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第三十八話

ーーーーー翌朝ーーーーー

「では行って参ります、閣下。」

「うむ、無茶はするなよ、斎藤大尉。」

「はは、せいぜいあっちにいる馬鹿者をおちょくって来ますよ。」

手を振りながら愛機である彩雲に駆け寄っていく、エンジンの暖気運転も済んでいるのですぐにカタパルトに移動し発艦体勢に入る。重い機体でも楽々と射出し彩雲は高度を上げていく、今回はビラをばらまくのが目的なので大型増槽(900リットル)に積んでいる。重量は殆ど無いので気にしないレベルである。なお大量に落とすため今回は1個小隊(3機)と護衛の烈風1個小隊(3機)の6機が行くことになっている。


ーーーーー港街ファンド(旧名王都ファンド)ーーーーー

ガッシャーン

「糞が‼」

悪態をつきながらガラスの花瓶や窓ガラスを割りまくっている男がいる、体つきは精悍そのもので見事なマッチョである。顔には向こう傷などがあり子供が見れば泣き出すことは必至であろう。何せ自分の子供からでさえ泣きわめかれてまともに抱くことが出来ないのだから。

「失礼します。」

副官が部屋に入ってくるとため息を吐いた。

「部屋は散らかさないでください、掃除をするのも楽ではないんですよ。」

「分かっとる!だがあれだけ海軍の連中に言われて押さえられるか!」

部下から上がってきた報告には、空軍は役に立ちませんな、だとか、いやはや無駄飯ばかり喰らっておりますなとかの陰口が叩かれているそうだ。よっぽど殴り込みに行ってやろうかとも思ったが、そこから揚げ足が取られるかもしれないので我慢している。が、我慢にも限度というものがある。今それが爆発しただけの事だ。

