〈chapter:03-07〉
【前回のあらすじ】
獲物はまんまと狩場(ジョージさんの家)に誘い込まれました。
「いやっふーっ! なにこのオシャレ空間!? これが私のお部屋なのーっ?」
興奮のあまり先ほどからかなり口調が崩れてしまっている私は、その部屋に足を踏み入れた当初、フンフンと鼻息を荒くして目を輝かせていました。
階段をあがってすぐの場所にある、物置に使っていたという部屋。
間取りは八畳ほど。
すでに荷物が片付けられているその部屋には、淡いピンクを基調としたカーテンや壁紙、オシャレな小机や本棚、衣装入れなどが、バランス良く配置されています。
シワひとつないまっさらのシーツ。
スプリングのよく利いた収納スペース付きのシングルベッド。
シンプルなデザインの勉強机にはすでに液晶パソコンが設置されており、薄型・ワイヤレスという新型モデルのそれは、いかにも処理が軽そうです。
部屋のどの位置からでも見えやすいように配置されたテレビは、もちろん最新の薄型液晶タイプ。
ご丁寧なことにその横の雑誌棚には、今週のテレビ情報誌や女性向けファッション誌までもが補充されているのだから恐れ入ります。
いちおう部屋の片隅には、先日輸送しておいた私物がダンボール箱となって積まれているのですが……
わざわざそれらを紐解かなくても、このまま新生活がスタートできそうなほどの、完璧すぎる充実ぶりです。
「とりあえず、生活に必要なものは俺の趣味でひととり取りそろえておいたが、気に入らなければ言ってくれ。今度は一緒に、マイドーター好みのものを買いに行こう」
「いえいえいえー。そんなそんな、これだけ充実させてもらって好みじゃないとか言えませんよー。っていうかお世辞抜きに、どれもこれもスッゴいステキ! 叔父さん、マジでセンスいいですよー! グッジョブです!」
「……サンクス」
私が満面の笑みでグッと親指を立てると、叔父さんは照れたようにはにかみます。
ちなみに先ほどの見学の際に叔父さんは女装から部屋着に着替えています。
細身のジーパンに、VネックのロングTシャツ。
ラフな格好の叔父さんは、ようやく本来の性別である美形男子の姿を取り戻していました。
そんな叔父さんさんの温かな視線を受けて……
このとき私は、過去の己を恥じました。
まったく。
どうして私はこんなにも、気遣いの利くやさしくて美形でセンスのいい同居人を、たかだか『女装』程度のことで、ああも変態扱いしてしまったのでしょうか。
じつに愚かしい。
浅慮で狭量で短絡的な、馬鹿馬鹿しい話です。
もしドラ○もんがいるのなら、タイムマシンを出してもらって数時間前の私をぶん殴ってやりたいぐらいです。
ですが、今からでも遅くはありません。
せめてこれからの叔父さん……
いやさ、ジョージさんに対する評価をあらためよぅ。
変態という先入観を捨てて、渋沢丈治という人間の、ありのままを受け入れよう。
そう……
私は、改めて決意しました。
「いや本当に、お気に召してもらえたようでホッとしたよ」
そんな私の改心を知らぬまま、ジョージさんは笑顔で話を続けます。
「いちおうマイシスターからマイドーターの趣味嗜好はある程度聞いていたが、じっさいに会ったこともない相手の好みに合わせることはそれでも不安があってね。これでもなかなかセッティングには苦労したんだ」
「いやでもこの部屋には、それだけの価値が十分にありますよ!」
「ん。そうかい?」
「ええ! いやもうホント、お世辞抜きでステキですから! とくにあの棚の上に置いてあるラブリーなクマのぬいぐるみなんて、じつに私の好みにピッタリです!」
「(ビクッ)……そうかい。それはよかった」
ん? なんでしょうか。
いまジョージさんの反応に、奇妙な間があったような……?
「まあそれなら四十八時間ほど、眠らずに頭を悩ませた甲斐があったよ」
「うぇ?」
ですがその違和感は、続くジョージさんの言葉によって吹き飛ばされてしまいました。
「ん? なにせ大事なマイドーターの部屋作りだからな。それくらいは当然だろう?」
「え、えぇ、まぁ、そうかもしれないですね……」
そうかな?
いやそうか。
そうだよねそうに決まっている。
姪のため、丸二日ぐらい徹夜する叔父さんなんてよくいるよくいる。
普通フツー。
だからべつにいまの発言にどこもおかしな点はない。
気にするな私。
気にしたら負けだ。
すべてを受け流せ……っ!
たったそれだけのことで、このステキな生活が手に入るのなら安いもの……っ!
なんて。
そんな私の自己暗示を嘲笑うかのように、ここから変態の怒涛のターンが始まるのでした。
次回、カノンちゃんの部屋に隠された驚愕の事実が明らかに……っ!
お読みいただき、ありがとうございました。




