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元自衛官、異世界に赴任する  作者: 旗本蔵屋敷
10章 元自衛官、獣人の国でやり直す
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161話

 ~ ヘルマン国王子 ~


 実の所、ダイチの想像する物とは話は大分違っていた。

 それは彼の想像する王子と言うのは偏見と差別に凝り固まった物であり、想像したよりもいくらか実直な人物だった。

 むしろ、彼はダイチのした事を苦々しく思いながらも、それ以上に暴走しつつある自分の子分を相手に手を焼いていた。


「くそ、人間のクセに……」


 そして、獣人の中にも同じように差別と偏見が生じていたのが大きい。

 ツアル皇国の人間との交流はあれども、それ以外に対しては除外する意識の方が強い。

 それが合わさり、王子と杯を交わしたという事を”正当性”として、同族を傷つけられたと言う事実のみをして、こちらの非についてはまるきり除外していた。


 獣人の中には、ツアル皇国を除き酷い目にあって帰ってきた連中は少なくない。

 人間である事、ツアル皇国の人間ではない事、同族が殺された事、魔法が使える事、短期間で傭兵としての等級を上げていたということ……。

 縄張りを荒らされたのだ、敷地に踏み込んできたのだから何をされても文句は言えないだろうというものもある。

 味方でないのであれば人間である以上歓迎される相手じゃない。

 歓迎される相手じゃないが、同胞を傷つけたのだから敵に等しい。

 そんな単純な考え方をして、ダイチへの襲撃は稚拙ながらも行なわれていた。


「このままじゃ、面目が立たない」

「どうにかして、王子の前に首だけでも……そうでなくとも、引きずり出せないだろうか」

「この前は痛い目にあったと聞いたのに、今度は全員捕らえられたとか」

「卑劣なヤツめ」


 王子は、取り巻きが勝手に盛り上がっていくのをため息を吐いて見ていた。

 王子自身、いきなり杯を交わした相手とその仲間が丸ごと消えた事、その事情を知らずに殺されていた事実を知ったときには頭に血が上っていた。

 しかし、何てことは無い。

 王子は王子なりに獣のような衝動や思考をしながらも、人間のように考えるという事もしていた。

 事の始まりは何だったのか、何が原因だったのか、彼我の責任の割合はどうなっているのか。

 それらを踏まえた上で結果を見て、どこまでが妥当でどこまでが過剰だったのかを考えていた。

 

 取り巻きからしてみれば、思考をするという事に不慣れだ。

 そのうえ、考え込んでいる王子の表情は些か不機嫌そうに見え、ゴマすりや煽てる事だけを考えて間違った方向へと転がっていく。


 王子は、数度だけ取り巻きに待てをかけようとした。

 暴走して人一人を危めた所で、本来なら全く違う面が見えた事柄を丸ごと土に還すのは馬鹿げていると。

 そうのたまったのだが、血の気の多い彼らには通用しなかった。

 

 結局の所、負の連鎖を起こしているだけであった。

 どこかのバカのしでかした事を全体の出来事のように捉え、それを複雑な出来事とは言え個人にも当て嵌めて断罪しようとしているのだから。

 王子は、己の身勝手な父親を思い返していた。

 力こそ正義、勝てば正義、正しいから間違いじゃない。

 そんな単純かつ暴力的な理屈で不正を行なっていた前王を処刑し、今の座に座っているのだから。

 曰く、当代の王は人間に同胞を売っていると。

 証拠は無く、それを宣言したのは事が済んでからであった。

 

 しかし、その言は受け入れられ、ヘルマン国はツアル皇国を除き人間に対して偏屈な国へと化して行った。

 当時若かった王子も、それからというものの好き勝手に振舞う父王に呆れ、獣人と人間とは何なのかという事を考え続けていた。

 国を抜け出してツアル皇国に出入りしたりして理解を深めようとしたが、理解できたのは”人間とはヘンに複雑な生き物なのだな”という事であった。

 

 王子の中では、今回の件は苦々しい事だとは思ってはいる。

 取り巻きと同じように気に入らないと、許せないと言う気持ちが先走る感覚が渦巻いているのも理解していた。

 だが、一歩引けば”そもそも自業自得”でしかないのだ。

 組合から聞かされている話や人物評価だけでなく、周囲からの評判などを踏まえるとまさしく”虎の尾を踏んだ”だけでしかなかった。

 獣人相手でも先達として教えを請い、着実に歩み続けていたダイチ。

 誰が相手でも駆け出しや下っ端をこき下ろし、奉仕や強請を当たり前としていたバカ。

 まさしく「強者や上の立場には愛想はいいが、下には厳しい」という人物だった。

 それでもかつて彼が同じように駆け出しだった頃は見所があったのだが、醜く歪んでしまっていた。

 その原因すら自分にあることを知っている王子は、身から出た錆と言う言葉をかみ締めるしかない。

 