「そうでしょうね、将軍の気位ならばそうなるでしょう。とりあえず昨日の被害はこちらになります。」

差し出されたのは昨日の謎の奴等からの攻撃(実態は空軍による自爆、対外的にそうしないといけなかったため)の被害が記されていた。

「まったく、くそ忌々しい。どれ・・・これは本当か?」

家が4件全焼、十数件が半壊、更に誘爆した油の集積所と被害はかなりの数にのぼった。負傷者は数知れずである。

「悪いことに見られていますから我々に請求が来ています、大隊の予算二ヶ月は飛びますね。」

見られている以上ごねるのは論外だ、仕方なく認可の判をつく。

「くそったれが‼俺達が居ないと何もできないくせに‼それより昨日の奴等は見つかったのか!」

首を横に振り

「凄まじい速さで逃げられました、ですが次に来たときは逃がしません。」

いきなりドアが勢いよく開かれる、そこにはいつもは冷静な部隊長がいた。

「将軍‼」

「何があった?」

「昨日の奴がやって来ました、今日は6匹もいます。」

「そうか、じゃあ全員で出迎えてやれ!必ず叩き落とすんだ!!俺達を舐めていることを後悔させてやれ!!」

「了解しました!!」

獰猛な笑みを浮かべて笑う将軍と部下たち。彼等は勝利を微塵も疑ってはいなかった、ただ前回の報告をしゃんと見るべきだったのだ。追い付けなかったという報告を。


ーーーーー帝国軍戦闘騎隊ーーーーー

「今日こそあいつらを叩き落とすぞ!この前馬鹿にされた借りを返してやれ!」

「「おう!」」

風魔法を使い部下達に発破を掛ける、今回は60騎も動員している。これで逃がすことは無い筈だ。それに飛竜もたっぷりと肉が食べられたのでご機嫌だ。

「隊長、見えました。」

「よし、攻撃だ。」

どうやら今回のは高度が高いようなので腹から攻撃を仕掛けるが

「何だと?」

一気に増速した敵によってブレスが後ろにそれる。

「くそ、追いかけるぞ!」

「「了解!」」


ーーーーー彩雲ーーーーー

「あんなので当たるわけがなかろうに。」

『馬鹿ですなー、烈風隊に攻撃させますか?』

後部座席にいる飛曹長が聞いてくる。

「いや、とりあえずビラをばらまくのが先だ。列機へ、増速しつつビラ投下用意。都市の上空に着き次第投下。」

『『了解。』』

エンジンが唸りを上げ機体が見る間に加速する、すぐに都市の上空に到着する。

「よし、撃て。」

胴体下に吊るされた大型増槽が機体を離れる、きっちり十秒後に空中分解して中に詰められていたビラがばらまかれる。

「列機も無事に落としたか?」

『はい、一面紙だらけですよ。ところで結構な数が追いかけてきてるんですけどどうしますか?』

「うーむ、閣下からは無茶はしないようにと言われてるしな。どうするべきか。」

『遅いですから引っ掻き回すだけにでもしますか?』

『おーい、斉藤。聞こえるか?』

戦闘機隊の隊長の藤堂大尉が通信を入れてくる。

「何だ、藤堂。」

『俺達は今回ロケット弾6発積んできてる、これをあいつらに叩き込んだら駄目か?どうせ対地攻撃なんかしないだろ。』

「俺達は陽動だぞ。」

『だがガツンと喰らわせてやった方が逆上するだろ、それにまだまだ上がってきてるしな。』

下を見ると飛竜が上がってきている、今いる3000メートルまで来るには時間がかかるだろう。

「駄目だ、ただ追いかけてきても引き返そうとしたときにぶちかませばいいだろ。」

『仕方ねぇな。分かったよ、じゃあさっさと離脱しようぜ。』

「ゆっくりとだがな、敬真上等兵。」

『はっ。』

「翔鶴に打電、敵の釣り出しに成功せり、迎撃隊の発進求む。だ。」

『了解。』

「さっさと逃げるぞ、念のため藤堂達は上に待機しておいてくれ。」

『合点だ。』

ヤクザの殴り込みではなかろうにと思ったが気にしないことにした、下品でもいつもの事だからである。


ーーーーー翔鶴ーーーーー

「失礼します、翔鶴一番より入電。『我、敵の釣り出しに成功せり。迎撃隊の歓迎を求む。』です。」

「そうか、心配はしていなかったがうまくいったか。迎撃隊の発進許可する、こちらの直衛は1個小隊だけで良い。後は迎撃に回せ。」

「了解しました。」

飛行甲板で待機して暖気運転も終えていた迎撃隊が発艦する、流星は身軽に何も付けずに発艦だ。

「流星から出すぞ、全部の射出カタパルトからだ。関係ない奴はスポンソンに入ってろ!巻き込まれても知らんぞ!」

「射出カタパルトに接続確認、発艦準備完了。」

準備が終わり艦の上下動がおさまった時に流星から射出されていく。いくら装備を付けていないとはいえ重い流星は遅い、その為烈風が後から追いかけていく事になったのだ。なお迎撃なので烈風には増槽無し、引火すると危険なため。

