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黒白のカルラ  作者: 輝輝
一章 「覚醒」
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一羽 「霊能」

 朝、僕はいつも通りにセットされたアラームに叩き起され、いつも通りに制服に着替え、いつも通りに朝食を食べ、いつも通りに家を出た。

 そう、全てにおいて、異常などなく、いつも通りだったと思う。

 それなのにも関わらず日常に違和感を感じてしまうのは、やはり昨夜の鴉のせいだろうか。

 人間の体に流れる血液をそのまま目に塗りたくったかのように、真っ赤な瞳をした鴉。

 僕を――僕だけを、じっと見つめ続けていたあの瞳に何が隠されていたのかは定かではない。しかし、僕は自前のある能力の元、少しずつ鴉の正体を探っていこうと思う。

 まずはその能力について話しておこう。

 僕こと朽葉(くちば)真夜(まや)は、まぁアレだ。いわゆる、視える(、、、)人だ。

 人ならざるものを視認することはもちろん、会話だってすることができる。自我を保っている霊体としか話すことはできないが。触れることも出来る。人間と何ら変わらない。幽霊にだっていろんな奴がいる。まだ生きたかった奴、死にたくて死んだ奴だとか。でも総じて彼ら彼女らと、僕たち人間には違う部分がある。 

 幽霊たちは――死んでいて、

 人間たちは――生きている。

 当たり前のことだが、これだけだ。

 人間と幽霊の違いなどこれだけ。所詮は。生きているか死んでいるかの違い。

 彼ら彼女ら幽霊たちは、僕らこと霊能力者のような特異な人間にしか存在を理解されない。だって一般人には視認できないから。

 でも、それは幽霊たちにとっては認めたくない事実なのだ。自分の愛していた人と霊である自分の間には、大きく分厚い壁が存在している――その壁によって、ジリジリと、万力のように引き裂かれていくことを、認めたくないのだ。

 そうして、いつしか存在を忘れられた時、幽霊は二度目の死を迎える。

 存在も忘れられ、霊体としてこの世に存在する理由もなく、全てが消え去って、緩やかに原初へ回帰していく。

 その痛ましい光景は、僕ら霊能力者と言えども見ていて気持ちの良いものではない。自分が認識している存在が消え去っていくのは、霊でも人間でも寂しいものだ。

 僕はたくさんの霊と触れ合う中で、いろんな霊を見てきた。

 でも、決まって、どんな霊であれ消える時には、僕の心に痛みを残していくのだ。刺さるような、鋭く冷たい、未来永劫治ることのない傷を。

 僕は、朽葉真夜という人間は、生きなければならない。

 生きることから逃げるのは、生者には許されていない。

 とはいえ、僕のような見えている人間だけが霊たちと関わって、お互いに影響を受けながら生きているのかというと――存外、そうではない。

 どんな馬鹿であれ天才であれ、あまねく平等に霊に守られて生きているものなのだ。霊は悪いことをする奴ばかりではない。思いが強い人間を守ろうともするものなのだ。

 その際たるものは守護霊というもの。生者の先祖が守護霊になるのが一般的なようだ。そもそも守護霊がいなければ人間はすぐに事故や病気で死んでいるのが実態だ。霊的な支えがなければ、人間はすぐに間違った行動をしてしまう。

 例えば、本能的に何かしようとしていたことを咄嗟にやめたことはないかい? これは危ない、と体が反射的に止めたことと言ってもいい。これは、守護霊が忠告してくれているのだ。このままでは危ないからやめておきなさい、と。危険を承知で登山などに行って亡くなる人は、その忠告を無視した人であることが多い。

 ちなみに、僕は普段力をセーブしているので、守護霊やこの世界を彷徨っている霊の姿は視認できないようになっている。中には結構グロい状態(事故に遭った時の体そのままとか、ビルから飛び降りて頭が潰れてるとか)の霊もいるので、そんなものをいちいち見ていては頭がおかしくなってしまうのだ。

 それに、何かの間違いがあって、僕の力が暴走してしまうと――周りの人間まで霊視ができるようにしてしまう。霊能力者は暴走すると周りにも影響を及ぼしてしまうのだ。今はきちんと能力のコントロールの仕方も身につけているので、そういうことにはならないと思うが。

 まぁ、霊が見えても、良いことなんて一つもないんだけどな。

 この世界は、異常者には優しくないし。 

 霊能力者は小さい頃に周囲の人間からいじめを受けていることが多いため、大半は一般人のことを嫌っている。僕も一般人のことはイマイチ好きになれない。テレビに出演している霊能力者もインチキだし。

