〈chapter:05-03〉
【前回のあらすじ】
らぶらぶデート(?)中に、波乱の予感です。
「あれ? 今の声ってたしか──」
どうやらその声から私と同じことを察した様子のナオきゅん。
とりあえずそれを確かめるため、私たちは声の聴こえた方向へと足を向けます。
そこにはすでに人だかりができており、その中心では、どうやら目の前のカフェから飛び出たらしい二人組が、激しく言い争っていました。
男性と少女。
親子……とまでは言いませんが、かなり年の離れた組み合わせです。
そして男に腕を掴まれ必死にそれを振り払おうとしている少女の姿に、私は見覚えがありました。
「あれは、砂金さん!」
日本人離れした白い肌。碧い瞳に、金色の髪。
私服ですが間違いありません。私たちのクラスメイト、砂金千隼さんです。
「いやっ! 離してください!」
「離すかボケぇ! いいからジブンは、黙ってワイの言うことを聞いとればいいんや!」
「嫌です! 絶対に聞き入れません!」
「はぁ!? これまで散々世話かけさせといて、どの口がそないなことほざくんや!?」
「そ、それとこれとは、関係ないじゃないですか!」
ははぁ……ん。なるほどね。
聡明にして賢明なる私は、砂金さんたちのそうした会話で全てを理解しましたよ。
ようはアレですよね?
痴情のもつれ、というやつですよね?
クラスメイスのそうしたディープな話にはとても興味がありますが……今は、それどころではありません。
それよりも先に、人としてやらなければならないことがあります。
「ほこぉおおおおお……」(ゴゴゴゴゴゴゴッ……!)
「っ! おいバカノン、ちょっと待て!」
待てと言われて待つものですか。
心配性なナオきゅんの静止を振り切って、中国拳家のような呼吸で息を整えた私は、しつこくクラスメイトに絡んでいる男に向かって駆け出します。
奇襲は背後から。
迅速かつ的確に行われなくてはなりません。
「ほぁちゃあ!」
キンッ!
「ふぁぐゥ!」
背後から股間を蹴り上げられた男は、情けない悲鳴とともにその場に崩れ落ちました。
ガクガクぶるぶる。
内股で股間を押さえ、生まれたての子鹿のように痙攣しています。
はっ、いい気味ですわぁ!
「さぁ砂金さん、今のうちに!」
「え? 茉莉? なんで?」
「ま、待ちぃなぁ……まだ、話は終わっとらんでぇ……」
「……っ!」
そうして、なおも食い下がろうとする男が決め手となったのでしょうか。
表情を引き締めた砂金さんは、脱兎のごとく男に背を向けて駆け出します。
そう……それでいいのです。
すでに終わった恋とはいえ、一時は心を許した相手。
その無様な姿を、わざわざ彼女に見せつける必要はありません……
「おい、待てって──」
「動くなぁ!」
ぐきっ。
私はママから習った護身術に従いって男の腕を背中側に撚りあげます。
同時に空いた反対側手で、バッグから取り出した携帯電話を操作。
「あ、もしもし? 警察ですか?」
「っ! ちょ、ちょいちょい待ちぃ! ジョーちゃん、警察だけは勘弁や!」
「黙りなさい! いくら世の殿方の憧れの象徴、女子中学生に未練があるからとはいえ、嫌がる女性にしつこく食い下がる腐れ外道にはブタ箱行きがお似合いです!」
「はぁ!? 腐れ外道!? 誰が!?」
「おまえだぁ!」
「心外や! っていうかジョーちゃん、さっきからな何か勘違いしとらへん!?」
「黙りなさい変態! 変態が何を言おうと、私は決して惑わされませんよ!」
変態と一緒に暮らしていて鍛えられた免疫力、舐めないでください!
「だから変態ちゃう言うとるやろ!」
しかし男はそこで、大きく息を吸い込んで……
「ええか、ワイはあのバカタレの──『師匠』や!」
ちなみにカノンちゃんママ直伝の護身術は百八つあります。
お読みいただき、ありがとうございました。