「頑張れよー。」

整備員が帽子を振りながら見送っていく、艦橋では全員が敬礼しての見送りだ。

「全機無事に帰ってきてほしいものだ。」

その呟きがふと口から漏れていく、どんなに圧勝できたとしても被害はでる。それが少ないか大きいかの違いしか無いのだ。

「利根に通信。」

「はっ、何とでしょうか?」

「駆逐艦2隻を連れて前進し被弾した機体から脱出した乗組員の救助に当たれ。」

「了解しました。」

利根から『了解せり』との発光信号を受け取った後、島風と谷風が随伴していく。あの艦達ならば速いから問題は無いだろう。


ーーーーー帝国空軍戦闘騎隊ーーーーー

「何で追い付けんのだ!あんなに近いのに!」

 ギリギリと歯を食い縛りながら飛竜を急かす、近寄れば離れられ、こちらが引き返そうとすると近寄って挑発してくる。

「糞が!!馬鹿にしてんのか!!」

悪態をついても何も変わらないがこの時飛竜も人間も疲労していた、太陽に向かっての飛行、何時もならば行わない長時間の全力飛行などである。

「隊長、そろそろ速度を落とさないと落ちてしまいます!!」

「く、仕方ない。少し速度を落とす、全員密集陣形!」

飛竜が固まり一塊になる、こうすると周囲からの接近に対応しやすくなるし、何より生き物は大きいものを襲うのに躊躇するため効果的であると考えられているのだ。

「陣形の変え終わりました。」

「よし!少し休んだらまた追いかけるぞ!!」

まだ忌々しい敵は近くにいるのだから・・・。


ーーーーー迎撃隊ーーーーー

「綺麗に団子になっているな。」

『良い具合に固まってますね、行きますか隊長?』

「そうだな、義経一番より全機へ。行動は分かっているな?」

『こちら弁慶一番、大丈夫だ。』

『こちら佐助一番、問題なし。』

『こちら与作一番、格闘戦には巻き込まれないことは全機徹底しろよ。』

義経は瑞鶴戦闘機隊、弁慶は翔鶴流星隊(予定では爆撃隊か雷撃隊かにする予定だったのだが万能機なので機体名に変えられた。)、佐助は翔鶴戦闘機隊、与作は瑞鶴流星隊である。

「彩雲達は抜けたな、掛かるぞ!」

高度差が1000メートル近くあるため(偵察隊と飛竜は高度3000メートル、迎撃隊は高度4000メートル)上空からの一撃離脱戦法になる。最初に義経、弁慶の翔鶴組が攻撃し敵の態勢を崩れたところを佐助、与作の瑞鶴組が攻撃することになる。これには敵の追撃を防ぐための意図もある、いくら性能に差があっても上空からの攻撃は危険だからだ。この後は敵を殲滅するまで繰り返す事となっている。被弾した機体は母艦に帰艦するように命令されており、最悪帰艦できない場合は前進してきている利根に収容されること、機体と運命を共にすることは厳禁とされた。


急降下し飛竜達に襲いかかる、上手い具合に雲がかかっていたので上空にいたことはばれていない。照準器一杯に飛竜が写り込んだ瞬間に引き金を引く。


ガガガガ


20ミリ機関砲が猛然と弾を吐き出し面白いように命中する。敵が混乱している隙に義経隊は全速で駆け抜け高度を落とす。それでも反応の良い敵が追撃しようと追ってくるが追い付けはしない。

「絶対に格闘戦には乗るな!」

一気に駆け抜けた後、敵機を引き離し高度を上げる。敵機の集団がいたところを見ると佐助、与作隊の攻撃を受け墜落していく敵機が見えた。

「上手くいっているな、第二撃を仕掛けるぞ。」

『了解!』


義経、弁慶隊が急降下した後敵機が崩れるまで見ていた。十秒程で数機単位の小集団に別れてくれた。

「ほう、良い具合に散ってくれたな。各小隊は小隊長の指示に従って攻撃せよ、では行くぞ。」

佐助、与作隊が急降下に入る、ある程度の数に減っているため一つの集団に三個小隊が当たるような形になった、だが。

「何?!」

数匹の飛竜はベテランらしく体勢を立て直し佐助、与作隊に反撃をしてくる。佐助隊は機動性能の良い烈風だった為被害はないが、与作隊の流星はそうはいかない。運の悪い一機がそれに捕まり被弾する、当たったのは主翼の端であるが主翼の三分の二がもぎ取られ堕ちそうになる。

「くそ、もう体勢を立て直したか。堕ちたのは何機だ!?脱出できたか?」

『一機だけです、ですが数機被弾しました。隊長、機体の立て直しをして射出座席で脱出してます、パラシュートも二つともあります。』

「そうか、では被弾機は帰艦させろ、残りは義経隊に続くぞ。」

『了解。』

思わぬ反撃を食らったがそれでも少ない方である、波状攻撃により飛竜が全滅したのは十分ほど後であった。


戦闘結果

帝国飛竜部隊

戦闘騎60騎、爆撃騎40騎・・・全滅、生存者無し(パラシュート等がなく脱出することもできず海面に叩きつけられるもの、飛竜の可燃物(多分ブレスの燃料と思われる)に引火し火だるまになったものもいた。)

迎撃隊

翔鶴、瑞鶴

烈風74機、流星80機・・・烈風喪失無し、流星完全喪失1機、損傷機2機(すぐに修理が可能なほど軽微)負傷者無し

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