叙事詩:レイ・セイライという女
レイ・セイライという女
彼女は至高の嘘つき女
今日も彼女は謳い上げる
さも楽しげに 高らかに
まるで無邪気な微笑みで
陽気で愉快で優しい嘘を
☆
レイ・セイライという女
彼女は宿屋の看板娘
今日もくるくるよく働く
助平なオヤジも何のその
フライパンで一叩き
仕事はほとんどうまくやるけど
料理だけはからっきし
酒にはとっても弱くって
一口呑んだら泣き上戸
お金の勘定は早くって
実は箪笥にたくさんヘソクリ
☆
レイ・セイライという女
彼女の嘘は城下一
右かと問えば下だと答え
上かと問えば後ろと答える
街に迷った人を見れば
正反対の道を教える
知ってることは知らないと言い
知らないことも知らないと言う
☆
レイ・セイライという女
彼女は陽気な嘘つき女
暇なときは広場のベンチで
日がな一日ぼけっとしてる
見かけた子どもが寄ってきたなら
彼女は大きな嘘を語る
彼女の数奇な生い立ちを
王国に残る伝説を
国王陛下の赤っ恥
宿屋の主のハゲの理由を
子どもは瞳を輝かせ
その夜家で親に聞かせる
ある人は笑い ある人はなじり
彼女はどちらも笑って返す
今日も彼女はベンチに座り
今日も子どもは寄ってくる
☆
レイ・セイライという女
彼女には実は友だちが一人
同じく城下の酒屋の娘
清楚で酒乱な唯一の友
彼女の嘘に彼女は呆れ
彼女の嘘に彼女は笑う
二人で酒を呑んだ夜には
主が泣くほど大騒ぎ
☆
レイ・セイライという女
加減を知らない嘘つき女
偉い学者へ大嘘ついて
彼が怒鳴り込んで来たときは
酒屋の娘が飛んできて
必死で呑ませて酔わせて帰す
二人は無二の大親友
☆
レイ・セイライという女
彼女は気の利く嘘つき女
酒屋の娘の恋愛相談
街のはずれの鍛冶屋の息子
興味なさげに聞き流し
あの手この手で東奔西走
いつの間にやら縁結び
恋が実って喜ぶ娘に
素知らぬ顔で祝いの言葉
娘の結婚が決まった日にも
二人は吐くまで呑み明かした
二人は無二の大親友
☆
あるとき王国にお客さん
隣の国の大貴族
デブで強欲な中年当主と
傍若無人の変態息子
横暴ぶりは有名で
優しい王様困り顔
ごてごて飾った馬車に乗り
その大貴族はやってきた
街道を行く馬車の中
変態息子は不幸にも
酒屋の娘に目を付けて
にんまり笑ってパパに耳打ち
☆
その日のうちにお呼びが掛かり
酒屋の一家は城へ向かった
彼女は広場のベンチから
ぼんやり静かに彼らを見送る
☆
数日経って悲しい知らせ
変態息子が死んだとさ
死んだ理由は毒入りの酒
酒屋の娘の店の酒
誰も知らない真犯人
毒を盛ったのは娘の母親
変態息子に言い寄られ
強引に連れ去られかけ
結婚だって決まってて
幸せになるはずの娘のため
命を懸けて盛った毒
☆
娘の酒屋を人々は責め
王は困って罪を掛ける
彼らの居場所はどこにもない
彼らの命の居場所はない
そこへ一人の女が名乗り出た
☆
レイ・セイライという女
彼女は至高の嘘つき女
今日も彼女は謳い上げる
さも楽しげに 高らかに
まるで無邪気な微笑みで
「実は私がやったのよ」
☆
レイ・セイライという女
彼女は偉大な嘘つき女
彼女の言葉を誰もが信じ
彼女はすぐに捕まった
酒屋の娘が何を叫んでも
誰一人として聞きもしない
☆
レイ・セイライという女
誇り高き嘘つき女
優しい王様 死刑はないけど
貴族のパパが責めるから
額に罪人の烙印を焼いて
国の外に永久追放
酒屋の娘は泣きじゃくり
嘘つき女は優しく笑う
最後の別れに彼女は言った
必ず幸せになりなさいよと
☆
レイ・セイライという女
彼女は優しい嘘つき女
国を離れる最後の日
とある少女が彼女に問うた
彼女はしゃがんで笑みを見せ
無邪気な少女の頭を撫でて
最後の優しい嘘をつく
神さまはね いるんだよと