〈chapter:01-02〉
【前回のあらすじ】
居候先の叔父さん(独身貴族)が、主人公(女子中学生)の写真をパソコンで編集していました。
「もういやぁあああああ! なんで!? いったいいつの間にこんなに私の写真を!? どうやって!?」
「はっはっは。どうだいマイドーター。どれもよく撮れているだろう? ほら、近くで見てみるといい」
「どけっ!」
この期に及んでリクライニングチェアに腰かけ優雅に微笑むジョージさんを突き飛ばし、液晶画面に浮かんだ無数の私の写真をパソコンのマウスでデリートデリートデリートぉおおおおおっ!
「ってうぉおおおおお! き、消えない! 消しても消しても無数に画像ホルダーが! ジョージさん、あなたいったい何百枚私の写真を!? っていうかこれ、確実にぜんぶ、私の盗撮写真ですよね!?」
とある事情によって、この家に居候をするようになって数日ほど。
その短い期間に数百枚に及ぶ私の写真を集めた異常性にはドン引きですが、それらがすべて、私が目線を向けていないものばかりだということに恐怖すら覚えます。
「ふっ。安心しておくれマイドーター。さすがに俺もTPOは弁えている。トイレと風呂場にカメラは仕掛けていないよ?」
「暗に盗撮の可能性を認めた!?」
っていうかこの家、そこ以外にはすべて盗撮カメラが!?
「ノンノン。ピーピング(盗撮)とは言葉が悪いな。防犯目的と言っておくれ」
「いや、今まさにそのカメラが犯罪に使われている現場そのものなんですが……?」
「わかっていないなぁ、マイドーターは」
やれやれ、とジョージさんは肩をすくめます。
イラッときました。
もしジョージさんが美形じゃなければ一発殴っているところです。
「いいかい、マイウドイーター。たしかに他人が興味本位でプライベートをピーピングするのは、許されざる犯罪行為だ。しかしファミリーが大事なドーターを見守るのは、極めて当たり前の、ごく自然な行いなんだよ?」
「いや、叔父が姪を盗撮するのはまぎれもない犯罪ですよ?」
ジョージさんには観念して、警察に出頭していただきます。
「……そんな、寂しいことを言うなよマイドーター。俺はマイシスターから託されたキミを、本当のドーターだと思っているのに……」
「うっ……!」
やや蒼みがかかった黒真珠の瞳を潤ませ、雨に濡れた子犬のようなしょんぼりオーラを醸す美形の叔父さん。
ずるい。
ずるいですよ!
イケメンにそんな顔をされてしまうと、二の句が継げにくいじゃないですか……っ!
それに……
ここまでの遣り取りからもわかるように。
というかじつのところ、ほぼ最初から。
ジョージさんのこうした行為に悪気がないことはわかっています。
そこに犯罪性はあっても、悪意はない。
実害があっても、害意はない。
ようするにジョージさんはただの変態なのです。
邪気のない無邪気を、いったいどうして怒れましょうか。
「……はぁ」
仕方がありません。
精一杯の抵抗として、私は深々と嘆息しました。
「それで、ジョージさんは何の目的でこんなことを?」
「もちろんマイドーターのことを見守るためさ。マイドーターの成長を見守り、その記録を残すのは、同居するファミリーとして当然のことだからね」
げっそりと疲れた私の問いに、ジョージさんは微塵の迷いもなく答えます。
はいはい、さようですか。
そうですか。
私、茉莉花音はもう十三歳の中学二年生ですから、世の不条理を少しは理解しています。
変態に正論が通じないことも知っています。
それにこれはもうアレですよ。
ようは頭の悪い駄犬を躾けるようなものだと考えればいいのです。
一度言ってもわからないようなら、わかるようになるまで何度も根気よく注意を続けるしかありません。
継続は力なり、です。
それに……そもそも。
私は、ジョージさんの家に居候させてもらっている身の上。
たとえどれほど叔父さんが常軌を逸した変態でも、そもそもの立場が圧倒的に弱いのですから、多少の我慢はぐっと呑み込まなければなりません。
私って、大人ですよね?
「それに見てくれマイドーター。マイドーターの成長記録を綴ったこのHP、一週間ですでにアカウントが1000を突破しているんだよ?」
「もしもし警察ですか? 助けてください、ここに悪質な変態がいます」
今度こそ迷わずスマホで110番をコールしました。
盗撮、ダメ、絶対!
お読みいただき、ありがとうございました。