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元自衛官、異世界に赴任する  作者: 旗本蔵屋敷
8章 元自衛官、戦争被災者になる
129/182

129話

 ── 学園にて ──


 都市にユニオン国の部隊が到達した事を、学園に配属された兵士たちは知った。

 だがそれが良いことかどうかを判断しかねる情報もやって来る。

 ロビンの姿が見えないとされていたが、ヤクモを捜索しに行き、その足でヴィスコンティへと向かったと言うのだ。

 噂を知っている生徒達は、ヤクモ追討の為に直々に主人の公爵家へ向かったと判断した。

 だが、噂が虚偽である事を知っている兵士は逆に考えた。

 英霊との仲が良い事から、事実を知ったロビンがユニオン国の部隊が接近している事を知り、救援要請をしに行ったのだと。

 

 英霊が動くかも知れない、その場合どうなるのかは兵士たちは容易に想像できた。

 自国に居る英霊ヴァイスによってユニオン国を名乗り、そして平定して行った結果ユニオン共和国が出来上がった経緯を知らぬものは居ない。

 それどころか、日常的に英霊による生徒への指導・教育を見てきたからこそ「それによってねじ伏せられるのでは?」と考えたのだ。

 

 彼らの目的が生徒たちを逃さずに捕らえることである事や、学園への部隊到達を容易にするための内憂といてやって来たことである以上、それを早めるべきかどうかの判断が付かなかったのだ。

 ヴァイスがそうであったように、他の英霊たちも人質を取れば容易に行動できなくなるのではないだろうかと考え込む。

 だが逆に、ヴァイスもそうであったように”卑劣であるからこそ”許されざるとねじ伏せられる可能性もあった。


 彼らは、判断が付かなかった。


 だが、そんな彼らの元に情報が舞い込む。


「や、ヤクモが現れたっス!!!」


 学園勤務をしていた兵士が彼らにそう触れ込んだ。

 ユニオン国の兵士は、少しばかり迷ったが直ぐに装備を整えると仲間を出来る限り集めて追い立てる事にしたのだ。

 なぜなら、アリアを攫い逃げた犯罪者として。

 あるいは、全てを知っている都合の悪い人物として。

 学園内部に入り込まれると、英霊と接触される事で不都合も生じると彼らは判断した。


 そして、彼らが到達した時に隊長格の男は安堵したような顔を見せる。


「良かった、応援が来た……」

「状況を聞いても?」

「彼だ。ヤクモが現れ、自分の隊員一名を拘束して立て篭もっている」

「立て篭もって……?」


 ユニオン国の兵士が疑問を抱くと同時に、扉の向こうから苦しそうな声が聞こえてくる。


「た、たずげッ……」

「入るなよ? 入ってくるなよ!!!」


 彼らは仲間内で顔を見合わせたが、声を聞いた事がある男が頷くと彼らは装備を手にする。


「了解。こちらも手勢を出来る限り回すように指示する」

「助かる。自分はこれから学園長の所に行ってこの件で報告する。出来るのなら逃がさないように願いたい」

「承知したが……」

「あぁ、理解している。仕方が無い、と言う事も有ると言いたいのだろう? だが、最善を尽くさずに部下を見捨てた場合、自分はそれも報告させてもらう。そちらはそれを是とするのだと」

