ、姫姫っておとなしくしてるの性にあわないもん。武器を持って、思い切り戦って──勝つにしても負けるにしても、死ぬにしても立ち直れなくなるにしても私も責任を負わなきゃ」


 そうじゃないのなら、何を差し出せるんだろうか。

 お金で雇った人も居るけど、私や前の王様の事で集まった人も居る。

 そういった人に何を言って頼めるんだろう。

 その時に前に出なかった私は、何を言って彼らを見送ればいいんだろう。

 

「──卑怯なまねはしたくないよ。だから、私も一緒に戦って、その上で斃れる人が居たら”任せてね”って言えるようにし……」

「? どうしたのさ?」

「あ、ううん。ちょっと……考え事しちゃった」


 言いかけてから、少しだけダイちゃんの考えてることが分かった気がする。

 何をするにしても、自分が常に前に出続ける理由。

 結局のところ、後悔がしたくないんだ。

 それで……もし、途中で斃れるにしても自分が言い訳も出来ないようにして、それを真っ向から受け止めたいんだ。

 自分のせいで、自分の為に誰かが動く。

 その事実と、その結末から。


 ……重いなあ。

 傭兵の時は、仕方が無いよねって済ませられたけど。

 今回はそうじゃない、普通の人たちが居る。

 いつもは狩りをしたり、人間の真似をして畑を耕したり、戦いや危険から少しだけ離れた場所に居ることを選んだ人たちが。

 お金や名誉の為に来た人たちとは違って、見返りは無いのと同じなのに。


「……とにかくさ。私も、戦うよ。だからさ、マーちゃん。私がどう動けばいいか、何をしたらいいのか考えてよ」

「キタキタキタキタ! その言葉を待ってたんだ! これで、ボクらの方の打てる最大の布石は終わらせることが出来る!」

「ぐぬぅ……。ただし! 下手な策では容赦せぬからな!」

「大丈夫だって。ようは、こっちでも”英雄”をぶちあげればいいんだよ。敵方の為のじゃなくて、此方側のための、ね。詳細は追々話すけど」

「私でも出来ることってあるのかな?」

「あるある。沢山あるよ! ちょっと部屋まで来てくれれば色々説明できるから!」


 マーちゃんって、こんなに元気だったっけ?

 けど、やる気があるのはいいことだよね、うん。

 

「さて、と。すぐに準備するから待っててね」

「分かったよ」


 マーちゃんは不思議な道具を使う。

 ダイちゃんが見つけたものだけど、マーちゃんが今は使ってる。

 普段から色々やってるけど、それがあればプリちゃんやダイちゃんとも離れていてもお話が出来るんだって。

 不思議だよね。


「3,2,1……出た! はい、これが今の状況図ね」

「わぁ……」


 マーちゃんが机の上に何かを見せてくれる。

 これ、何だろうね?

 たしかあの地下施設でも似たようなの見たけどさ、仕組みとかよく分かってないんだよね。

 ただの机の上に何かを出してるような、見せてるような?


「どうやったの?」

「ホログラムで見せてるだけだよ。実際にはそこには無いけど、立体的にも平面的にも物を映し出す……道具だよ、道具! てか、そうじゃなくてさ。この図を見て何か思うことは無い?」

「ん? ん~。自殺?」

「いやまあ、本来ならそうなんだけど! えっと、ピッチアウトして……二人の位置と部隊の表示……よし」


 机の上に映し出されていたものは地図で、それと簡単な部隊配置図が映し出されていた。

 進行速度を映し出してくれていて、このままいけばゆっくりでも一週間以内には遭遇できることになってる。

 上空から偵察した情報と、プリちゃんが割り出した数を含めた相手の戦力と、自分たちの戦力も書かれてるし、地形も丸わかりというすごいもの。

 すこし離れてゾル君やプリちゃんがどこに何人で居てくれて、ダイちゃんが今どこで何をしてるのかも分かる。

 少なくとも、相手のほうが多い上に平地って自殺行為だなって思うよ。

 

