第54話 富嶽隊
ーーーーーシュラーク群島・重爆用航空基地ーーーーー
ジリリリ、ガチャ
「どうした?」
『こちら無線室です、総司令官より出撃命令が下りました。』
「分かった、司令官に代わる、少し待て。」
『は、了解しました。』
そういうと小沢司令官に近ずき
「司令官、出撃命令が出たそうです。」
「ようやく我々の出番がきたか、どれどれ」
急いで受話器に向かう。
「小沢だ、詳しい事を教えてくれるか。」
『はい、ご説明致します。富嶽による爆撃を帝国の砦に行うように、バンカーバスターを用いて根こそぎ吹っ飛ばすように、とのことです。』
「ふむ、ではご注文の通りにしよう、数は指定されていないのか?」
『前線に近い砦だとは思うのですが、数は司令官に一任するそうです。』
「そうか、砦の空撮写真はあったかな?」
重爆の爆撃目標を選定するために先日偵察型の富嶽により撮影された写真の解析を進める。大まかに砦と町の位置を把握する。
「まずここが王国の砦だな、川の手前にありそれぞれ共同して防衛出来るようになっている、街道も整備されているみたいだが所々で分断されてしまっている。」
「このままでは各個撃破される恐れがありますね。しかし味方との砦の距離が離れているように感じますが。」
「間に森が七キロほど続いているからそこに補給基地でもあるのか?」
参謀達が意見を出しあっているが現状で分かることは少ない。
「ここで話していても仕方があるまい、可能な限りの砦を叩きたいがやり過ぎては講和もしにくいだろう、よって森を挟んで存在する砦4つ、街道沿いにある砦2つの合計6つを叩く、各砦には爆撃装備10機、内1機はバンカーバスターを装備、護衛の掃射機は5機、合計90機を出撃させる。総員かかれ!!」
「了解」
参謀は整備員に連絡を入れ、飛行長は搭乗員に説明のために走る。
「さて、騒がしくなるぞ。」
準備をしていたとはいえ暖気運転を含めて三時間は動けないのでゆっくりするしかない。
ーーーーー三時間後ーーーーー
「出撃準備整いました!!」
飛行長が叫びながら報告してくる。合計540発のエンジンが唸りをあげているなか叫ばないと声が届かないのだ。
「分かった、諸君。我々の初陣だ、派手にやって来てくれ、目標の周囲には民間の施設はないから気兼ね無く叩いてくれ、帰ったら私の奢りで一杯晩飯に付ける、必ず生きて帰ってこい。以上。」
「総員敬礼!」
ザッ
全員の敬礼が揃う。
「直れ、搭乗かかれ!!」
「「「オウ!!」」」
それぞれ待機している富嶽に乗り込んでいく、小沢司令官はそれを見て嬉しいと思う反面自分が動けない歯がゆさを感じていた。
「やはり、待つというのは辛いものになるだろうね。一緒に行っては駄目かな?」
「駄目です。ご同行して落とされるわけにはいきません、戦場に絶対はありませんから。」
司令官の気質を理解している副官は苦笑するしかなかった、だからといって富嶽に乗せる気はないのだが。話していると飛行長がやってくる。
「発進準備完了、許可を願います、司令官」
「よし、発進せよ。総員帽振れ」
整備員や他の爆撃機隊員達が滑走路の端で帽子を振る、一部のものは力一杯振りすぎて飛んでいってしまったが。
「頑張れよー」「戦果を期待しているからな!!」
1機また1機と大空に怪鳥が飛んでいく、帝国の者達に絶望を届けに。
ーーーーーさらに四時間後ーーーーー
「隊長、そろそろ散開地点に到着します。」
「そうか、では各隊長散開準備、各機へ我々の命令は砦を粉砕することだ。爆弾を残して帰るなよ、残して帰ったら罰が待っているぞ。」
「「ははははは」」
緊張を解すために冗談を言ったが効果はあったようだ。
「まあ、着陸時にあっても邪魔だからな、どうせ捨てるしかないんだがな。」
「現実ですね。」
