〈chapter:06-04〉
【前回のあらすじ】
カノンちゃんは置いてけぼりです。
それから十数分ほど。
この場から動くことを禁止され、さらにケータイまで取り上げられた私が、仕方なく地面に『の』の字を書いて時間を潰していると……
(……おや?)
不意に私は、その『気配』に気づきました。
玄関前にいる私からすこし距離を置いた、ジョージさん宅を囲う洋風の門。
その陰から、こちらをこっそりと伺っている人物の気配です。
あちらもそれを感じ取ったのでしょうか。
門に隠れていた人物は、呆気なくその姿を現して……
「え? い、砂金さんっ!?」
その正体は先ほど街中で遭遇した私のクラスメイト、砂金さんでした。
驚く私を無視して、砂金さんは門を開き、ズカズカと私のほうに歩み寄ってきます。
その表情は『覗き見がバレて観念した』といったものではなく……
むしろ、『発見されることで意思が固まった』というもの。
案の定、玄関前で屈んでいた私の前にたどり着くなり、砂金さんは硬い声音で問いかけてきました。
「……おい茉莉。さっきからずっと見ていたけど、あんたそこで何をやってんだよ?」
「え? 私は見てのとおり、ここで愛しのマイダーリンの帰りを待っているのですが?」
「そう」
と、やけにあっさり納得してくれる砂金さん。
そしてこの短いやり取りで『さっきから』という砂金さんの発言から、私は彼女がたった今この場をたまたま通りかかったのではなくて、ある程度前からああやって私のことを覗き見していたことを推察します。
きっと砂金さんは、あのとき町中でロッキーさんの前から逃げ去った……
ように、見せかけたあとで。
いったん距離をとって、ロッキーさんごと私たちを尾行していたというところでしょうか。
逃亡した彼女が『偶然』この場に巡り合わせたと考えるより、そのほうが自然です。
にもかかわらず私たちの会話の内容を完全に把握していないあたり、彼女が隠れていた場所からここまでの距離の関係上、私たちの会話をすべて盗み聞きすることはできていないようですね。
だからこそただひとりこの場に放置された私の意味がわからず、ロッキーさんたちがここに戻ってくる確証を持てなかったために、痺れを切らしてこうして直接私に話しかけてきた──といったところでしょうか。
「それで師匠……じゃなくて六本木さんは、ここに戻ってくるのか?」
「師匠でいいですよ。ロッキーさんには、だいたいの事情を聴いていますから」
っていうか砂金さん、ロッキーさんを『師匠』って呼んでるんだ。
リアルで『師匠』とか言う女子中学生、可愛ユス。
「そう。それで師匠は、ここに戻ってくるわけ? 来ないわけ?」
「戻ってくるはずですよー。たぶんあと二~三十分くらいで」
「ならあんまり時間はないな。単刀直入に聞くわ」
そこで砂金さんは『キッ!』と、ただでさえ強い目力をさらに増して、
「アンタたち。師匠と、グルだったのかよ?」
「……ふえ?」
「だから! さっきウチと街中で出くわしたことや、そのときのやり取りなんかが、ホントはぜんぶ師匠との打ち合わせ通りだったのかって訊いてんだよ!?」
あぁ、なるほど。
そういうことですか。
「つまり砂金さんは、さっきの私たちのやり取りが、じつはロッキーさんが仕組んだ自作自演だったんじゃないかと疑っていると?」
「……だったら、どうなんだよ」
私の確認に、砂金さんはさらに眉間のシワを深くします。
しかしそれは怒りを堪えているというよりは……
まるで、本当は親を信じている子どもが。
自分の発言を、親に否定して欲しがってるような。
なので。
「ううん。そんなんじゃないよー。あれは完全に私のアドリブ。この件に関してはロッキーさんは完全にノータッチ。股間を蹴られたロッキーさんの痛みは、ホンモノだよ~」
「そ、そうか……」
私が首を横に振ると『パぁぁ……』と、砂金さんの表情が見事に晴れ渡りました。
きゅん。初めて見る彼女の笑顔に、思わず胸が高鳴ります。
もしかして砂金さんって……
見た目は大人っぽいけど、中身はけっこう純粋な人なのかな?
もうおわかりかと思いますが、砂金さんはツンデレです。
お読みいただき、ありがとうございました。




