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元自衛官、異世界に赴任する  作者: 旗本蔵屋敷
11章 元自衛官、内乱に加担する
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174話

「あぁ~ん、寝ぼけてた事くらい許してよ~!」


 再び寝ぼけてヤクモの居たベッドに潜り込んだテレサは、「これ以上問題を増やさないでくれ!」というヤクモの悲しいくらいに切実な願望によって正座させられていた。

 本来であればこんなことをしている場合ではないのだが、放置することによってマーガレットとギスギスするのも、メンタルとモチベーションを維持するためにも避けなければならない案件だった。

 そんなもの元自衛官だろうと揶揄する人間も居るだろうが、元自衛官だからこそ気にしている面でもある。

 自分が嫌なこと、弱いと思う面を防いだり回避するためにもその必要はあった。

 の、だが──


「え、狙撃? 消音は? 装着できるの? 回避は? ムリ? あ、そう……。じゃあ、狙撃は一任するけど、ゾルは何て? あぁ、了解。出来れば偵察と連絡網とか、報告に関して吐かせておいて。ゾルにそれはやらせて、それじゃ」


 個人的な都合に対して、世界も社会も状況も待ってはくれない。

 一日経過した所でゾルと同行しているプリドゥエンから報告があり、どうしても敵の監視が抜けない場所に入り込んでしまったとのこと。

 相手の行動や滞在時間などが不明で、迂回した場合連携に致命的な時間のロスを生むとして、狙撃して叩き落すことを進言してきた。

 携帯電話越しに色々考え、通話が終わると携帯電話のマップとメモ帳を睨んで”最悪な事態”を考えてしまう。

 だが、そこで迷っていても仕方が無いので、流動的に自分やエカシの行動を変化させなければ追いつけないと判断する。

 

 その後ろで、正座させられているテレサというのも結構シュールなのだが。


「足痺れた~!」

「あの、ダイチ様。なにもここまでしなくても……」

「寝ぼけて自分の寝床を忘れるような人はこれくらい当然です。自分たちが何してるかお忘れですかね? 長時間起きていられて荒事にも慣れてる、ツテやコネ、地位や身分で助けられてるとしても、休ませたら事故るってのは怖いんです」

「それほどまでですか……」

「昔な、酒が入ると寝た後も引きずるって言う二曹……小さな部隊の隊長のような人が居て。その人が夜中に酒で催したから起きたんだよ。その後、その訓練場の宿舎の中で一番偉い人が寝てる、部屋の隅にまで行って……あとはお察し」


 幹部、一尉の頭の傍らで小をジャボジャボと行えばそりゃ問題になる。

 他にも山での演習場にて、演習後の打ち上げで飲まされまくったヤクモの後輩の一人がテントの外に出たからとその場でテントわきで放尿等と色々ある。

 どちらも”寝ると睡眠が深い”という人物であり、酒は寝落ちの原因でしかない事も判明している。


「たとえ非常時でも、自分と君らは男と女です。こういうので変に慣れてしまうのは互いに良くないし、だからと言って対策を講じない事で自分が最悪なときに混乱を起こしてへんな判断を下して全滅するのも嫌なんです」

「でもでも~、それだったらキミだけ別部屋を取るとかでも良くな~い?」

「テレジアさん? 一応、飲食費宿泊代旅費に至るまでマイポケットマネーって認識あります? 全部後でエカシに請求するけど、突き詰めるべき場所では突き詰めないといけないし、戦力の分散と存在の点在は賢くないって事も分かりませんかね?」


 テレサの頬を両手でつぶすように挟み込むヤクモ。

 肉体的には十代な為に、柔らかくも伸縮性のある肌と頬が気持ち良いくらいにモッチリと変形する。

 ブニィと、唇が突き出す形になる。


「りゃ、りゃっへぇ~! ぷぁっ……。ふ、普通は一纏めにすると良くないんじゃないだった?」

「そりゃ現代戦での話だろ……。それに、今の状況だとよほどエゲつない事をされない限りは同室の方が安全だし」

「エゲつない事?」

「宿ごと放火して全包囲とか、深夜に工作してからガスを部屋に注入とか」

「うっわぁ……キミって、そう言う事をスラリと予想できるのがスゴいよね」

「だって、自分が敵だったらそうすると楽なんだもん」


 自分達を”もし攻略すべき相手だったら”と仮定して、敵方からどう倒すかを考える。

 その方法や手段、人手と技能と物資等々から可能な”打倒方法”を導き出す。

 逆算し、どうすれば安全度が高いかを考えて、それが息続きするかも考え──決定し続ける。

 

「人の命を預かってるんだ、それくらいしてやらないと……」

「私が正座させられてるのが納得いかないの~!!!」


 両手を振りながら不満を述べるテレサ。

 実際、彼女はただの同行者に過ぎない。

 ギルドの監視者であると共に、断罪も行う役割を担っている彼女が肩入れする理由は無い。

 

 逆を言えば、同行している以上は邪魔にならないように文句を言われても仕方が無いと思っているのがヤクモであった。

 少なくともそれを同意させ、ここに居るものと思っているからだ。

 

