〈chapter:04-06〉
【前回のあらすじ】
いかにもワケありっぽい新キャラが登場しました。
「それでは皆さん、席についてください。朝のHRを始めます」
そうした私たちのモヤモヤとした微妙な空気は、クラスの担任である朝比奈先生が教室にやってくることでようやく終わりを告げました。
ああ……朝比奈先生。
今日もお美しや。
精神的な安心感もあって、今日はその美貌が一段と際立って見えます。
若干二十六歳にしてはやくも次期学年主任と噂されているその才覚もさることながら、今日もパリッとノリの効いたスーツに身を通し、知的なメガネで教室を見渡すそのクールビューティーな美貌には、クラス内に限らず、学校中に多くのファンを獲得しています。
そんな、朝比奈の短いながらも的確なHRを受けて。
淡々と、午前中の授業を消化して。
時刻は昼過ぎ。
つまりは憩いのランチタイムです。
事件はそこで起きました。
「うわっ、やっちゃったよ!」
ゴソゴソとカバンを漁っていた私は悲鳴をあげてしまいます。
隣の席ですでに弁当箱を広げてきたナオきゅんは、鬱陶しそうに目を細めました。
「なんだよ、うっさいなバカノン。ついに自分の罪深さに目覚めたのか?」
「あなたに対するこの心が罪というなら、私は永遠に罪人でいい……」
「無知は罪って言葉、知ってるか?」
「……? ムチが気持ちいいことなら知ってるよ?」
「むしろそれをこれまでの人生のどこで学ぶタイミングがあったんだよ……? いや、いい。やっぱ聞きたくない。メシが不味くなる」
「そう、そのご飯が問題なの!」
「ご飯がどうかしたんですか、カノンちゃん?」
こちらは上品に小首を傾げながら、いつものように私の机に相席しているユリりんです。
大きな瞳を気遣わしげに潤ませて、こちらを見つめてきてくれます。
しかし私の視線は……
その手元にある、高級そうな小型の重箱に注がれていました。
「あー……もしかしてカノンちゃん、今日のお弁当忘れちゃったとか?」
「……いや、正確にはそれを購入するための、サイフをね」
おっかしぃなー。
たしかに昨日のうちに、カバンに入れておいたと思うんだけどなぁー。
「ま、済んだことで悩んでいても仕方ないか!」
とはいえ、切り替えが早いことには定評のある私です。
むしろこれを好機とし、さっきから『我関せず』で食事するナオきゅんに声をかけます。
「ねぇねぇ、ナオきゅ~ん」
「金なら貸さねえぞ」
「ひどい! 可哀想な幼馴染みにお金を貸してくれないこともそうだけど、そもそもその弁当をわけてくれるっていう選択肢が皆無のような口ぶりが本当にひどいよっ!」
「ふざけんな。おまえにやるぐらいだったら、腐らせて花壇の養分にするわ」
「……っ! さすがナオきゅん! 自分の食事を削ってまで学校の美化に貢献するなんて、まさしく美化委員の鏡ですね! ステキです! 結婚してください!」
「相変わらず求婚に脈絡がないうえに、人の悪意をそこまで前向きに解釈できるお前の脳みそも、たいがい『さすが』だよな」
「いやー。それほどでもー」
「褒めてないから」
「しかしそうなると、ナオきゅんから弁当を口移しでわけていただく案は却下ですな」
「おまえって、そこまでロクでもないことをよくもまあ次から次へと考えつくよな……」
「……」(ポッ)
「照れんなや。ああそれに金も無理な。こないだ新しい本を買ったから、もう金ねーんだわ」
ふむ。
では愛しのマイダーリンからの援助は期待できませんね。
となると──
「ユリりん?」
「ひゃ、ひゃい、もうひょっひょまっひぇくらひゃいねカノンひゃん。いま、ひゃ(噛)んで柔らかくしてまひゅひゃら!」
「……にわけてもらうのは、さすがに気が引けるしなぁ」
ただでさえカロリーを気にして量をセーブしているらしい親友の弁当にたかるほど、私は恥知らずではありません。
ええけっして、ナオきゅんに提案した『口移し』を真に受けて必死に口内物を咀嚼しているユリりんに、若干引いてしまったわけではないのです。
そしてユリりんは現金は持たない主義。
買い物は基本カードというホンモノの『お嬢様』なので、お金を借りることも不可能です。
(でもそうなると、今日は本当にお昼抜きかなぁ~)
なんて、いよいよ私が本格的に昼食抜きを覚悟したとき……
ブブブッ……と。
マナーモードにしていた私の携帯電話が、唐突に震え始めました。
ズーズン……ズーズン……
ヤツは、油断したころにやってきます……
お読みいただき、ありがとうございました。




