第三十一話
ーーーーーヨルトリンゲルーーーーー
その日の早朝、港に集まった者達は驚きで腰を抜かしてしまった。水深の調査のために先にヨルトリンゲルに入港していた島風を目撃したからである(厳密には測量を終えて合流しようとしている)。
「な、何なんだ。ありゃあ。」
漁師である彼は何時ものように船を出しに来ただけなのだが、偶然目撃してしまったのである。公爵もヴァルトが三日後に到着すると言っていたので今日の昼頃に騎士を派遣するつもりだったからである。
ーーーーー翔鶴ーーーーー
「島風から入電です。」
頷くと伝令が話し出す。
「『水深に異常なし、ただし埠頭は木製であるため装甲車両の揚陸は不可能だと思われる、近くに砂浜があるため、そちらに揚陸させる方が良いかと思われる。』以上です。」
「そうか、戻って良い。ご苦労様。」
「失礼しました。」
敬礼して通信室に伝令が戻っていく。
「接岸が難しいのは厳しいな、仕方無い。大発で揚陸するようにときつ丸に伝えてくれ。」
「入港させるのはときつ丸だけですか?」
「いや、アドミラル・シェーア、氷川丸、日進、それに秋月型二隻をつける。他のは別のに使う。」
「了解しました。」
神州丸達はそちらの方に使わないとな。
「では挨拶に行くとしようか。」
ーーーーーヨルトリンゲル・港内ーーーーー
タンタンタン
「うーむ、しかし大きい船ばかりだな。」
大型船用の埠頭で公爵が待っているが小舟が近寄って来るのを待っているとヴァルトがやって来る。
「お久し振りです、ヴァルト殿。」
「お久し振りです、少し早く着いてしまいましたが問題は無いですか?」
少し問題はあったのだが、努めて無視することにした。
「大丈夫ですな、それで怪我をしている者達なのですが・・・。」
「どれだけいますか?」
すると視線を後ろの倉庫に向けた。どうやら病院の代わりらしい。中には多数の病人がいる、ここまで臭気が漂ってくるということは膿んでいるものもいるということだろう。
「軍医、頼んだ。」
「了解しました、行くぞ。」
看護兵を伴って軍医が倉庫に入っていく、こちらはこちらで話を詰めておく。
「海岸と城壁は我々が使用しますが、よろしいですか?」
「我々も参加して良いのでしたら大丈夫です。」
戦闘には参加できないとは思うが・・・大した問題にはならないだろうし
「邪魔をしないのでしたら良いですよ。」
そう返事をして部隊の揚陸を指示する。
「閣下、怪我人の確認が終わりました。」
軍医がやって来て報告する。
「軽傷な者は4割程でこちらは応急措置で問題ありません、しかし重傷者は体力の低下を含めて危険な状態です、一部は破傷風になりかかっています。」
「ワクチンを与えて治療しておいてくれ、氷川丸に入れるほど容態が悪いものはいるか?」
「小数おります、収容してもよろしいでしょうか?」
「許可する。」
「それともう一つ気になることがあります、看護しているものもですが壊血病になっている者いるかと。後は栄養失調になりかかっているものもいます。」
「分かった、楓君、炊き出しの準備をさせてくれ。」
「了解しました。」
腹を膨らませるためにビタミン類を摂取していなかったのだろな。この辺りでは十分な食料が入手できないというのは本当のようだ。




