167話
── ☆ ──
下水路を抜けて脱出した一行は、今度は逆に下水路の臭いを薄めるように身体や衣類を清めていた。
プリドゥエンがヤクモに預けられていた天幕が人目を避けるように展開されており、その内の一つでヤクモはマーガレットによって手当てを受けていた。
下水路を通って脱出した場合、一度身を潜める為にと先んじて用意された場所だった。
意識は曖昧、しかし酷い発熱と吐き気を催しており、マーガレットは負傷や負荷の大きな日常の影響も大きいだろうと判断していた。
「あの、あまり動かないでくださいね?」
「アァ……」
その傍らで、ゾルもマーガレットによって手当てを受けていた。
吐くだけ吐いたヤクモはうなされるように意識を手放しており、ヤクモが大丈夫といったことからゾルにも手当てをした方が良いだろうとマーガレットの好意からそうされている。
ヤクモに劣らず酷い負傷をしていたが、獣人族の生命力のおかげでそれほど弱っては居なかった。
薬草の香りで充満した天幕内、ゾルは沈痛そうな表情でうなだれている。
それでも顔を何度かは上げて外を見るが、再び項垂れるというのを繰り返していた。
「ゾルザル様。その……大丈夫ですか?」
「……カワイコちゃんに心配されるとは、オレサマも焼きが回ったな」
「誰だって、強いときもあれば弱いときもありますから。たとえ肉体的に強い人でも、時には心が苦しいくらいに落ち込む時だってあるんです」
それがヤクモの事だろうと察するのは難しい話ではなく、ゾルは小さく息を吐き捨てた。
それから少しばかり逡巡すると、思い切ってマーガレットへと尋ねる。
「ナァ、あのトウカってのは……」
「トウカ様ですか?」
「アァ。昔からの、知り合いなのカ?」
「さあ、私は良くは知りません。ヤクモ様の方が色々知ってると思いますし、私にとっては……学園で女中さんの長をやっていたという事しか分かりません」
「──ソウカ」
「……手当てはとりあえずこれで終わりです。包帯や薬草の液を染み込ませた布を汚したり、落としたりしないで下さいね? 少しでも早く、痛くないようにするための物なので」
「感謝するヨ」
手当てを受け終えたゾルは天幕から出る。
そこには合流待ちのトウカとワンちゃんが警戒に立っている。
ゾルの姿を見てワンちゃんが伏せた姿勢から毛並みを逆立てて威嚇するが、トウカがその頭を撫でながら「ど~ど~」というと、落ち着いて再び伏せる。
ゾルはため息を吐きながらワンちゃんの傍に腰掛けるが、そのワンちゃんが面倒臭そうに移動して距離を置いた。
あからさまに避けられ、撫でるつもりだった手がスカスカと宙を空ぶって虚しい状態だ。
その手で頬を少しばかり搔くと、ゾルは言葉を捜す。
「……ナア」
「ん? なぁに?」
「オマエさん、同胞だよナ?」
「……そうだけど。それを他の人の前では言わないで欲しいな」
「なんでダ?」
「昔、それで酷い目にあったからだよ。人間の世界に居たいのなら、人間のフリをした方がいいよ~って、私の……親代わりの人が教えてくれたし」
「酷い目、ネ」
それでも少しばかりゾルは言葉を捜し、意を決したかのように尋ねる。
「テュカ……って、名前に聞き覚えはネェか? オレの、昔一緒だったオンナなんだガ」
「──聞き覚えは、有るかも知れない」
「ハン?」
「おやっさんに……あ、私の親代わりの人がおやっさんって言うんだけど。おやっさんが私を連れ出してくれるまで、私はずっと闘うことと殺すことを強いられてきたから。それより前のことは、ちょっと覚えてないんだぁ」
「なに?」
「お父さんと、お母さんは居た気がするんだけど……よく、覚えてないし。三年間、さっきダイちゃんが闘ってたあそこにずっと居た事だけは良く覚えてる。身元も身寄りも無い子供たちが集められてて、それでも自由のために闘ってた。死んだり、自由になったり、誰かがお金を出してくれたり……。そうやってみんな居なくなっていって、私だけが最後取り残された。今日闘って、明日はどうなるかは分からない。ファム様へ捧げる戦い以外でも小さな戦いであそこは毎週にぎやかだったのは覚えてる。生きなきゃ、生き延びなきゃってずっとやってたら、いろんな事を忘れちゃった」
トウカはそんな事をさらりと述べる。
それは久しぶりの同胞だから語ったわけではなく、彼女の記憶を揺さぶるものが在ったから零れ落ちた言葉でしかない。
仕事ではない危機迫るものに、彼女の中で眠っていたかつての滾りが呼び起こされていた。
「……そうカ」