 そういった特集をするテレビに対しては、霊能力者である僕から言わせてみれば、悪霊が住み着いている場所に好き好んで行くほうが頭がどうかしていると思う。自殺の名所や廃病院は、特に行きたくない。その場所、地域自体に怨念が染み付いて、やがてはその怨念が意思を形成し、僕たち霊能力者をその場所で自殺させて意思の糧とするからだ。自分のことを霊能力者だと知らない友達に誘われ、断れずに付いて行った結果、メンタルが弱い霊能力者が自殺する例があとを絶たない。

 だからこそ、霊能力者は強い精神を持たなくてはならない。

 自分自身が死なないために。

 

 いつも通りに教室に入り、担任の教師が教室に来るまで文庫本を読み、一番窓際の後ろから二番目の自分の席に座り、適当に授業を受けて、ノートをとって、先生の話を聞いて、挨拶をすることの繰り返し。

 授業を爆睡していて怒られているクラスメイトを笑いながら眺めて、忘れ物をして怒られているクラスメイトを苦笑しながら眺めて、提出物を出さないクラスメイトに同情の視線を向けながら眺める。

 いつも通りに。

 そんなことをしていれば、あっという間に昼食の時間になり、多くも少なくもない友達と昼食を食べ、午後の授業をこなし、掃除をして、下校する。放課後はカラオケに誘われたりするけど、面倒な時はそれも適当に理由をつけて断り、一目散に帰宅する。そもそも僕のような人間が人の多いカラオケに行ってもあまり良い影響はない。いろんな霊を引きつけてしまうからだ。人気のある――まぁつまり人の多い場所には、その雰囲気が羨ましい霊が惹かれてやってくるものだからな。

 まぁ、霊力のコントロールの調子が良い日には、気晴らしに何人かの友達とカラオケとか行っていたりするんだけれど。そうでもしないとそのうち気が狂ってしまいそうだから。

 ……日常とはそういうもので、代わり映えしないからこそ、戻ってこない。非日常を求めているわけではない。僕を非日常の側へと引きずり込もうとするこの霊媒体質も、持って生まれたものだからどうしようもないし、それに今更どうにかしようとも思っていない。

 現状、力をセーブできているのだから、特に何か不満があるわけでもない。

 まぁ、そのセーブも、実際のところ強い霊に近寄られただけで消滅してしまう程度のものなのだが。

 そうそう。

 本当に強い霊というものは、他者を喰らい成長していくという特徴を持っている。他者の力を喰らうことで己の力をより大きなものに昇華させ、やがてはそこにいるだけで霊的異変を起こすほどの強大な存在になっていくとされている。

 そこまで強くなってしまうと、霊を払う力を一切と言っていいほど持たない僕は死んでもおかしくない。

 僕たち霊能力者は、強い霊にとってはご馳走だからね。

 【人間】という生の力がもっとも強い生物であり、霊媒体質の僕ら霊能力者を強い霊が喰らうと、通常の霊を100喰うのと同じレベルの効果が得られるというデータもある。

 全く恐ろしい世の中だ。


「スタバ寄ってこーよー。ホワイトティラミスフラペチーノばりウマだよ?」

  「それな」           

        「はい、この度は誠に申し訳ありませんでした……」

   「あ゛ぁ゛!? うるせぇ! 喧嘩売ってんのか!?」

           「ねぇ、一組の鈴木さんさー」

      「二組の田崎と付き合ってんでしょ? マジウケる」

  「ありえないよねー」

             「ねー」 


 雑多な街中ですれ違う、うるさい女子高生も、営業のオッサンも、喧嘩腰の中学生も、女子中学生たちも、もしかしたら霊能力者なのかもしれない。そう考えるだけでも軽く人間不信になりそうだ。しかもその人たちが僕と同じ穏健派だとは限らない。

 意外と知られていないが――霊能力者が霊能力者を喰っても、力は強くなっていく。ここでいう【喰う】とは、もちろん人肉を食すことだ。

 ちなみに、霊能力者どうしで喰い合うことをせずに、愛し合うことを選んだ場合、子どもは、二人の力を掛け合わせたより強い霊能力者――通称【開眼者】と呼ばれる子になることが確定している。