「もうちょっと、色々と指揮をせざるを得ない自分に楽をさせてくれませんかね……?」

「え~、十分楽させてると思うけど」

「爪痕も後遺症も残りそうなメンタル的なダメージを回避してくれませんかね!?」


 と、やり取りをしているとクスクスと笑い声が聞こえる。

 二人がそちらをみると、笑っているのはマーガレットだった。


「ごめんなさい。その、ダイチ様がここまで明け透けにやり取りをしてるのが、面白くて」

「いや、まあ……」

「もうちょっと優しくしてくれてもいいんじゃなあい?」

「間を置かずに二回もやられたら厳重注意くらいするだろ……」

「ふふ……」


 やはり彼女は楽しげに笑う。

 ただ、それは聞いていてカラコロと鳴る鈴のようなものだった。

 

「ダイチ様、学園に居たときはもっと硬派で、そういった怒り方はしませんでしたから。なんというか、アルバート様とのやり取りを思い出します」

「あ。あぁ……まあ。義務と私情の中間に居たからな、あいつ。そう言う意味では、付き合いやすかったなあ」

「だから、少し羨ましいです。色々な面を同時に見せて貰えるって、それだけ信じて貰えてるみたいで」

「……マーちゃん、正座させられたいの? 代わるよ?」

「そう言うわけでは──」


 どうぞどうぞと立ち上がろうとするテレサ。

 だが、足を痺れさせていた彼女はそのまま前のめりに倒れかけた。

 それを直ぐに受け止めたヤクモは、傍のベッドへと腰掛けさせた。


「正座で足が痺れたら直ぐに立ったら危ないって」

「だったら正座させな~い!」

「なんだか、昔からの知り合いみたいですね」

「「それはないかな」」

「ですが、お二人の関係は見ていると気の置けない関係みたいで、良いな~って」


 表向きは仲間を殺されかけたから、その反撃で皆殺しにした男である。

 その監視と短期間での昇進速度が速すぎることも含めて、仕事で不正をしてないかなどを含めて素行調査をしている女。

 どう考えても親しくなるのは難しく、むしろぎこちない関係に鳴っても仕方が無いものだ。

 

 だが、実際にはアーニャの先輩である女神と、元その世界に居た男であり背景と事情を知っている男である。

 お互いに相手の痛い所を手にしながら、それに触れないで居る関係でもある。

 テレサにとっては長すぎた孤独を埋められる理解者であり、ヤクモにとっては条件付で元居た世界に滞在させてくれる相手でもあるのだが。


「マーちゃんはもうちょっとカレと仲良くなりたいって事かしら?」

「はい!」

「そこは全力で答えるんだ……」

「どういうのが良いのかしら」

「えっと。私も、もうちょっと私的に話をしてみたいです。義務だとか、責任じゃなくて」

「……キミ、ちょっとそこに正座してくれるかな?」

「え゛、なぜ!?」

「正座!」


 立場が逆転し、納得はいかなくても渋々言われたとおりに正座するヤクモ。

 納得は出来ずとも、なんとなく理解というか、察しているのだ。


「キミ、そういう接し方してるの?」

「や、その……。どう、私的に接して良いか分からなくて、ですね」

「普通でいいじゃん! てか、マーちゃんの普段に興味ないわけ?」

「ふ、普段って……なに? あの、そもそも日常を……経験出来てないんですが」

「それは男の子の言い訳だよ! あ~ん、マーちゃん可哀想……」

「ひゃっ。テレジアさん、少し苦しいです」


 マーガレットがヤクモを好いている事も、事情もテレサは把握している。

 その上でこの仕打ちなのかと、彼女はマーガレットへの同情を禁じえなかった。

 ただし、ヤクモとて言い分はあるのだが、こういった事でヘタに言い訳しても火傷するだけなので、言い訳しないことにする。

 召喚されてからというもの、日常に戻りたいと願うほどに、大事にしたくなるほどに非日常に漬かり過ぎていたのだから。

 メンタルケアが存在しない中、殺し殺され、命のやり取りが繰り返されすぎた。

 非日常から抜け出して日常にメンタルが回帰できていなさすぎたのだ。

 だからこそ、ミラノという日常を守りたがったのだが。

 それですら、今では言い訳に過ぎないと理解していた。


「こんな良い子に少しは歩み寄らないと。どうせガツガツしたら見っとも無いとか思ってるんでしょう?」

「あ、う、や……。まあ、うん。なんか、軟派なのは好きじゃないというか」

「キミの普段の言動が軟派じゃないと思ってるの?」

「むしろ硬派でありたいと思ってますけどね……?」

「普段のキミは、そうかも知れないわね。けど、時々そうなってるって自覚はあるのかしら」

「──俺の知ってるセンセーは、自分ですら自分を理解できず、自分のことを制御できるものではない。できると言い張るのは愚か者って言ってたけどな」

「前置きが長い! 簡潔に!」

「軟派に振舞ってる意識はありません!」

「宜しい。 おバカ!!!」

「いってぇ!?」


 パチーンと、テレサのビンタが容赦なくヤクモの頬を叩いた。

 頑丈な肉体とはいえ、痛覚や痛みはそれなりに同じように感じる。

 半ば状況に合わせた演技でもあるのだが、打たれた痛みよりも打たれた事実にダメージを受けている。


「キミはね? 結構というか、ちょ~っと”優しすぎる”のよ。誰にでも優しかったら、それはそれで勘違いも誤解もしなかったと思うけど、キミの場合はそうじゃないもん。優しくする相手を選んでる、その上で優しくしたら勘違いするよね?」