「──……、」


 ユニオン国の兵士は何かを言おうとしたが、出来る限りの事はしてくれという遠まわしな許可をもらったのだと理解する。

 最善は尽くしてくれ、それでも止むを得ない場合は受け入れる。

 そういう意味だと解釈し、頷いた。


「了解した。だが、相手は英霊に……魅入られている男だ。手勢は多いほうがいい。申し訳ないが行きがけに声をかけてくれると助かる」

「あぁ、了解した」


 隊長格の男は礼をすると、足早にその場を去って行った。

 そして通りがかった兵士に声をかけ、声をかけられた兵士は包囲を敷いている兵士を見ると駆けつけるように集まっていく。


「降伏しろ! 今応援がこちらに駆けつけている、そちらは一人だ。勝ち目はないぞ!」

「うるさい! お前らが……お前らがこうしたくせに! 無理にでも入ろうとしたら、この男を殺すぞ!」

「うぐぐッ……」


 半狂乱な叫び声と共に拘束されている兵士の苦しそうな声が聞こえる。

 ユニオン国の兵士は仲間内で連携し、閉ざされた扉を蹴り開ける事にした。

 扉を思い切り蹴ると共に、そのまま即座に身を隠す。

 彼らの想像したとおり、ヤクモが所有する拳銃から銃弾が放たれ、兵士が立っていた場所を通り抜けた。


「ちぃ! だが、部屋に入ればドカンだ。こんな風にな!」


 そして、威嚇や警告の意味を込めて、ヤクモは指向性散弾を起動させる。

 乗り込もうとした兵士たちの目前で、無数の散弾が掠めて壁を穿つ。

 壁が砕けて粉塵を撒き散らしながら、詰所内部の鎧掛けと鎧を粉々に砕いた。


「悪いがこっちも命がけなんでな。あんた等も……そうだな。総勢百三十一名のユニオン兵士全員が文字通り破砕される覚悟で来るんだな!」

「どうした?」


 時間経過と共に、包囲網は厚くなっていく。

 だが、そのまま包囲が厚くなった頃で誰かがポツリとつぶやく。


「おかしくないか?」


 と。

 何がおかしい、集中しろとどやされるが。

 その兵士は暫くしてから恐る恐る続きを口にする。


「いや、だってさ。何で”俺たちの仲間”しか来てないんだ?」


 その疑惑の言葉が深く浸透していく。

 前方でヤクモを追い詰める為に張り付いていた人員ですら、ヤクモから意識を外す。

 事実その通りで、その場に集っているのは”ユニオン国の兵士のみ”であったのだ。

 少し静まり返った場だったが、それから間も無く元々学園側に配備されていた兵士たちも集ってくるのを見て安堵する。

 そういえばと、城壁に彼らを追いやり遠ざけたのは自分らだったのだと思い出したのだ。


「すまない、遅れた。状況はどうなっている?」

「いや、膠着している。部屋をこじ開けはしたが、相手は飛び道具を持っている上に室内に罠を仕掛けている」

「迂回や打開は?」

「いや、窓や扉に貼り付けているのが全部だ」

「そうか」


 そう言って隊長格の男はため息を吐いた。

 そして周囲を見て、銃ではなく剣や槍などを所有する──ユニオン国に比べれば重苦しい装備で身を包んだ兵士達を見て一度だけ頷いた。


「ならば、この状況を終わらせよう」

「いや、しかし……。あの壁を見ろ、入れば装備ごと人が粉々に──」

「ああ。だから、入らないでこの状況を終わらせるのさ」

「どうやってだ? 我々は威嚇射撃も何度か行った、二方・三方から可能な限り銃口を向けて圧力を加えているが、罠が外部に向けられていたらこちらも全滅する」

「なら、こうすればいい」


 そう言って隊長格の男は剣を引き抜いた。

 その行動を誰もが疑問を抱かない。

 剣を抜き、鎧を穿ち人を裂く弾丸の前に出るのか?

 死ぬのではないか? それとも貴族の子らを救った時のように何かをするのだろうか?

 だが、ユニオン国の兵士たちの疑問は悪い意味で覆された。


「こいつら全員捕まえろぉ!」

「おっしゃ、いくぜぇ!!!」


 意味が理解できず、そして受け入れるのに時間がかかる。

 その間に、ユニオン国の兵士は外部から地面に引き倒され、或いは殴り飛ばされ、無力化されていく。

 長い銃が密集しきった状況では何ら効果を発揮できず、銃を持って走るだけの男たちと普段から重い装備を取り扱う彼らとでは勝負にならない。

 途中から部屋の中で拘束されていたはずの兵士と、立て篭もっていたはずのヤクモまで参戦して呆気なくその場に集った兵士は取り押さえられた。


「貴様ァ! まさか……」

「協力ご苦労様。まさか半数近くも引きつけるとか、大分学園内部がやりやすくなったな。俺がこのおっちゃんと若干の浅からぬ関係が有るって知らなかったみたいだな」

「これでお前の言葉が嘘だったら目出度く職無しだな。いや、下手すりゃ引渡しか」

「大丈夫大丈夫。んで、学園長とは?」

「伝えた。その通り、しっかりと。学園長は備える事と、もしユニオン国の部隊が来た場合に防戦する事を許可してくれた。殺傷は流石に許可されなかったが、拘束して納得がいくまでは閉じ込めておいて良いとの事だ」

「残存兵は?」

「学舎内部と建築物それぞれの巡回くらいだが……」


 言い淀んだ事に怪訝そうな顔を見せたヤクモであったが、その答えは次の行動を考えている内に起こされることとなる。

 時間は折悪く昼だった事、そして何も知らぬ生徒達は食堂で食事を取る事になる。

 では労力と時間を少ないままに自分らがまず得られる安全とは何か?

