〈chapter:03-09〉
【前回のあらすじ】
カノンちゃんに見限られそうになったジョージさんは、ついに最終手段をとりました。
「頼むマイドーター、出ていかないでくれっ! 頼む! 俺にできることなら何でもしよう、だから俺を見捨てないでくれ……っ!」
ゴンッ!
その場に叩きつけるように頭を下げ、腰を折り、両腕の掌を床につける……
いわゆるジャパニーズ『DOGEZA』でした。
「頼むっ! プリーズっ! この通りだ……っ!」
ゴンッ!
ゴンッ!
ゴンッ!
フローリングの床を砕く勢いで、頭を叩きつけ続けるジョージさん。
「ひぃいいいいい!」
延々と繰り返されるその必死な懇願に、私はもうドン引きです。
年上で美形で異性、そのうえ血縁関係まである男性に土下座されるとか、これはもう脅迫といっても過言ではないでしょう。
とはいえこの惨状を、このまま放置するわけにもいきませんし……
「わ、わかりましたよジョージさん! だからとにかく頭をあげてください!」
「ま、マイドーター……っ」
私の鶴の一声によってようやく顔をあげたジョージさん。
その顔はまるで神にすべての罪を許された咎人のようにであり、目は感激に潤んでいました。
ドキ!
不覚にもトキめいてしまいます。
美形の涙目は……反則ですよ!
「で、でもね、ジョージさん。私はまだ、あなたの提案を受け入れると決めたわけではありません。その前にいくつか、はっきりさせておきたいことがありますので、正直に答えてくださいね?」
「ああ、マイシスターに誓おう」
いやそこはせめて神に誓ってください。
ともあれ、いつのまにか居候する側とさせる側、上下関係が完全に逆転していますが、この機を逃すわけにはいきません。
どうせ私に他に選択肢はないのです。
毒を食わねば皿まで。
ここですべての疑問にケリをつけておきます。
「とにかくジョージさん。あなたがこんなにも私によくしてくれるのは、私がママの……茉莉花奈江の、娘だからですか?」
「ああ」
「そして私を必死で引き留めるのは、私を通して、ママとの繋がりを保ちたいから?」
「……ああ、そのとおりだ」
私の詰問に、ジョージさんは首肯します。
「正直、マイドーターを利用するかたちになってすまないとは思っている。しかしこれは俺とマイシスターの仲を阻むあのクソ虫の手からこぼれ落ちた、またとない、千載一遇の好機なんだ……っ!」
いま、サラリとひとのパパを『クソ虫』呼ばわりしたことはスルーするとして……
「もしかしなくてもジョージさんって、シスコンですよね? それもかなり重度の」
「甘く見ないでくれマイドーター。俺のマイシスターを想うこの気持ちはすでに、そんなものを超えている」
「いや、べつにそれ、そんなキメ顔で言うセリフじゃないですからね?」
ただの変態のカミングアウトですからね?
「じゃあママは、そのことを知って……」
「……いない、と思う。いちおう俺にも、最低限の常識はある。この気持ちが世間的に肯定されていないものだという自覚はあるつもりだ。だからそれを悟られないように、最大限の努力はしてきたし、これからもそれを怠るつもりはない」
「報われない恋、ですよ……?」
「だろうな」
そこでジョージさんは……
ふっと。
儚い。
それでいて確かな微笑を浮かべて……
「だが、それだけがすべてではない。愛には、いろんなかたちがある」
断言するジョージさん。
けれどその瞳は言葉ほどに、すっぱりと割り切れてはいません。
苦悩や葛藤。
未練や嫉妬。
痛みと後悔。
絶望と懺悔。
そのような様々な負の感情をすべて呑み込み……
背負い、受け入れて。
そのうえでさらに前に進もうとする、高潔な殉教者のようにも、あるいは罰を受け続ける咎人のように見えます。
でも──だからこそ、それは。
まぎれもない、渋沢丈児という人間の本音であり、素顔でした。
だから私は……
せめて私ひとりぐらいは……
この不器用な叔父さんの恋を、少しだけ、応援してあげようかなと思いました。
●
とまあこんな具合に、さまざまな思惑と不安を抱えたまま、私とジョージさんの生活はなし崩し的にスタートしたのでした。
というわけで、カノンちゃんの居候生活が始まるわけです。
次回から新章。
学校編。
ようやく『ナオきゅん』やら新キャラなどが登場します。
お読みいただき、ありがとうございました。




