〈chapter:02-02〉
【前回のあらすじ】
叔父さんとの顔合わせにドキドキのカノンちゃんです。
「そうだ、ナオきゅんに励ましてもらおう!」
モヤモヤとした気持ちのまま待ち合わせ場所に向かっていると、私の脳裏に、雷光のごとき圧倒的な閃きが駆け抜けました。
そうです。
こんなときこそ私の幼馴染み、魂の伴侶ことナオきゅんの出番です。
私はスカートからスマホを取り出し、操作パネルを力強くタッチ!
【……お客様のおかけになった電話番号は、現在電波の届かない場所にいるか……】
……おやおや?
ナオきゅん、まだお寝坊さんなのかなー?
せっかくの休日なのにもったいないですねー。
まあ、寝ているのなら仕方がありません。
メールを送りましょう。
【送信先】──ナオきゅん❤
【タイトル】──乙女のピンチ!
【本文】──白馬の王子様、はやく私を助けにきてぇ~っ❤❤❤
「送信っ!」
ピッ、とスマホを空高く掲げて送信。
それから数分後。
お気に入りのアニソンとともに、すぐに返信が届きました。
【発信者】──ナオきゅん❤
【タイトル】──Re:乙女のピンチ!
【本文】──黙れ。
「……」
私は無言でスマホを仕舞いました。
強く生きよう。
ともあれその後、若干テンションダウンした私が歓楽街を歩き続けること十分弱。
ようやく、待ち合わせ場所である白鷺公園に到着することができました。
歓楽街の一角。
ふと思い出したように深緑に埋め尽くされたそこは、巨大な森林公園です。
公園は街中の雑踏を嫌う人や、適度な運動を求める人、青葉に束の間の清涼を求める人たちなどで、今日もそれなりに賑わっていました。
目指すはその中心部。
待ち合わせの目印としてよく利用される、中央噴水広場です。
時間にはまだ余裕があるので、私はブラブラと園内を散策しました。
吸い込む空気には、緑の香りが満ちています。
噴水広場に近づくにつれて、肌がひんやりと湿り気を帯びてきました。
あちこちを元気に走り回る子どもたちの笑い声が、自然と微笑みを誘います。
あたたかな日差しが心地いい。
とてものどかで健康的な、休日の公園風景ですね。
「とぉ~ちゃぁ~くっ」
そして私は待ち合わせ時刻の二十分前に、噴水広場に到着することができました。
念のため、周囲に目を走らせますが……
なにぶん『直前まで余計な先入観を与えたくない』という本人の意向で、私はまったくその容姿を知らされていません。
それでもいちおう、ママから最低限の特徴は聞きだしておいてはみたものの……
「……『びっくりするほど美形の、背の高い黒髪男子』ねぇ」
そんな非実在青年、本当に存在するのでしょうか?
とりあえず噴水近くにいるそれらしい人間をチェックしてみますが、残念ながら情報に該当する人物は見当たりませんでした。
いちおう広場のベンチに腰掛けて本を読むスラリとした美人さんはいますが、あれは女性。
性別が違います。
「うぅ~ん……ママは『ジョージは信じられない美形だから見ればすぐにわかる』って言ってたけど、ホントに信じて大丈夫かな~?」
なんだかんだで、ママは身内には甘い人ですからね。
なにせあのパパを『世界一かっこいい』と言い切るほどです。
おそらくそうした叔父さんの情報は、思い込みの激しいママによる独自の補正がかかっていることでしょう。
耳半分に留めておきます。
とにかく予想通り、こちらから叔父さんを見つけることは難しそうですね。
結局、あちらからのアクションを待つのが無難でしょう。
というわけで噴水の縁に腰掛け、足をプラプラさせながら時間を持て余していると──
「うわぉ。キレイなオネーサンはっけ~ん」
心地いい春風にのって……
不快な。
この平和な公園には相応しくない、耳障りな声が聴こえてきました。
というわけでいろいろとフラグが立ちました。
さっそく次からサクサク消化していきたいと思います。
お読みいただき、ありがとうございました。