 盾を得ることであった。

 校舎の窓を見れば、兵士たちが駆けて食堂へと向かっていくのが見える。

 散り散りに巡回や警備に付いていた兵士たちが集結していくのをヤクモは見てしまった。

 そして分かりやすく魔銃の射撃音と悲鳴が響くのを聞いてしまった。


「……分かりやすくて助かるね」

「お、おい。何を暢気に……。悪いが学園の警備とこいつらの見張りで兵士はそんなに割けないぞ?」

「あ~。まあ、良いんじゃね? えっと、どれどれ……。見える範囲に……あいつらは、いない……みたいだな」


 双眼鏡を取り出してヤクモは視認情報を出来る限り得る。

 最重要事項として『知り合いが居ないか』にのみ限定された物であったが、幸いな事にアリアやアルバート含め、マルコに至るまで食堂には居ない様子であった。


「あいつら?」

「あぁ、こっちの話。けど参ったな。食堂でタケルとアイアスが一緒に囚われちまった。あの二人、人質を無視して暴れるとか出来るのか?」


 暫く、ヤクモはその場を隊長に任せて足で情報を得ようと努力した。

 だが、その間にタケルやアイアスと言った英霊たちが行動を起こすことはついぞ無かった。




 ~ ☆ ~


「クソ、身動きとれねぇ……」

「参ったね」


 食堂内で、いきなり兵士が飛び込んできたと思うと生徒たちに銃を向け、人質にし始めてしまった。

 アイアスやタケルは即座に腰を浮かせたが、暴れるには屋根があって崩落に生徒を巻き込んでしまう。

 そもそもタケルの抜刀術にしろ魔法刀技にしても相手に接近しなければならない。

 アイアスも同じように接近しなければ相手を打倒出来ない以上、生徒が邪魔であった。


「失礼、アイアス様とタケル様ですね」

「おう。これは一体全体なんだ?」

「──自分らにはそれに関して説明できる立場にありません。ただ、今この場に居る生徒達は人質とさせて頂きました。申し訳ありませんが、何もしないで居てくれれば誰も傷つかずに済みます」

「けっ。って事は、話は本当だったんだな? ヤクモを陥れて、学園を掌握しようって話は」

「……お二人とも、移動してください」

「アイアス、従おう」


 そう言ってタケルは従う事を促した。

 アイアスは反論しようとしたが、そうしている内にも合流して来た兵士が生徒たちに銃を向けていく。

 一箇所からではなく、複数個所に散って向けられた銃口にはアイアスもタケルも抗する手段を持たない。

 移動させられたのは生徒たちの居る中心部であり、接近しなければ戦えない二人からしてみれば人質とされた生徒が壁と化して余計に難しい事になってしまった。


「にゃ~……」

「あ~。やっぱ、ファムもか~」

「くそ、生徒にゃ被害出せねぇぞ?」


 生徒達は英霊である彼らを見て救いを求めている。

 だが、英霊たちは彼らの特性上生徒たちが居ては満足に行動できない。

 アイアスもタケルも魔法に関しては武器使用時に傾倒しており、細かく精密な扱いは出来なかった。

 ファムに至っては身体能力強化に全てを注ぎ込んでおり、状況に即していないのだ。


「だが、なんだって急に? しかも……奴ら少ないぞ」

「南門の方でなにやら騒ぎがあったみたいだし、それと繋げて考えると……。立て篭もる、時間を味方に付けた行動に出たって事じゃないかな」

「時間を……。ということは? アイツ、戻ってきたのか?」

「考えられるのはその可能性かな。何せ、ヤクモが戻ってこなければこの学園は部隊が来るまで何も知らないままで居られるのに、急遽こんな行動に出るとは考え辛いし」

「……だが、これじゃああの坊も手が出せないだろ」


 アイアスの言葉の通り、食堂を制圧されたのはヤクモにとってやりにくい話であった。

 射撃と言う特性上、引き金を引いたら間違いでしたなんて言えないのだ。

 生徒たちや英霊の三名は座らされたりしていて射撃をする事自体は難しい事じゃない。

 だが、一発撃って解決できないと言う事もあるし、場を制圧している兵士がそれで全員だという確証も無かったからだ。

 食堂の一階部分と二階部分で別けられているのもあって、一挙に制圧できないのだ。

 喩え狙撃するにしても、学園の敷地内は余りにも開けすぎていた。

 狙撃をする為に無防備に遮蔽物の無い庭に出て、学舎や寮等から逆狙撃をされてしまえばおしまいなのである。

 

 そして単独である以上、居場所を知られてはならないと言う縛りがある。

 居場所を知られてしまえば人質を盾にして投降を呼び掛けられる。

 居場所が分からないからこその時間稼ぎ止まりであり、それを有効活用するしかないのだ。


「マリーとヘラは?」

「マリーは引き篭もり、ヘラはミラノさんのとこ。けど……あの二人が居てもね」

「物理にゃ弱いからな……」


 マリーはそもそも遠距離専門の魔法使い、ヘラは支援や回復と言った戦闘ではなく味方の援護を得意とする魔法使いである。

 彼らの頭の中には『銃とは弓よりも強力で、遠くまで届くもの』と言う情報しかない。

 ヤクモが取り扱うものと同じで、マリーとヘラは相性が悪いと考えたのだ。


「……詰みか。それとも、あの坊にゃ考えがあるのか?」

「さあ、どうだろうね。けど……静か過ぎると思わない?」

「静か? オレにゃ悲鳴で十分に喧しいと思うがな」

「そうじゃなくてさ。こう、なんて言えば良いかな。状況が静か過ぎる、停滞している感じ。水面に石を投げると揺らぐのは分かるかな?」

「それくらいは分かるわ」

「投げたものに応じて、水は大きく窪んで揺り返すように水を跳ねさせる。それを何度か繰り返していく内に揺らぎは落ち着いていくんだよ。石を受け入れてね。けど、揺り戻しの限界点に来た時、一番綺麗な水が見えるんだ。アレになんだか似ている」

