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〈chapter:06-03〉

【前回のあらすじ】


 ナオきゅんが覚悟を決めました。

「よっしゃよう言うた! それでこそ男や!」

「目的のためなら手段を選ばないその男気、流石です! 惚れ直しました!」

「……」


 導き出しされた答えを手放しで絶賛する私たちに、しかしナオきゅんは渋い顔です。

 まあ? 

 たしかにロッキーさんの顔は『楽しい玩具を手に入れた子ども』のように輝いていますし? 

 私の顔も、これから女装する『男の娘』を前に興奮を隠せていませんが?


 だとしてもそれらが、ナオきゅんがここで退く理由にはなりません。

 なにせ退路はナオきゅん自身が絶っています。

 ならば茨の道でも、前に進むしかないのです。


「はっ! カメラ! こんなチンケなケータイカメラじゃなくて、もっと高画質で高性能なデジカメを用意して美少女の降臨に備えないと!」

「おいバカノン。そこから一歩も動くな。動いた瞬間おまえとは絶交だ」


 動き出そうとする私の肩を押さえ、淡々と紡がれるナオきゅんの声音はガチでした。

 ちょっとだけ、私は冷静になります。


 キキィッ……

 そのとき見覚えのない、ピンクのミニワゴンがジョージさんの家の前に停まりました。


 ガチャン。バタン。バタバタ。

 車から出てきた人物がこちらに駆け寄ってきます。


「おンまたせぇ~ん。ロッキーちゅぁ~んっ」


 それは屈強な身体を持つ、ケバケバしいメイクをした女性口調の成人男性でした。


「おうミチルちゃん。早かったな」

「んもう当然じゃない。ジョージさま絡みの話なら店を締めてでも駆けつけるわよん♪」


 私はその人物に見覚えがあります。

 遠目に何度か見たことある、先ほど話題にも上がっていた、雑貨屋『キティハウス』のオーナことミチルさんです。どうやらロッキーさん。さっき私たちがジョージさんと話をしているにあいだに、彼女(?)と連絡をとっていたようですね。


「それで。その子が例の──」

「ああ。さっき説明したボウズや」


 ぎょろっ。

 付けマツゲとマスカラでぱっちりお目めが、萎縮するナオきゅんを捉えました。


「あら。見覚えのある顔ねぇ。もしかして、ワタシのお店に来てくれたことがある?」

「は、はい。何度か」

「あらぁ~。それじゃあなおのこと、ばっちりメイクしてあげなきゃ~ね!」

「え? メイク? うぇ?」

「ちゅーわけやボウズ。必要な『準備』はぜんぶこのミチルちゃんがしてくれるさかい、ボウズはただ黙って言うこと聞いとけばえぇ」


 なるほど。

 それが彼女(?)の役割ですか。


「そうよぉ~ん。オネーサンにお・ま・か・せ☆」(じゅるっ!)

「ちょっとロッキーさん! ホントに大丈夫なんですか!?」


 この人、口端からヨダレ垂らしてますけど!

 瞳とか完全に、獲物を狙う肉食獣ですけど!


「……まあ念のため、『準備』にはワイも付き合ったるわ」


 さすがに危機感を覚えたのか。

 ロッキーさんがナオきゅんににじり寄るミチルさんの前にやんわりと割り込んでくれました。

 そのままいったん道具が揃ったどこかへ移動するのか、三人で車に移動します。


「あ、じゃあ私も──」

「バカノン、言ったよな? その場を一歩でも動いたら絶交だって」


 ピタリ。

 あとを追おうとした足が止まります。


「あ、それと」


 くるり。

 たったったっ。

 何か大事なことを思い出したように、ナオきゅんが小走りでこちらに戻ってきました。


「ケータイを寄越せ。人を呼ばれたらめんどくせぇ」

「ナオきゅん! それはあまりにも私のことを下衆に勘ぐった発言では!」

「じゃあおまえはこのあと、ここから一歩も動かず俺たちの帰りを待っているあいだ、俺が女装することを誰にも言いふらさない、ネットの掲示板にも書き込まないと誓えるか? 嘘付いたらマジで針を百本飲ますぞ」

「……」(ダラダラダラ)


 さ、さすがですねナオきゅん!

 私の考えをそこまで的確に見抜くとは!


「いいからさっさとケータイを寄越せ。あとこの場から一歩も動くな。もちろん弧来先生に何か聞かれてもうまくはぐらかしとけ。おまえにできるのはそれだけだ」

「まあ三~四十分くらいで戻ってこれると思うさかい、ジョーちゃん辛抱してやぁ」

「男は船。女は港。『待つ』のは、イイ女の条件よぉ~ん」


 そんなこんなで……

 ぽつん。私はひとり、玄関前に放置されるのでした。


 でもカノンちゃんは基本ドMなので、放置プレイには耐性があります。


 お読みいただき、ありがとうございました。

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