第三十三話
ーーーーー帝国軍ーーーーー
一晩明けて被害の全容が見えた。これでもかと言わんばかりにあった荷車は燃え尽き異臭を放っている、極少数の荷車は残っているがそれで全軍に食料が行き渡るのは不可能なのは明らかだ。
「何ということだ、こんな事があっていいものか!!」
腹を弛ませながら憤っている。ある意味自業自得なのだが、どこの軍隊に歩哨に仕事をさせない軍隊がいるのやら(ここにいる)。
「食糧が無いと、どうしようもないではないか・・・、こうなれば攻めるしかない‼準備をするのだ。」
「それしかありますまい‼あの町を落とせば作戦目的の一部は達成できます、それに海軍からの補給も期待できます。」
「海軍に借りを作るというのは、不満が残るが。今のままではどうしようもない。今の残っている食糧を全ての兵に配れ、明日に落とせなければ負けだとも説明するのだ。」
「分かりました。」
負けるかも知れないと言って付いてくる兵は少ない、基本的に勝ち戦に乗りたがるのが普通なのもあるが命は惜しいというところが誰にでもあるからだ。
「勝たねば先はない、帝国の威信に傷をつけるわけにはいかんのだ。今の食糧では例え配給を少なくしても長くは持つまい、兵が個人で持っているものも三日分も無いだろう。ならばあの町を落とすしか活路はない‼」
かつての中国でほぼ同等の戦術を使用した武将がいる、前漢の名将韓信であり、後に有名となる井陘の戦いである。野戦で三万の兵力が二十万の兵と互角に戦った事から分かる通り覚悟を決めた兵は数倍の敵とも互角に戦えるということである。ついでに城攻めには通常三倍の兵力がいると言われるが、その点は完全に問題はないと言える。
現在の兵力
帝国軍十万対レイウェル公爵直属の騎士団五千+ニライカナイ防衛軍機械化歩兵師団一個一万五千合計二万。
現在の兵力差ゆうに八万である。
これで戦って負けると思う人間はおるまい、今まで通りの装備ならばだ。そして敵には圧勝出来る筈の兵力があり、士気も高い、自らに言い聞かせるように前進が命じられる。だがこの時考えてみるべきだった、昨日食糧を燃やしたものは一体何なのか、そして目の前の敵は本当に今までの敵と同じなのかということを。
ーーーーーヨルトリンゲルーーーーー
「お、突撃してきたぞ。先頭は・・・あれはチャリオット(戦車)か、馬は6頭で御者が一人、盾と槍を持っているのが二人、後ろに三人いるが弓兵かな?その割には弓を持っていないが・・・、うーん何だろうか?」
「考えても撃ってこなければ分かりません、どうしますか?」
側で一緒に見ている副官が聞いてくる、チャリオットはそろそろ城壁から三千メートル程に近づいてきた。するとチャリオットの後ろにいた三人から光が出てきて城壁に火弾が飛んできた。
「被害報告‼」
すぐに一階から無線で返事が届く。
『被害なし、べトンで防ぎました。ですがまぐれ当たりも十分に考えられます。発砲許可願います。』
まぐれ当たりで殺られたらたまったものではない、防衛隊長は即座に判断を下す。
「分かった、許可する。92式10センチカノン砲、96式15センチ榴弾砲、カチャーシャ発射準備‼完了次第撃ち方始め!!」
『了解しました‼砲弾装填しろ、弾種は榴弾だ。』
お返しが発射されるまでそれほど時間はかからなかった、何せ全軍が発砲許可を下りるのを今か今かと待ちわびていたのだから。本来は地雷原に入り込むまで待つ事にされていたのだが、人命第一主義なので反撃が開始された。ちなみに地雷原は城壁から2000メートルの間に戦車用地雷と対人地雷がびっしりと埋められている。城壁はベトンで補強され鉄筋も張り巡らされている、鉄条網は地雷原の手前に沿って張られている。
ドン、ズゴン、バシュー
片っ端から撃たれているので隣で話していても聞こえないため殆んど怒鳴っている。
「撃ち方開始いたしました!!」
「よろしい!!撃って撃って撃ちまくれ!!機関銃隊は射程に入るまで我慢させろ!!」
「了解!!」
砲弾は大量に揚陸しているので残弾は気にせずに撃ちまくっている。機関銃隊はM-2機関銃を装備させて城壁に銃眼を掘って待機している、当然十字砲火になるように配置している。
「装填急げ!!訓練通りにやればよい、急いで正確に・・・だ。」
カチャーシャは大量に並べられている発射機から発射している、積むためのトラックたちは防衛戦では不要と判断されたためだ。
ドン
「カノン砲、榴弾砲二射目です。」
「早いな、こちらも援護しなければ。装填まだか?」
「間もなく完了します。」
「宜しい、急がせろ。狙いは雑で良いぞ、どうせ狙ったところには当たらんからな。」
自分の本分ではないが命令ならば従うという姿勢の元黙々と作業に移っていた。尚作業員はソ連兵でなくドイツ国防軍に代わっている、ヴァルトがソ連兵を嫌っているためだ。
ーーーーー帝国軍ーーーーー
「当たったな、被害は出たかな?」
「知るかよ、こっからじゃさっぱり分からねえな。とりあえず命中しなくても景気付けにはなるだろうよ。」
チャリオットの後ろで先程魔法を放った者たちが話している、自分達に叶うような奴はいないと考えているため油断しまくっている。
「まあな、しかしあんな町に俺たちを投入するなんて上は何を考えているんだろうな。」
「お偉いさんの言う事は分からんからな、ま、俺たちは命令どうりに動くだけだ。」
「そうだな。そういえばあれはなんだと思う?」
「侵攻防ぐための何かだろ、落とし穴みたいに見えないわけじゃないから、気にしなくても大丈夫じゃないか?」
「あんなほっそいので何かできるとも思えないしな。」
ヒュルルル
「おい、なんの音だ?」
「大方敵の奴等が何かしてきたんじゃねぇのか。まぁ何もされないよりかは戦いらしくて良いんだけどよ。」
ズガーン、ドゴーン
盛大に土砂を撒き散らしクレータを作りながら砲弾が彼らを耕している、先頭を走っていた彼らが後ろを見たとき、そこにいたはずの歩兵たちは半分以上いなくなっていた。
「ギャアーー!腕が・・・俺の腕がー‼」
「誰け!光をくれ‼何も見えないんだ‼」
「助けてくれー‼」
悲鳴が木霊する、これは何かが違うとチャリオットを止めようとするが重量のあるチャリオットはそう簡単には止まらない。
「ヒヒーン」
足を鉄条網で痛めた馬に後続の馬がぶつかり、慣性で馬車が地雷原に入る。
カチ、ドカーン!!