「意図してないんだけどな……」

「してないから厄介で、してたら最悪だけどね!」


 誰にでも優しくすれば、そういう人だと思われる。

 特別になれないのであれば、誰にでも同じようにするというのなら期待しなくなる。

 しかし、ヤクモはそうではない。

 どこまでも相手を選ぶし、相手との関わり方を選別しまくる。

 差別している訳ではなく、悲しいくらいに区別をしているだけだ。

 主人は主人だと、上司は上司だと、女性は女性だと、友達は友達だと。

 そして、背景という無関心と、知り合いや──親しい間柄だと、区別する。

 パーソナルスペースが、近寄るには間合いが広すぎて、近寄れるとそのままスルリと潜り込めてしまうような──。

 排他的でありながら、寂しがりであった。


「なるほど。ダイチ様には強気に出れば良いのですね」

「やめて? ただでさえ勝てる相手が少ないのに、これ以上勝てない人生を歩みたくないんだけど……」

「個人としては、大分勝ち続きだと思うけど?」

「まさか。負けてばかりだよ。ずっと、永遠に」


 他人からしてみれば偉業とも、英雄とも勇者とも戦士ともいえる行いを重ねているかも知れない。

 しかし、そんなものは本人からしてみればその先にある”結果”を手に入れそこなった時点で、失敗と敗北でしかなかった。

 産まれた意味を持ちたくて、両親に認めてもらいたかったが先立たれた。

 両親の死で動揺し、上の空で富士での訓練中に滑落して膝を壊して原隊復帰後任期満了除隊。

 両親の遺産と貯金を食いつぶして五年間のニートと、残っているのは戦いと殺しの技術と知識が大半であった。

 昔のように趣味に生きる事もできず、生き甲斐も失った。

 負け続けであり、負け犬のまま生きてきた。


「両親の教えと、両親が死んだ事も含めて思ったんだよ。感謝の言葉も、必要な言葉も出来る限りその場で、早い内に言っておかないと損をするって。全部が全部守れてるとは思わないけど、命に直結する事も出来るだけ言うようにはしてるかなあ」

「──そう」


 ただの考え無しや、無自覚なタラシだと思っていたが、そこで”亡くなった両親”を持ち出されるとテレサとしても追求しづらかった。

 元自衛官というのも含め、専守防衛を謳いながらも訓練や事故を含めれば亡くなる可能性は皆無とは言えない。

 幸いな事に彼の同期は全員存命だが、当の本人が一時は重症患者で中央病院に搬送され、片膝を壊したままになったことも含めればそのような思考になっても仕方もない事であった。


「けど、もうちょっとこう……やりようはあるでしょ。今は無理でも、一緒の時間くらい作ってあげるとか」

「この件が終わったらそうさせていただきます……」

「テレジア様、なぜそこまでしてくれるのですか?」

「ん~、知り合いがこのコの様子をちょくちょく見てるのよ。今ちょっと──忙しくて、私がその代理ってのも幾らかあるんだけどね。聞いた話だとちょ~っと、人見知りの気が強いから、それをどうにかして~って」

「人見知りには見えないですよ?」

「甘い甘い。仕事、責任、義務に逃げて私事を放置して身を崩す典型的な人と同じ。仕事に押しつぶされるか、責任に押しつぶされるか、対人関係の構築を失敗して別の何かに逃げ出したりしてね。本当ならお酒だって止めさせたいけど」

「皆さんお酒を止めたがりますねぇ!?」

「キミの場合は趣味とか好みと一緒に耽溺もしてるからよ」

「テレ、ジアだって。酒を沢山飲むくせに……」

「私はお酒を飲んでもそれで迷惑をかけたりしないもの」

「──……、」


 グッと、脱ぐ癖は酒と関係は無いのかと突っ込みかけて、止める。

 それを持ち出すのは場にそぐわないのと、彼女自身がそれなりに気にしていると判断したからである。

 道化やバカを演じるにしても、無遠慮で無秩序であれば愚者でしかない。

 軽口を叩くにしても、相手を傷つけるのであれば用いない方がいいと考えていた。


「それに、キミがそれなりに色々と自由にしてくれれば、私だって都合付けて関われるでしょ?」

「あのですね、何時までついて来る気なんですかね……。ア──あいつが来たら入れ替わってくれるのか?」

「ぶっぶ~、ハズレ。キミは私が証明しなければずっと要監視人物になるし、キミに連なって行動してる皆も一つの組として警戒されるから。私が良しと言わなければ永遠に付き纏われるの」