「まあ、覚えてないから仕方が無いよ。それに……曖昧だけど、お父さんもお母さんも死んだって事だけは覚えてる。あれからもう……十年近く前だし、思い出すつもりも無かったし。あなたは、私の事を知ってるの?」
「知ってる所じゃネェ。ずっと……ずっと、死んだと思ってタ」
「?」
「ゾル……ゾルザルだ。覚えて、ないのカ?」
トウカは少しばかり考え込む。
しかし、彼女の中でその名前は出てくることは無く、首を横に振るしかない。
「……そう、カ」
「まあ、気落ちしないでよ。世の中さ、いろんな事があるんだよ? 昨日まで元気だった人が、次の日には死ぬ事だってあるし。さっきまでお話してた人が突然の落石や地割れで死んじゃう事だってあるんだし」
「そんなものが、テュカにとって当たり前であってたまるカ!」
「トウカだよ、トウカ」
「違う! オマエは、白狼族長の娘のテュカなんだよ!!!」
ゾルの声は、普段の軽薄なものではなく、悲痛であった。
トウカは、少しだけ驚いて彼を見ていた。
「一緒に遊んだんダ、ずっと一緒だったんダ。飯も一緒に食っタ、また明日ねって毎日言い合ってキタ。そんなオマエを、いきなり失ったオレはなんだったんダ……! オマエのオヤジが悪い事をしたって、それをオレのオヤジが討伐して、そのときの混乱で死んだって……ずっと聞かされてキタ! もっと強けりゃ、力があれば探しに行く事だって出来たんダ。そのことをずっと悔やんで、今日マデ……」
「──よく分かんないけど、辛かったんだね。けどさ、顔を上げてよ。辛い顔をしてるとさ、お酒もご飯も美味しくないし、よく眠れないんだよ? だからさ、それでも前を向いて、無理にでも笑った方が辛くないと思うよ」
「そんな簡単に、割り切れるもんカ……」
「困ったな~」
ゾル……ゾルザルにとっては自分の父親が長になる前まで長をしていた人物の娘だ。
かつてはテュカと呼び、幼き日々の中で共に遊んだりしてきた相手を失った苦痛は底知れなかった。
無力を嘆き、力を渇望し、非力を嫌った。
故に、人間との交流を断絶させようとする父親との折り合いは良くなかったのだ。
強くなるためには沢山の相手と沢山の知識や考えが必要なのに、封鎖社会を作ろうとしているのだから。
しかし、トウカは幼い頃に闘技場で生死以外に何も残されていない環境で三年も生きてきた。
その結果、ゾルの事すら覚えていない。
自分がどのような生まれで、誰の下に生まれたかすら知らない。
「……昔はさ、そうだったかもしれない。覚えてないけど、君と一緒だったのかもしれないし、お父さんとお母さんと一緒だったかもしれない。けどさ、私はおやっさんにあの薄暗い地下から連れ出されてから、今日までの毎日は楽しかったんだよ? だから、それでいいと思う」
「オマエは、生まれた国に戻りたいと思わないのカ?」
「覚えてないもん、何処でもいいよ。それよりも、おやっさんと一緒に傭兵をやって旅をしていた時とか、学園で女中やってた時の方が楽しかったし。外の世界って、意外と面白いよ?」
外の世界が以外に面白いと言われて、ゾルはあっけに取られる。
それから、幼い頃に彼女がテュカとして共に居たときに言った言葉が思い起こされた。
── おそとのせかいって、たぶんおもしろいとおもうよ ──
それは幼い故に世界が狭く、物事も知らず、遠くまで行けなかったときの話である。
それでもテュカであった彼女は、ゾルが退屈し始めていた狭い世界でも真新しい見方をすることで、日々退屈とは無縁に生きていた。
だからゾルは昔、どうしてそんなに毎日楽しそうなのかと聞いたことがある。
毎日定められた場所の中で生きることしか出来ず、鬱屈しかけていた時にそう言われたのだ。
彼女は狭い世界じゃなく、その外の世界のことばかりを考えていた。
今居る場所から、どういう風に外の世界が繋がっているのかを考えてばかりいた。
毎日口にする食事から、自分たちの世話をする人々が外でどういう風に生活していたのかを聞いたり考えたりして。
「フハ、ハハハハハ!!!!」
「大丈夫?」
「テュカは、やっぱりテュカだな……」
「トウカだよ」
「いや、やっぱりオマエはテュカダヨ。匂いだけじゃない、気配や雰囲気だけじゃない。色々覚えて無くても、あの時一緒だった子ダ」
ゾルは、半ば信じられなかった物事を信じることにした。
覚えていないとしても、死んだと思った相手が生きていて無事なだけでも有り難いのだから。
なら、これからが在ると思えば、彼の心は晴れやかであった。
「んで、ドースルよ?」
「んとね、ダイちゃんをつれて国から出て行こうかな~って。みんなでそう決めたんだ」
「んじゃ、オレサマが一緒について行ってやらネーとな」
「いいの?」