重量に反応した対戦車地雷が起爆する、それ以外にも車輪に引っかかったワイヤーが断ち切られたことによりs-マインが作動する。
ポン、ドン!
対戦車地雷は馬の重量に反応したのだが慣性のついた車部分はそのままの勢いだったため乗っていたのは放り出されたのである、s-マインのたっぷり埋まっている地雷原に。しかも着地のときに複数のs-マインを作動させるおまけつきで、そのためチャリオットから投げ出された者たちは最早生きてはいなかった。最強であるはずのチャリオット隊は地雷原を数メートル開拓しただけで全滅した。
「オイ!一体どうなってるんだ‼」
将軍が怒鳴るが誰も答えられない、それ以前に自分の命の方が大事だからだ。
「これでは戦いにならん‼クソ、撤退だ‼」
この声に反応出来たもの達は被害を受けている中列以前を見捨てて逃げる準備に入る。帝国軍の隊列は先頭から順にチャリオット、重装歩兵、軽装歩兵(スリング装備)、弓兵、カタパルト、バリスタ、将軍の指揮する部隊となっている。騎兵は遊撃戦力として隊列には加わっていない。当然移動に手間をとるカタパルトやバリスタは放置だ。
キュラキュラキュラ
「何の音だ?」
後方から聞いたことの無い音が聞こえてくる、何だろうと思っていても誰も答えることは出来ない。
「な、何だ!あれは?」
そこには複雑な模様をかかれている何かがいた、大量にいる。見ただけで分かることは馬よりも早そうということだけだ。
ーーーーー強襲揚陸軍ーーーーー
あきつ丸を含めた残りの強襲揚陸艦はぐるりと回って帝国軍の後方に上陸していた、敵が城壁に阻まれている間に挟撃する作戦にしていたからである。そのため強襲揚陸軍は完全に機械化されている、電撃戦が前提にあるからだ。帝国軍が見たのはその強襲揚陸軍であった。
「見えたな、これより攻撃を開始する。全車停止、砲撃準備、弾種は徹甲弾!」
走ったまま撃っても命中することはない、戦車戦では停止、照準、発射のサイクルを繰り返すのが普通だ。ソ連みたいに走りながら撃っても安定装置が無い以上まぐれ当たり位にしかならない。揚陸軍は迂回するのに速度が必要なため戦車はT-34/85で統一されている。
「装填完了‼」
「よし、撃て‼」
狙いは付けなくても、撃てば当たる状態だから適当に撃っている。こっちが撃っている間に装甲車が機銃を撃ちながら近づいて行く。
キィィィーン
上空からはシュツーカがサイレンを鳴らしながら爆撃を行う(サイレンはスペイン内戦の時に使用されたもの、爆弾は250キロ爆弾)、急降下の音はそれだけ敵を畏怖させる事が出来るからだ(ついでに技量の向上等も狙っている)。その音に驚いて動くことすら出来ない歩兵を踏み潰しながら装甲車とT-34が前進する、巻き添えにしないように敵の中心に爆弾は落とした。プチプチと潰しながら行っていると敵から白旗が上がる、実に呆気なかった。
「信号弾青、白。全隊に通達、敵軍降伏せり。これより武装解除に入る。」
放心しているのか、実にスムーズに武装解除は進んだ。砲撃だけで決着がついた形となった。武装解除させた後、捕虜は戦場掃除に役にたってもらうとしよう。この戦いで不満が出たのは機関銃連隊と突撃砲連隊であった、出番が無かったと。そこら辺は割りきってもらうしかなかった。
カチャーシャ:別名スターリンのオルガン、点より面での制圧を前提にしている。今回は射程の長いM-13が使用された(8500メートル)。