「まあ、待て。こうなったら……ウチの流儀で全てを終わらせよう」

「流儀で?」

「ヤツを……何とかして捕らえ、言う事を聞かせる。その上で戦闘奴隷として戦わせ、死ねばそれまでだ。だが、生き延びればそもそもそんなヤツにケンカを売ったヤツが悪いし、傭兵としての等級も噂とは無関係に正当だという事にもなる。そもそも、何人で突っ込んでんだよ。バカだろ?」


 王子は妥協案を提示した。

 それは獣人にとって分かりやすく、そして文句の言えない内容であった。

 戦闘奴隷、弱者は排除されやすい彼らの社会において唯一正当性を周囲に誇示出来るものだ。

 奴隷に身をやつすという事はその時点では鼻つまみ者でしかない。

 それでも、強さを示す毎に”アイツになら金を出しても良い”と思わせる事で身分の回復をはかる。

 一定以上勝ち上がり生き残る事が出来れば”弱者ではない”とされ、投げ銭で社会的にも復帰する事ができた。

 そうでなくとも、腕試しや成人の儀式のように自ら闘技場に向かう連中も居る。


 王子の言葉に頷くと同時に、言われてからようやく気づく物も居る。

 そもそも、相手は数名なのにそれ以上の人数で獣人が取り囲み、全員が縊られた。

 相手が人間であっても、その時点で”力量差”というのが証明されているのだ。


「ですが、どうやってやるんです? 素直に応じるとは思えませんが」

「大丈夫だ。それに関しては考えがある」


 殺せれば何でも良いと、これからも規模を膨らませ続けながら襲撃をかけ続けるつもりなのだろうかと、王子は既に呆れていた。

 それよりももっと”人間らしいやり方、人間の弱そうなやり方”と言う物に見当をつけていた。

 それに、返り討ちにあうのであれば正攻法では……正面からやった所で意味は無いと、喩えそれが人間相手でもやり方を変えねばならないといけないと思っていた。

 

 そして……王子は、個人的にダイチの事は実は気に入り始めていた。

 その理由は、誰も知らないままだが──





 ~ ☆ ~


「は、釈放?」

「ごめんなさい……」


 翌日、テレサから聞かされたのは六人とも大手を振って深夜に解放されたという事だ。

 それはテレサの事情聴取も終えて、その場には見張り以外が不在だった時らしい。

 テレサでも良く分からない理由で、よく分からない事情で彼らは自由の身となった。

 また襲われるのかと、既に気が気ではない。


「ヤクモ様……」

「まあ、面倒な事にはなったけど、また追い返すしかない。ただ、こっちに非があるとは言っても許せない事だってある。もし相手が諦めずにやり過ぎるのならやり返すし、そのまえに……ツアル皇国に逃げようか」

「逃げると言っても、今は冬だし山越えをするのは良くないかも」

「え、山? どこ?」

「ここ」


 手書きのヨーロッパ地図を展開して見せると、指し示されたのはまさかのマジノ線である。

 そういえば、それより北部は魔物に支配されてるんだっけ……。

 HOIでは恒例の道路といわれる三カ国は使えないって事か、厄介な。

 しかもそれ以上南下すれば学園に向かってしまう、それだけは避けたい。

 下手すると鷹の目であるロビンに見つかりかねないし、あの別れから更なるイザコザを生み出したくない。


 それに……ミラノと会いたくないのだ。

 マリーの事だって、今じゃ引っかかったままだ。


「冬を越すまで居なきゃいけないのか?」

「少なくとも、逃げてるって事は追われてるって事でしょ? 行き先が縛られて、その上山越えという経路も絞られるのに逃げるのは賢くない。連中が何らかの手段で雪崩を起こしたら自然の前には太刀打ちできないわ」

「……なる、ほど。そういうやり方もありか」

「流石に山ごと? とは思いたくないけど、相手が死ねば何でもいいとしたらそれくらいやるでしょ」


 テレサの言葉に、結局逃げるとしたら解決するか、学園に個人的な理由を飲み込んで踏み込むか、先の戦いの因縁のリスクを背負ってユニオン共和国にとんぼ返りをするか。

 ……どれも賢い選択じゃないだろう。

 ユリアとの繋がりは悟られているだろうし、彼女は隠そうともしていなかった。

 学園側に逃れると言うのも安易だが抑えやすい。

 そしてツアル皇国に行くと言うのも、経路が絞られてしまうのであれば王子という人間の人脈を使えば複数個所を抑える事くらいわけないだろう。

 