「お前はお前の仕事を果たしやがれぇぇええええぇぇ!!!!!」


 時間の流れは同じ筈であり、自分が神より管理を任されたはずの世界を放置しているテレサ。

 彼女はそれを問題が無いようにしてきたとはいえ、管理者の長期不在ならぬ無断外出は問題になると思っていたヤクモ。

 しかしながら、世界を管理する間に入ってしまえば時間の流れは別になってしまう。

 アーニャでさえ「一日働いたら、一日休んで、一日はゲームと読書とアニメと動画を楽しみます!」と言っている。

 無制限に時間を好きに使えるのだから、今この瞬間に戻っていって彼女は一年以上を経過して戻ってきたとしても、皆からは一日も経過していないことになるのだ。


 だが、当然ながら事情を知らないマーガレットからしてみれば「執行者として、監視者としての務めを果たせ」としか聞こえない。

 マーガレットはギルドのメンバーにはなっていないので、まったく理解の出来ない世界であった。


「テレジア様もちゃんとお仕事をされてると思いますよ?」

「あぁ、えっと……。もどかしいな。もう全部──」

「全部、なにかなあ?」

「何でこういうときだけ早いんだよ! 収めろ! 武器を首からはずしてしまえ!!!」

「まったく見えませんでした……」

「ふっふ~、私を見くびらない事ね。こう見えても速度と技量重視なのよ?」

「いやまあ、その背丈で想像つくのは速度と技量だよな……」


 等と、少し『人間らしいやり取り』をした結果、ヤクモは幾らか気分が切り替わった気がした。

 普段はお茶やコーヒー、酒ばかり飲んでいた彼だが、今だけはコーラが飲みたくなったのだ。

 アーニャからしょっちゅう呼び出されては貰っているコーラを思い出すと、ストレージから取り出して冷え切った炭酸飲料を飲む。

 

「今飲んだものは、ダイチ様の場所での飲み物なのですか?」

「一本百円前後、やっすい世界の人気者だよ。ただ、甘いから太りやすいんだ」

「けど、好きなんですよね?」

「まあ、そうだねえ。何だかんだ子供の頃から飲んできたし……今でも飲みたくなるし」

「はあ~……」


 マーガレットは暫くコーラのペットボトルを見つめていた。

 その視線の意味を感じぬほど”愚鈍ではない”ヤクモは、少しばかり笑ってボトルを傾けた。


「少し、飲んでみるか?」

「良いのですか?」

「ちょっと、この容器を使いたいんだけど一気に飲むと良くないし。貰ってくれると嬉しいかな~、とか」

「では、少し」


 ヤクモはストレージからコップも出す。

 結構どこへ行っても快適に過ごせるようにと物資だけではなく道具も買い溜めているため、こういった時でも即応性はなんとなく高かった。

 ただ、テレサも机に置かれていた別のコップを手にして微笑んでいる。

 寄越せという事だと悟ると、ヤクモは文句も言わずに二人に多く分割した。


 テレサは幾らか慣れた様子で飲んだが、マーガレットは口の中で弾けるような炭酸の感触に戸惑っていた。


「何でしょうか? この、甘くて……辛い?」

「炭酸って言う……まあ、よく分からない成分が入ってるんだよ。沢山汗をかいて疲れた時とかに飲むと、結構助かるんだ……」

「不思議な飲み物ですね」

「似たようなの幾らかあるけどな。 えっと、ドクペでしょ? スプライトでしょ? 7upでしょ? ジンジャエールでしょ? それからそれから……」

「た、沢山あるのですね。けど、味は全部違うのですか? それに、なんだか色が変なのも──」

「そうかな? 葡萄の色、豆の色、梨の色……。果実とか実の色に似てると思えば別に変じゃないよ。子供のころは驚いたりしたけど、これに慣れたら……今度は歯が溶けるって親に言われたっけな」

「溶けるんですか?」

「まさか、迷信だよ。さっきも言ったけど、飲みすぎると太りやすいくらい……かなあ。けどさ、そんなものは水だって同じで、何事も程ほどが一番なんだけどね」

「あら、よく分かってるじゃない」

「その程々が出来ないんですよね~」


 そう言いながら、ヤクモは二人に分けてわずかになった残りを飲み干す。

 そしてラベルを剥がすと、魔法でペットボトルを洗浄と乾燥を行うと、銃剣で切り始める。


「何をしてるんですか?」

「お手製の時限装置。昔友達に教えてもらった奴を今のうちに下準備しておこうかなと」

「”じげんそうち”とは、なんでしょう」

「一定時間、あるいは特定の条件を満たしたら作動する装置。たとえば、こうやって縄を二本用意して、燃えやすくした上で重ねる。一本には火をつけて、もう一本は何かに結んでおいたり……あるいは、燃やしたいものにつないでおく。縄が燃えていって、その重ねてある場所にまで到達して燃え尽きるか引火するまでの時間を調整するとかね。他には、自分の知ってる日常的な物を用いたりとか──今回それはやらないけど」

