〈chapter:02-01〉 ジョージさんと対面です。
ここからが第二章です。
内容としては、ジョージさんとカノンちゃんの顔合わせとのときの話になります。
それでは突然ですが、私とジョージさんが初めて出会った時の話をしましょう。
それは今から数日ほど前。
学校がGWにはいったばかりの、四月下旬にまで遡ります。
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その日の昼下がり、私は叔父さんとの顔合わせのため、とある待ち合わせ場所に向かっていました。
今はもうすでにGWですが、今日私の来ている服はワインレッドとモダンブラウンを基調とした上着に、同色チェック柄のプリーツスカート。
ハイソックスにローファ。
つまりは私の通っている私立白鴎中学校の制服です。
ここに私のトレードマークである花型のヘアピンを付け加えることで、私の登校スタイルが完成します。
今日は登校しませんが。
大事な待ち合わせに制服というものいささか味気ないような気もしますが、しかし制服は冠婚葬祭どこにでもゆける万能服らしいので、とりあえず目上の人に会う際の服装としては無難なチョイスでしょう。
いちおうジョージさんとの仲介人であるママにも確認をとったのですが……
──いいんじゃない? べつに。
と、軽く流されたので問題はないはずです。
パパに至っては「可愛いよカノンちゃん可愛いよ! いつ何度何回見てもウチの娘は世界で一番可愛いよ! ハアハア!」と息を荒げていたので「キモッ」と、言葉のナイフで息の根を止めておきました。
「……うーん。でもやっぱり、こんなんじゃなくて、ちゃんとした服を着てきたほうがよかったんじゃないかなー?」
ごくありふれた中堅都市である白居市。
その都心に近い歓楽街を歩きながら、私は何度となく立ち止まっては、路上に面したお店のガラスなんかに映る自分の姿をチェックしてしまいます。
おそらく素材としては、平均以上、美少女以下のルックス。
それを本日はナチュラルメイクで味付けしているので、とりあえず人様にお見せできる程度には仕上がっていると思いますが……
それでも、いささかの不安は残ります。
なにせ私はあまりにも、これから会う人物のことを知らないからです。
失礼な話ですが、私こと茉莉花音が、これから会う予定の叔父さんこと渋沢丈二さんについて、知っていることといえば……
一、実の姉であるママが、弟にあたる叔父さんをジョージと呼んでいること。
二、叔父さんは二十七歳の独身貴族だということ。
三、叔父さんの名をだすと、パパがとても嫌そうな顔をすること。
四、叔父さんはこの町で一人暮らしをしていること。
以上です。
……え?
情報が少なすぎるって?
そりゃあムリもありませんよ。
だってじつのところ私、生まれてこのかた十三年間、一度も叔父さんとはまともに面識を持った記憶がないんですもの。
ママが言うには小さいころは何度か顔を合わせたことがあるらしいのですが、正直よく覚えていません。
そして私が物心つくようになるころには、自称『娘ラブ』のパパによるイタリアサッカーチームのカテナチオ級ブロックによって、ついぞ今日にいたるまで、叔父さんとまともに顔を合わせる機会はありませんでした。
どうやらパパは、叔父さんのことを非常に嫌っているようなのです。
正確には『嫌い』というより『警戒』?
みたいなカンジなのですが、詳しい事情はわかりません。
気にはなりましたが、パパにしては珍しく私の質問に答えを濁すばかりで、納得のいく解答には辿り着けませんでした。
しかもそんなパパと叔父の関係をママはどこか微笑ましそうに見守っているので、余計に意味がわかりません。
と・に・か・く。
つまり私にとって叔父さんとは『限りなく他人に近い親戚』であり、そんな殿方とこれから『とある事情』によって顔合わせすることに、今年でようやく中学二年生になったばかりの繊細な乙女が緊張を伴うのは、仕方のないことでしょう。
「……叔父さん、いったいどんな人なんだろ?」
待ち合わせ場所に向かう途中……
私はママ譲りのクセ毛を指でいじりながら、何度となく、チェリーピンクのリップクリームを塗った唇を尖らせました。
このときはまだ、カノンちゃんのなかでジョージさんは「常識人」でした。
短い夢です。
お読みいただき、ありがとうございました。