「ちなみに、先日の連中って組合で仕事は?」

「調べられる範疇では照合できなかったから活動してないか、そもそも傭兵になってないかのどちらかね」

「……つまり、身元を追えないと」

「そう、なるかしら」

「そっか。参ったな……」


 一瞬、マーガレットやテレサが居なければと言う事を考えてしまった。

 だが、直ぐにそんな考えを追い出した。

 テレサに関してはこの世界に介入してきたとは言え表向きは組合の仕事をしているに過ぎない。

 マーガレットに関してもついてくると言っているのに、その子の行為を無碍には出来ない。

 まるで邪魔者のように考えるのは、どう考えても宜しくない傾向だった。


「……移動、するしかないかな。惜しいな、せっかくここまで信頼関係作れたのに」

「ここで出来た事は、他の場所でも出来ますよ。私もワンちゃんもお手伝いしますから」

「それで良いのね? 決めたら組合に動向を伝えなきゃいけないから、一度決めたら行くしかないわよ?」

「行くよ。ここに留まってたら、留まってた分だけ皆が危険になる。それくらいなら、新しく始める事なんて、ワケないさ」


 そういう事で、宿を引き上げて組合で地図を見て近隣の地図を見る事に。

 大分2000年代の主要な場所に町だの村だのがあるが、地形の変化や環境の変化、魔物の存在によってマチマチ変わっているので過信は出来ない。

 中には実際に行ってみたら魔物に滅ぼされた後でしたという事もあるので、確認は重要である。


「よう、キョーダイ。皆雁首揃えてなにしてんだ?」

「……昨日襲撃があっただろ? それで、このままだと相手にとってより都合良く、やり易くなるのは目に見えてる。だから移動しようかなって」

「そういや、夜中に解放されたみてぇだな。カワイコちゃんは溜息を吐いてたみたいだし、何も得られなかったんだろうな」

「身元が割れるような情報と供述が無かったみたいだからね。まあ、あまり相手の有利な環境に居るとこっちもなりふり構ってられなくなる。それに、ある程度信用や信頼を作っちまったから、逆に情を利用されかねないってのもあってさ。平時であればどれだけ親しい人が居てもいいが、有事になった場合はその大半は不要になるっていうのと同じでさ。同じ敵に何度も何度も付け狙われれば人と成りも知れ渡るだろ? それを利用されないうちに、利用されない場所へと渡るんだよ」

「はぁ~ん、そういう考え方もあるんだな……。だが、当て所無い行動は逆に首を絞めるぜ」

「まあ、一応考えてはあるさ」

「ほぉん?」

「首都に向かって、一度そこで人だかりに紛れるのさ。その後はお楽しみって事で」


 流石に辺鄙で人の少ない場所では目立ちすぎる。

 かと言って自分ら人間が堂々とヘルマン国の中を立ち回った所で、発炎筒を焚いた人間である事は免れない。

 ならどうするか?


「考えはあるみたいだな。んじゃ、少し待ってくれや。オレも行くわ」

「え? ゾルも?」

「言ったろ? オマエさんに興味があるのさ。それに、一緒に仕事をしてみたいってのと、手合わせをしたいって言ったろ? 逃げられちゃそれが出来ネェからな。それに、元々オレは渡りなんだ。少しばかり村の酒にも飽きてきたしな。ちょっと街まで言って可愛いネーチャンをそろそろ引っ掛けてぇなって思ってた所よ」

「……けど、一緒に居ると狙われるぞ。いいのか?」

「ハッ、オレサマを誰だと思ってる? そんじょそこらのクソガキ相手に負けるような鍛え方も仕事も生き方もしてネェんでな」


 そういうと、ゾルは肩を叩いて「そんじゃ、チョックラ行って来る」と言って組合を出て行った。

 正直なところ、ゾルと一緒に仕事をしたのでいてくれると助かる。

 強さを知っているし、その等級に見合った言動をしてくれる。

 猪突猛進でも困るが、それは無さそうなのでまだワンちゃんという独立ユニットよりは連携できそうだ。

 

