〈chapter:06-06〉
【前回のあらすじ】
砂金さんが爆弾を投下してくれました。
「でも……でもさぁ! 師匠の言っていることはわかるけど、でもウチにはもう、これしかないんだ。これ以外の道なんて、考えられないんだ! わかるか!?」
グェッ! 胸元を掴まれた!?
「ウチを見ろ! この目! この肌! この髪の毛! ああそうだ、ウチを産んだクソババアは面食いだから、たぶんどっかの見たこともねえ顔が良かっただけのガイジンの血が入ってるんだろうよ! それにウチはこんな性格だから、ガキのころからずっとボッチで生きてきた。でも漫画だけは、そんなウチでも受け入れてくれた! そして師匠の描いた漫画がウチにどれだけ希望や勇気を与えてくれたか、アンタにわかるか!?」
「え、ええ、わかります! わかりますとも!」
「ふざけんな!」
ドン! 今度は突き飛ばされました。
「アンタに何がわかる!? 普通に生きて、普通に学校生活を送っているアンタに何が! ああ畜生! ウチはいったい、どうすればいいんだ!? 教えてくれよ茉莉! なあ!」
わかるかと詰め寄ったり、わかるはずがないと突き放したり。
彼女の言動は支離滅裂です。
私にはさっぱり理解できません。
でもきっとそれはすでに……砂金さん自身にも、わかっていないのでしょう。
「本当は今日だって、師匠にあんなこと言うつもりじゃなかったんだ。ウチはただ、師匠にウチの描いた渾身の新作を見てもらって、それで……」
このまま漫画を描き続けていいよと、そう言って欲しかったのでしょうか。
しかしその夢は。
期待は。
無残なかたちで砕け散ってしまったことを……
私はすでに、知っています。
「……すまない。アンタには、八つ当たりしちまったな」
そこまで語りきって──吐き出して。
少しだけ、すっきりしたのでしょうか。
いくぶん冷静さを取り戻した様子の砂金さんは、ふっと、穏やかな笑みを浮かべました。
(……ッ!)
私の背中にゾッと怖気が走ります。
なぜなら私は『それ』の正体を、を知っているからです。
それはまるで、憑き物が落ちたかのような。
あるいは何かを手放したかのような。
現実を知って。
夢を捨てた。
『大人』の、微笑み……
「い、砂金さん!」
「あぁ、みなまで言うな。わかってる。ホントはウチだって、どっちが正しいかなんてわかってんだよ。でも最後にちょっとだけ、誰かに話を聴いてもらいたかっただけなんだ」
だから未練がましく、ロッキーさんのあとをつけてきて。
ほとんど無関係な私に胸の内を打ち明けて。
区切りをつけて。
ケジメをつけて。
砂金さんは……自分の迷いに、『結論』という銃弾を打ち込んだのです。
そうやって自分の『心』を殺したのです。
そんなの……
まるで、自殺です。
「……おいおい。そんな顔、すんなよな」
そのとき私はいったいどんな顔をしていたのでしょうか?
砂金さんは苦笑していました。
「まあ、せっかく師匠の勧めで中学には進学したんだ。せめてそれくらいは卒業するさ。漫画をやめたら時間は腐る程あるんだ。それこそアンタらを見習って、グダグダと締まらない恋愛ごっこにうつつを抜かすのもいいかもしれねえな」
なんて。
普段の彼女らしい大人びた表情で、シニカルなことを言う砂金さん。
それは余裕があって、自制がある、本音を隠した大人の対応。態度。
それが人として成長するということ。
当然です。
人は誰だっていつまでも子供ではいられないのですから。
でも……
「……ねえ、砂金さん? 本当にそれで、いいんですか?」
「師匠に、このことは言うなよな」
硬い、砂金さんの返答でした。
「ここまで付き合わせといて勝手だが、アンタは今日、ここで誰ともあっていない。話も聞いていない。それでいいじゃないか。な?」
「……」
「おっとわりっ、茉莉。それじゃあウチは、そろそろずらかるわ」
そう言って、そそくさと退散していく砂金さん。
逃げるように、遠ざかっていくその背中に……
私は、声をかけることができませんでした。
とりあえず伏線は張り終えたので、次回からコメディ回に戻ります。
先に言っておきますが、カノンちゃんが狂います。
お読みいただき、ありがとうございました。




