第二十四話
----明け方・ヨルトリンゲル----
「今日も諸君らには辛い飛行をさせねばならないことは、すまなく思う。だが君達の情報が我々の運命を決めるのだということは知っていて欲しい。今日の武運と君たちの安全を祈る。」
レイウェル公爵が敬礼すると、10人の騎兵達も返礼する。彼らも今日の任務の危険性は十分に理解しているのだ。昨日は上手く偵察できたが今日はそう限らない、昨日の偵察で帝国は警戒して戦闘騎がいるはずだろうからだ。北に向かって飛ぶ者たちの目はすでに死を覚悟した者の目になっていた。
「総員騎乗、発進せよ。手が空いているものは見送れ。」
騎士団長がそう言うと、多数の騎士や飼育員たちが待機広場に集まり、精一杯に手を出発していった偵察騎達に振っていた。
「彼らのうち一体何人の者たちが帰ってこれるだろうか・・・。若者が死に老兵が生き残る・・・。むなしいものだな。」
公爵のつぶやきに何も言うことはできず、静かに同意することしかできない騎士団長であった。
なお今回は、北のみベテランの偵察騎を飛ばし、他は若い偵察騎を回している。彼らは若い者たちには生きてもらい、自分たち老兵が先に死のうと話し合って決めていたのだった。
----4時間後----
「こ、公爵様、大変です。」
扉を開け騎士団長が勢いよく入ってくる。冷静な彼にしては珍しいことだ。
「どうした?まさか帝国の艦隊でも見つけたのか?」
笑いながら最悪の事を考える、騎士団長を見ると、深刻そうな顔で頷く。
「はい、敵艦隊かどうかは分かりませんが、見たことの無い船がこの町の南500キロに迫っているそうです。偵察騎がは発見したと同時に、見たことの無い物体が接近してきたので引き返したそうです。昨日は南には何もいませんでした。どうしましょうか、閣下。」
信じられないことを言われ言葉を失ったように座っている公爵が我を取り戻すのにかかった時間は10分ほどだろう。
「し、信じられん。確かに昨日にはそこには何もいなかったのだな。見間違えということはないのだな?」
「はい、間違いありません、昨日もベテランの偵察騎を派遣いたしましたから、今日は余り経験を積んでいないものですが、腕前は皆が優秀と褒めているものです。見間違えということは無いでしょう。」
騎士団長が胸を張って答える。
「そうなると帝国の船か、商船か・・・だが商船も最早ここには立ち寄らんだろう。となると帝国の物の可能性が高い・・・か。」
「ですが決め付けるのも宜しくはないかと。幸い帝国が来るのには時間がかかります、接触してみてはいかがでしょうか?」
「そうだな・・・。私が直接会おう。騎竜を用意してくれ、護衛はいらんぞ。」
「行かれるのはかまいませんが、護衛は付けさせていただきます。」
有無を言わせぬ態度である。先に折れたのは公爵だ。
「分かった、済まんが少なめで良いぞ。多数連れて行くとこの都市の守りが手薄になる。」
「分かっております、ベテランを5騎つけます。」
「それでも多いくらいだが・・・、仕方ないか。準備が出来次第出るぞ。」
「はっ」
そう言うと勢いよく騎士団長は外に出るのだった。公爵は盛大にため息をついていたが。
今回接触したのは前衛艦隊で、見たことの無い船は島風、物体というのは直衛の烈風の事。