「マーガレットは、魔法の系統はどんな物だったかな?」

「私は火は1、水と土が4、風が3くらいです。残念ながら聖は2で、闇と無の適正は有りませんでした……」

「あ~、じゃあ。幻術系はかけられないのか」

「何をするんですか?」

「木を隠すなら森の中ってヤツだよ」


 獣人の中に隠れるのなら獣人になるしかない。

 幸いな事に自分らには魔法があり、それで視覚的な誤魔化しは利くのだ。

 体臭に関しては幸いな事にワンちゃんが居るので、傍に居ると紛れてしまうらしい。

 人と獣という連中よりも生粋な獣の方が強烈なようで、そこらへんは以前苦情を言われた事もある。


 そうして、自分らはヘルマン国の首都へと向けて幾らかの誤魔化しを重ねながら着実に進んでいった。


 五日後、獣人のような耳や尾を身につけたマーガレットと自分は首都の検問を通り抜けた。

 なんて事は無い、幻術魔法を自分にかけることで他者からの見え方を幾らか変えただけだった。

 存在する物を無いとするのは難しいので、それを騙したり誤魔化すのなら楽な方である。


「おし、待たせたなオマエら」

「早かったね。ゾルのおかげで楽に通れたし、やっぱり等級を上げとくと色々と便利なんだなあ」

「信用や信頼の証にはなるからな。それに、今回は組合のカワイコちゃんも居るから楽で助かったわ」

「私は別に……」


 なおテレサは獣人に見えるようにはなっていない。

 組合の人間として存在している以上、わざわざ誤魔化す必要も無ければ、その服装を見れば顔パス状態である。

 監視者と言う名目で現在は同伴しているが、場合によっては執行者だの、制圧者として傭兵をねじ伏せる役割も付与される場合もある。

 つまり、学園の生徒たちの制服が所属を示しているのと同じだった。

 そして、組合のヒトである上にそういった武力行使を下敷きにしているテレサに、偏見や差別は向けられない。

 ただし、外見的な問題で「君、本当に裁定者?」と引き止められるのは差別でもなんでもないと思う、うん。


「さて、どーするよキョーダイ」

「とりあえず仕事はテレサに任されるものだけにしておこうかな。それと、さっさと宿を決めよう。人数も増えた事だし、流石に……椅子や床は寝心地が悪い」

「すみません……」


 マーガレットが来てからと言うものの、滞在者は増えたが部屋は変えられないという事で、料金は幾らか格安になった物の三人と一匹分を支払う事になった。

 昼間に少し寝て、夜中は警戒するというライフスタイルだったが、ずっと椅子に腰掛けて酒を少し飲みながら夜明けを待つと言うのは中々にしんどかった。


「まあ、そうだわな。ここいらまでくれば多人数部屋でも居心地も良いしな。それじゃ、宿を決めたら教えてくれ」

「ゾルは別の場所にするのか?」

「あぁ。そもそも、オレん家はここに有るからな。宿を取る間でもネェ」

「そっか。じゃあ、明日の昼に組合で会おう。それなら大丈夫かな?」

「──問題ネェよ。それと、良い大人に小僧が気遣いすんじゃネェって。久しぶりの家だろうからって、明日の昼にしただろ?」

「いや、それもあるけど……女を引っ掛けるって言ってたろ? あんまりそういうので彼女たちを刺激したくない」

「ダイチ様?」

「どうしたの? 内緒話なんかして」


 ヒソヒソとそんな事を言っていると、マーガレットとテレサが怪訝そうにする。

 止めてくれ、そういった性的なお話を聞かれると巻き添えで居心地が悪くなるだろ!

 興味や関心が無いかと言われれば断じてノーだが、今の話を聞かれてヘタに男女の意識をするのもされるのも困る。


「それじゃあ、私が宿を探してきます」

「え、大丈夫?」

「はい、任せてください。こういうときはむしろ少し高いくらいの場所の方が安全だと父様から教わりましたから。それに、ワンちゃんが泊まれる場所も探さなきゃいけませんし、一緒に動けば早く動けます」

「ガウッ」

「そ、そう? じゃあ、自分は組合に移動の顔合わせだけでもしてくるよ」

「行きましょう」

「それじゃあ、宿を見つけたら組合のほうに向かいます。遅かったら……噴水の場所で待ってていただけますか?」

「ん、了解」


 そう言ってゾルやマーガレット達と別れる。

 テレサと一緒に組合に行くが、首都では仕事を自ら拾いに行くつもりは無い。

 何度か幻惑魔法で外見を変えながら行動して、最終的には全員で別の場所へと出て行き、合流する予定である。

 足取りは首都で一旦途絶え、再補足に手間取っている間に学園側に踏み込んで……。

 ギリギリ、学園には出来る限り近づかないように中立地帯を抜け、マジノ線を迂回して行くつもりだ。


 組合に入ると同時に一度幻惑を解き、ちゃんと傭兵ダイチとして手続きを踏む。

 ──幸いな事に、今までの仕事で知り合ったヒトの影響が幾らか関係してくれた。

 前は受付でも「うえっ」という顔をされたが、商人や他の傭兵と言った人物が地味に噂してくれたらしい。

 無視や敵意を向けられたりはせず、ただただ物珍しく見られるだけだった。


「あぁ、貴方が噂の珍しい人間?」

「め、珍しい?」

「ツアル皇国の人みたいだ~って評判でね、どんな仕事も必要とされてる以上にちゃんとこなしてくれるって聞いてるの。積荷下ろしや積載、運搬も丁寧にやってくれるって商人さんからも聞いてるんだ。それと、夜警だとか巡廻とかもちゃんとやってくれて、気がついたことはちゃんと報告してくれるし、その場で出来る事はやってくれたり、後日改めてやろうとしたりって。それに、ゾルさんとも一緒に組んでお仕事してた~って。彼、この国の有名人だから」

「そうなんだ。じゃあ……ゾルに感謝しないと」


 真面目に仕事をしていれば、いつかは誰かが認めてくれるはずだ。

 そんな事を父親は言っていた気がする。

 たとえアピールせずとも、壊滅的に不器用じゃなければ気づいてくれる人はいる。

 だから直ぐに何かへ結びつかない事だとしても、腐らないでコツコツ積み重ねる事と……そう説いてくれた。


「ゾルも一緒だったんだ。家が近いから一旦帰るって別れたけど」

「呼び捨てにさせてくれるって事は、大分気に入られたみたいだね。ゾルさんと親しいのなら信じられるかも」

「どうかな。自分は……信じられると思ってるけど、あっちが自分を気に入ってくれてるかは分からないし。それに……今は監視されてる身だし」

「カレと私は少しの間滞在するだけだから」

「あら、随分短いんですね?」

「カレがどうしても一度は獣人の首都が見ておきたいって言うから少し立ち寄ったの。それが済んだら出る予定」

「どちらにですか?」

「ツアル皇国に……行ってみたいなって。皆によくツアル皇国の人みたいだって言われるから、一度は……見ておきたいなと思ってるんだ。獣人の人達も悪く思ってない国とそこの人々ってのが気になってさ」