「状況分かってるか? そんな悠長な事を言ってる場合じゃねぇって」

「そうだね……」


 そう言って、タケルは一部まだ騒がしい食堂の中を見つめる。

 生徒たちではない、第三の騒動が彼に引っかかりを覚えさせ、そちらを気付かさせた。


「だからね? もうちょっとやり方ってモノがあるんじゃないかな~とか思うんだよ」

「うるさいな! 一発撃ちこまれないと分からないのか!?」

「別に抵抗はしないけど、それはそれでせめて仕事はさせてくれないかな~? 食事がまだ途中の生徒も居るんだよ?」

「にゃ……」


 ファムも反応を示し、その声のほうを見る。

 そちらにはメイドであるトウカが兵士を相手に言い争いをしていた。


「これからどうするのか、どうなるのか分からないけどさっ。それならそれで、食事くらいは食べさせてあげても良いんじゃないかなっ? だって、食材の仕入れとかわかんないじゃんっ!」

「生徒に食事は必要ない!」

「それはダメダメかなぁ~? と言うか、そんな棒っきれで何が出来るのさ!」


 トウカは仮にも学園内のメイドを統括する程度には偉いし、その責任感は持っていた。

 だからこそ彼女なりに生徒の為に食事だけでもさせて落ち着かせようとしていた。

 だが、そんなやり取りも兵士には煩わしかった。

 ちらちらと、ヤクモの姿が食堂近辺で見えるようになり、他の兵士も慌しくなっている。

 これ以上は構ってられないと、兵士は天井に向けて引き金を引く。

 天井に当たった魔弾は粉砕しつつ貫通し、埃などを撒き散らす。

 これで怖気づいただろうとトウカを見るが、トウカはけろりとしたものだった。


「で?」

「これで機械生命体だろうが、素早い魔物だろうがくたばる。受けてみたいのか?」

「そんなの、斬られても突かれても殴られても人は死ぬんだから威力が違った所で何なのさ。素手の生徒にそんな物向けて勝ったつもりになれるなんて、幸せだね」

「だからなんだ。貴様らは大人しくしていろ。直ぐに本隊が来る。その後の身の振り方でも考えておけ」

「なんだ。強がってると思ったけど、仲間が来るからなんだ~。仲間が来なければ強がれ無いとか、男らしさの欠片も無いね。玉なし?」

「う、うるさい!」


 トウカは勇敢だった、或いは……無謀だった。

 彼女が声を張り上げているおかげで、騒がしかった生徒たちも幾らか静けさを見せている。

 それが目的だったのかも知れないが、本人にすらそんな意図は無かった。

 そして、それは彼女の命を縮める結果となる。


 何処からか引き金が引かれ、弾が飛ぶ。

 生徒たちの頭上を通り抜け、言い争っていた兵士ですら呆気に取られていた。

 トウカに命中した弾は彼女を捉え、鮮血を背後に散らす。

 彼女は貫かれた勢いでよろめいたが、そのまま後ろに倒れると動かなくなる。

 再び、悲鳴が場を支配した。


「そんな奴に構ってる暇が有るか。さっさと警戒に戻れ!」

「あ、あぁ」

「今のを見たな! こちらとしては一人二人欠けようが構わないんだ。我が身が惜しければ大人しくしてろ。それと、静かにだ!」


 トウカを撃った男は兵士を復帰させると、生徒たちを脅す。

 だが、目の前でメイドとは言え一人の命が消えたのを見て生徒達は大人しくなれなかった。

 再び警告や威嚇の意味を込めて天井や窓が破壊される。

 それらをして、小さな悲鳴に静まった所であった。


「フゥッ……」

「落ち着け。落ち着けって、ファム」


 アイアスはいきり立つファムを必至に宥めた。

 普段はにゃあにゃあと惚けた口癖の彼女だったが、目の前で人が倒れたのを見て獣の血が騒いでいた。

 ファムが暴れてしまえば、理性を欠いて叩きのめせば状況は解決するだろう。

 しかし、それは生徒に多数の巻き添えを強いての結果となってしまう。

 アイアスは冷静にファムを宥める。

 その代わりに、座り込んでいた彼らの変わりにタケルが警告も勧告も無視して立ち尽くしている。

 何度か兵士は脅威と認識して再び座らせようとしたが、タケルの目に魅せられて断念した。

 

「皆、大丈夫だから落ち着いて。残念ながら、俺たちは君たち全員を無傷でこの状況を打開出来るほど器用じゃない。けど、次は無い。俺の名において、英霊としての存在意義に賭けて”次は無い”と言っておく」


 タケルは穏便に事が過ぎるだろうと思ったが、それが甘かったと知った。

 だから自分が立つ事で生徒たちを立ち上がらせる機会を奪い、その上で銃口を向けられる相手を自分へと切り替えた。

 トウカを撃った事でタケルが立ち上がって兵士たちにとって脅威となる。

 行動も、先ほどのような脅しや見せしめも不可能となった。

 何をもって立ち上がった英霊が”状況の継続による被害よりも、生徒を巻き添えにした方が被害軽微ですむ”と判断するか分からなかったからだ。

 

