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〈chapter:06-05〉

【前回のあらすじ】


 砂金さんはツンデレでした。

「あ」


 なんて、微笑ましい私の視線に気づいたのか。

 砂金さんは慌てていつもの厳しい表情を取り繕います.

 ですがその内面を垣間見た今となっては、もはやそんな彼女の行動など単なる萌え要素にしかなりません。

 ちょっぴり、イジワルな好奇心が鎌首をもたげます。


「それでそれで? 砂金さんは、どうしてそんなことが気になったのかな~?」

「そ、それは、師匠がウチのことを、本当に見捨てたんじゃないかと思って……って、そんなことはどうでもいいんだよ!  それより、だったら何なんだよこの状況は! ちゃんと説明しろよ!」


 はい出ました。ツンデレの十八番、逆ギレですよー。

 でもしっかりと『どうでもいい』と言いながら『説明しろ』と矛盾しているあたり、ツンデレの基本を心得ています。いやぁ~、砂金さん、プロですわぁ~。天才ですわぁ~。

 ここまでテンプレ通りにツンされてしまうと、会話のキャッチボールを受けないわけにはいかないじゃないですか。


「えぇっと、順を追って説明するとですね……」


 私は今日のここに至るまでの出来事を、わかりやすく簡潔に伝えます。


「……というわけで私はここで、女装したナオきゅんの降臨を待っているというわけですよ」

「なんか……いろいろと、直江が可哀想だな」


 そうですか? 

 私としてはラッキーこの上ない展開なのですが。


「それで? こちらの事情は説明したので、今度はそちらの番ではないですか?」

「……」


 話を振ると、砂金さんは、苦い表情のまま黙り込んでしまいます。

 でも、ドМな私にはわかります。

 それ、本当の拒絶のサインではありませんね?

 芸人で言う「押すな! 押すなよ!」ですよね? わかります!


「ねえねえ? なんでなんですかぁ~? なんで砂金さん、ロッキーさんとあんな口論になってたんですかぁ~? ねぇねぇねぇ? お~し~え~て~っ」


 ねばってみると、渋々といった様子で、砂金さんが口を開いてくれました。


「じ、じつはな……」

「ふむふむ」

「師匠は私に、漫画の才能がないから、漫画描くのをやめろって言うんだ……」


 開いた門の内側からは、藪蛇どころかドラゴンが飛び出してきました。


 重っ! 

 それ確実に、こんなところで出していい話題じゃないよね!?


「ウチの事情は、もう師匠から聞いているんだろ? 親が片親で、しかも娘にウリをさせて小銭を稼ごうとするようなクソババアだから、愛想が尽きて家を飛び出したこと。そんで着の身着のまま、たまたま住所を知っていた近所の漫画家の家に、ノートにシャーペンで書いただけのチンケな漫画モドキを持って飛び込んだこと。そして師匠はそんな無茶苦茶なウチの弟子入りを聞き入れてくれたことが、今からもう三年前になる」


 うん砂金さん、その情報は初耳!

 だからそんなディープな話を私にしないで!

 ただの女子中学生に打ち明けるには重すぎるよその話題!


「それでそのあとは、師匠のアドバイスもあって児童虐待センターに通報して、クソババアとは別居して、親戚の家に引き取ってもらって、そこから師匠のとこに通わせてもらって、漫画のアシスタントみたいな真似をさせてもらってたんだけど……」


 ともあれ。

 そうした話を聞いているうちに、私の中で次々とパズルのピースが埋まっていきます。

 いつも他人に対して、自ら距離を置こうとしている砂金さん。

 それは彼女が他人から、傷つけられた過去があるから。

 それも、もっとも信頼すべき実の親に。


 そして教室でいつも寝ているのも。

 わりと頻繁に授業に遅れてくるのも。

 早退するも。目の下にクマが駐在しているのも……

 すべては、そうした彼女のプライベートを知ってしまえば、なんら不思議はありません。

 少なくとも砂金さんはクラスで噂されているような『やましいこと』は、何一つ行っていなかったのです。


「……でもちょっと前に、師匠が『もうアシスタントはしなくていい』『漫画書くのを辞めて学校に行け』って、ウチにそんなことを言ってきたんだ」


 だからこそ……その『拠り所』を失った彼女が何を思ったのか。

 どれほどの絶望を感じたのか。

 想像に難くありません。


「それって……」

「ああ。ようするにプロの目から見て、ウチに漫画の才能がないってことなんだろうな」


 ギュッ……と。

 強く握り締められた、よく見るとペンダコだらけのその掌は。

 悲しいほどに、年相応の女の子のものでした。


 ちなみに砂金さんはわりと空気が読めていない子です。

 一生懸命頑張ってるんだけど、空回りしちゃう……

 そんな子って、可愛いですよね?


 お読みいただき、ありがとうございました。

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