「そこの人じゃ無いんですか?」

「カレ、ちょっと……記憶が曖昧みたいで。ダイチって名前は覚えてるみたいだけど、その他のことはあんまり覚えてないみたい。だから、自分探しの旅をしてるのよ」

「はぇ~、大変ですねえ……」


 そんなやり取りを暫くしてから組合を出る。

 忘れずに幻惑魔法をかけなおすが……。


「なあ、テレサ」

「なあに?」

「自分は監視されてる事実は知らされてるのに、その内容を何で組合の人が知らないんだ? 内容を知っていれば……あんな好意的な態度じゃなかったと思うんだけど」

「キミが監視されている理由は”とあるパーティーが失踪した事に関わりがあるかもしれない”という事になってるから。流石に正当防衛でも殺人とは言えないし、そもそもどっちが悪いかを考えた上での”監視と等級詐欺疑惑の払拭”だもの。キミの好きな”半分嘘、半分本当”って言うのをやったのよ」

「それ、マズくないか? こう……報告詐称とか、そういうので」

「あのね、私を誰だと思ってるの? アーニャちゃんが倒れてる今、代理で少し色々やるくらい出来るんだから」

「あれ、それって確か拙いんじゃ……」

「じゃあ、真実を洗いざらいぶちまけて、この国と一つの人種から永遠に憎まれてみる?」

「それは極端すぎじゃ……。分かったよ、有難う御座います──」

「分かれば宜しい」


 何だかんだ、彼女なりに自分を思いやってそうしてくれたのだろう。

 そのことには感謝しながら歩いていると、丁度マーガレットと鉢合わせする。


「あ、ダイチ様。お話しの方は終わったのですか?」

「うん、そんなとこ。マーガレットの方は?」

「はい。ワンちゃんも近くで寝泊りできて、お食事も出して頂ける場所を見つけました」

「有難う。一旦荷解きと休憩をしよう。流石に数度野営をしてるから、若干身体がガタガタだ……」

「分かりました」


 マーガレットに案内されてたどり着いた宿は、確かに大分良さそうな宿だ。

 収益には見合ってないが、それは必要経費として出すしかない。

 背に腹は変えられないし、窓を開ければワンちゃんが寝泊りする厩が見えるのでベストと言えばベストなのだ。


 なお、受付でとりあえず一泊分を支払った所血の気が幾らか引いた。

 お、おう。8等級には分不相応な宿だよな……。

 しかし、集団部屋とは言え四人が寝泊りできる部屋を確保できたのは良い。

 以前は二人部屋だったので、ベッドが余る分には構わないのだ。


「それじゃ、私はお茶を作りますね。それと、暖炉の前を使っても宜しいでしょうか? 薬草と香草の乾燥をさせたいので」

「……あまりやり過ぎないようにね? 皆は匂いに敏感だからさ、それで苦情を言われたら辛い……」

「あ、そうでした……。すみません、学園では最近ずっと部屋干しをしてたので、つい……」

「少量ずつだったら良いんじゃないかな?」

「そうしますね」


 マーガレットの荷物は、自分やテレサよりも多い。

 それは香草や薬草を保存・保管・管理するだけでなく、最低限磨り潰したり出来るようにと道具も幾らか持ち運んでいるからだ。

 基本的にワンちゃんの身体に括りつけているとは言え、マーガレットが持ち運びするには幾らか重いようで、つい手助けしてしまう。

 まあ、可憐だからそれで良いのだけれども。


「あ~、つっかれた~。やっぱりキャンプよりもベッドよね~」

「こらこら、お行儀が悪い。男が居るのにダイブするなんて……」

「別にいいじゃない。キミはそれで何か変な事をする人じゃないでしょ?」

「そう言ってくれるのは有り難いんだけどな? 間違いってのは間違うから発生する事であってだな……」

「だったら、コレまでの中で幾らでも起き得た事でしょ? キミは自分からそう言う事を言い出せるって事は、逆に信じられるもの」

「なんか、天邪鬼みたいな信じられ方だな……」

「キミが一度でもちゃんと素直だった事って有ったかしら?」


 そう言われてしまい、あんぐりと口を開いて呆然とするしかない。

 おかしいよな? おかしいだろ?

