〈chapter:01-03〉
【前回のあらすじ】
ジョージさんはやっぱり変態でした。
けっきょくジョージさんが「ポリスだけは勘弁してくれ……っ!」と必死に頭を下げて懇願するので、しぶしぶ私は国家権力への通報を取り下げてあげました。
いま私は腕を組んで仁王立ち、しゅんと頭を項垂れて正座する叔父のつむじを見下ろしています。
「とにかくジョージさん。あなた、いったい何が目的でこんな真似を? まあ? たしかにぃ? なかなかの美少女である姪と同居している人生の勝ち組であることを、世間様に自慢したい気持ちはわからないでもないですが」
「違うよマイドーター。断じて違う。けっして俺はそんな下種な気持ちで、マイドーターの写真を公開するHPを作成したわけではないんだ……っ!」
顔をあげ、真剣な面持ちで弁明するジョージさん。
私の美少女発言は真顔でスルーです。
ちょっと恥ずかしかったり。
「で、ではいったい、なんの目的で?」
「それは……俺の敬愛するマイシスター。つまりキミのマザーに、マイドーターの元気な姿をいつでも見せてあげたかったんだ。マイドーター。こんなときに言うのも気が引けるが、キミは、キミがマイシスターのもとを離れてからの一週間、ちゃんとマイシスターと連絡はとっているのかい?」
「む」
ジョージさんめ……
変態のくせに、なかなか痛いところをついてくるではありませんか。
そういえばたしかにジョージさんの家に引っ越してきてからというもの、ちゃんとママと連絡をとった覚えはありません。
ママはけっこう大ざっぱな性格なのでそういうのは気にしていないと思っていたのですが、もしかするとそれは、私の勝手な思い込みだったのかもしれません。
ちなみにパパからの着信は初日に拒否設定にしてやりました。
三十分ごとにコールしてくるとか、マジありえません。
「マイシスターはシャイだから、きっと向こうからマイドーターに連絡をとるような真似はしないだろう。寂しがりのくせに、意地っ張りなんだあの人は」
「だからジョージさんが気を利かせて、私の動向が把握できるサイトを設けたと?」
「イグザクトリイ。この方法なら、マイシスターでも素直にマイドーターのことを気にかけられると思ってね。バット、だとしても、たしかにマイドーターに無断で写真を撮って掲載していたのは悪かった。謝罪する。許しておくれ」
「ぬ」
「それにたしかに、マイドーターのような可憐なガールと一緒に住んでいることを、誰かに自慢したかったという気持ちもある。こんな俺の卑しい自尊心を満たすために、ドーターを利用したことを、心から詫びよう」
「ぬぬぬ……」
そう言ってジョージさんは再度、正座のまま深々と頭を下げてきました。
ぬぅ……
これは参りました。
盗撮と違法アップロードに犯罪性があるとはいえ、その理由には正当性があり、しかも私にも非があるというのだから、これ以上一方的にはジョージさんだけを責めることはできません。
仕方ありません。
それにほら、たしかに私って可愛いですからね?
仕方がありません。
大事なことなので二度確認しました。
とにかくここらへんが、妥協点でしょうね。
「……ふぅ。まあ、いいでしょう。盗撮とHPの件については納得しました。しかしそれを今後も許すわけにはいきません。いくつか条件をつけさせてもらいます。いいですね、ジョージさん?」
「ああ、なんなりと言ってくれマイドーター」
「ひとつ、今後は盗撮はやめること。家の隠しカメラは全部撤去してもらいます。もちろん私の部屋に仕掛けてあるものも、すべて」
そうです。
すっかり忘れていましたが、それが当初のジョージさんの部屋を訪れた目的でした。
たまたま部屋を掃除していたら、箪笥の上に飾ってあるクマのヌイグルミから盗撮カメラがでてきたときは、心臓が口から飛び出るかと思いましたよ。
「承った」
「ふたつ、HPにアップする写真はかならず私の許可をとること」
「了解だ」
「みっつ、このHP公開は、身内だけに留めること」
「勿論だとも。というか今だってこのサイトは閲覧制限を設けて、俺の知人やマイドーターのファミリーにしか公開していないよ?」
「え? でもジョージさん、さっきアカウントが1000を超えているって……」
「ああ、だからその九割以上は、キミのファーザーによるものだ」
「いやぁああああああああああっ!」
この日、私はもはや何度目になるかわからない悲鳴をあげました。
変態はジョージさんひとりではありません。
お読みいただき、ありがとうございました。