第二十六話
「お初にお目にかかります。私が当前衛艦隊指揮官をしております、猪口真弓少将であります。」
そう言いながら敬礼してきた女性は美しかった。まるで彫刻のようだ。我々は声を無くし見つめることしかできなかった。
「?あの、どうかいたしましたか。」
我々が黙っていることに疑問を持った女性が不思議そうに聞いてくる。
「し、失礼した。私はアルヴァス・レイウェル公爵と申します。」
「わ、私は護衛騎士のキグナスです。」
「お、俺は・・・」
護衛の騎士達も我先にと自己紹介している。騎士だからもてないわけではないのだが、これほどの美女はそうそういない。騎士たちが夢中になるのは仕方が無いと思うが、お前たち私の護衛だろうが・・・。少しは控えんと我が国の品位が疑われるだろう。そう思っているとようやく収まった。頭が痛い…。
「フフ・・・。面白い方たちですね。あなた達もよろしくお願いいたします。さてご用件はどのようなことでしょうか?」
「この馬鹿者共が!・・・申し訳ない。用件とはこの船の事が知りたかったのだが・・・。ここで話すのも礼儀に欠けるので、我が屋敷にご招待したいのだがいかがであろう?」
私は、騎士達を叱りつけた後、この船を戦力に組み込みたいと思った。先日の攻撃で船は全部避難させてしまったし、陸上の戦力等もう少ししかいない。このままでは敵に良いように蹂躙されるだけだが、私を慕う者達を残しては逃げられない。完全なジレンマに陥っている。しかしこの巨大な船たちが加わってくれればもしかしたら勝てるかもしれない、勝てなくても残っている者達を連れて逃げてくれるだろう。
「知りたいのはこの船の戦闘力とかですよね。ご招待を受けてもかまわないのですが、艦隊の方針を決めるのは私ではありませんので、ここで返事をすることはできません。」
「方針を決める者は、別にいるというのですか。・・・信じられません。ならばその方と交渉させていただきたい。」
これほど巨大な船を所有しているのだから彼女が方針を決めていると思ったのだが違うようだ。ならばその者に直接交渉するまでだ。私たちは負けるわけには行かないのだから。
「閣下とですか・・・。分かりました、聞いてみますので少しお待ち願いますか?」
「交渉ができるようになったら、呼んでください。いくらでもお待ちします。」
この船のどこかにいるであろう人物に話に行くと思ったら、従兵を呼びつけて用件を伝えさせた。彼女は動く気はないのだろうか?
「失礼ですが、あなたがお聞きには行かれないのですか?」
「無線室に行っても意味はありませんから。もうすぐ戻ってくると思いますよ。・・・と、来ましたね。」
話していると先ほどの従兵がやってきた。
「失礼します。閣下からの返電です。『交渉の件、了承す。会談場所、翔鶴にしたし、こちらに来ることを望む。』以上です」
「やはり、翔鶴に来るようにですか。公爵様、竜ではなく我々の艦載機で行ってもらうことになりますが宜しいですか?私もご同行いたします。」
「どうしてですか?」
「あなた方だけだと速度が遅すぎて護衛がしにくいのが一つと、発光信号が読めないのではどれに降りてよいのか分からないだろうというのが理由です。」
「た、確かにそのとおりですな。分かりました、あなたの提案で行きましょう。」
かくして2機の零式水偵と護衛の戦闘機が飛んでいくのだった。ちなみに竜の世話のために騎士が一人残っているが彼は一番年下だからだ。貧乏クジとも言えるだろう。
す、すみません。からし、失礼した。に変更しました。