「今回って、以前やったの?」

「ユニオン共和国の物資を焼くときに、少しね」

「呆れた。何でそんなことを知ってるのよ」

「少し教育で学んだんだよ。後は──友人の父親がそういったのに詳しい人で、友人だったその息子さんと一緒に作ったりしてた。今は真っ当な警官してるけどね」


 まったく歓迎されない技術と知識だったが、法に縛られようがないし罰する者が居ない事からヤクモはさらに手札と風呂敷を広げだした。

 普段は日常の中に紛れ込んでいた品々。

 それを”意図的に、そのように組み合わせることが犯罪である”事を知っていたが、それは”現代”での話である。


「キミは真っ当じゃないみたいね」

「即席爆弾や即席の時限装置を作れるうえに、それを戦術的に用いる奴がまともなもんかよ。まだネットがブロードバンドで、セキュリティが甘かった時代はパソコンでも色々遊んだもんさ。海外ってのは、日本よりは”餓えた”連中が多かったし」

「キミの父さんを考えると、それってどうなの?」

「当時はまだセーフだったんだよ。それに、当時は爆弾作ってたわけじゃないしな……。それに、今の今まで遊び以上に使った事はないし、大丈夫だって」


 そう言いながらヤクモは、徐々にまた日常から”剥がれ落ち”ていった。

 先ほどまでの漫談が嘘の様に静まり返り、その耳には作業音以外が抜け落ちていた。





 ── ☆ ──


 その日、エカシたちを警戒し見張り、紹介していた有翼の獣人にとって不幸だったと言えるだろう。

 名前は何でもいいが、例として挙げるのであればカイ。

 現在のヘルマン国において、熱をそこまでいれずにただ仕事をこなしてそれなりに生きる事だけで、欲をあまり抱かぬ人物であった。

 有翼獣人の運用方は基本的に空中からの警戒や監視に特化しており、交戦時に至って槍や弓を用いた小規模な散兵になるしかないからだ。

 地を行く獣人たちと違い、空を飛べるということは一つの力であった。

 そのために、肉体を苛め抜いて鍛える事も無く、熱気も彼らよりは無い方であった。


「交代まだかな……」


 空を飛んで遠距離から警戒や監視をしていても、相手も同じ獣人である。

 それを考慮して立てられた建物からエカシたちが何をしているかなどはっきりわかるわけでもなく、かといって迂闊に近寄れば相手も同じように有翼獣人を出してきて交戦や逃走するしかなくなるのだ。

 だが、これに関しては上から「絶対に戦うな」と言われているため、カイにとってはソレを言い訳にさせてもらった。

 相手を刺激しちゃいけないと思ったから、安全な位置から監視していたといえば気が漫ろであっても良いのだ。

 何も見えない壁の中、さらに奥深くにあるエカシのいる建物や練兵場など分かるわけもない。

 あれから一週間以上、意味も無くただただ時間を浪費しているような感覚が、やる気を奪っている。

 それだけではない、交代が中々やってこない事もまたやる気を奪っており、ついには木に降りて休憩し始める。

 陸に足を着いた連中とは違い、常に羽を動かして浮いていなければならない。

 地を這う連中は楽そうで良いなと言うが、空を行く連中からしてみれば大差ないのだ。

 もっとも、地形に応じて疲弊するという事もないのだが、戦いを主とする彼らからすればその分隠れる場所も無いのでどっこいどっこいだが。


「おっそいなあ……。手持ちの簡易食、もう無いぞ」


 行動を阻害しない限り己の金で何かを持ち歩くのは許されている。

 警戒や監視という忍耐と体力を要するが故に、カイは幾らか間食になるようなものを持ってきていた。

 冬の寒さも有り、僅かながらの酒も有している。

 流石に夜間監視までは出来ないが、だからと言って地面を離れれば余計に寒いのでその対策でも有る。


 それでも二時間ほどで交代が来る事になっている。

 ──その、ハズであった。


「なんだ?」


 しかし、彼にとって不運だったのは交代が来なかった事と疲弊がダブルで重なった事であった。

 交代が来ていれば彼がこれからの出来事に巻き込まれる事はなかったし、疲れていなければ地上にもう少し意識が割けていたはずなのだから。

 

 だが、そうはならなかった。

 彼を待ち受けていたのは、自分の休んでいた木へと何者かが接近してくる音と、それに反応して腰を枝から腰を上げると同時に衝撃が身体を突きぬけ、そのまま地面へと落下した事だった。

 

「ッ!?」


 雪が積もっている事や、茂みへと突っ込んだ事が幾らか幸いしたが、ソレも一握りの幸いでしかなかった。

 接近してきた連中は速やかにカイを捕らえると、口を押さえ込んで腰からナイフを抜く。

 何が起きたのか、何でこうなったのかなど彼にはわからない。

 ただ、その鋭い刃物が彼の人生を糸のように断ったのは、暖かく湿り溶けた雪が知っていた。



 ~ ☆ ~


 ゾルはプリドゥエンの行った狙撃により落下した有翼獣人を片付けたのを見ると、その死体と死んだ事を隠すように工作をする。

 それはプリドゥエンの提案であり、少しでも露見の確立を下げんがための行為であった。

 