 普通は男と言う狼が近くに居るのだから、むしろ「ここからは近寄らないでね」とか病原菌のように扱われるのが普通だと思う。

 だというのに、それを自ら注意喚起を促したら「大丈夫大丈夫」っていわれるなんて、納得がいかない……。


「ヤクモ様は大丈夫ですよ」

「マーガレットまで……」

「不必要なくらいに色々な心配をして、自分の事も過信しないでどうなのかと考えられるからこそ、信じられると思うんです。それに、出来るかどうか分からなくてもそうしようとしてくれますから。そうやって、ミラノ様やアリア様、アルバート様たちをも助けたじゃないですか。出来るかどうか分からないと言いながら」

「……過信はしないでくれよ? 自分だって、精神状態や色々な事情とかが絡んで、どうなるかは分からないし。それを……分からないからこうやって言ってるんだ」

「その時は、その時です。たとえそうなったとしても、ヤクモ様は己の行いを正当化せずに居てくれるでしょうから。私も、その”もしかしたら”を踏まえて傍に居るんです」


 ……なんだ、この天使は。

 今の言い方って、解釈の仕方によるけど「それでも、私は受け入れます」と言っているように思えるのだが。

 いや、いかんいかん。

 そうやってヘンに都合よく解釈するのは童貞かつ女日照りの悪い癖だ。

 受け入れてるのではなく、犬にかまれたとでも思って諦めますと言ってるだけかもしれない。

 うん、そうに違いない。

 辺境伯の事もあるし、後に問題になりかねない。

 それだけは、絶対に避けねば……。


「てか、テレサは出入り口付近で良いのか?」

「ええ。そのほうがヘンに乗り込んでこられないでしょ?」

「あの、テレサさん? 喩えそうだとしても、寝てるときはその服脱いでるから分からないと思うのですが……」

「その時はその時よ。見てなさい? 不埒な輩はギッタンギッタンのケチョンケチョンにしてやるんだから」

「お手柔らかに……」


 テレサは女神なので、好きに自分にとって都合の良い状態を作れる。

 それこそ自分が回数を定められた中で願いを使用して得たチートですら、彼女には無制限上限無しで出来るのだから。

 多少の襲撃であれば彼女はいなせるだろう。

 とは言え、トウカの件もあるので過信したくは無いのだが……。


「じゃあ、自分は窓の方を。マーガレットは部屋の中央側で良いかな?」

「その方が安全だから、ですよね?」

「まあ、そういう事になるかな」

「その通りにしますね」


 彼女は幾らか展開して軽くなった己の荷物を、テレサと自分の定めたベッドの中央に持っていった。

 テレサと自分に挟まれたマーガレットは、真っ先に狙われる可能性は低いだろう。

 ……相手は獣人だ、窓からの侵入だってありうる。

 申し訳ないと思いながらも、窓枠を少しばかり弄って浮かせておく。

 ヘタに小細工して気取られるより、自然な障害の方があちらも驚くだろう。

 窓枠に手足をかけたらギギギと鳴る、それで目が覚めないわけがない。


「悪知恵だけは直ぐに働くんだから」

「良いだろ? 相手が安心して優越感に浸ってるところで大焦りするのが一番楽しいんだ。相手も嫌な事を狙ってくるんだ、その裏をかいて嫌な事をするのが自分にとって一番望ましい……。そう教わったからね」

「じ……部隊で?」

「部隊で」


 相手も楽をする為に色々考える、それを狡賢いとはいえないだろう。

 たとえ馬鹿げた発想であっても、人数や練度によっては「ありえないことでも平気でやる」という事もある。

 残念ながら人数は少ないので、窓側の大部分は跡でマーガレットと一緒にワンちゃんに話をしよう。

 ワンちゃんが簡単に負けるとは思えないけど、用心には用心をだ。


「ちょっと情報収集に行ってくるよ」

「え、今から?」

「危なくないですか?」

「今度は顔も変えるんだ、一定距離を移動する度に別人に成りすましていけば、そうそうバレないかなって」


 なんでこう、攻撃もそうだけれども騙したり小細工に関する魔法ばかりが上達するのだろうか?

 もうちょっと学園に居る時に理解を深めておけば良かった……。

 そうは言っても今更で、仕方の無い話だ。


「ちょっと、一人で行動するのは禁止だと言ったはずだけど」

「街の出来る限り詳細な地形とか、通りとかも把握しておきたいんだ。それに、背後に居る王子ってやつも名前も人も知らないしさ。それに、マーガレットの服装ももうちょっと動きやすくて軽い物にしてあげたいしね」