 僕はどうだか知らないが、まぁ、霊力は別に強い方ではないので、開眼者ではないと思う。


 家に着く頃には辺りもすっかりほの暗くなっていて、徐々に静まり返っていく人々は夜を緩やかに迎え入れているような時間帯。

 生者と亡者の境界が脆くなり、お互いに干渉がしやすくなる時間帯だとも言えよう。

 そんな中、晩ご飯も食べ終え、お風呂にも入り、明日の準備もし終えた僕は一人、二階の自室で黙々と学校の課題に向かっていた。

 家に両親はいない。 

 父は小さい頃に家を出て行ったきりで、母は父が家を出ていってすぐに病死した。今はお金持ちの親戚が送ってくれている生活費でなんとかやりくりしている。毎月ギリギリだが、生きていけるだけまだ良しとしよう、といった感じ。

 お金がなかったら生きていけないということは当然だが本当に重い事実だ。

 それにしても、娯楽品を買うほど生活に余裕がないので、することと言ったら勉強くらいだから成績がどんどん上がっていく。勉強をしているうちに、一人にも慣れてしまったのだろうか、一人でいることの寂しさはもうすでに忘れてしまった。

 倉庫にほこり被ったまま遺されている本は、父と母が残してくれた遺品ではあるが、しかしあまり興味の湧かない本も多く、七割程度は放置されている。そろそろ売り払わなければと思うのだが、それもまた面倒くさいし査定するにも金かかるんだろ、というのが本音だ。

 七割ほど放置されているとは言っても、有名どころのアンチ・ミステリの四大奇書や、江戸川乱歩のミステリ十選辺りは既読だ。

「さて――そろそろ寝ようかな」

 一人ながら呟き、ベッドに入ろうとした時、家のドアがノックされた。


 コンコン。


 空気に溶けて消えたその音は、僕に僅かな恐怖をもたらした。

 こんな時間に誰だ?

 もう十一時半だぞ。無視して寝てしまおう。とは言っても、外から僕の部屋に灯りがついているのは知られているから、安易に無視も出来ない。このまま家の前に張り付かれても迷惑だし。

「っち……申し訳ないけど、すぐに帰ってもらうか」

 悪態を付きながら、一階へ降りて、ドアノブに手をかける。

 その瞬間、パリッ、と脳内に走る電流のような感覚。

 外にいる人間――か霊なのか、それはわからないが――は、かなり強い霊力を持っている。

 その証拠に、今、僕がかけている霊媒体質に対してのセーブがかき消された。視界に、少しずつおぼろに霊の姿が映り出す。近くに強い霊がいる以上、セーブのし直しは出来ない。家の中だから、グロテスクな死体がない、というのは不幸中の幸いと言えるだろうか。

 本能的に恐怖を感じた僕は、台所に行って浄めの水で浄化されている、霊をも殺せる包丁を懐に入れ、玄関に戻る。ここまで強い霊力を持つ奴が敵だった場合、こんなもので相手が出来るとは到底思えないが。むしろ僕が瞬殺されて完結じゃなかろうか。

 現状として霊媒体質をフルに発揮できるようになったこともあり、ドアを挟んでも相手の霊力がどれほどのものか鮮明に測れるようになったが……これは、マズい。

 僕が出会った今までのどんな生物よりも、こいつは強い霊力を持っている。仮に僕が千人いたとしても勝てないかもしれない。いや、勝てない。断言できる。訓練を積んだ霊能力者と言えども、一人ではこいつの足元にも及ばないだろう。そう思わせるほどに、強い。

 これほどの霊力を持っているのなら、おそらく籠城など無駄だろう。この家に立て篭っても、ジリ貧なだけだ。

 本当に僕に用があるのか? もしかしたら人違いじゃないか? という考えもないではない――人間違いか何かだと信じたい――が、あいにくと我が家にはきちんと【朽葉】という表札もある。間違えることはないだろうな。

 正直に言ってしまえば、怖い。

 しょうがない――いい加減に腹を括ってドアを開けよう。

 本当に、ただ生まれつき霊力が強い開眼者がうちを訪ねているというだけの可能性もあるし。

 様々な可能性を吟味しても、やはり恐怖は消えることはない。しかし少しだけ気は楽になったと思う。

 ドアノブに手をかけて、ドアを恐る恐る開ける。


 そこに、いたのは。

 

【セーブ】

霊力をコンタクトレンズのようにして角膜に被せ、霊を見えなくする技術。

霊能力者が健全に日常生活を送る上で必要不可欠な技術。

霊能力の扱いの初歩。

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