「オマエさん、よく当てられるナ。イヤ、助けられチャアいるんだガ」

「なぁに。これくらいなら、朝飯前どころか朝食の仕込み前に終わる話ですよ」


 プリドゥエンは、ヤクモに許可を貰って運用しだした狙撃銃を使って、致命傷を与えない狙撃で敵の監視をすり抜けていた。

 彼が使っていたのは自己鋳造弾という、本来であれば戦車の弾等に使われている技術を歩兵の銃に応用し、狙撃に特化させたものであった。

 火薬の量を通常の弾薬よりも減じながらも、射撃後の命中までの間に弾が変形して針のように鋭くなるために威力は増しているというものであった。

 防弾チョッキで防げる形状や運動エネルギーではなく、他の弾と違って命中後に体内などで運動エネルギーを散らかさないために狙撃したという事実を隠しやすい。

 そして射撃音も抑えられており、狙撃手の位置が露見し辛いという武器でも有る。

 ただし、最低射程が設定されており、弾頭が変形する前に命中しては威力や効果が減じてしまい、その上特定の風の影響を受けやすいので繊細な武器となってしまっている。

 そのため、求められる知識や技量などが向上してしまい、狙撃手がさらに高価な存在となってしまった。

 

 ただ、プリドゥエンは当人がロボットである事や、随伴している子機による観測で難なく狙撃をこなしているだけである。

 ついぞ最近7.62mmの狙撃銃を触ったばかりで、600m前後での狙撃しかした事がないヤクモが聞けば、悔しくて夜も眠れなかっただろうが。


「さぁて、オマエさんのおかげデ今のところ発見されずに済んでるが。今のところ大丈夫カ?」

「周囲からの情報によれば、今ので暫くは大丈夫そうです。交代人員も叩き落せて幸運で御座いました」

「なら急ぐゾ。この先の見通しが分からない以上は──」

「あぁ、心配後無用ですよ。すでにこの先の配置と、本日の夜営に適しているだろう場所もすでに見繕ってあります。失礼」


 プリドゥエンは腰から下げた戦術データ気を取り出す。

 砂盤や書類、パソコンなどが無くとも携帯電話やタブレットさえあれば、それに接続しすることで映写機のようにホロデータとして場所を問わずに映し出せる代物だ。

 ゾルはもはやこの”馬鹿げた存在”に口を挟むことはしなかった。

 以前までであれば幾らでも口を挟んだだろうが、信用が出来るのであれば理解できずとも納得さえすれば良い。


「現在地がここで、目標地点がこちらになります。当初立てられた計画の通りに進行しております。空からの警戒もあって我々も敵の行動は把握済みです。なので、今日はここまで進めれば──あるいは、”順調すぎる”ので明日以降を見越して少しでも多く前進して準備に時間を割きたいかと」

「前倒しハ?」

「それだと、相手に情報が到着する時間差においてご主人様と間が出来てしまいます。それでは”情報過多”を引き起こせませんので」


 ヤクモの作戦は単純な事であった。

 物資への破壊工作と、側面への浸透と急襲による”キャパオーバー”である。

 踏み止まればそのまま三方向からの圧力に兵士が対応せねばならず、かといって一度退いただけでは物資不足が士気を下げる。

 対応を誤れば兵と時を損ない、速度を失えばその分出血が強いられるというものであった。

 

 しかも今回のキモは、ヤクモ達の方が浸透距離が長く作戦行動数が彼らよりも多いという事にある。

 出来れば敵の背後を撹乱して完全方位を誤認させられないかという、できる限りの短期決着を狙いたがった。

 戦わずに勝つのが上策、戦ったとしても兵の損耗が少なければ程好い、わざわざ殲滅しなければ勝てないのであれば下であると……ヤクモはいくらか考えていた。

 だから心理的な圧力を好むし、それを拭う事に力を注ぐのだが。


「ゾルザル様。同時に複数の事柄が、しかもどれも軽視できない種類違いの脅威が発生した場合、どうしますか?」

「程度によるダロ。目の前には実際の敵と死が待ち受けてるんダ、それをどうにかしないなら直接的な脅威じゃないものは優先度を下げるサ」

「ですが、こうなるとどうでしょうか? 布陣をして決戦の意図を持って構えている最中に横から我々が接敵する。それだけで布陣を変えねばならず、動揺も走りましょう。ですが、そこで留まれば治療も出来なければ食事や水にもありつけないとなれば? しかも、自分達が都を空けている間に異変が起きた場合は? 引き返すのが正しいのか、戦うのが正しいのか、踏み止まるのが正しいのか判断がつかない場合はありましょう」


 戦わなければ追撃される、しかし戦えば釘付けにされかねない、かといって釘付けにされれば物資的にも後方の驚異的にも宜しくない。

 状況を見て本隊であるエカシが行動を選ぶが、用は相手の行動によって痛めつけ方を変えればいい。


「しかし、キョーダイは都まで行けるのかねぇ……」

「私には使えませんが、ああ見えて魔法使いとして優秀で御座いますよ。流石に獣人に近づきすぎれば鼻は誤魔化せませんでしょうが、それでも姿形を違うものに見せれば少人数での旅路に見えなくも無いでしょうな」