「え? そんな、大丈夫ですよ!」

「そうかな? ワンちゃんに乗ってるときは良いけど、そうじゃない時は大分疲れやすそうだったから」

「ですが、これは……母様が繕ってくれた、大切な服なんです。それを無下にしたくは無いんです」

「──そっか、そうとは知らずに……ごめん。けど、よく出来てるね」

「デルブルグ公爵様がまだ座に付いていなかった頃によく抜け出されていたみたいで、その時に市井の方々の着ているものとかを大分お勉強されたみたいです」

「へえ~……」


 なんか、イメージしてる貴族とは大分かけ離れた人が多いんだよなあ。

 ミラノやアリアは結構自分で色々やるタイプだったし、アルバートもグリムと言う御傍付が居るけれども努力家だ。

 マルコは貴族らしい人間ではあるけど、停滞や敗北を嫌い必要とされる事をこなすくらいの度量はある。

 まあ、幸いな事にそういう人しか居なかったと言うべきかも知れないけれども。

 マーガレットも料理や裁縫等と言った事に秀でているし、自分の知ってる貴族像は思い込みが大部分なのかもしれない。


「じゃあ、後で一緒に出歩けるようにお店だけでも見てくるよ」

「出来れば調味料とかそういったものも見ていただけませんか? お品物によっては混ぜる事が出来る物もありますので」

「ってことは、マーガレットに助けられる場面が増えるってワケだ。了解、行ってくるよ」

「ちょっと、私も行くってば!!!」


 結局、テレサを引き連れての外出になってしまったので、一定間隔ごとに外見を変えるという試みはキャンセルする事に。

 外を歩いているとまあ見られる事見られる事。

 実力至上主義な社会だからか、テレサを見ても変な目を向けるヒトは居ない。

 とは言え、その背丈が小ぶりなのは直ぐには受け入れ難いらしく、二度見する人も多かった。


「キミってさ、お散歩好きだよね」

「家でゴロゴロ好きな事してるほうが好きだけどね」

「そうじゃなくて。新しい場所、知らない所に行ったりするのが好きだねって事。今までもそうだったけど、新しい場所に付いたら絶対お店だとか道だとか調べるよね」

「国によって取り扱ってる商品や値段が違うからなあ……。それに、国によって手に入るものが違うのなら、それで再現できる料理の幅も増えるから損はしないしね」

「キミは料理が得意だったわね。美味しかったなあ……」

「そう言ってもらえれば嬉しいかな。他人の金で作る料理くらい少し豪華にもなるしね」

「自分のお金の場合は?」

「安くてそれなりに美味しいの。ただし、味の幅が狭まるから飽きてくるのは否定できない」


 結局の所、自分が変なところで貧乏性なせいで偏食や欠食をしがちなのだが。


「テレサはあまり買い物とか興味無さそうだな」

「私はいつもネット通販だもの。お届けものでーすってインターホンが鳴ればそれで良いの」

「物臭が過ぎる……」

「ネットを取り入れたインフラが出来上がってるのに使わない手は無いでしょ?」

「Amaz○nの箱と、デリバリー飯の箱が多すぎるんだよ……。テレサの部屋までは怖くて見にいけない」

「出来れば服の洗濯も宜しくね。あ、下着くすねても気づかないからやらないように」

「下着くらい洗濯機入れろ!」

「なによ。キミだって自宅ではコートハンガーなんか取り寄せて全部そこに引っ掛けてたクセに」

「脱ぎ散らかさないだけマシじゃないですかね」


 流石に自分も下着を脱ぎ散らかしたり、服を無秩序に脱ぎ捨てたりはしない。

 たとえ「物臭が過ぎないか?」と言われようとも、ある程度綺麗にしておかないとゴミ屋敷になってしまう。

 同期が「なあ、今日行って良い? 近くまで来てるんだ」って言われたとしても、すぐに掃除をして整えられる程度にはしている。


「……けど、キミの場合は足の事もあるでしょ?」

「足? あぁ、そっか……」

「不自由さを知ってて、自分の世界が狭くなったのを知ってる。だから不自由なく歩けて、走れる。だから余計に外を出歩くのを無意識の内にやりたがるとか」

「──それはあると思う」


 足が痛くない、引きずらないで歩ける素晴らしさ。

 逃げるにしても立ち向かうにしても走る事ができるし、過重や負担で激痛が走る事だって無い。

 お膳立てして、様子を伺いながら行なう外出は徐々に行動範囲を狭めたが、今じゃ違う。

 乗り物無しで、五年間の鬱憤を晴らすかのように旅をしている。

 それに、たぶん楽しいんだと思う。

 自分一人で歩く道じゃなく、誰かが居る道が。

 今は大分面子も入れ替わったし、歩く道も変わってしまったが。

 学園に居た時はミラノやアルバートと、学園を出てからはトウカやプリドゥエンと。

 追われる身になってからはマーガレットやテレサと。

 

 お腹が空けば途中で料理をしたり、夜になればテントを張ったりして語らいあいながらもそれぞれが眠りに付く。

 危険性は現代に比べれば大分違うけれども、それでも一緒に旅をしている事に変わりは無い。

 寂しがり屋だとは思わないし、一人を嫌うわけでもない。

 けれども……孤独は、地味に嫌なんだ。

 誰も居ない秋空の中、発作で一人死んでいくあの恐怖。

 自分が”無”になるのが、とてつもなく怖かった。


「一緒にこうやって旅をしたり出歩いたり……。そういうのも、良いなって思うしね」

「それが『皆』から『誰か』に変わると良いわね」

「──そうだね」


 誰でも良いというのではなく、特定の誰かの方が”もっと良い”と言う状態になれば良いと。

 彼女は、そう言ってくれたのだ。

 

