〈chapter:06-09〉
【前回のあらすじ】
カノンちゃんが天国から地獄へ突き落とされました。
そのあとも少しばかりふたりは問答を繰り返し(そのたびにポキポキと私の乙女としてのプライドがへし折られました)ようやくナオきゅんは、ジョージさんに私の『お友だち』であることを認められたようです。
「ふむ。では最後に、この書類にサインをしてもらおうか」
「はい!」
話の途中で二階の自室に引っ込んで、ジョージさんが差し出してきた書類。
それはまるで、企業の契約書類のように細かい文字がビッチリと並んだ【誓約書】でした。
どうやらそれは私との交遊に際しての注意事項らしく、具体的には……
『渋沢家のハウスルールである門限を妨げない』
『肉体的接触は手首から先に限定する』
『混浴禁止』
『撮影物の保管の際には渋沢丈治の許可をとる』
……などという数十以上にも及ぶ禁止事項のあとで『それらに罰した場合は審議を待たず渋沢丈治の独断で即座に罰則を与えるものとする』『それについての起訴、訴訟は一切認めない』という警告文で締めくくられています。
うん。全体的に気持ちが悪すぎます。
この書類の存在そのものが、製作者の狂気の具現化といっても差し支えないのではないでしょうか?
「……ねえナオきゅん。こんなの、無理にサインする必要ないからね?」
「できました!」
え? なにその迷いのなさ。
この一連の流れに少しは疑問を持たないの? これって私が異常なの?
そうした私の動揺をよそに、ナオきゅんはジョージさんの用意した朱肉に指を押し付けて書類に捺印します。契約完了。書類を受け取ったジョージさんはそこでようやく、ナオきゅん笑顔を見せました。
「よろしく。ドーターズフレンド、ナオ。俺のことはジョージと呼んでくれて構わない」
「あ、はい、ありがとうございますジョージ先生!」
「まあ立ち話もなんだ。ちょうどティータイムの用意をしてあるから、キミも寄っていくといい」
「あ、ありがとうございます!」
憧れのジョージさんに認められて舞い上がっているのか、「ありがとう」を連発するナオきゅん。
その肩に、まるで本当に女子をエスコートするかのように、ジョージさんがやさしく手を置きます。
「あっ……」
その瞬間、ナオきゅんが熱い吐息を漏らしました。
頬は見る間に紅潮し、その瞳は熱く潤んでいます。
いや。
いやいやいや、アカンでしょうその反応は。その表情は。
断じて中学生男子が、同性の成人男性に向けていい顔じゃありませんよ。
「ちょっとジョージさん! どいてください!」
猛烈な危機感を抱いた私は無理やりふたりのあいだに割り込み、マイダーリンを変態から強引に引き離します。
「はは。なんだ、マイドーターは甘えん坊だなぁ」
すると言葉とは裏腹にとてもいい笑顔のジョージさんが、私の肩を抱き寄せました。
おい。なに勘違いしてんだこの野郎。
「はは、いやぁ焼けちゃうなぁ、カノンちゃん……っ」
ギリギリギリ。
一方で笑顔に青筋を浮かべたナオきゅんが、ジョージさんからは見えない死角から私を抓ってきます。
痛たたたたっ!
ち、違うのナオきゅん! 勘違いしないで!
「ははっ。なんやジブンら、オモロすぎるのぅ。さすが渋沢センパイの娘さんや!」
この場で唯一被害を受けていないロッキーさんだけが、満足そうに笑っています。
当然、そんな私たちのお茶会が和やかに進むはずもなく……
『ジョージさんの無自覚な誘惑』→『デレるナオきゅん』→『嫉妬して妨害する私』→『勘違いしてデレるジョージさん』→『誤解してキレるナオきゅん』→『不機嫌なナオきゅんに気を使って優しくするジョージさん』→『振り出しに戻る』
……という不毛なスパイラルは、けっきょく茶会が終わってナオきゅんとロッキーさんが引き上げるまで、延々と続きましたとさ。
というわけで、今日の感想!
NKT(なにこの茶番)?
渋沢家ではハウスルールは絶対です。
お読みいただき、ありがとうございました。