「あぁ、だからあの嬢ちゃんは魔法の練習をしてたんだナ。しっかし、そうカ……。魔法使いってのは、スゲェなあ」

「まったくですね。常識というものを覆されそうです」


 状況を纏め終えると、休憩は終わりとゾルは従えて来た複数名の兵達に指示を出す。

 今回の敵対者の息子ということもあり不承不承ではあるが、それでもトウカを支持してこちらに居る事やエカシが今回の分隊の長として認めているのだから従うしかない。

 

「オマエも十分、オレたちからしてみりゃ常識ハズレだっての」

「まあ、今回は特別で御座いますよ。でなければ、私なぞただの執事でしか有りませんから。お茶を入れて、ご主人様の身の回りの世話をして、快適な日々を過ごせるようにするだけの、ね」

「執事ってのは戦えるのが当たり前なのカ? 初耳だナ……」

「いえ、戦えるのはただのおまけです」

「オマケかヨ!」

「……とと、そうでした。報告をしないといけませんね。道すがら行うとしましょうか」


 プリドゥエンはヤクモにこの世界ではまだ存在しない技術力の武器を用いた。

 そうでなくとも、定期的に連絡をしなければ相互連携などは難しい話である。

 幸いな事に管理者の居なくなり、セキュリティが更新されなくなったかつてのネットワークは幾らでもハッキングし放題だった。

 パケット代だの、通信料など無関係に衛生経由で電波が飛んでいるのだからやりたい放題でもあった。


 プリドゥエンの素肌に見える腕がパカリと開き、画面とボタンが出現する。

 そこを操作すると、ヤクモの携帯電話に通話が繋がった。


「ご主人様、敵対勢力の排除を確認。これより進行を再開します」

『あ~、大丈夫? 問題は無さそうかな?』

「ええ、ゾルザル様が上手くやってくださいますから。私は飛ぶ相手を羽虫のごとく落とすだけの簡単な作業で御座います」

『薬莢は落としてないよな?』

「ええ、回収は……してありますとも。薬莢と雷管さえあれば、弾と火薬は私めが幾らでも作れますから。それでも、浪費できるほど猶予は御座いませんが」

『出来れば弾も武器も温存しておきたいけど、自衛と防衛の為に使うのは一任するよ。次の連絡は二時間後?』

「あとは、事前に示したポイントを通過時にですね。幸いな事に今日はこのまま前倒しできそうですが」

『まあ、前倒しで到達できるのは良いけど、足並みだけは揃えてくれ。あ~、ゾル? 聞こえてるだろ?』

「聞こえてるゼ、キョーダイ」

『トウカ達も出立準備を終えて、明日以降ゆっくりと出るとさ。お前の親父さんも準備を終えてきたらしいから、予定通り頭に血が上った状態で来ると思う』

「そうであってくれるト話が早くて良いんダガなあ」


 ゾルにとってかつての父親と今の父親は繋がっている気がしなかった。

 戦人と呼ばれ、第一線を張っていた時と違いすでに鍛錬も止め酒と女に溺れた身だ。

 たとえいくらか名残があっても、当時のような働きは出来ないだろうと。


「一つ聞きたいんダガ、殺すのが目的じゃナイんだナ?」

『別に、負けを認めて解放されるのなら生死は問わないかねえ。今だって大分印象操作に頭使ってるんだぜ? その上で良い具合に負けてくれれば玉座に座ってられないくらいに見限られるだろうさ』

「ほんっと、容赦ネーのナ」

『──生きてれば、やり直せるだろ。それで心を入れ替えたり、あるいは上手く従えられるって言うのなら、それはお前に任せる。こっちの目的は別にお前の親父さんを殺すのが目的でも、玉座を取り戻すのが目的でもないし。ただ狙われる可能性を潰して、暗殺者だの追っ手だのがかからなきゃいいんで。……そろそろ通信を切ろう』

「オウ、またナ」

「では、御武運を」

『お互いに無理だけはせずに、無茶だけしていこう。それと、ヤバかったら逃げてくれて良いからな。死んでも良い事はないし、生き恥は晒しても挽回できる機会を狙っていこうぜ』


 そう言ってヤクモは通話を切る。

 一番危険なのは当人なのだが、それを感じさせないお気楽っプリで安心と楽観を与える。

 その態度が演技なのか、それとも本気なのかは誰にも分からない。

 もしかしたら当人も、意識していないのかも知れないが。

 

「しかし、こうやって話ガ出来るってのは便利だナ。今ここに居ないってのにヨ」

「元々、こういった軍事的な運用が本来の使い方ですから。これを民間に普及して仕事などにも用いられるようにもなった訳ですが。ちなみに、私が使っている武器も、元々は採掘に連なる技術の発展と応用だといったら、きっと驚くでしょう」

「アン? 採掘って、掘るだけだろうガ」

「まあ、いつかそうなる時代が来ると思いますよ」


 とはいえ、魔法が発達した世界で火薬や爆発物が誕生するまでどれくらいの時間がかかるかは不明であるが。

 それでも、魔法を使えない人々が存在し続ける限りは可能性は有るだろうとプリドゥエンは考えた。

 