「まあ、あまり気負いすぎるなよ。では散開、我々は橋とその付近にある砦を粉砕する。」
「了解」
6個の小編隊に別れてそれぞれの砦に向かう、念のため爆撃高度は一万メートルからとされた。精密爆撃はしなくても大丈夫なのでこの高度になったのだ。
ーーーーーウェイル砦ーーーーー
川にも面しており街道も続いているウェイル砦は商隊との中継地にされたり狩りに出ているもの達が立ち寄る交通の要所だ、近場の町からもほどよく離れているため商人もよくやってくる、商人を目指すものは一度はここに来ると言われているほどだ。
「初めての警備だから緊張するなあ、でも命が無くなることはないから良いか。ここに敵が来たことは一度も無いって隊長も言ってたし。」
そう言いながら矢倉の上で周囲を警戒する、一時間ほど経ち交代の兵士がやってくる、一緒に配属された同僚だ。
「よう、交代の時間だぜ。何かあったか?」
「何もないよ、平穏なのが一番さ。」
呆れてため息を付きながら
「お前には欲ってもんがねえのか。枯れてんな。」
「命あっての物種だからね。」
「俺は敵とさっさと戦いたいな、とのんきに話してたら副隊長にどやされちまう。じゃあ引き継ぐぜ。」
「頑張ってな。」
梯子を降りる前に周りをもう一度見ると遠くに点のようなものが見える、俺は狩りをしていたから目には自信がある、だがありゃ何だ?鳥にしちゃあ高すぎる、一体どれだけの高さにいるんだ。
「とりあえず隊長に報告だな、隊長なら何か分かるかもしれない。」
急いで砦の中にある隊長室に急ぐ。
「隊長、起きてますか?」
「起きてるよ、どうしたんだ、そんなに慌てて。」
心配そうな顔でこちらを見てくる隊長がいた。
「それが、先ほど空に妙な点を見付けまして、隊長ならば何か分かるかもしれないと思ったのでお聞きしに来たのです。」
「へえ、それは面白そうだね。よしじゃあ行って見てみよう。案内してくれ。」
「はい、こちらです。」
中庭に出ると黒い点が何かの形になっていた、例えるならば鳥?だろうか。
「あ、あれです!!何か分かりますか隊長」
「分からん、だが飛空船ではない、そうなると王国のやつらかもしれん。全員に警戒体制に入らせるように伝えてくれ。」
「分かりました。」
かくして城門が閉められ警戒体制に移って行く。確かに飛空船が相手ならば彼の手段は間違いではない、飛空船は直接の強襲攻撃や少数の兵員を入り込ませるのに使うからだ、だが今やって来ているのはそのような物ではない。自ら逃げ場のない檻に入ってしまった以上彼等の運命は決まってしまっているのだから、合計100トンの爆弾・80トンの焼夷弾・特製のバンカーバスター2発(爆弾槽の関係で2発しか入らなかった)それらに焼かれるしかないということを。
ーーーーー富嶽隊ーーーーー
「もうすぐ目標に到達する、全機爆撃用意、爆撃手頼んだぞ。」
「了解しました、必中を期します。」
「よし、爆弾槽開け。」
爆撃手が気合いを入れて返事をする。いくら対空砲がないからと言っても安心できるものではない。
「ちょい右」
「ちょい右よーそろー」
少し右に進路をずらす。
「進路そのまま」
「進路そのままよーそろー」
爆撃手だけでなく搭乗している全員が手に汗を浮かべている。
「投弾用意」
「5・4・3・2・1、撃て」
ヒュルルル
上空からでは点にしか見えない砦に1トン爆弾が命中する。手順にとしては一航目で1トン爆弾による爆撃、引き返して二航目で焼夷弾による爆撃、三航目でバンカーバスターによる仕上げとなっている。
「弾着・・・今、命中を確認」
「よし、では引き返して二撃目に移る。」
上空で旋回し再び爆撃に移り焼夷弾を投弾する。
「見事に燃えています。」
「抵抗もなく燃やされるか、だが同情はするまい。彼等も戦場にいるのだ、その覚悟はあっただろう。さて仕上げだ、バンカーバスター投下用意」
