〈chapter:06-08〉
【前回のあらすじ】
『男の娘』様の降臨に、カノンちゃん大興奮です。
大興奮した私がひととおりペロペロして満足したあとで。
だいしゅきホールドから解放されたナオきゅんは、乱れてしまった身だしなみを整えて、本日二度目となるジョージさんとの対談に望みました。
そして……
ドアを開けてものの数秒後には、私はそのことを後悔していました。
「あ、あの、ジョージさん?」
「ん? なんだいマイドーター?」
「いや、そのですね、ジョージさんが手に持っているそれ……なんですか?」
「見ての通り、花瓶だよ」
そうなのです。
私がふたたび様子見としてドアを開けてみると、いったいいつからそこにいたのでしょうか。
玄関前の廊下でジョージさんが『ゴゴゴゴゴッ……』と、凄みのある威圧感を放ちながら、仁王立ちしていたのです。
その手には細長い花瓶が握られています。
「これはお気に入りでね。フラワーを生けて飾るほかにも、俺の大事なマイドーターにたかるクソ虫のドタマをカチ割るのにも使える、優れものなんだ」
にっこり。
ジョージさんは微笑みます。
「……っ」
ガタガタ。
ナオきゅんはガマガエルのように大量の汗を噴いていました。
あんな青白い顔のナオきゅん、小学生のときに、サッカー部の上級生(もちろん男子)からバレンタインチョコを渡されたとき以来じゃないでしょうか?
「……あっ……アカン……すでに腹筋が痛いわ……」
ちなみにその背後では、ロッキーさんが腹を抱えてピクピク痙攣していました。
この人、完全に楽しんでますね。
最悪です。
「ん?」
そこでジョージさんは、ようやく場違いな闖入者に気づいたようです。
「ロッキーじゃないか。ホワイ? いったい。なぜここに?」
「ああ、ワイのことは気にせんでいいから、まずはそっちのボウ──じゃなくて、ジョーちゃんお相手をしてやりいな」
「そうだな。ちょっと待っていてくれ。三秒で済ませる」
「わ、私は!」
ごく自然に花瓶を振り上げたジョージさんに向かって、ナオきゅんは声を張ります。
「カノンちゃんのお友だちで、『ナオ』と言います! はじめまして!」
「……」
ピタリ。
ジョージさんの手が花瓶ごと空中で停止しました。
好機です。
ここが正念場とみて、ナオきゅん──改め『ナオちゃん』は、一気にまくしたてます。
「誤解しないでほしいのですが、私は見てのとおり、性別こそ男ですが、女の子に全然興味がないっていうか、むしろキャピキャピはしゃいでいる女子は全員くたばれ! うっとおしい! その眉毛をむしってまた麻呂にしてやろうか! って思っているくらいで、彼女とかそういう単語は、聞いただけで正直虫唾が走ります!」
「……ほう」
ナオきゅんの必死な『女子嫌い』アピールが功を奏したのでしょうか。
ジョージさんがはじめて、わずかに興味を示しました。
あと余談なのですが、私、小学校のころ調子に乗って眉を剃りすぎて一時期「麻呂」なんて呼ばれていた黒歴史があるのですが、いまのナオきゅんの発言はそれと無関係であると信じていいんですよね?
「ではキミはマイドーターのことを、『異性』として見ていないと?」
「はい!」
「あくまでただのフレンドだと?」
「もちろんです! カノンちゃんはあくまでただの、友だちです!」
「じゃあ、もしマイドーターがキミの前で無防備に眠っていたら?」
「指一本触れずにその場を離れる自信があります!」
「フレンドとして、風呂に誘われたら?」
「即答で断ります!」
「間接キスは?」
「ダメ、絶対!」
「……ふむ。なんだキミ、なかなか見所があるじゃないか。見直したよ」
「あ、ありがとうございます!」
ようやく態度を軟化させたジョージさんに、嬉しそうに深々と頭を下げるナオきゅん。
その隣で私はちょっと、泣きそうでした。
さすがに心が折れそうです。
花瓶とは、花を活け、愛でるためのものです。
鈍器ではありません。
お読みいただき、ありがとうございました。