「オヤジが私兵を差し向けてくるだろうシ、手出しされないようにする為にもオレサマは必要ダロ? それに、何処へ行くにしても関を通るにしても、抜け道を探すにしてもオレサマは適任だと思うがネ」
ゾルは、好いた女を助けることに決めた。
それがたとえ父親に背く事になろうとも、彼の中では既に父親への敬意は闘技場で水を注した時点で消えうせていた。
英霊への敬意、獣人が魔物としてではなく人のように生きられるようにしてくれた事、獣人としての誇りや在り方を忘れぬ為に、奉納のように戦いを行う。
その神聖な儀を、あろう事か人間だからと”複数の私兵によって妨害した”のだから。
ゾルは別に信心深いヒトではない。
けれども、努力をすれば、信じれば強さとなって応えてくれる。
それが無意識下の信仰となり、戦いやあの場、あの儀式を大事にしていた。
それを父親が、国や歴史ごと踏み躙ったのだから、無理も無い話だ。
人間に国を売り渡そうとしたからと、テュカごと前の長を葬った父親。
人間との関わりや、歴史や伝統を大事にしたがっていたテュカの父親。
ゾルの中では、テュカが生きていたという事や今回の出来事で父親が長として不適なのではないかとさえ思えてきていた。
長として不適であるならばどうすべきか、そこまで考えたところで足音を聞いて即座に構える。
しかし、トウカとワンちゃんは構えさえしなかった。
「申し訳ありません、聊か梃子摺りましてな。ただいま戻りました」
「あ、お帰りプリちゃん。テレちゃんも大丈夫?」
「だっ、大丈夫。ただ……ちょっと、運動不足かも。息がっ──」
そこそこ手痛い傷を負っているプリドゥエンに対し、ほぼほぼ無傷なのに一番辛そうなのはテレサであった。
彼女はヤクモの居た世界を管理する女神であり、後輩の不調を機に様子を見る為にこちらへと来た。
ヤクモ以上にチート増し増しで光臨したが、それを行使するために必要とされる素の経験や体験、思考が足りずに労力の浪費や消耗によって疲弊しきっていた。
「カレ……は?」
「なんか、調子が悪いかもって。吐いて、熱も出てて。今はマーちゃんが手当てしながら様子見てる。」
「そ、そっか」
「……では、テレジア様も身を清められてからお休みください」
「わ、私は──」
「現状は小康状態です。いつまでこうしていられるか分からないので、少しでも頼らせていただきたいのです」
「そ、そうよね。分かったわ」
プリドゥエンはテレサを連れて奥へと消えていく。
お湯を用意し、少しでもお互いに染み付いた血や汚臭を落とす為にだ。
雪の積もった中とはいえ、獣人相手では僅かな匂いや痕跡ですら致命的だろうと、念には念を入れての行いだった。
しかし、この場に居るにも拘らず触れて貰えなかったゾルは幾らか侘しさを感じる。
己の目的の為とはいえ、ヤクモを誘拐し、拘束し、望まぬ戦いに半ば脅迫までして参加させていたからだろうと、小さくため息を吐いた。
嫌われるに足る理由があるとしても、テュカないしトウカが無事ならそれで良いと現状を受け入れた。
ゾルは立ち上がると、再び天幕へと戻った。
少しばかり落ち着いたのだろう、息苦しそうに目覚めたヤクモを見下ろす。
「よ、う……。ゾル、大丈夫か……?」
「それ、オマエさんの状態を見てから言う言葉じゃネェか? キョーダイ」
「なんか……すんげぇ気分悪い。それに、吐き気が──」
「誰か毒でも仕込んだんだろ。それに、あの下水を長々と歩いたし、濡れたりもしたからな。だが、安心しろ。オレサマがちゃんと国外に出て行くまでは手伝ってやるヨ」
「そりゃ、感謝すべきか、疑うべき、か……」
「ハッ、信じろよ。少なくともあのクソオヤジはオレだけじゃなく、国も踏み躙った。そんなヤツに差し出したりなんかしたら、獣人としての誇りも無くすネ」
「……そうか」
ヤクモは息苦しそうに、何度か吐き気を催す様子を見せる。
マーガレットは傍らで様子を見ながら、それでも少しでも回復するようにと新たに薬草を粉末にして薬を作っている最中であった。
「なあ、キョーダイ。教えてくれよ」
「なん、だ?」
「テュカって、知ってるか?」
「誰だ、それ……」
「まあ、知らなくても良いんだ。オマエさんは、あのトウカってヤツを……今まで大事にしてきたカ?」
「──そう、したかっ、た。けど……守れ、無かった。仲間なのに、守られて、ばかりだった……」
ゾルは少しばかり考え込んで、少しだけ合点がいく。
事情は知らないにしても、トウカと共に居て、支えあってきたのはヤクモであった。
絡まれたにしろなんにしろ、素性を知らない相手に絡み、あまつさえ犯したバカを今では死んで当然だとさえゾルは思った。