「……やっぱ、戦うって言って良かったかな。ゾルくんのお父さん、もうだいぶ衝突地点を決めて、部隊を動かしだしてるよね」

「ボクらがギリギリの所でこれ以上進まずに待ち構えるって決めたからねえ。野戦築城なんて出来ないけど、防御拠点の構築なら少しは有利になるだろうし。だったら、待ち構える相手を崩すとしたら迂回してくるもん」

「それってさ、危なくないのかな?」

「いや、全然? だって、”ボク”が居るんだし。輸送部隊や物資輸送、輜重部隊が居ると思ったら、”そもそも転送・転移が出来る”だなんて相手も思わないだろうし」

「あ、うん。ソダネ」


 マーちゃんは色々な意味ですごい。

 ダイちゃんもやってたけど、同じように色々なものをどこかにしまうことが出来る。

 そのおかげで本当なら食べ物だとか薬草だとか、天幕だとか必要なものを全部”一人”にしまうことが出来たから。

 その上、ダイちゃんが今居る都市側から盗んできたものがこっちに流れてくるから、簡単には飢えたりしないし、囮で配置してる物資が焼けても困らないという。

 それでも”有るように見せかけないといけないから”マーちゃんが色々口出してたわけだけど。


「まあ、オっさんが色々と考えてるし、オジさんも動いてるけどそれってすぐに影響を与えてくれるわけじゃないし、それまでボクらは踏み止まらなきゃいけないんだよね」

「うん、それは分かってる。ゾルくんたちが動くにしても、相手が安心して、油断して、警戒を解くまで私たちが頑張らなきゃ~って事だよね?」

「そういうこと。んで、オっさんのはもっと後になってからだから、姫さんがここで頑張ってくれないとそもそも話が成立しないんだよ」

「ふむふむ……」

「エカシのおっさんには内緒だよ? ……姫さんは先陣切って皆の先頭で戦って、けど戦う場所は定めないで遊撃してもらいたいんだ」

「いいよ」

「うん、難しいのは分かって……え?」


 あれ、いいよって言っただけなのに、なんでポカンとしてるんだろう?

 

「いいよって言った? 嘘でしょ? 自殺志願者?」

「そうしろって言ったのマーちゃんなのに……」

「あのさ、姫さんに頼むのって、一番危険で、一番危なくて、一番狙われやすい上に自分は救ってもらえない役割だよ?」

「何をさせたいの?」

「……傭兵の方は、お金が現金支給がされ続けてる間は信用や信頼のために大半が踏み止まる。けどね、市民のほうはそうも行かないから。姫さんには危ないな~って思う場所に好きに移動して、好きに戦い続けてほしいんだ。機先を制して出鼻を挫いたり、包囲されかけてる味方を救い出したり、敵が何かしようとしたらそれをさせないように叩くとか」

「──あ、英雄ってそういう意味?」

「先代の王の娘が立派に戦ってるんだ、集まってる連中はそんな姫さんを置いて逃げるだなんて難しくて出来ないだろ? それに、姫さんが輝かしい活躍をすればするほどそれが士気や意気の高揚に繋がる。そうでもしないと戦線を保つのは難しいよ」

「──……、」


 それは、ダイちゃんがやってたことだ。

 おやっさんもやってたことで、誰かが自分の目の前で頑張っているとやらなきゃって思えてくるから。

 そういえば、ダイちゃんはミーちゃんの時もそうだったんだったっけ。

 アルくんとか、ミーちゃんとかの前で自分が活躍することで勇気付けてた。

 それだけじゃなくて、自分で皆の面倒を見てたんだっけ。


 それは、傭兵になってからもそうだったっけ。


 ── 傭兵に戻りたいのなら、その費用は持つよ ──

 ── 先輩たちと懇ろになれば有利になるからさ、俺が酒を飲みながら話をしてくるよ ──


 私に”色々”あるまで、そうやってきたんだっけ。

 ”色々”あってから、ダイちゃんはすっかり変わってちゃったけど。

 それでも、今と昔のどっちが良いかなんて選べない。

 

