ーーーーー港の様子ーーーーー
-----港町・ヨルトリンゲル----
「飛竜が飛び去って早一週間が経ちました。現在町の住民の八割が退去できております。残っているのは動けない重傷者かこの町を守りたいと言ってくれている勇士です。」
一人の青年が初老の男性に報告する。青年の顔立ちは整っており町を歩けば振り向かない娘はいないだろうと思わせるほどだ。
「そうか・・・、二割も残ってしまったのか。騎士団と合わせるとどれくらいの数になる?」
初老の男性が聞く、年のころは50代に入ったところというところで。口ひげを蓄えたナイスミドルだ。当然髭も白いが、髪にも白いものが混じっている。
「騎士団の生き残りと合わせて約4000名になります。騎士団のほとんどの者が使い物になりません。あと王都からの早馬で先ほど帝国からの宣戦布告があり警戒せよ、とのことでした。せっかくレイウェル公爵様が帝国の動きを察知してらっしゃいましたのに有効に使えないとは、王都にいる人間は無能ばかりなのですね。」
そう言うと怒り心頭なのか、顔が真っ赤になっている。
「そう言うな、国としては今までの攻撃が無く挑発ばかり繰り返していたのだ、今回も攻撃は無いだろうとの考えがあったのだろう。しかし今は敵に対する備えも行わねばならない、ヨハン。船はどれだけ残っている?」
「最早一隻も残っておりません、漁船ならば摘発すれば何隻かはいると思われますが・・・。」
「領民から日々の糧を奪うわけにはいかん、仕方が無い。昼間に偵察騎を出しておいて欲しい。」
有効な部隊を小出しにせざるを得ない公爵の顔には渋面を張り付かせるしかなかった。
-----8時間後-----
飛竜は一番早い竜で戦闘能力は低い、飛行速度は最大で250キロほど、体力の関係で6~8時間ほどしか飛べない。今回はかなり危ない状況のため限界まで偵察させたようだ、速度は200キロで4時間。ちなみにヨルトリンゲルには60騎の飛行騎兵がいるが偵察騎は10騎しかいない(他の数は戦闘騎兵20、爆撃騎兵20、輸送騎兵10)、これは育成にも維持にも金がかかるため仕方の無いことなのだ。なお一都市に配備される飛行騎兵は多くとも30騎程なので、この都市は極めて重要なのが見て取れるだろう。
「レイウェル公爵様、偵察の結果が来ましたので報告させていただきます。」
ヨハンが部屋に入ると用件を切り出す。
「分かった話してくれ。」
「はい、偵察した結果、北に800キロの地点にある荒野に帝国軍が集結しているそうです。数は少なく見積もっても十万はいたようです。このまま進行してくるとすると20日後にはここに到着します。」
「やはり、きおったか。彼我の戦力差は決定的、これでは勝負にもならんな。ヨハン、お前に飛竜一個小隊を預ける。指揮官として参加しなさい。」
「嫌です、公爵様、いいえお父様と離れるくらいでしたら死を選びます。」
目にあふれんばかりの涙をためて言う。
「騎士を目指したときから我が子として扱わぬと言ったであろう。騎士ならば命を遵守せい。明日の正午、王都に向け出発せよ。良いな。」
「・・・お父様。」
「復唱はどうした!」
「・・・了解しました。明日の正午、・・・王都に向け出発します。」
拳からは血が流れている。復唱し終わった後、涙を流しながら出て行った。
「済まぬな。許してくれとは言わぬ、だが我が妻の忘れ形見たるお前を殺させたくは無いのだ。分かっておくれレナ。」
親子の情を吹き飛ばすように敵軍は近ずいてきている。さて、どうなることやら・・・。
なお、ヴァルトの艦隊はというとギリギリの所で見つからなかった。少しレーダーに映ったのだが反転したため何事も無かったことになっている。