自分が守りたかったオンナを、知らず知らずに穢したバカ。
生きていたなら、内臓を引きずり出して鳥に食わせても足りないだろうと半笑いになる。
「元気になったら、昔の話を聞かせろヨ」
「嫌、だ」
「イヤ、オマエさんの事はじゃないテュカ……いや、トウカに関して、知ってることをダ」
「どう、いう……」
「今はイイ、休んでナ。この国最強の傭兵かつ、さっきまで優勝者だった男の力を貸してやるんだ。その駄賃として、それくらい良いダロ?」
「──わか、た」
ヤクモの中で、即座に打算が働く。
相手が求めているものがヤクモとして学園に居たときの事を聞きたいということで、それだけで仲間に引き入れられるのであれば個人の傷心など関係ないと切り捨てた。
あまりにも早すぎる返事に、ゾルは苦笑する。
だが、それだからこそバカを皆殺しにしてしまったのだろうと、今では理解できた。
~ ☆ ~
全員が合流してから二時間が経過した。
追っ手はまだ掛かっていないが、それでも隠れるように天幕を設置して、その中でいつまでも縮こまってる訳には行かない。
今までであれば全ての指示や考えを出していたヤクモは負傷と急病で臥せっており、故に彼抜きでこれからを考えなければならなかった。
「さて、これからの事を考えましょう。現状私たちはお尋ね者となんら変わらぬ状態にあり、ゾルザル様が国大離脱までは援護してくれると仰っては居ますが、それでもノンビリと構えているわけには参りません」
数少ない軍歴を持つプリドゥエンが、代理で話を進めるために責任者として立った。
その場に居る他の面々と並べれば、それは必然的な話でもある。
傭兵として名を馳せているゾルでさえ部隊や軍隊としての行動経験は無い。
貴族であり生徒であるマーガレットや、傭兵経験があってもただの女中をしていたトウカも同じだ。
マスクウェルにいたっては知識を食らう怪物であり、そこには経験や体験、勘に裏打ちされたものは無い。
テレジアも、執行者という肩書きを持ってはいるが、中身はただの若くして亡くなった少女に過ぎない。
見張りにワンちゃんとプリドゥエンの子機を置いて、看病についているマーガレットを除いて指揮天に全員が揃っていた。
「相手がどう動くにしても、我々には持久戦の選択肢はありません。餓えるにしろ渇くにしろ、どちらにしても動かざるを得ないからです」
プリドゥエンやマスクウェルは例外だが、それ以外の面々は食事を要する生命体だ。
幾らか下準備して持ち込んだものがあるとしても、それは長期戦が出来るほどではない。
食べ物を求めれば動植物や市町村に赴かねばならない。
飲み物も同じで、水流を探すにしても雪を溶かして水にするにしても決して小さくは無い痕跡を発生させてしまう。
地理を把握している連中が川等を抑えてしまえば近寄れず、森林などに潜んでいても雪を溶かすとなれば火を起こさざるを得ず、煙によって発覚される恐れがある。
つまり、まだ遠くに手を伸ばしていない内に遠くへ遠くへ、国の外側へと向かおうと考えたのだ。
「だが、オッサン」
「お、オッサン?」
「そういう時、まず大事な場所から攻めるダロ? 今頃足に自信の有る連中を使って、関だの町だのに伝達が行ってると思うゼ?」
「……それは、どれくらいの速さなのですか?」
「今の姿のままでも人間より上ダガ、獣の姿にナリャもっと速くなるナ。鳥や犬、狼や獅子とか居るからナ。明日の夕方ニャ全国境沿いの関にまで伝達は行くだろうゼ」
「なら──」
「まあ、落ち着けよ。オレサマだけじゃ流石に無理だが、一箇所アテが有る。ツアル皇国に行く関の一つなら、オヤジに対して信服してない連中がいるんでナ。そこからツアル皇国に出れば、簡単に済むってワケよ」
ゾルはそういいながら、ポケ~っとした顔で話を聞いているトウカを見た。
かつてトウカの父親に仕えていた連中が疎まれて僻地へと飛ばされた地が有る。
この関であれば、熱心に取り締まらないだろうという考えもあったし、トウカ……テュカという存在も居る。
知らぬ間に処刑された主の忘れ形見の存在があれば、彼らは決して馬鹿なことはしないだろうと。
「ふむ。抜け道を模索する、というのはどうですかな?」
「ア~、止めといた方が良いゼ? 獣人やオッサンみたいに幾らか鍛えられた連中なら良いガ、カワイコちゃん三人がもたネーだろ」
「マーガレット様とテレジア様と……」
「隅でビクビクおびえてるアイツだよ」
そう言ってゾルはマスクウェルを指差した。
知恵を借りたいという名目で呼ばれては居るが、荒廃前の地理情報や知識しか持たないため、実質居るだけと化していた人物である。