「確かに、どこに居ても連絡が取り合えるのナラ戦い方は大きく変わるワナ。お互いの状況を常に報告し合えるワケだし、変化があっても聞けるってのは大きい」

「ええ、だから──逆に、相手を陥れる事もやりやすいという事です」

「ダナ」


 何があっても連絡手段と命さえあれば知る事が出来る。

 それに対して、相手は時間と人を割いて不確かな情報を得る事しかできない。

 現場に行かなければ最大限の情報は得られず、その情報を得た上で行動が間違ってるのか正しいのかが問われる。

 目の前の脅威と、不確かな遠隔地の脅威。

 どちらを優先するのかという判断を、敵に強いる。


「しかし、ナンダ。キョーダイは結構色々できるのに、何で及び腰なんダ? 武器もソーだが、魔法も使えるのナラもっと──」

「もっと、楽な人生を選べただろう、ですかな?」

「アア、そうダ。傭兵をやるにしても、戦うにしても、あるいはもっと前の……誰かの下にいたとしてもダ」

「それについては、以前お聞きした事があります。確かに望むと望まざると、色々な能力や武器をご主人様は得てきました。しかし、”依存されるのがイヤだ”と仰っていました」

「依存ダァ?」

「強ければ、頼りになるでしょう。比類すべき者がいなければ、個人的な価値も上がるでしょう。しかし、優秀なのと特別なのは違うと仰っておりました」

「フン?」

「優秀というのは、自分が他者と混じった中で抜きん出ている事になると。特別なのは、他者と混ぜてすら貰えないと。特別になってしまったなら、あとはそれにのみ依存する方々が出てきます。同じ技能、同じ能力を有する方がいらっしゃらないので。そうなると面倒だと言ってましたね」

「──人間、カ」


 ヤクモの言葉は外交や資源等の話にも通じる。

 そこでしか採掘できない資源を持った国は狙われるし、付き纏われる。

 それが大国であれ小国であれ面倒な事になるのは歴史が証明している。

 同じように”ヤクモ”という人間である資源を、他者が、国が、派閥が、思想が、どうするか等は分かりきった事だ。

 味方であれば誰も抗し切れないから欲しがるが、手に入らないのなら居ない方がいいと判断されかねない。

 どちらにせよ狙われるくらいなら、やらないで知られないほうが良いというものであった。


「それに、魔法にしろ武器にしろ。それで戦果を挙げたところで、ご主人様にとっては”優秀である証ではない”という事も有りますから」

「……ナルホド」

「誰が使っても同じ事が出来る武器、誰かがすでに考えた事を用いて発動する魔法。どちらも”ご主人様の能力”とは関係有りませんので」

「ダガ、それを少しでも上手く扱える、用いる事が出来るってのは優秀さには繋がるダロ」

「その武器でしか、魔法でしか再現できない技術や強さに意味はないと判断してるのでしょう。潰しが利かない知識や技術ですから」

「ほぉ~ん……理解できネェな。それとも、人間だからカ?」

「ご主人様は人間ですし、属していた世界も、属している世界もまだ人間のままなのですよ。人間の世界という家の中から出た事もなく赤子として育ち、自分で歩けるようになって手足も自由に動かせるのに家から出るのを怖がっている」

「マ、分からない話でもないわな。外に出れば安全じゃないし、変化と他者と沢山の考えに揉まれる事になる。敵なのか、味方なのか。それすら分からない中、日々を生きるにゃあの性格ジャ──もたねぇな」

「ええ。だから仲間が、味方が必要なのです。人間の社会から、人間の世界から……あるいは、自分から出て行くためにも」

「仲間や味方なら、沢山いるダロ?」

「さて、残念ながら私はご主人様が口にしない事柄にまではとんと疎いので御座います。ただ、今までの傾向から判断するのであれば、戦いにおける仲間や味方というのは、別段日常における親しい相手や和やかしてくれる関係だとか、そういったのと絶対的に互換があるわけではないみたいですよ」


 プリドゥエンは、学園から今までの中で主従であり同性であるが故に知る事が出来た事柄から憶測する。

 関係者に女性が多かった事で、男である事を含めて口に出来なかったことが沢山ある。

 中でもアルバートが居たので彼に対しては幾らか気が緩んでいたが、それでも年齢を思い出して吐き出せなかったこともある。

 意地でもプライドでも何でもない。

 プリドゥエンが話したとおり、自分の価値を下げる事が出来なかったのだ。

 全ては臆病ゆえに、たとえ内心では悪態や混乱に満ちていたとしても、表面上は頼れる男で居なければならなかった。

 

「さて、話はこれくらいにしましょう。それでは、前方をお願いします」

「オウサ」


 プリドゥエンとゾルの分隊は、予見したとおり前倒しをするかのように歩を進めていく。

 彼らの行動はヤクモだけではなく、本隊であるエカシやトウカの方へも送られている。

 移動距離や負担は一番小さいのだが、それでも巻き込まれている事に対してマスクウェルはこの瞬間にも文句を言っていた。


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