 そして……彼らにとっては予想外だった。

 食堂の周囲ではヤクモが状況を確認する為に動き回っており、食堂内部では英霊が立ち上がっている。

 敵が内外にいると……二人だと判断した時点で、兵士たちは失敗した。


「がぁぁああああッ!!!!!」

「うわぁ!?」


 食堂内で起こる騒ぎ、兵士たちはいい加減にしてくれと内心祈るような気持ちになる。

 学園における彼らの目的は仲間の誘引と、場合によっては人質を取る事で他者が身動き取れないようにすることだった。

 そのために英霊相手でも容赦なく、人質を軽視したのであればそれを論うことも厭わない。

 ……逆を言えば、事が起きるまでは学園警備のものとして最低限やる事さえやっていれば穏やかでいられたのだ。

 たとえ雪が降る中、庭を巡回しようが。

 たとえ城壁の上で自分たちのみすぼらしい故郷よりも恵まれている町並みを眺める以外の意味が無くとも。

 

 彼らにとって、雪が寿命を縮める災害ではなく、ただただ自然の事柄として冷たい以外の意味を持たないだけ有り難かった。

 彼らにとって、吹き付ける風が肌や柔らかい眼球を傷つけないだけでも”生きている”と言う心地になれた。


 故に、初めての”生きている実感”から転落して、精神的に幾らか惰弱に成り果てていたのだ。

 何も無ければこのままでいられると言う、小市民に戻っていたのだから。


 だが、そんな願いを文字通り引き裂いたのはトウカであった。

 食堂の中、先ほどまで言い合っていた兵士へと突如として起き上がると人ならざる速度で接近する。

 銃を構えるよりも先に銃を掴み、身体を回転させる事で相手の握力を超えた力で銃を引き剥がすと、そのまま兵士の脇っ腹を銃で殴ったのであった。


「ぐっ」


 ボキボキと、骨の折れる音が生徒たちにも聞こえるように響く。

 小さな悲鳴をバックグラウンドに、トウカは棍棒や槍の如く銃を振るう。

 それは荒削りの武術のようで、だがその力技の攻撃を前に防具を付けていない兵士は一人一人と倒れた。


「化物め……!」


 先ほどトウカを撃った兵士は狙いを定め、トウカに二発目の弾を放つ。

 だが、引き金のクリック音に反応したトウカは、近くにいた兵士を盾にする。


「待て、俺は……」


 仲間だと、待てと兵士は言う。

 だが、それも既に遅い。

 肩を撃たれた兵士は直ぐに用済みとトウカに捨てられ、彼女は次の標的を彼へと定める。

 生徒の群れの向こう側、彼女は盾無き彼女への銃弾を回避しつつ接近した。

 姿をかき消して回避したと、誰もが思っただろう。

 だが、彼女は柱を中継地点のように、素早さを活かして壁へと”着地”していたのだ。

 そして柱を蹴って、斜めに兵士へと滑落して打撃を加える。

 落下速度と素早さを加えた銃での殴打は、咄嗟に防御へと差し向けた銃を拉げさせて使い物にならなくする。

 

 人とは思えない行動に生徒は唖然としているが、その理由が直ぐに判明する。

 両の目が、彼女の感情に感応して変色していたからだ。

 穏やかそうで、どこか抜けていた表情もそこにはない。

 狩りを行う獣のように、ただ本能のままに兵士をなぎ倒しているだけなのだから。

 

「おい、オレ達も加勢しないと……」

「……あと、数秒待って」

「悠長な事を言ってられるか。あの小娘、勢いはあるが数にゃ勝てねぇぞ」

「うん。それでもだよ」


 アイアスは立ち上がり、武器を出そうとした。

 だがタケルはその手を抑え、待って欲しいと言う。

 その意味が理解できずに居たが、暫くしてその意味を理解できるようになる。


「ハロー、お疲れさま。学園で好き勝手やってくれちゃってるのは誰かしら?」

「あは~。おいたはダメですよ~?」


 マリーとヘラが、二人で食堂へと乗り込んできたからだ。

 トウカの暴走が二人の到達を容易にしてくれたのもあり、接近するのに二人は大して大きな抵抗を受けなかった。


「クソ、撃て!」


 兵士たちは二人にめがけて射撃を開始する。

 もはや相手が英霊だとか、そんなものは頭に無かった。

 疎らにではあるが放たれた弾丸は二人へと向かっていくが、それも命中する前に霧散してしまう。

 二人の眼前で、まるで水面のように揺れる存在があったからだ。


「……無効化できると分かってても、やっぱ正気じゃないわ、アイツ」

「あは~。けど、魔力で出来ている以上は私が何とかできる~ってのは、正解だね~」

「だとしても、それを私達にやらせる? 普通」

「普通だったらそもそもこの状況の言い訳を用意してから動かすと言う真似をしないと思うけど~」

「もっと早く呼べっての」


 ヘラによる魔法防護が、魔力で出来た銃弾を弾いたのだ。

 当然だが、その威力は単純な魔法よりは高いので、ヘラの負担は大きい。

 それでも”防御できてしまう”と言うだけでも、彼女達にとっては意味のあることであった。


「さって、と。それじゃあ、馬鹿げた騒ぎには終止符をうたないと。あんたたち、覚悟は出来てる?」

「ちゃんと相手を選んでね? 銃弾とマリーの魔法から生徒を守るって、相当難しいんだよ?」

「大丈夫。ちょ~っと……焦げるくらいだから」

「え、ちょ──」


 そして、マリーによる蹂躙に乗じてタケルとアイアスも動き出す。

 これによって学園内部の掃討は短時間で終わる事となった。

 ヤクモはというと、マリーとヘラに意識が集中している間に二階に時間差突入を果たし、そう多くは無かった兵士を無力化していたのであった。


 これにて一件落着と、英霊たちは思ったし、ヤクモも思っていた。

 だが、そうはならなかった。

 