「……おや、マスクウェル様は男性では無かったのですか」
「ぼ、ボクは男だって一言も言ってないだろ!?」
「いえ、男の子のような背格好をしておられたので……」
プリドゥエンは即座に謝罪した。
概念的存在に性別があるとは考慮しておらず、見た目から男扱いしていたのである。
マスクウェルはそれに憤慨した。
「ふざけるな! そもそもだね、ボクをこういう風にしたのは人間だろ!」
「いやはや、申し訳ありません。しかし、そうなると後でご主人様にも説明しないといけませんね。どうやら同じように勘違いしていたようでしたから」
「失礼なヤツだなあ」
「ア~、話を進めようゼ? 抜け道は、正直幾らか有る。だが、雪が降り積もってると途中で凍え死ぬ可能性の方が高いシナ。それに、手探りで進まなきゃなれネェから、それで抜け出すまでに食べ物や飲み物を人数分確保できるかってのも考えネェとな。キョーダイの調子も良くネェし、アイツの為にも急がなきゃならネェだろうよ」
ゾルはヤクモの体調不良も抜け道を選択肢に選ばない理由として挙げた。
どのように連れて行くにしても、行動速度を落とさなければならない。
体調が優れないことや、負傷したことも含めて一番栄養を必要としているのもヤクモなのだ。
プリドゥエンは一瞬だけ、死んでも大丈夫だと考えてしまったが、直ぐに頭を振る。
無事に抜け出す為に己の主人を殺すという、本末転倒な思考を排除しようとしたのだ。
そもそも、アーニャが倒れているという話を聞いたままであり、そのまま直ぐに蘇生出来るとは限らないのだ。
テレサを静かに見るが、彼女は首を横へと振った。
「そうね。カレの体調が良くなるまでどれくらい掛かるか分からないけど、分からないからこそ最悪な状況を考えて動くのなら、短時間かつ素早く動かないといけないわね」
「では、短時間で行動し続けると言うことにしましょう。マーガレット様には出来る限り治療を続けて頂いて回復に努めて頂ければ、可能性に賭けられます。ワンちゃんには申し訳ないですが、いささか負担の大きな話になるでしょう」
プリドゥエンはワンちゃんに乗せる事で、できる限り移動速度を下げないようにと考慮した。
その場合ワンちゃんも最低限の交戦しか出来ず、積極的戦闘から外れる事になり戦力の低下が懸念された。
だが、それをゾルが笑った。
「まあ、ワン公の代わりになるかは分からネェが、オレサマも手助けするからよ」
「私は、それを信じる根拠が見当たりませんが」
「それは……マア、そうなんだが」
「ゾルザル様が土壇場で我々を売り渡さない、あるいは不利益を被るような行動をしないと言う確信がないのです」
「信じロ」
「そのお言葉のみで頷ける状況ではないと言うのはお分かりですか?」
「あぁ、そうじゃナイ。ここに来る事を認めた、ダイチの信じたオレサマを信じろッテことだヨ」
「それ、かなり卑怯じゃないかしら? 意識が無いカレをたたき起こすわけにもいかないし、だからって下手な事をして後でカレが落ち込んでもダメだし」
「なら、追っ手の死体で山を作れば良いカ? なんなら、接触したときに矢面に立たせてくれたッテ構わネェ」
「なにが、ゾルザル様をそこまでさせるのですか? 父君、だったと思いますが」
「別に。それよりも大事なコトが出来たッテだけサ」
ゾルはそういってトウカを見る。
かつては守れなかった相手だが、今度こそは守って見せると彼は心に固く誓った。
その言葉を誰もが沈黙して聞いていたが、それを信じたのはテレサだった。
「ゾルくんの言葉に嘘は感じられなかった。信じてもいいと思う」
「へえ、執行者ってのはそういうのマデ分かるモンなのカ?」
「いいえ、キミと同じ物言いをするバカを一人知ってるだけよ。それに、その物言いは聞いた事があるし」
「ハッ。そりゃ……随分なバカも居たモンだな。顔が見てみたいゼ」
「外に出れば幾らでも見られるわよ」
そういってテレサは指で方角を指し示す。
そちらに有るのは別の天幕で、その中に居るのはマーガレットと意識を失っているヤクモだけだった。
ゾルはそれを理解すると噴出し、ひとしきり笑う。
「んじゃ、オレサにもアイツのバカが伝染したんだろうな。ずっとバカのそばに居て、ずっと見てたワケだからナ」
「……では、それを信じます。しかし、生殺与奪に関してはゾル様がご判断ください。誰も殺めずにすむのであれば、それが一番ですので」
「なら、オレがそれに関しては号令をかける。そのときは……全員で血に塗れようヤ」
その日、ヤクモが目を覚ますことは無く話は決まった。
