〈chapter:02-03〉
【前回のあらすじ】
あきらかにフラグの気配です。
声の方向に目を向けてみれば、そこには若い男たちは数名ほど。
サイズの大きいダボダボの服。
ジャラジャラとうるさい、やたらと重そうなアクセサリ。
その無駄に威圧的な姿はどう見ても、ヒマを持て余した社会人予備軍たちです。
男ということで咄嗟に待ち人を連想しましたが、
ニヤニヤと軽薄な笑みを浮かべる彼らはどう考えてもママの与えてくれた情報とは合致しません。
つまりは人違いです。
まぎらわしい。
そして空気の読めない男たちは無謀なことに、
先ほどからベンチに腰かけて本を読んでいる長身美女のナンパを試みているようです。
「ヘイヘイオネーサン、なにしてんの? なんで日曜日に公園? ヒマなの?」
「だったら俺らと遊ぼーよ。とりあえずむこうに車止めてあるからさ。ねっ?」
「ヒデちゃんの車、超カッケーの!」
「あれ? あれれ? っていうかオネーサン、なんか冷たくなーい? つれなくなーい?」
「あー、そういうの傷つくなー。俺たち泣いちゃう! しくしく」
まるで孔雀のポロネーズ(求愛行動)のように、
ありもしない羽を広げて必死におねーさんの気を惹こうとする男たち。
しかしおねーさんは無言。
っていうか無視。
大きなサングラスをかけているため目元はわかりませんが……
おそらくあの様子だと、おそらく本から視線すらあげていないでしょう。
完全に男たちを空気扱いです。
おねーさん、カッケー!
「……っていうかさー。マジありえないんですけど」
「無視はないよな、無視は」
「はいキレた。これはフェミでも怒っていい場面でしょ」
「おねーさん、俺たちのことナメてるでしょ? ナメてるよな? あ?」
「なんとか言えよコラァ!」
だけど次の瞬間には『一方的なナンパ』→『逆ギレ』の理不尽コンボが炸裂しました。
男たちの険悪な怒声が、平穏な公園の空気に響き渡ります。
ざわざわ。
広がる不穏な気配。
周囲をざっと見まわしたところ、頼れそうな人はいません。
むしろみんな、騒ぎに巻き込まれまいと距離をとろうとさえしています。
無理もありません。
せっかくの憩いのひと時を、あんな空気の読めない馬鹿どものせいで台無しにしたくはありませんよね。
誰だってそうです。
私だってそうです。
「……よっこらせっと」
でも……
私はババ臭い掛け声とともに、腰かけていた噴水の縁から立ちあがりました。
「あ、おねぇちゃ~んっ!」
そのまま駆け足でおねーさんに近づき、幼い声を意識して話しかけます。
「ごめんねぇ~、待たせちゃったよねぇ~。ちょっと待ち合わせ場所がわからなくて探してたんだぁ~。だから機嫌直してよ、ねっ? あっちでアイスでも奢るからさぁ~」
「おいちょっと待てコラぁ!」
「ンな見え見えの演技で誤魔化されるわけがねーだろ!」
「つか、姉妹にしちゃあ似てねえんだよ全然! 鏡見て出直してこいや!」
男たちから一斉に野次が飛びました。
くっ……
この野蛮人どもめ、的確に痛いところをついてくるじゃありませんかっ!
十代乙女のハートはとてもデリケートなのです。
もっと大事に扱ってくださいよ。
「下手な芝居はやめて、さっさと失せろブス!」
「ガキがチョーシこいてんじゃねぇよ!」
「正義の味方にでもなったつもりか!? ああ?」
「中二病かコラッ!」
「いやじっさい、私は中学二年生なんですけど……」
「ちっ馬鹿にしやがって。とにかくテメエも同罪だ。ちょっとこっち来いや」
そんな思ったより萎縮していない私の態度が癇に障ったのでしょうか。
男たちのリーダー格らしい頭にバンダナを巻いた大男が、私に手を伸ばしてきて……
「……っ!?」
それを、背後から伸びてきた新たな腕が掴み止めました。
「……いい加減にしろ、クソ虫ども」
頭上から陽光に代わって降り注いだのは、耳に心地いいハスキーボイス。
その声音には、
沸騰寸前の怒りが滲んでいました。
もうおねーさんの正体にお気づきかもしれませんが、ネタバレまでもうちょっとだけガマンしてください。
お読みいただき、ありがとうございました。