 日常から非日常へと叩き落された生徒達は、日常へと……安全になったのだと意識すればするほどに非日常を強く意識させられる。

 それは人のようで、人とは相容れない存在に見えるトウカがそうであった。


「にゃ……、ど~ど~」

「ふぅ、ふぅ……」


 未だに昂ぶりが収まらないトウカにファムが近寄る。

 そして優しく抱きしめると、穏やかに彼女を宥め続けた。

 興奮状態から落ち着いてきたのか、目の色と共に幾らか逆立っていた毛が収まる。

 階段を下りて合流したヤクモが、幾らか血に塗れたトウカと落ち着いている場面に顔をしかめる。


「What a……いや、何が?」

「彼女、撃たれたんだよ。身代わりか、或いは生徒たちを落ち着かせるために兵士と言い争って」

「それを見過ごしたのか?」

「いや。俺たちは既に生徒たちと一緒に行動が封じられた状態だったよ。あまり言いたくは無いけど、状況が悪かった。生徒たちをなぎ倒して兵士を鎮圧する方が良くなかったし、俺たち三人でそれをした場合、死人すら出かねない」

「悪いが坊、殺し方は分かってても手加減をして相手を抑え込む手段はそこまで得意じゃない。もしオレらがそれをしていたら、焦げた生徒か切り裂かれた生徒、或いは肉塊になってる生徒が出てただろうな」


 タケルとアイアスはそれぞれにトウカが負傷した事を、仕方が無かったと言い張った。

 英霊であり、魔物に対して散々殺し合いをしてきた彼らには人間の無力化ほど難しい事はなかった。

 生徒と言う保護対象の居る中で自分たちが行動する方が被害が拡大すると言ったのだ。

 ヤクモはこみ上げてくるものを飲み込んだ。

 納得するように、言い聞かせるように何度も何度も頷いてみせる。


「──了解。二階の連中は倒れてるだけだから早めに拘束して学園に元居た兵士とかに引き渡してくれ」

「了解」

「それと、学園内部の安全化の為にそれぞれに生徒と兵士の零れがいないか確認して欲しい。せっかく大部分を鎮圧したのに、下手な所で見逃して立て篭もられちゃ溜まったもんじゃない」


 ヤクモは英霊たちが対人の思考において幾らか”向いていない”と判断すると、可能な限り考えうる事を口にする。

 傍から見れば英霊に対してああしろこうしろと指示を出しているようにも見受けられたが、英霊側がそれを許容している以上生徒たちには何もいえないのだ。


「……アルバート達はどうしてるんだ?」

「えっとですね~。アルバートさんたちはグリムさんの進言で自室での食事に切り替えてますね。食堂に集まってると、今みたいに制圧されたらおしまいだからって」

「なるほど。そりゃ……いい判断だ。グリムに感謝しないとな」

「感謝? 何故ですか?」

「知り合いが居ると分かってたら、突入し辛かったから」


 ヤクモはそう言ってから、数秒ばかり俯く。

 安心して気が緩みかけたのを必至にゼンマイを巻くように引き締めているのだ。

 過労と睡眠不足、全身の疲労と自分が今まで受けてきた致命傷の幻通で苦しめられている。

 それでもなお何とかなっているのは、彼の愛用している鎮痛剤を用法外の摂取と酒による酔いのおかげだった。


「あのさ。私達で本当に弾が防げるかどうか試した件に関して、何の謝罪も無いわけ?」

「ん? そもそも、散々俺は鹵獲品で試した上で進言してるんだから試したんじゃなくて、事実だ」

「試したって、どうやって」

「伍長に幾らか手伝ってもらってだ」

「……それに関してはもういいわ。けど、頼るのが遅すぎ」

「いや、学園内部に関してはお前らが動いても良い状況だったから頼んだだけ。学園外の事にはまだ絡まないで欲しい」

「はあ? 何で」

「本隊とこっち、まだ関係が接続してないから暴走だとか色々言えるんだよ。……ほら、早く学内捜索してきてくれ。俺もちょっと見てくる」


 そう言うと、ヤクモは装備を提げたままに歩き出す。

 一歩目で崩れ落ちかけ、二歩目で頭を降る。

 三歩目で普段どおりを装って、寮の方へと向かっていくのであった。





 ── ☆ ──


 俺の人生は、いつも上手くいっていると錯覚した時にどん底へと叩き落される。

 まったく繋がりの無い事や、まったく関係の無い方角から『勘違いするな』と言わんばかりに不幸が襲う。

 あるいは……最初から、俺と言う存在はそういう運命を義務付けられているのかも知れない。

 