翌日の早朝に全ての片付けを終えると、一行はゾルの示した方角へと移動していく。
父親の影響が薄れ、反発している連中の多い影響圏へと。
「オヤジも兵も分かってンのサ。内容がなんであれ、行けば良いカオをされネェって。だから良い事も悪い事もぜぇんぶ後回しにされる。事実上の厄介事から目を背けてるようなモンさ」
「よくそんな地域を放置してるわね」
「マァ、オヤジも今となっちゃただのデブだからナ。それに、兵も弱い者虐めばかりしてて気概ってモンがネェ。連中に睨まれて、オヤジの名前を持ち出してもビビらネェからケツまくって逃げ帰るしかねぇのサ」
「ねえ、そこに私たちが行っても大丈夫なの?」
「心配ネェ。先代の長が人間との交流を模索してた人物でナ、その同胞である連中も人間ニャ敵意や害意はネェよ」
そう言いながら、ゾルはワンちゃんの背中に括り付けられて乗っているヤクモを見る。
ワンちゃんの図体は大きく、意識の無い状態で頭から落下すればそのまま首や頭をやって死んでしまいかねない。
マーガレットが同乗して様子を見てはいるが、非力な彼女に落ちかけた場合に支えろというのは酷な話であった。
「ナア、カワイコちゃん。キョーダイはまだ目を覚まさないカ?」
「高熱からは回復したのですが、命に別状の無い状態になったというだけで、熱はまだあるんです。それと、直前にすごい吐いてましたし、無理に回復を使用したので体の中に病気などに対して抵抗できる体力が無いのが……」
「食わネェとダメって事カ」
「はい……」
「ゾルくん、ちょっとマーガレットちゃんを下ろしてくれる?」
「ナニする気ダ?」
「ん~、救命措置、かしらね」
ゾルがマーガレットを抱きしめて下ろすと、彼女の居た場所にテレサがヒョイと飛び乗る。
そして彼女は腰から下げている簡易的な旅用のポーチから乾し肉を取り出すと、粗食していく。
何をするのだろうと誰もが見ている中で、テレサはそのままヤクモへと唇を重ねた。
「~ッ!?」
「勘違いしないで。意識が無くても軟らかくした物とか、流動食……って言って分かるか判らないけど、飲み込めるようにする事は出来るのよ。もちろん、限度は有るけど」
そう言ってから、テレサは細かくした乾し肉を幾つにも、数回にも分けて租借して口移しを繰り返す。
時間がかかるものの、確かにヤクモは意識がないままにそれを飲み込んでいた。
すべき事を終えたテレサが飛び降りると、顔を真っ赤にして何か言いたげにしているマーガレットと目が合った。
「……落ち着いたら教えてあげるから、アナタも出来るようにしておいて」
「え? え!? 私が、ですか!?」
「アナタが看病を担当してるのだから、できれば覚えて欲しいかしら。それとも、毎回私が呼び出されてこうしなきゃいけないかしら?」
「い、いえ! そのようなことは……」
マーガレットは板ばさみになる。
羨ましいと言う、保留になっているとはいえ婚約を申請した上に好いている相手との口付け。
けれども、それを自分がするとなると落ち着けなくなる。
だからと言ってテレサが言ったように、毎度毎度呼び出して目の前で同じ事をされるのはどうかと彼女は悩む。
羨ましさと羞恥心で挟まったが、そんな彼女の背中を押したのは他ならぬテレサだった。
「私だっていつまでも傍に居られるわけじゃないもの。今日みたいに合流するまでは戦ってる場合だってあるし、その時に相手が誰であれ意識の無い相手を助けなきゃいけない事だってある。その時に後悔したくないでしょ?」
「そう、ですね。では……お教え頂けますか?」
「勿論よ」
「おうおう、オンナ同士仲が良さそうで羨ましいネェ。そう思わないカ? オッサン」
「確かに、その言葉は否定できませんね。仲睦まじい相手が居るということは、状況に関係なく有難い話ですし、自分もそうありたいと思う気持ちは御座います」
「まあ、オレらはこれから先、落ち着いてからダナ」
皆が和気藹々としている中、トウカは目覚めないヤクモを見ていた。
テレサが口付けしてから、何とも言えない何かを抱えて眠りにつく彼を見る。
傭兵としてもメイドとしても色々な事を知りつつあった彼女であったが、病に対しての処方はまるでわからなかった。
学園でお気楽に、楽しく送っていた日々を少しばかり”間違ってたんじゃないか”と考え出す。
しょっちゅう育ての親である厨房のおやっさんに怒られていたのが、巡り巡って何かに繋がってるような気がした。
「何だ、キョーダイと口をくっつけてンの見て、ナニか思うとこでもあったカ?」
「ん~と、どうだろ。戦いと寝床を整えたり、ちょっと薬草とか見つける事は知ってても、こういう時には何も出来ないんだなぁって」
