第二十八話
-----艦隊総旗艦・翔鶴-----
「失礼します。レイウェル公爵閣下をお連れいたしました。」
「ご苦労様、どうぞ中にお入りください。ああ君、案内ご苦労様、持ち場に戻っていいよ。」
「はっ、失礼いたしました。」
敬礼をした後、歳若い二等兵が下がっていく。公爵と呼ばれた男性は唖然としてこちらを見ている。
「し、失礼ですが、あなたが艦隊の司令官殿であられますか?」
「無理な敬語は結構ですよ、それより立ったまま話されるのも疲れるでしょう?椅子にお座りください。」
「あ、ありがとう。では失礼させてもらって、おお、素晴らしい座り心地ですね。」
「気に入っていただけて何よりです。では、改めて自己紹介させていただきましょう、私はヴァルトと申します、始めまして。お飲み物は何がよろしいですか?」
「いや、お気になさらずに。ですが司令官といわれるにはその・・・、なんといいますか・・・」
彼の言わんとすることは分からないでもない。
「あなたの仰りたいことは分かりますよ。このような子供がこの艦隊の司令官や閣下といわれてもすぐには誰も信じることなどできないでしょう。まあ追々馴れていただければ幸いですね。」
苦笑をしながら答える、いくらこの世界に貴族の制度があるからといって、私のような歳で司令官になることはできない。国王などがなる例があるがそれはあくまでも飾りなどである場合が多いからだ。彼はそのことを言っているのだろう、私以外の実質的司令官は誰なのか・・・と。まあ、こちらとしては下に見てくれている方が何かと楽なのだが。
「さて、公爵閣下が直接来られたのはいかなるご用件ですかな?あなたのような高位の方が直接来られるのは、何か切迫した事情がお有りのようですが・・・。いかがですか。」
港の様子からある程度の情報は知っているが、当人からの直接聞いた方がより具体的に把握することができる。多少の主観が入るのは、この際諦めよう。
「私が直接会いに来たのは、助力を頼みたいからなのです。先だって帝国より宣戦布告がされたそうです。わが国は土地は痩せておりますが、魔法に必要な魔石は多量に産出できます、今までは帝国と皇国の軍事力が拮抗していたため問題なかったのですが、帝国が飛行船なる兵器を作り出しその拮抗が崩れました。現在国境が至るところで破られているそうです。町を守ろうにも彼我の戦力差は絶望的で、私の治めるヨルトリンゲルをとられるのも時間の問題でしょう。とられた場合、我が国の敗北は決定的になるでしょうお願いです。どうか、どうかわが国に手をお貸しください。」
そう言うと、椅子から立ち剣を目の前に置き額を地面に付けている。どうも地球で言うところの土下座のようだ。
「頭をお上げください、私のような若者にそこまでしなくとも結構ですよ。複数聞きたいことがありますのでそれにお答えいただいたら考えさせていただきます。」
公爵は頷いた、先ほどよりかは幾分顔色は良いようだ。
「聞きたいこととは、周辺国からの援助は受けられないのかということ、我々が参戦しても政治的な問題は大丈夫なのかということ、我々の立ち位置はどうなるのかということです。」
「周辺国はすでに交戦中か、征服されてしまっております。こちらに援助を要請している有様です、増援が来ることはまず無いでしょう。次に政治的な問題ですが我が国は強者の意見を尊重しています、力さえ見せれば敵対するものはおりますまい。私も睨みを効かせますのでその様なことにはならないと思います。最後にあなた方の立ち位置は傭兵ということになります。」
「傭兵ということは命令には従えということですか?」
「そうなります、名目上ですのでお気になさらないでも結構です。」
こちらの能力を把握せずに使われては無駄が増えるだけ・・・最後の一つは傭兵ではなく義勇軍としてもらおう。
「傭兵ではなく義勇軍ということにしていただきたい、命令ではなく要請という形でのみ行動します、また我々は対等な立場ですので、そちらが違反行為もしくは理不尽な命令をした場合攻撃することもあります、我々独自の行動をすることも許可していただきます、戦後不当に縛り付けることもしないこともお願いします。これくらいですかね」
「我々が頼む側だからな。了承した。例え王家が出てきてもかばってみせよう。」
「では、それでよろしくお願いします。」
「誰か。」
ドアがノックされ従兵が入ってくる。
「失礼します、お呼びですか?」
「食事の準備を、公爵のお連れの方達も御通ししろ。」
「了解しました。」
公爵の方に向き直り話しかける。
「さて、後は食事にでもしましょう。こちらまで来てお腹も空かれていると思いますので。」
「いえ、そこまでお世話になるのは『グー』」
腹の音が響き渡る。
「御馳走になります。」
「その方が良いですね。」
話していると従兵が騎士達を連れて入ってきた。席に着くと同時に料理が運ばれてくる。