「姉さんは、ずっと部屋に篭ったきりです」


 医務室で軟禁状態だったアリア。

 見張りの兵士も居らず、漸く解放されたアリアは幾らか憔悴しているようであった。

 だが、彼女の言葉を聞いて「そっか、ずっと部屋なんだ」と言えなかった。


 けれども、少なくとも学園の安全は確保できた。

 あとは防衛線を、街でゲリラ戦をすれば良い。

 そう、思って……居たのに。


「ミラノ?」


 ミラノの部屋は、まるで返事が無かった。

 ノックをしても返事は無く、寝ているとかそういうレベルの静けさではない。

 嫌な予感がした、それでも俺は確認しなきゃいけなかった。

 嫌な事からは逃げたいのに、確認しなければ絶望も知らないままで居られるのに……。

 パンドラの箱のように、絶望を確認する。


「あ、れ……」


 誰も居ない部屋は綺麗に整えられていて、ただ窓だけが大きく開かれている。

 扉を開放した事で風の通り道が出来たのか、カーテンが開かれた窓から出るようにして靡いていた。

 暫く部屋の中を見回して、ベッドに触れると温もりは無い。

 ただ思い出したかのようにベッドを抜け出して、そのまま消えたかのような漢字であった。

 フラリと窓の下を眺めるが、当然”最悪の結末”として大地に吸い込まれたような形跡も無い。


 そうやって大まかな形跡捜査をしてから、机の上に置かれた封筒に目をやる。

 ……ナイフで机に縫い付けられた封筒は、出来れば触れたくないくらいだ。

 だが、確認しなければならないのだ。

 すくなくとも、部屋の主の性格とこの異物は合致しないのだから。


「──……あの、野郎」


 つらつらと描かれた文面には、ミラノを浚ったと言う事が淡々と書かれているだけであった。

 誰が? 何の為に?

 その答えも同時に描かれており、久しぶりに見つけた存在に気がつく。


 英雄殺し。

 それは俺がアイツの事をそう名づけたものであった。

 あの英雄殺しはミラノを攫ってユニオン国へと”招待した”と書いている。

 当然、招待だなんて信じられる訳もない。


「Fuuuuuuucck!!!!!《》クソがぁぁああああ!!!!!」


 学園の安全化には成功した。

 だが、いつものように『解決』を目指している俺自身が到着したのは『問題』であった。

 様々な悪い考えが頭を支配する、それと同時に人生における個人的な大罪が頭に蘇る。

 家族の顔が浮かんでは消えていく、その中で一番消えないのは両親の顔だ。

 結局の所、まずい状況を更に悪化させただけなのかも知れない。


「ヤクモさん!」

「ミラノ……ミラノが居ないんだ」

「え?」

「ユニオン国に連れてかれた……。理由は……分からない」


 俺は手紙を見せる。

 アリアは俺に追いつくなり言われた言葉に呆然とし、そして手紙を受け取るとそれを読む。


「……数日後に、引き渡すと言う事になってますね」

「ゴメン。俺が……でしゃばったからかも知れない」

「え?」

「もしかしたら俺が変な真似をしなけりゃ攫われなかったかもしれない……だから──」

「それでも”攫ったかも知れない”ですよね?」

「──……、」


 それでも、攫われなかったかもしれない。

 禅問答を繰り広げかけて、思考がショートしているのに気がつく。

 自分の頭を叩いて、現実へと帰る事にする。


「他の皆も探してくる」

「カティアちゃんは──」

「カティアは……別の事をさせてる。今は学園の外だ」

「じゃあ、アルバートくんと、ロビンちゃんと、マーガレットさんと……」

「マルコだな。そういや、タケルとかミナセは?」

「ここは女子寮ですよ? 私も今の今まで医務室にずっと居たんです。分からないですよ」

「じゃあ……マーガレットとグリムの部屋を頼む。俺は男子寮にいって来る」

「分かりました」


 俺は、自分の欠点を理解している。

 変な潔癖とも妄執とも偏執とも言える性質をしているのだから。

 例えば、アプリで期間限定のガチャが有ったとして、気になった子や気に入った子は例外無く手にいれないと気がすまない。

 そして、手に入らなかった時はそのアプリを半年や一年レベルで触らなくなるし、そのままフェードアウトすらしてしまう。

 同じように、アルバートだのグリムだのも攫われているのであれば逆に気が楽だったかも知れない。

 だが、居ないのはミラノだけなのだ。

 グリムは食堂が騒がしくなった際にマルコをとっ捕まえてアルバートの傍にいた。

 マーガレットは特に何かされるでもなく部屋に居た。

 タケルとミナセは何かしらの事情でここ数日空けているらしく、なんだったか……あの天使と悪魔ちゃんも居なくなっていた。


 そう、ミラノだけが居ない。

 ゼロとイチでいうと、これじゃあゼロなのだ。

 百点じゃなければ意味が無い、九十九点では意味が無い。

 ミラノだけが居ない、ミラノも居ないと意味が無い。


 これでは……俺はただ個人的な理由で、縁も所縁も無い戦争を始めた馬鹿者だ。

 そしてまた、目的と後悔を混同した。

 失いたくないと言う後悔を、失いたくないと言う目的に摩り替えて暴走した。

 

 脳裏に、見たことも無い墓石に自分の名前が刻まれている光景が浮かぶ。

 非常に眠い、非常に疲れた、非常に体が痛い。

 後何回死ねば良い? 後何回”代償”を支払えば欲しい物が手に入る?