「ビョーキなんだ、仕方が無いダロ。ヘルマン国は食って寝て治すだけだしナ。外じゃ、色々学んだのカ?」
「たぶん、色々あったと思う。魔法なんか使えなくても、マーちゃんみたいに、私でも覚えられる事。ダメだな~、私って。いつも、後になってから気づくから」
トウカはそういって自分の頭に手をやった。
困ったときの、参った時の癖である。
ただ、直ぐにその手を下ろす。
「けど、後悔しても仕方が無いんだよ。生きてるんだから、まだこれからが有る、次がある。判らないなら、判るようにすれば良いんだしね」
「──昔と、同じコトを言うんだナ」
「言ってたの?」
「言ってタ、言ってタ。木に登ろうとシテ、おっこちテ、怪我をした事で怒られた次の日に」
「へ~」
トウカは記憶が無いにしても、テュカとして見られながら思い出話をされるのは嫌いじゃなかった。
別人の話のように思いながらも、彼女の中で燻る何かがある。
くすぐったい様な、あるいは思い出したいはずなのに思い出せないような。
「言ってたような、言ってなかったような……」
「話せば思い出すってンなら、いくらでも思い出話くらいしてやるゾ」
「暇だし、テキトーに言ってくれれば聞くよ」
「はは、なら──」
一行が幸いだったのは、本当に何事も起きずに移動できた事だった。
ゾルの案内とプリドゥエンとワンちゃんによる掘削による洞穴の拡張で、その日も何とか安らかに眠れそうな場所を見つけられたのだ。
天幕を調整して展開し、石油ストーブをつける事で全員が寒くないようにと調整する。
ただ、ゾルなどが洞穴を塞ごうとしてしまったので、あわててプリドゥエンとテレサがガスに関しての説明をする羽目になった。
~ ☆ ~
「……ふっ、ふ──」
胃がひっくり返りそうなくらいに痙攣している。
インフルエンザやノロウィルスにかかったかのような酷さが全身を支配している。
酷い頭痛がする、平衡感覚は無く、グルグルと回るような錯覚がした。
「ここは……?」
システム画面を映し出し、自分の経度緯度が移動しているのに気づく。
意識が無かった為にマップの開拓はされておらず、時間だけは一日近く意識が無かったことを教えてくれる。
体調は意識を失う前よりも悪く、ただ”マーガレットの特効薬”と示したバフが病状を和らげてくれている事だけは判った。
「足を、引っ張ってる場合じゃないってのに……」
誰かが人や自分の足を引っ張るのは理解できる、仕方が無い。
けれども、自分が誰かの足を引っ張るのだけは許容できない。
魔法が万能じゃないとは知っていたけれども、ここで歯がゆい思いをするなんて……。
喉が渇いたので魔法を使おうとしたが、その腕ですらプルプルして動かない。
変な病気や風土病にでも掛かったのだろうかと見てみたが、単純に矢に毒が塗られていただけらしい。
毒で死んでいないのは、単純に体が改造されているからだろう。
本来なら死んでいるはずの所を、新しい肉体と技術がギリギリまでもたせ、そして抵抗してくれたから生きているだけだ。
それでも、ギリギリでしかないが。
しゃがれた声では誰も呼ぶことが出来ない。
仕方が無いと目蓋を閉じていると、目蓋の裏で揺られている感覚がして気分が悪くなる。
「……こういう時は『誰か、助けてくれ』って言えば良いんだっけ」
そんな軽口を叩くが、残念ながら助けてくれる仲間は居ないし、Xボタンひとつで「立てぇ!」と戦線復帰させてくれる訳でもない。
戦争中の厄介な相手として、病気とネズミは古来からセットでついてくる。
第二次世界大戦の時でさえ、負傷者や死体を食ったネズミが肥えてでかくなっていたとも言うし、それで病気や物資、人員にまで被害がやってくるのだからたまったものじゃない。
黙ってるしかないかと思っていたが、出入り口のファスナーが音を立てて上げられる。
見ると、テレサがそこに居た。
「起きたようね」
「なん……」
「ワンちゃんが『起きた~』って教えてくれたのよ。ほぼ一日寝たきりだったのよ?」
「じょう──」
「ゾルくんの案内で、長を毛嫌いしてる連中のところに一旦行くんだって。そこからツアル皇国に抜けられるかもだって」
「そ、か」
「食べられる? というか、喉は渇いてないかしら?」
「み、ず、だけでも……」
「ん、わかった」
彼女は傍においてあった入れ物を手にする、それから身体を起こしてくれると「飲める?」と差し出す。
しかし、腕がプルプルしてそもそも上がらない。
それを見た彼女は何も言わず、口許まで持ってきてくれた。
冷たい水が、口の中を滑り落ちていった。
