第三十二話
前話で草原でしたので少し変えます。
ーーーーー帝国軍ーーーーー
「さてあの町は降伏するかな?」
まるで豚のように肥った男がブヒブヒ言いながら笑っている。
「我軍の偉容を見ればすぐにでも降伏するでしょう。全く空軍の連中もだらしないですな、あの様な一都市を落とすことができないとは。」
側で胡麻をすっているのは金色の鎧を着た、これまた豚のような男だ。
「ウム、我軍より弱いとはいえ実に情けない。明日から進軍するぞ、早々にあの町を落として女で楽しみたいものだ、デュフフフフ」
翌日進撃を再開した帝国軍は予定より遅れて15日かけて到着した。
ーーーーーヨルトリンゲル・城門ーーーーー
「ほう、あれだけいれば凄まじい威圧感だな。」
城門の上の弾着観測所では帝国軍を見てそんな感想を漏らす、十万の人間がいるのだからその威圧感たるや言わずがもなくである。
「今日は攻めてくる気は無いみたいだな。」
双眼鏡で覗いていると食事の準備をしており火の準備をしていた。
「よし、閣下に連絡だ。『敵は夜営の準備をしている。本日の攻撃は無いものと思われる』だ。」
「了解しました。」
無線が打たれ翔鶴に届いた(無線が傍受出来ていない事も考慮に入れているので霧島が翔鶴に付き従っている)。
ーーーーー翔鶴ーーーーー
「敵前で夜営をするとか正気か?」
「それだけ自信があるんでしょうね、いかがいたしますか?」
予定では帝国軍を城壁に引き付けてから挟撃しようと思ったが、どうやって敵の全軍を城壁に向けるかという問題があった。
「食糧が無くなれば攻めるしかあるまい、ここの周辺には食糧を採ろうにも森などは無いしな。」
「では?」
「艦攻隊で夜間着艦が出来るものはいるか?」
今から出撃すると帰還は夜になる、サーチライトは点ける予定ではあるのだが念のためだ。
「全員可能です、むしろ省いたらやる気がかなり削がれますよ。」
「じゃあ全力出撃か、全機対地攻撃装備。使用弾には三号爆弾及び試四号爆弾を搭載せよ。上空直衛は一個中隊だけ残したので構わない。」
「了解しました、烈風は対地装備にしますか?」
対地装備の烈風は250キロ爆弾一発、10センチロケット弾が四発になる。通常装備は増槽と10センチロケット弾を四発。
「機動性能が落ちるから通常装備で良い、戦闘機本来の仕事の方が重要だ。」
「了解しました。」
格納庫に命令が伝えられ慌ただしく出撃準備が整えられる。一足先に彩雲が目標の選定のために飛び立っている、目標は食糧だ。どれだけ武器があろうとも食糧が無ければ何も出来まい。
ーーーーー彩雲ーーーーー
「閣下の為ならえーんやこーら、とくりゃ。」
高速で飛行しながら操縦手が気分よく歌っている。早めに行かないと暗闇で見えなくなってしまうからだ。発見したら報告したあと上空で旋回し照明弾を落とすことになっている。
「機長、あれじゃないですか?」
遠くから見えていた煙の元に行くと数えきれない程の荷車があった、一部の荷車には龜があり、ヨルトリンゲルで聞いた通り泉などはないので水は付近では補給出来ないようだ。公爵曰くヨルトリンゲルの周辺では、地盤が固く簡単には井戸などが掘れないらしい。何でそんな所に町を作ったんだと思ったがヨルトリンゲルでは普通の水が出るようだ、それに魔石はそこまでしてでも欲しい物だそうだ。
「あれっぽいな、よし、翔鶴に打電『補給物資発見せり、位置はヨルトリンゲルより北80キロの地点』以上だ。」
「了解しました。」
打電し終えるまで上空で旋回しどれだけいるのか調べておく、結構広範囲に散らばっているようだ。
「じゃあ攻撃隊の道案内のために長波出せ。」
「了解しました。しかし参加できないのは悔しいです。」
「アホ、逆に特等席で見えるだろうが。戦果確認も仕事になるんだからしゃんと見ておけよ。」
「はい。」
ぶつくさ言いながらも仕事はしていた。
ーーーーー翔鶴ーーーーー
「彩雲から発見したとのことです。」
「攻撃隊発艦せよ、必ずしも全部の補給物資を燃やす必要はない。無事に帰艦するように心を砕け。」
命中させるのに必死になりすぎて死亡するなどは愚の骨頂だ。高度を落として爆撃すると万が一にも落とされかねない。機体はいくらでも出せるがパイロットは貴重なのだ。