 資本主義だからこそ、望みとは決して無償で無料で手に入らないと理解している。

 払え。払え払え払え払え払え。《Pay-ne it.》

 

 だが、同じように時間は俺に暇を与えてはくれない。

 学園にユニオン国が殺到し始める。

 学園側は入る事を拒絶し、小さな小さな戦いが始まる。

 戦争とはもはや言えないような、小さな小さな戦い。


「ヤクモ!」

「ヤクモ」


 アルバートが、クラインが気がつけば傍にいる。

 そして俺は城壁の上でユニオン国の兵士を見下ろしている。

 けれども、思考は空転するばかりで目の前の戦いが現実として受け入れられなかった。























          ~ ????? ~


 先生、魔物ってなんなんですか?


「魔物に関しての質問? オルバ君は優秀な生徒だから先生なんでも答えるよ。で、なんだっけ。魔物とは、だっけ?」


 はい。


「魔物っていうのはね、魔力を有した生き物の事を言うの。動物に見えても、植物に見えても、獣に見えても、魚に見えても、鳥に見えても。魔力を有していて”害をもたらすのであれば魔物”って事になってるかな」


 害を?


「うん、そう。だって、魔力を持ってるだけで魔物って括りにしちゃうとね、人も魔物になっちゃうから。神に力を与えられた人々が実は魔物でした~とか、教会とか国が認められる訳ないよね」


 はい、そうですね。


「けど、実態を有しているか否かって言う議論もされてるけど、それも今じゃ曖昧になってる。だって、死者が生きる屍やゾンビとして蘇ったり、スケルトンだとか思念体……ゴーストになる事象もあるから。英霊たちは自分たちの味方が傷つき倒れたら、必ず浄化してから埋葬してたんだって。死体を放置すると、元が味方でも死体やお化けとして蘇るから」


 ……けど、それだとさっきの話と矛盾しませんか?


「お、よく気がついたね。そう、人は魔物じゃないって言ってるのに、魔物になる素質や素養があるって事になるもんね。けど、これに関しても”とりあえずは”死者を弔ったり供養しないからだとか、穢れを吸って魔物化するとか色々言われてる。ただ、これもまた一つの疑問があるんだけどね」


 疑問、ですか?


「そう。そこに人が居なくても、魔物が居なくても”魔物が生じる”って言う事象もあるの。魔物は何処から生まれ、どのように生まれるのかって言う話にも絡んでくるんだけどね。幾つか話しにあるんだけど、魔物が一切居ないような洞窟でも、気がつけば魔物で溢れかえっていたりする事もある。同じように、かつてどこかの街では下水路から死者が突如あふれ出して、多数の犠牲者を出して放棄したという話もある」


 無から、魔物が生まれるんですか?


「と、思うでしょ? けどね、私はそこらへんの情報を集めて、一つの過程を組み立ててあるの」


 というと?


「魔物は、無からは生まれない。人の思いから生まれる場合もあるって事」


 まさか……。


「お母さんに言われなかった? 早く眠らないとベッドの下に魔物が現れて、キミを襲うよ~とか」


 ……僕は母親と会った事が無いので。


「あ~、ゴメン。そういう子育ての仕方もあるって事」


 ですが、それだと何処もかしこも魔物だらけになるんじゃないですか?


「で、そこに補足。想いが強くなればなるほど、或いは多数の人物が同じ事柄を想像して力が強まるとそうなるんじゃないかって事。一人で怯えたって、たぶんモノが勝手に落ちたり、いきなりモノが動くくらいが関の山じゃないかなって」


 では、沢山の人が同じ想像をするとそうなる……と。


「そういうこと。だからね、魔物が居なくならないのは『魔物が居る』と考える人のせいじゃないかっていうのが私の新しい持論。勿論、仮説に過ぎないんだけどね」


 ……ですが、一ついいでしょうか。


「ん? なにかな」


 百人で一つの事を考えるのと、一人で百の力をもって一つの事柄を考えるのって同じですよね。


「あぁ、想いの強さか。それも何とも言えないけど……。無い、とは言えないかな。人の想像力って、実は一人じゃ曖昧なものだから。けど……一人が百人分の想像力を働かせて、強く想像してしまったらありえなくは無いかな」


 なるほど。


「まあ、魔物ってのは公言しちゃダメだけど、魔力を有する生物全てが該当すると思ったらいいかな。人を媒介する想像なのか、それとも媒介しないちゃんとした個なのかは別としてね」


 命の輪廻に組み込まれているか、組み込まれて無いか……と。


「そもそもさ、教会や国がどういってるかは別にしても、分からない事だらけなんだからさ。鵜呑みにしちゃ駄目。魔法が神に与えられたものなら、何で最初に魔物に与えてあるのか~って考えた事はない? そうなると、神は魔物の方こそ選んでいたって話しになっちゃうしね」


 ……これくらいにしましょう、先生。他の生徒が増えてきたので。


「うん、そうしよっか。それじゃあ、またね? オルバ君」


 はい。有難う御座いました、メイフェン先生──。

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