〈chapter:01-04〉
【前回のあらすじ】
パパも変態でした。
「いやぁあああああキモっ! パパキモぃいいいい! っていうか一週間でひとりで九百以上のアカウントって、娘のプライベートを覗くためにいったいどれだけの時間を割いてるの!?」
「まったく……あの忌々しいクソ虫め。こちらがいくら管理者権限で閲覧禁止をかけても、すぐにアドレスを変えて再登録してくる。ユーザー制限をかけたら、今度はハッキングをしかけてきたほどだ。正直ここ数日間は、やつとのイタチゴッコだったよ。おかげでぜんぜんHPの更新が進まなかった」
「私の知らないところでそんな不毛な電子戦が!?」
どうりでジョージさん、ちょっと目の下にクマができてるはずです。
それにパパ、たしか栄転ということで海外の事業所に本社から出張営業に行ったはずなのに……
仕事、大丈夫なのかな?
「ほら。言ってる間にもまた、あのクソ虫がハッキングを仕掛けてきた」
「えっ、なになに……【マイエンジェルの寝顔求むw】ってコラぁああああああああああの変態クソ親父ぃいいいい!」
「まったくだ。どうして俺が、クソ虫の頼みを聞かなければ……」
「あ、しかもまだ書き込みに続きがある! えぇっと【報酬はカナエのネグリジェ姿でb】って……?」
「マイドーター。叫びすぎて喉が渇いただろう? いま飲み物を入れてくるよ」
「ちょっとジョージさん!?」
あなたいったい飲み物に何を入れるつもりですか!?
立ち上がろうとするジョージさんを、肩を押さえて無理矢理に封じ込めます。
ジョージさん、微笑んでいますが目の奥が笑っていません。
この人マジです。
さすが変態、行動に迷いがありません。
娘の寝顔見たさに自分の妻の写真を交渉材料にするパパもどうかと思いますが、実姉の写真のために姪に睡眠薬を盛ろうとする叔父もどうかと思います。
あまりに無法。
本当にここは、法治国家なのでしょうか?
「っていうかママ、ネグリジェってアンタ……」
張り切りすぎでしょう。
たしかママ、寝るときはパジャマ派だったはずですよね?
ふたりきりの出張先で浮かれるのもわかるけど、もっと慎みを持ちましょうよ……
ちなみに私のママとパパは、ふたりともとっても若いです。
とくにママなんてすっぴんでも、二十代前半にしか見えません。
今回の海外出張も、ママにしてみれば、私というお邪魔虫のいないラブラブ同棲生活くらいの心境でしょう。
なにせ目標が、私の弟妹をもうけることらしいですからね。
パパ、仕事と心労に加えてママの性欲で、精魂尽き果てなければいいですけど……
「ふざけるな! たとえいくら金を積まれても、貴様の望むマイドーターの写真などアップしないぞ! どうしてもというならせめてマイシスターのエプロン写真を用意しろ! 話はそれからだ!」
いつのまにかパソコン前に戻っていたジョージさんは、もの凄い速度でキーボードを打鍵してパパとチャットで交渉を始めていました。もう怒る気にもなりません。
「……はぁ。娘ラヴのパパに、パパラブのママに、ママラブのジョージさん……あぁ、イヤだイヤだ! 私のまわりには変人しかいません!」
いったいどうして、こんなことになってしまったのでしょうか……?
助けてナオきゅ~んっ!
「む。マイドーター、その写真は……」
「あ、これですか。これは私の魂の伴侶です」
私はお守りのように握りしめて頬ずりしていた、愛しのマイダーリンを待ち受けにしているスマホを、ジョージさんに見せつけてやります。
「どやっ! 可愛いでしょう!」
「……ふーん」(ギロリ)
「え?」
「ん? なんだいマイドーター」
いや、今なんだか穏やかではない気配を感じたのですが……
相変わらずジョージさんは優しく微笑んだままです。
すでにその気配も感じません。
気のせいかな?
「ところでマイドーター。その、フォトグラフ。被写体の目線がカメラに向いていないような気がするのだけど?」
「ええ。ナオきゅんはシャイなんですよ」
「いやそれは、いわゆる盗撮──」
「いやいや、それは違いますよジョージさん。たしかに赤の他人が本人の許可を得ずに写真を撮るのは犯罪ですが、愛しいマイダーリンの写真を慎ましく保存して肌身は離さず持ち歩くのは、むしろ妻としての常識ですよ?」
笑顔でジョージさんの問いに答えると、ジョージさんは「……そうかい」と一言。
「……血は、争えぬか」(ボソリ)
なぜか同類を見つめるような瞳が、少しだけ気になりました。
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ともあれこれはそんな私とジョージさんの、平凡な日常を綴った物語です。
そしてカノンちゃんも変態でした。
基本的にこの物語の主要人物は変態です。
あと、いちおうここで第一章は終わりです。
お読みいただき、ありがとうございました。