「了解しました、全機発艦!!」
カタパルトから流星が射出される。彩雲から敵機がいないのは分かっているので重い流星を先行させた。烈風は殆んど仕事が無いだろうな、保険のために同行させるんだけど。
ーーーーー帝国軍・補給部隊ーーーーー
「お偉いさんは今頃旨いもんでも食ってぬくぬくと寝てんだろうな、くそったれが!!」
今日も先ほどまで重い荷物を運んでいた兵士が文句を言う、貴族達や将軍たちはいい物が食べられるが彼らのような一般兵は固いパンと干し肉の入った塩辛いスープしか食べられない(その分敵地での略奪を認可しているのでやる気を出させるためとも言えなくは無い)。
「まあまあ、落ち着いてください。あんな町一日で落とせますよ、きっと。たっぷりと楽しみましょう。」
隣にいる歳若い同僚が話かけてくる、彼は軍に入った時に食べ物が食べられるのは幸せだと言っていたのでこの食事に文句は一切言っていない。
「そうだな、今日はさっさと寝よう。」
そう言ってテントの中に入り毛布をかぶり眠りに付くのだった。ほとんどの兵士は同じ行動をしており将軍とて例外では無かった。夜警に立つ歩哨は酒を飲み役には立たなかった。この時歩哨が仕事をしていれば・・・、まともな将軍がいれば・・・、他の軍と協調できていれば結果は変わっていたのかもしれない。
ーーーーー一時間後ーーーーー
攻撃隊はすぐには上空には行かなかった、翔鶴からは30分で到着出来るのだが、それでは早すぎたからだ。それに補給部隊を攻撃するのには北から攻撃した方が良いと、大きく迂回し北から補給部隊の攻撃に移ることになっていた、攻撃隊は二波に分けられ一撃目は翔鶴隊が、二撃目は瑞鶴隊が受け持つことになっている。
「そろそろ目標地点です。」
「分かった、夕方だから敵には見にくいだろうな。手間をとると真っ暗だな。」
「手早く終わらせましょう。」
前方に複数の荷車が見える。テントもあるが巻き添えは出るものだ、そう思い納得する。
「良し、攻撃に移るぞ。でもこれだけいたら狙う必要はないな。各機爆撃用意。」
3機編隊で動いているため トライアングルに移行する。
「準備完了。」
後席から列機の準が整ったとの報告が来た、いざ投弾しようとしたとき左の方で炎が上がる。他の部隊が先に投弾したのだ。
「む、一番槍は取られたか。良し我々も落とすぞ。よーい・・・撃ー!!」
流星から三発の三号爆弾が落とされる(胴体に一発主翼に二発)。一撃で目標をはっきりさせ二撃目で燃やし尽くすという作戦なのだ。全部燃えるとは思わないが半分でも燃やせれば御の字だ。がむしゃらに突っ込んできてくれれば、こちらは大分楽になるし。
「良し、投弾完了。長居は無用だ、帰艦するぞ。」
翔鶴隊が爆撃した後、すぐに瑞鶴隊がやって来た。
「うんうん、よく燃えているね。これなら試四号爆弾の威力が充分に発揮できるね。」
要はナパーム弾である試四号爆弾は単体でも強力だが可燃物と火があればより強力に燃え広がる、例え生木や人間であってもだ。
「こっちも爆弾ばら蒔くよ、ただし手前にだ。奥のをやると陸軍が文句言って来るからね、分かったかい!?」
「「了解です、ボス!!」」
「じゃあ行くよ!!」
一番素行は悪いが腕は良い部隊の瑞鶴隊は広範囲を満遍なく燃やし尽くす。
ーーーーー帝国軍ーーーーー
地上では誰もが右往左往していた、中には火を消そうとした者もいるが、人間の丸焼きが出来て終わっただけだ。助けようと触った者も自分の腕が燃えた、消そうにも水はないし悲鳴が上がる、あるものは絶望しながら生きたまま火葬される。またあるものは自らの腕を切り落とし、火からは逃げることは出来た、だがこれからの生活を考え放心している。結局朝になるまで火は消えず、その後には消し炭が残っただけであった。その火はヨルトリンゲルからでもよく見えたとされる。
昔の貴族は太っている方が統治能力が高いとされていたようです。
試四号爆弾:三号爆弾に改良が施された。粘着性の高い可燃物を広範囲にばら蒔く、水では消えず土などで被せて消すか、患部を切り落とすしかない。