「あとでマーガレットちゃんに有難うって言っておきなさいよ? 昨日の夜からさっきまで、ずっと寝ないで面倒見てくれてたんだから」
「だ、な」
「それと、皆に謝ること。二回キミは皆を裏切ったんだから、それくらいしなきゃダメ」
「──……、」
「あとね、プリドゥエンさんがキミの代わりに頑張らなきゃ~って、ずっと色々考えたり周囲を見てくれたりしてたんだよ。あえて嫌われそうな物言いをしたりね。それと、ゾルくんもちゃんと一緒だから心配しないの」
「ぅい」
水を飲み終えると、彼女は再び横たえてくれる。
それから彼女は暫く傍に居てくれた。
「でね、ゾルくんが言うにはトウカちゃんって前にヘルマン国を治めてた白銀狼の種族の娘さんらしくて、それで出られるかもしれないって事らしいんだけど」
「ぶふっ……」
「え、何!? 毒じゃないわよね……」
「それ、じゃ。姫、じゃん」
「そうなるんじゃないかしら。それで、ゾルくんの昔の知り合いだから手伝ってくれるんだって。良かったわね」
「だな……」
しかし、トウカが本当はテュカって名前で、前の王の娘さんだったとはな……。
とはいっても、それは五歳までの話で、それ以降はおやっさんとの旅とかで学園に流れ着いてる訳だし、おやっさんの方が親暦は長いとも言える。
ただ、どんな育て方をしたのかはわからないけれども、素朴ともアホとも言える感じに育ったよな……。
仕事が大好きというか、戦いが好きで、血だらけ泥だらけでも笑顔で帰ってくる。
戦いを楽しかったの一言で締めくくってくれる女子なんて、そうそう……。
「ま、て。トウカ、それ、じゅ……」
「獣人族ね、今の話を纏めるなら。ただ、ゾル君たちよりも人に姿を近づけて、喋り方も話し方も沢山練習して人間っぽくしたんじゃないかしらね。ゾルくんとかは匂いで分かるらしいけど、私たちは人間だし」
「そ、か……」
「ただ、あんまりその事は言わないで欲しかったみたい。特に、キミにはね」
「──……、」
それは、信じて貰えていないと言う事だろうか。
あるいは、それを知ることで何かを壊してしまうと……そう思っているのだろうか。
そう考えると侘しい気がしたが、テレサはそんな事はお構いなしにいきなり乾し肉を齧り始める。
「たぶん、あの子なりにキミと同じで学園でのままで居たかったんじゃない? 自分が人間だと思ってくれる人が居ないと、たぶん”引っ張られる”から」
「?」
「戦いとか、血とか。闘技場って、実は治安維持にも意味があったんだって。戦いを欲するから喧嘩をしたりしちゃうし、そうすると今度は流血沙汰になると血に酔って”やりすぎ”ちゃうんだって。ゾルくんが教えてくれたの。だからさ、キミのカオを見ると落ち着くんだって。暴れちゃったら、壊しちゃうから」
それは、本気を出したくても自分が傍に居ると足手纏いになるから本気になれないということじゃ、無いだろうか……。
そう思いはしたけれども、確か英霊ファムが血に酔って周囲の状況が見えなくなってたのを思い出す。
英霊タケルがついていないと制御も静止もできず、下手に近くに居ると味方であろうと巻き添えで死ぬ。
ああいった感じに近いのかもしれない。
そんな事を考えていると「こんなものかしら」といってテレサは頷く。
そして何をするのかと思ったが、近づいてきて──いきなり、口を重ねてきたのだ。
舌で唇を擽られ、戸惑っていると何かが口の中に入ってくる。
それが先ほど口にしていた乾し肉だと気づいたのは、暫くしてからだった。
「どうせ噛む力も無いんでしょ? 少しでも食べておかないと体力回復しないわよ」
「だふぁらって……」
「あのね、人助けでいちいち男と女だからとかそんなの考えてる暇は無いの。キミだって、それは教わってるはずでしょ」
そういわれて、自衛隊の救護教育を思い出す。
確かに、実際にも同じ事をした事だって……ある。
「キミを生かそうと必死な人が居るんだから、出来ることはしないと」
「わり」
「悪いと思うのなら、ちゃんと甘えさせてもらいなさい。んで、甘やかしてもらった分をちゃんと受け入れて頑張りなさい。キミはね、一人で生きるには優しすぎるのよ。もし一人で生きたいのなら、もっと冷たい人にならなきゃいけないから」
どういう意味だろうと考えていると、彼女は再び乾し肉を口に放り込んでいた。
「あ、え?」
「お腹に入れられるだけ入れないといけないもの、さっさと飲み込んで息を整えておきなさい」
「~ッ!!!!!」
その後、テレサによる口移しという口付けは二桁に至るまで行われた。
病気とは別の理由で消耗しつくした自分は、そのまま力尽きて再び意識が遠のいた。