 常に、ダイちゃんは私たちの前に立ってくれてるから。

 それが今目の前で敵と戦ってくれてるのか、遠い場所でそうして導いてくれてるかの違いはあるけど。


「……となると、鼓舞の為に今日から……ううん、今からでも皆の所にいって声がけをして、必要があれば訓練にも混ざる必要があるよね」

「うん、そうしてくれると助かるかな。傭兵の皆の方にまでそれが浸透するかは賭けだけど、市民の方には効果が抜群だろうから。……あぁ、けど、そうだな。傭兵達のほうでも声がけをしたいって言うのなら、お酒だとか食べ物だとか、差し入れの為に何を持っていくべきかボクが許可して融通するよ。歩く保管庫たるボクがそれを許可するんだから、遠慮しないでよ」

「ありがとう、マーちゃん。けど、急にやる気を出したのはどうかしたの?」

「……気づいたんだよ。ボクはオっさんの立てたこの作戦が無けりゃ、一人でフラフラとあそこまで帰らなきゃ何も出来ないからね。荒事には向いてないし、生計を立てるにしても腰を落ち着けて事務系の組合の手伝いでもしなきゃ終わりだもん。なら、オっさんがここで勝って帰ってくれば振り回されはしてもついて行くだけで良いもん。賭けにはなるけどどっちが楽かって言われたら、後者なんだよね。だいじょ~ぶ、ボクがついている以上はこっちで失敗はさせないよ。あとはオっさんとオジさん次第だけど」

「マーちゃんは勝てると思ってる?」

「まあ、オっさんが色々”やらかして”くれてるからね。ボクの計算と、変動率を加えれば……最悪でも”敗走”だし、最高でも”敵方降伏”で済むから」


 そういって、マーちゃんの計算式を見せてくれる。

 腕につけている装備に描かれている計算式はずっと動き続けていて、正直何の計算をしてるのか分からない。

 

「それって、良いほうなの?」

「戦いはどう転ぶか分からないって言うけどさ、ここまで”大博打”を打つほうがまともじゃないよね! あ、今のは皮肉ね?」

「大博打かぁ……」


 おやっさんなら「戦いは始める前から始まってる」って言うんだろうけど、今回ばかりはねえ……。

 まあ、こんなの”遭遇戦”と同じだよね。

 あっちもこっちも準備なんて関係なくて、手持ちの装備やそろえてる人手で戦うしかない。

 だから大博打って表現は近いかも。

 エカシさんの言っていた”気迫”だとか”気合”に頼りたくなる気持ちは分かるかも。


「姫さん、悪いけど腕前や実力の程は?」

「一応自信はあるよ。闘技場に押し込められて、何年間も毎日毎日戦い続けてきたから。”逃げることが出来る”という傭兵とかに負ける気はしないかな」


 悪いけど、傭兵としての等級なんてそこまで気にかけてない。

 おやっさんに拾われるまで……ずっと、戦い続けてきたもん。

 たしかにさ、学園で女中の真似事をしてたから身体は少し鈍ったかも知れないけどさ。

 ”感性や感覚”は、今でも使い物になるのは確認が済んでる。


 あの時はプリちゃんが身体に馴染めなくて……庇ってたから負けたけど。

 普段なら負けないよ? そもそも装備とか無かったし。

 けれども今は、装備もあるし負傷者を庇ってるわけでもないから。

 ……うん、いけるいける。


「その言葉、信じるよ? エカシのおっさんを騙す訳じゃないけど、いったん戦場に出ちゃったらボクはもう何もお手伝いできないからね?」

「だいじょ~ぶ。戦いの場になったら、そっから先は私たちの舞台だから」


 私はあの学園に集った身分の高い人とは違って、綺麗な服に身を包んで踊るなんて事はできない。

 けれども、綺麗に臓腑や血を舞わせながら武器を振るって”踊ること≪ダンス≫”は出来る。

 本来ならそんな事をしたら大半の人は遠ざかっていく。

 けれども、私の仲間は決してそんなことはしないで居てくれる。

 一緒に仕事をしたプリちゃんも、私に傭兵へと戻ることを許してくれたダイちゃんも。

 ……また、戦える。

 今は、それだけで凄い嬉しいし楽しみ。










 何人殺せるかな? どれくらい殺せば一日を、一週間を、一月を、一年を生きる事を許してくれるかな?

 神様ならなんて言うかな? 教えてよ、ファム様──

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