「今はまだそういうのは想像付かないから、誰かが……一人でも多くの人が傍に居て、それで居て楽しそうにしてくれればいいかな」

「ちょっと学生時代を思い出すものね」

「それもあるかな。っと、お店より露天系が多い国だな、ここは。その日限りの品物でも多いのかな」

「幾らか畳まれてるけど、食べ物系が多いみたいね。それも調理してるやつ」

「匂いに誘われて客が来るってのが分かってるからじゃないか? それに、食べ物の調理の仕方が良い意味で粗雑だ」

「キミの居た所は肉が安くて凄いんだっけ」

「アサード、肉の暴力が味わえる素晴らしいものだ。日本の肉は薄っぺらいから『なにこの削り鰹節』って思ったし。喩えるのなら毎日焼肉食べてるような感じだけど、日本じゃ無理無理。真似したら財布がヤバ谷園、支払いが無理茶漬け」


 ちょっと物足りないくらいでも安いやつで一回三千円とか行ってしまう。

 豪華な肉は量が減り薄くなり、腹が満たされなくなる上に追加すると六千円を越える。

 まあ、家でやれば幾らか安くはなるが、それでも安いとは言い切れない。


「……ヘルマン国の良い所は、肉が安い上に母国を思い出すって所かな。肉が安くて美味しいのは良い事だ」

「私はそれよりピザが食べられれば良いかしら。あとケンタッキー」

「こっちじゃ小麦は割高だな……。そもそも小麦粉の質が見合うかどうか」

「作れるの?」

「まあ、母親が作ってたのを真似して作るくらいは。しっかし、おいしそうだなぁ……」

「買い食いしてみたら? 味を知るのも大事な一歩だと思うし」

「そうしようか。おじちゃん──」


 そして、買い食い。

 思ったとおり、人間である自分らでも絶対に美味しいと思った匂いを発していたが、実際に美味しい。

 あとでマーガレットやワンちゃんにも食べさせようとストレージに幾らか保管する。

 時間の経過から切り離されてデータ化されるのでたすかる。

 二人とも温かく、脂が垂れた美味しい物を口に出来るのだからそのほうが良い。


 暫く散策して、テレサが袖を引っ張ってくる。

 そして愛の告白……ではない。

 そこそこ巡りに巡って歩いたところで宿の前を通りがかったのだが、親指で入ろうと促してくる。


「ねえ、情報と言ったら人の集う場所じゃない?」

「それは否定しないが……。寒いのと適度に食べたのと、疲れたのにカコつけて飲みたいだけじゃないのか?」

「あはは、ばれちゃった。テレサ、嘘は苦手だから~」

「カワイコぶって要求を飲ませようとするんじゃ有りません。全く……せめてマーガレットをだな」

「マーちゃ~ん!!!」


 どだだだだ、と。

 テレサはマーガレットを呼びに宿に飛び込んでいった。

 その様子に呆れながら、やれやれと溜息を吐きながら席を確保しに行く。

 今まで泊まっていた宿と違ってランクが高いので、食事処の質も違う。

 入った瞬間から、アルコールと濃厚な肉の匂いが涎を誘う。


 暫くすると二人がやってきて合流し、同じ机を囲う事に。


「ダイチ様、お疲れ様です。それと、お食事に誘って頂き、有難う御座います」

「誘ったと言うか、ただつまみにされたというか……」

「何言ってるの? さ、早くお酒を頼みましょ!」

「早くない!? まだ昼……」

「どうせやる事もそんなに無いでしょ?」

「──……、」


 そう言われてしまうと何も言い返せない。

 溜息を吐いていると、マーガレットも驚いているようであった。


「昼間から飲むのですか?」

「冬は基本的に仕事が無いみたいだからねえ。偉い人とかは内政や他家との調整だので年がら年中忙しいだろうし、時には糧食や寒さの問題で領民が餓えや寒さで死ぬ事だってあるから暇なんて無いだろうしね」

「ダイチ様って色々知ってるんですね」

「いや、その……色々な作品を見たりしてきたから想像できるだけで、たぶん実際にはもっと大変だと思うけど」


 そう言いながらも少しばかり周囲を確認しておく。

 テレサの存在には幾らか周囲の目を引いたみたいだが、自分とマーガレットは特に問題無さそうだった。

 マーガレットの口には何が合うだろうかと思案しながらも、自分も同じように酒を頼んで乾杯をする。

 マーガレットはお酒を辞退した。

 特に興味は無いと言うのと、飲みすぎた人を見た事があるからだろう。

 自分が何かをしてしまう、変わってしまう、口走ったり行なったりしてしまうのが怖いようであった。


 肉八割、穀物二割、野菜一割という暴力を前に、マーガレットは些か戸惑っている。

 彼女の食生活はスープや野菜が適度に多く、肉はほんの少しと言う学園の食堂程度がベースらしい。

 それでも、小さな口で少しずつ食べていく様子はまるで子リスのようであった。

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