「了解」
バンカーバスター搭載機が高度を少し落とす、一機しかいないので少しでも命中率を上げるための措置だ。
「搭載機より連絡、投弾準備よし」
「よし、撃て」
ガコン、1トン爆弾の数倍はあろうかという爆弾が地上に向け落下する。
ーーーーー砦ーーーーー
周囲には瓦礫の山と化している、かくゆう私も瓦礫に足が挟まれている。共に過ごしていた部下達はどこにいったのか、いや無事ではないだろう。あんな攻撃を受けて無事でいられるはずはない。
「一体あれは何だったのだろう。いや考えても無駄か、惜しむらくは本国に報告できなかった事が悔やまれる。」
彼の意識下の行動はそれが最後だった、バンカーバスターが命中し直径100メートルのクレーターが2つ出来上がった、さらにその中に川の水が流れ込み湖となり僅かに生き残った者達に止めをさした。当然生存者は0、交代に来た部隊は後に唖然としたと伝えられている。なおこの日他にも5つの湖と巨大なクレーターができていた。
ーーーーー富嶽(掃射機)ーーーーー
「出番が無い」
「暇ですね」
敵機が来なければ当然出番が無いのが護衛機だ。怒りがたまっているのは搭乗員全員なのでどうしようもない。
「敵でも来ないかなー」
「そんな簡単に出ては来ないでしょう。」
副機長が答える。その時後ろから声がかかる。
「そうとも言えませんよ、電探に感あり方位350から不明機が接近中、大きいですね、数は12。どうしますか?」
そのようなことを言われたら案の定機長が目をらんらんと輝かせて
「よし、それは確認しないといけないな、爆撃隊は帰還するように伝えないとな、『こちら護衛一番、爆撃一番応答されたし』」
『こちら爆撃一番、どうしました?』
「『不明機が接近中、これより確認し敵機の場合撃墜する、そのため爆撃隊は帰還されたし』」
『了解、高等を上げ帰還する。健闘を祈る』
「『感謝する』さあ撃墜に行くぞ」
機長の頭の中には不明機ではなくすでに敵機であった。
ーーーーー帝国軍飛空船ーーーーー
開戦からずっと砦に攻撃をしているのですでに日常と化している爆撃行を今日も行うのかと欠伸を噛み殺しながら艦隊で航行している。敵には対抗手段が無く妨害もないのでどうしても気が弛んでしまうのは仕方がない。
「今日もいつものように爆撃かー」
「まあ、何もしないよりかは良いじゃないか、しかし王国のやつらもしぶといよな。もっと早く根を上げるかと思っていたんだが」
「確かにな、ひょっとすると法国の奴等が出てくるのを待っているのかも知れないな。」
「それぐらいしかないだろうよ、近くの小国じゃ束になっても帝国には勝てないからな。」
話に夢中で周囲の警戒を疎かにしていた、その結果遥かな高空から近づいでくる者達を見過ごしていた、すぐにその意味を理解することになるのだが。
ババババババ
「何の音だ?」
「上の方から聞こえてくるな。」
「馬鹿言うなよ、俺たちより高く飛べる奴がいるはずないだろう。」
そう言って上を見ると
「いる、どれだけ高いか分からない。」
「何だと!!船長に報告を…」
ズガガガガガ ドスススス
船体が穴だらけにされ全ての飛空船が落とされた、鉄板で覆っていても結果は変わらなかっただろう、合計1000門の20ミリ機関砲を受けて無事でいられるはずはないのだ。
ーーーーー富嶽(掃射機)ーーーーー
「敵機沈黙」
「他愛のない、でもようやく撃墜できたわ。帰って皆に自慢しましょう。」
喜んでいる機長を見て苦笑している搭乗員達は進路をシュラーク基地に向け帰還することにした。
飛空船:劣化版飛空船、完成した飛空船は鯨の数に左右されるため開発された、燃費が悪く速度も出ない高く飛べないと微妙な性能だが攻撃能力は高いので戦線に投入された、一応制空権の掌握と諸外国の牽制という役にはたっている。




