第18話 艦隊と公爵
----前衛艦隊・旗艦ネルソン----
「中将、レーダー室より6機の不明機がこちらに接近中だそうです。いかがいたしましょう?」
副官からそう聞かれ、返答を考えているのは前衛艦隊指揮官サー・トーマス・フィリップス中将だ。
「早朝に来た不明機と同じ方位か?」
「はい、同じ方位からです。速度は先ほどのに比べると遅いそうです。昨日潜水艦隊からの報告のあった不明機と同じ者達でしょうか?」
中将が思案している理由は、司令官からの命令が原因と言える。その命令とは大陸の詳しい情勢が判明するまで積極的な攻撃を禁ず、というものだ。現在の艦隊は立ち居地がはっきりしていないため無闇に敵を作るのは避ける方針なのだ。ただし危機に陥ったと判断した場合はその限りではない。
「ふむ、攻撃されるかどうか分からんが、警戒をしておいて損は無いだろう。全艦に第2級戦闘態勢、及び輪形陣を展開し対空戦闘の準備をするよう伝えよ。直衛隊には高度を取り攻撃されるまでは手出しをしないように伝えよ。」
「サー、イエッサー」
命令が伝達されると共に乗組員たちが慌ただしく動き出す。その騒々しい艦橋の中で中将の呟きを聞くものはいなかった。
「さて、これから接触するであろう者たちは、どのような考えを持っているのか。大変に楽しみだな。」
-----飛竜・レイウェル公爵-----
「もうすぐ見えてくるか?」
護衛についている騎士に問いかける。飛行しているためかなりの大声を出さないと隣にいるものに話すのも一苦労だ。今年で50になるレイウェルにはこたえることだ。
「もうまもなく着くかと思われます。ですが相手が帝国の奴らだったら、」
その時視界に前衛艦隊の偉容が映る。
「な、何だ、この船は、これ程巨大な船は見たことがないぞ!」
その時一番大きな船から光が瞬いた。(一番大きな船とはネルソンのことで光が瞬いたというのは発光信号のこと)
「一体なんの真似なのだ?」
一人の騎士が同僚に訊ねる。ベテランがまるでヒヨコのような顔になり不安を隠しきれていない。
「分からない、あのような魔道具は見たことがないぞ。」
「分からないものをいつまでも考えても仕方あるまい。あの船に降りよう、ここで無駄な議論を重ねるより乗り込んで直接きくとしよう。」
公爵がそう言い高度を落としたので護衛も付いていく。そしてネルソンの前部甲板に下り立った。
「私はヨルトリンゲル領、領主レイウェル公爵である。この部隊の責任者と話がしたい。出てきてくれないだろうか。」
一人の士官が前に出てくると
「もうすぐ中将が参られますので、しばらくお待ちください。」
到着まで騎士たちは静かに待っているのだった。




