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夜中の勢いシリーズ(短編)

桜の下で

作者: あしたば

 夜中の勢いシリーズ第五弾。もはやシリーズ化しましたね。数日書くのをやめるとこんなに書けなくなるのかと思いました。

 自分の親友がなくなってしまったら、そう考えながら読んでくださると、親友の大切さを再確認できるんじゃないかと思います。

 しつこいようですが夜中の勢いで書いてますので、纏まりがないのはご了承ください。

 あいつは此処で、桜を見上げて儚げに手を伸ばしてた。


【桜の下で】


 外に出て数歩歩くだけで汗が溢れ出す。そんな暑いこの日、俺は仕事帰りに花屋に寄った後、ある場所に向かっていた。

 最初仕事で疲れたのもあって歩いてその場所に向かっていたが、日が暮れ始めたことに気づいた俺は、そこで俺を待っている親友のことを考えて少しばかり足を早まらせた。花屋で受け取った二つの纏まった供花をぐちゃぐちゃにしないように、気をつけながら。


 待ち合わせの時間よりも遅くなりそうだったので途中走ってきた俺は、息を上げながらその場所に着いた。親友は既にその場所にいた。

 ――お墓の前で手を合わせて。

 人の気配に敏感な親友はいつもならすぐに俺に気づくのに、音を立てて近づいても見向きもしないのは、それだけ集中してる証拠だった。

 目の前で手を合わせて目を瞑る親友は、この墓で眠る、俺達のもう一人の親友に色んな想いをぶつけているんだろう。

 今日は、死んだ俺達の親友の、月命日だ。


「……なぁ、そろそろ俺にも挨拶させてくんねぇかな」


 俺が来てから十分ほど。流石に俺に気づいたはずなのに、その場所から動かない親友に声をかけた。

 俺の声に反応した親友はようやく瞑っていた目を開け、その目を静かにお墓から俺に向ける。


「長すぎんだよ、お前」

「ごめんごめん。俺も来てなかった分、つい色々報告してたからさ。……こいつに」

「来てなかったのは俺もだっての」


 呆れたように言う俺に、それもそうだね、と困ったように苦笑いをした親友は、こころなしか寂しそうだった。それを見て俺の胸の中が少し痛む。ここにはいないからだ。

 ――あいつが。


 あいつが死んだのは桜が舞う今年の春のこと。

 本当に突然だった。あいつのおふくろさんから電話がかかってきて、あいつが事故で死んだことを告げられたのは。

 信じられるはずがなかった。だって数日前、居酒屋であった時はあんなに元気で、ふざけたこと言って笑ってたんだぞ。なのに、死んだ、なんて。

 現実を受け入れられなくて、通夜も葬式にも出ることができなかった。親友なら行ってやるのが普通だろう。今でも行ってやるべきだったと後悔してる。けど怖かったんだ。現実を受け入れてしまったら、今の俺が壊れてしまいそうで。

 それくらい、俺の中でいつも笑顔をくれたあいつは大きい存在だったから。


 あいつの死を受け入れられたのはこの夏に入った頃だった。ふとスマホの連絡先の欄にあいつの名前を見つけて、何も考えずに電話をした。けどその時、繋がらない電話にやっとあいつはもういないんだって自覚して。

 初めて、泣いた。

 それと同時に、このままじゃいけないと思った。あいつに会いに行かなくちゃ、俺は前に進めない、何も始まらないと。

 だからその日、俺と同じように現実を受け入れられてなかった親友に電話をした。親友は電話に出てあいつに会いに行きたいと言った俺に、俺も同じことを考えてた、と返事をした。そして今日、月命日に会いに行こうと二人で決心したんだ。


