〈chapter:04-05〉
【前回のあらすじ】
委員長の心がハートブレイクです。
なんだかよくわかりませんが、教室中がなんとも居た堪れない空気に包まれた……
そのときです。
「どいてよ」
そんな冷やかな一言が、どんよりとした教室の空気を引き裂きました。
「さっきから、ジャマ。べつに仲良しなのはいいけど、通路を塞がないでくれる?」
「あ、ごめんなさい……」
すぐに謝りながら私たちが身体を引くと、声をかけてきた人物は「ふんっ」と鼻を鳴らして、その前を通り過ぎていきます。
長い金髪をゴムでまとめた、鋭い吊り目が印象的な、大人びた顔立ちの女子です。
彼女の名前は砂金千隼さん。
制服を着てここにいることからもわかるように私たちのクラスメイトなのですが……
しかし比較的校則の厳しいこの白鷺中学校において、金髪にピアス。
さらには大胆に着崩した制服からという外見的特徴からもわかるように、彼女は優等生のユリりんとは違った意味で目立っている……
いわゆる悪目立ちした、クラスの問題児です。
「……あ、砂金さん、今日は学校来たんだ」
「つか相変わらず機嫌悪そー」
「化粧で誤魔化してるけど、アレ、目の下のクマだよね?」
「授業中いっつも寝てるし」
「今日だって遅刻ギリギリだし」
「いったい毎晩遅くまで、なにやってんだろ……?」
「ねー?」
「羨ましいー」
そうしたクラスメイトたちの遠巻きな視線やひそめ声をすべて無視して、自分の席にたどり着いた砂金さんはそのまま着席。
ドスン。
やけに重そうなカバンを机の横にかけると、そのまま机に突っ伏してしまいました。
耳をすませば「すー、すー」と、規則的な寝息が聴こえてきます。
けっきょく彼女はこの教室に入ってから、私たち以外に誰とも会話をしませんでした。
というか、このクラスになってはや一ヶ月。
学園で彼女が誰かと親しげに話しているのを私は見たことがありません。
どこか、意図的に人を遠ざけているような……
あるいはそういう意識すらなく、ただ流しているだけのような……
彼女にとって私たちクラスメイトは、あくまで他人。
言葉を交わすことも、視線を気にすることすら必要としないただの『背景』。
そんな空虚な印象を……
砂金さんは、周囲に抱かせます。
だけど。
それでも私としては……
「……ダメですよ、カノンちゃん」
そんな私の視線に気付いたのか、ユリりんがやや表情を険しくしました。
「誰にでも気を遣おうとするそのやさしさは、たしかにカノンちゃんの美徳であり長所だと思いますけど、それは時と場合と相手によります。だから少なくとも彼女──砂金さんが、それに足る相手だという確証が得られるまでは、迂闊な接触は避けてくださいね」
「んもー。ユリりんは心配症だなー。それは言い過ぎだよー」
「いいえこればっかりは譲れません。クラスを束ねる委員長ではなく、カノンちゃんの親友として忠告させていただきます。くれぐれも、勝手な行動は慎んでください」
「はいはい。わかりましたよーだ」
なんて、おざなりに返事して。
まだ何か言いたそうなユリりんから、ひとまず距離をとります。
まったく。
ほんとユリりんは、心配性ですねー。
そして淡々と『身内』と『その他』を区切るその考え方は、よく言えば合理的、悪く言えば冷淡とも捉えられます。
ま、ユリりんも人間。
クラスの委員長だって、聖人君子ではありません。
好き嫌いがあれば、自分にとって『利益』か『不利益』かで、物事を判断することもあるでしょう。
それがフツウ。
それがキホン。
誰だってそうです。
私だってそうです。
でも……
「……ねえねえ、ナオきゅんはどう思います?」
「べつに。ほっといてほしいんならほっといてやればいんじゃね?」
小声で話しかけると、ナオきゅんはふたたび文庫本のページをめくっていました。
「ま、俺はいちばん、おまえにほっとおいてほしいんだけどな」
「またまたー」
「……」
「……え? ナオきゅん、え?」
そんなことを言うナオきゅんは、もう私と目線すら合わせてくれませんでした。
クラスには、問題児のひとりやふたりいて当然ですよね?
もちろんカノンちゃんもそのひとり……いや、今はなにも言うまい。
お読みいただき、ありがとうございました。




