〈chapter:07-02〉
【前回のあらすじ】
ジョージさんの相談教室が始まりました。
まあ、そんな流れで……
私はかいつまんで、あのときの砂金さんとの会話を、ジョージさんに説明します。
すると。
「ふむ。それはたしかに、難しい問題だな……」
さすがに変態も空気を読んだのでしょうか。
ジョージさんはその美しすぎる横顔に、難問を前にした哲学者のごとき憂いの色を浮かべました。
ドキッ。不覚にもときめいてしまいます。
「そ、それで、私はいったい、どうすればいいんでしょうか?」
胸の高鳴りを誤魔化すように、私がそんなことを質問すると、
「……いや」
ジョージさんは首を横に振りました。
「なにも、しなくていい」
「……ふぇ?」
え? なにもしなくていい? どゆこと?
「その子はもう、マイドーターにその話はこれでおしまいにしようと提案したのだろう? だったら、それでいいじゃないか。それでも首を突っ込もうとするのは、それこそ余計なお節介だと俺は思う」
「そ、それはそうかもしれませんが……」
さすがにちょっと、薄情じゃありませんか?
だって砂金さんは、あんなに苦しんでたんですよ?
ほとんど面識のないクラスメイトに悩みを漏らすほど、追い詰められていたんですよ?
だいたいツンデレさんの『気にするな』なんて、家出少年の『探さないで』みたいなものじゃないですか?
それを額面のまま受け取って、本当になかったことにするなんて……
そんな感情的な私の考えを、ジョージさんは読み取ったのでしょう。
黒真珠の瞳が、困惑する私を捉えます。
「いいかいマイドーター。
人に関わるということは、それだけで相応の重荷を背負うということなんだ。
誰かと縁を結ぶということは、それと鎖で繋がれることと同義。
同情や好奇心で、おいそれと手を出していいものじゃない」
それは……はじめて知る、ジョージさんの人生観でした。
他人は重荷。
縁は鎖。
そんなことを臆面もなく本気で言っているジョージさんに、私ははじめて、この叔父さんが抱えている『闇』を垣間見た気がします。
「いいかいマイドーター。今はまだ、俺の言うことが冷淡に聞こえるかもしれない。納得もいかないだろう。だけど、できるならひとつの忠告として、胸に留めておいて欲しい。俺はなにも意地悪でこんなことを言っているわけじゃない。ただ、こんなことでマイドーターが傷つくのを……見たく、ないだけなんだ」
「『こんなこと』、ですって……?」
砂金さんの……ひとりの人間の。
真剣な悩みを、迷いを、葛藤を。
『こんなこと』で、済ませるだなんて……っ!
「み、見損ないましたよジョージさん! ジョージさんは、最低です!」
「ああ、たしかに俺は最低かもしれない。けれどそれでも、最悪になるよりマシだと考えている」
ソファから立ち上がって激昂する私に、あくまで諭すようにジョージさんは語ります。
「もっと噛み砕いて言おうか。たしかにチープな道徳や正義感で、その子に手を差し伸べるのは簡単だ。『そんなことないよ』『キミには才能がある』『いつかきっと周りも理解してくれるはずだよ』……なんて、耳障りのいい言葉を並べて機嫌をとるのはイージーだ」
バット、それがいったい何になる?
ジョージさんは断言します。
「それは本当に、心から、彼女のことを想ったアドバイスなのかい?」
「そ、それは……」
「俺もいちおうは小説家の端くれだ。ある程度、そういう世界で揉まれてきたという自負はある。そしてその経験から言わせてもらえば、この世界で生きていくには、多少の『努力』や『才能』、『運』程度ではどうにもならないことがある。むしろたとえどれだけ己を切磋琢磨して、不遇に耐えて、チャンスを待ち続けたとしても……それが報われるだなんて保証はどこにもないんだ。そして実際に俺は、そんな人間たちを何人も見てきた」
などと、そんなジョージさんの体験談に……
悔しいけど。
まだまだ人生という経験値が少ない私は、何も言い返せませんでした。
基本的にジョージさんは辛口です。
甘口なのはカノンちゃんとカノンちゃんのママだけです。
お読みいただき、ありがとうございました。