「……ごめんな、これなくて」


 俺も親友と同じ状態で、お墓の前に座り、手を合わせて来れなかったことを死んだこいつに謝った。供花も供えて、死んでからのことを報告して。

 言いたいことはたくさんあった。まとまらない言葉に苦戦しながらも、俺は必死になにも言わずに死んでしまった親友に気持ちを伝えた。どれだけお前に救われたのか、どれだけお前がいてくれたことに感謝していたのか。

 そうこうしてるうちにいつのまにか辺りが暗くなっていた。どれくらいの時間そうしていたのか、正直わからない。けど親友はそんな俺を、何も言わずに後ろで見守ってくれていた。


「悪い、俺も長くなっちまったわ」

「いいよ。仕方ないしね」


 親友に振り向いて座ったまま見上げると、親友の優しく微笑んだ顔が見えた。

 多分、親友は待ち合わせの時間よりも早く来て、あいつに色々報告していたに違いない。きっと死んだあいつがこの場にいて聞いていたなら、長いよーと俺達に口を尖らせて言っていただろう。俺も親友も説教まがいのことはしただろうから、それが嫌いなあいつは若干拗ねたかもしれない。

 絶対ありえないことなのに、あいつが『もしいたなら』と考えると、自然に想像できてしまって、おかしくて笑えた。


「……ね、なんで二つ持ってきたの、それ」


 親友が俺が持ってきた供花を指差して疑問を口にした。その言葉に俺は微笑んだ。もちろんそれを持っているのには意味があるからだ。


「行きたいとこがあんだよ、もう一箇所」


 そう、行きたい場所があった。

 そこは終始元気だったあいつが初めて暗い影を見せた場所。俺達になかなか弱みを見せなかったあいつが、一人で悩んでる時に行ってた場所だった。だからこそ、行かなければならないと思った。

 それを聞いて思い当たるところがあったのか、少し勘付いた顔をした親友は俺の顔を見て、行こうか、と呟いた。




 その場所は川沿いに立つ、一本の木があるところだった。

 一年に一度、あいつはここで今にも消えそうな顔で、今は咲いていない桜を眺めていた。たった一人で、俺達に何も言わずに。


「ここ、あいつが来てた場所だね」

「あぁ。……毎年、春の日の夜に一人で来てたよな」

「そうそう。いつも一人で行ってたみたいだから、俺達が後をつけて来た時は驚いてたけど」

「だってあいつ怪しいんだよ。毎年その日だけは誘いを断るから」

「ついてくんなよ! って怒られたっけ。……なにかしら、あいつにはあったんだろうね。ここに来る理由が」

「だろうな」


 じゃなきゃあんな辛そうな顔はしないだろう。俺達にその理由を言うことはなかったけど、あいつにとっては間違いなく大切で思い入れのある場所だったはずだ。

 だから俺は今日、ここにきた。本音を言えばお墓なんかより、ここの方があいつがいそうな気がしたから。それだけ大切にしていた場所だったから。

 俺は青々と茂る桜の木の下に桃色を主とした供花を置いた。流石に夏場に桜が咲くなんてことはなかったから、代わりにそれに似せた花を残した。

 あいつが満足してるかどうかはわからない。でも少なくとも俺は満足だ。

 やっと、あいつと向き合うことができた気がするから。


「……いくか」

「そうだね。今日は俺の家で飲む?」

「いいな、そうしようか」


 馬鹿みたいに飲んで酔って、あいつのことを朝まで色々語ろうか。明日は休みだし、これはオール決定だろ。

 そんなことを思いながら、その場所に背を向けて親友と二人で歩き出す。

 ふと後ろから何かに呼ばれたような気がして、一度だけ足を止めて振り向くと、満開の桜の木の下であいつが俺に笑いかけたような気がした。



 私もそれなりに身内が亡くなってるのでお盆はそれなりに考えさせられるものです。

 私は親友が死んだら、それこそ小説の中の彼らと同じように受け入れられないんじゃないかな、と思います。立ち直るのには時間がかかりそうですね。人の死というものは、難しいものです。

 お付き合いいただき、ありがとうございました。

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