〈chapter:06-01〉ジョージさんの試練です。
【前回のあらすじ】
ついにナオきゅんがジョージさんの家に到着しました(死亡フラグ)。
「うぉぉ……これが弧来先生の家かぁ。ヤベーよ、まじヤベー」
「うふふ。なかはもっとすごいんですよぉ~?」
子どものように目を輝かせるナオきゅんを手招きし、私たちは庭先を抜けて玄関へ。
「たっだいま~。いま帰りましたよ、ジョージさん~」
大きな声で挨拶をすると、廊下の奥からジョージさんが現れました。
「おかえりマイドーター。ずいぶんと遅かったね」
「えへへ。すいませんジョージさん。ちょっと寄り道し過ぎちゃって。
……待ちました?」
「ノープロブレム。レディーを待つことは男の甲斐性だ。それよりも──」
ジョージさんは視線を私の後ろに移します。
「たしか話では、今日はマイドーターの友人を連れてくる予定だったはずだが……」
「な、直江秋良です! はじめまして、弧来先生!」
「……なんだ。誰もいないじゃないか」
バタン。
ジョージさんはドアを閉めました。
ガチャガチャ。
さらに鉄壁のワンドアツーロック。
ガチャン。
ご丁寧にチェーンロックまでかけています。
「……え?」
ここまでの流れるような一連の動きに、私は反応できませんでした。
施錠を終えたジョージさんは、穏やかな笑みを浮かべています。
「さ、マイドーター。今日は暑かったから、喉が渇いただろう? 冷蔵庫にハーブティーを用意してある。もうすぐクッキーも焼き上がるから、午後のティータイムにしよう」
「あ、いや、ちょっと待ってくださいジョージさん……」
あれ?
あれれれれ?
私は左右のこめかみに人差し指を当てて、目をグルグルまわしてしまいます。
たった今、目の前で起こった現象が理解できません。
(……もしかしてジョージさん、ナオきゅんの存在に気付いていない?)
それともさっきまでわたしが見えていたナオきゅんって、じつは実体ではなかったのでしょうか?
なんだか無性に不安になってきました。
確認しないと。
「あー……ジョージさん。あの、私はちょっと用事があるので、ジョージさんは先に台所でお茶の準備をしておいてくれませんか?」
「オーケィ。任せてくれ」
廊下の奥に引っ込むジョージさんを確認して、私は厳重にかけられたロックを解錠。
ゆっくりと、慎重に扉を開けてみます。
「……?」(きょとん)
残念。
そこにはぎこちない笑顔のままフリーズした、幼馴染みの姿がありました。
「ナオきゅん!?」
「……あ、はい、そうですね。俺が直江秋良です。中学二年生です。弧来先生にはずっと憧れていました! はじめまして、そして今日はよろしくおねがいします!」
「ダメだ! 記憶がトンじゃってる!」
壊れて音飛びするレコーダーのように、ナオきゅんは延々と自己紹介を繰り返しています。
その瞳はとても虚ろです。
ショックのあまり精神が崩壊しかかっているようですね。
「ナオきゅん大丈夫!? ここはどこ!? 私が誰かわかりますか!?」
「こ、ここは……弧来先生の家で……おまえは……バカノンで……」
「そうです! あなたの妻です!」
「いや、それは違う」
くぅ!
やはり記憶に障害が!
それに、仮にナオきゅんが正気を取り戻したとしても、けっきょくはあのジョージさんの謎の対応をなんとかしないと話が進みません。堂々巡りです。でも解決しようにも、肝心の理由がわかりません。八方塞がりです。打つ手がありません。
唐突に訪れた窮地。
いったい私は、どうすれば……!?
「ははっ。やっぱり、こないことになったか」
ひょいっ。
そんな私たちの背後から、楽しげに笑う長身の影が覗き込んできました。
「ロッキーさん! やっぱりって、もしかしてロッキーさんこの展開を予想して!?」
「いやまあ、ワイもジョージとの付き合いは長いほうやからな。お気に入りのジョーちゃんがオトコを連れてきたときの反応ぐらい、なんとなくわかるわ」
「ならどうして! 先に教えてくれなかったんですか!」
「もちろん、そのほうがオモロそうやったからや!」
「純粋なまでの悪意だった!」
「まあええ。とにかく今はこっちのハナシやろ。な?」
そう言ってロッキーさんは……ポン。
いまだ放心状態のナオきゅんの肩を、悪魔めいた笑みで叩くのでした。
ジョージさんほどではありませんが、もちろんロッキーさんも変態です。
お読みいただき、ありがとうございました。




