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〈chapter:03-04〉

【前回のあらすじ】


ママはパパが大好きです。

「んー。でもたしかに、カノンちゃんの言い分もわかるけど、草一郎さんの言うことも、もっともよねぇ」


 ひととおりパパの顔をちゅっちゅっし終えて満足したのか、ようやく普段のやわらかい雰囲気を取り戻したママ。

 唾液まみれでいまだ白目を剥いて気絶中のパパを抱きかかえたまま、そんなことを言ってきます。


 私としてはこの話題は勢いで流れたと思っていたのですが……

 さすがママ。

 ゆるふわ系のくせに、こういう大事なところはキッチリと詰めてきますね。


「正直なところ、私としても今住んでるこの家をカノンちゃんに預けたところでとうてい一人暮らしができるとは思えないし……かといって、パパみたいな天然ラブコメ野郎をひとりで私の目の届かないところへ送るなんて、もっての外だし……」

「あー」


 それはたしかに。

 ママの不安もわかります。

 娘の私から見ても、パパの女性運はちょっと異常です。

 ほんの些細なことからでも女性(しかもだいたいが美女や美少女)との出会いを作り、本人は自覚のないままにそれを恋愛にまで発展させるその手腕はまさに天然ラブマシーン。 

 ママがここまでヤンデレ化してしまった一因は、パパのそうした特性にあると考えていいでしょう。


 要するに、いまの茉莉家の現状をまとめると……


【パパ】→出張に私を連れて行きたい(希望)。

【ママ】→パパから離れたくない(鉄板)。

【私】→ナオきゅんのいるこの町から離れたくない(運命)。


 うぅ~ん。

 非常に難しい問題ですね。


「でもねカノンちゃん。ママ、恋するひとりの乙女として、カノンちゃんの気持ちは痛いほどよくわかるつもり。だからできるだけ、協力したいとは思っているの」


 中学生の娘を持つ母親の『恋する乙女』発言はどうかと思いますが、正直、そうしたママの応援はありがたいです。

 パパとは違い、ママは私の恋愛にはけっこう協力的ですからね。

 中学受験の本当の目的や、愛しのナオきゅんのことなんかは、けっこうディープに相談してきました。

 その伏線が、ここで活きてきたようです。


「そこでママからの提案。カノンちゃん、あなたちょっとジョージのところに居候させてもらいなさい」

「ジョージ? っていうとあの、ときどきママたちの話に出てくるあのジョージさん?」

「そうそう、そのジョージ」


 ジョージさん……って、たしかママの弟さんだよね。

 つまり私の叔父さんです。


「いやじつはね、この出張の話が出てきた時からこうなることはわかっていたから、そのことをジョージに相談しておいたの。そしたらジョージ的には、ふたつ返事で『OK』だって。あなたさえよければ、すぐにでも荷物をまとめて家に来ていいそうよ」

「え? でもでも私、叔父さんとまともに会った記憶もないし……」

「大丈夫大丈夫。カノンちゃんが覚えていないだけで、むかし何度か顔を合わせたことはあるから」

「あ、そうなんだ」

「……ま、それもカノンちゃんが大きくなってからはパパが『アイツがカノンちゃんに惚れやがる!』とかヤキモチを焼いて、ジョージを追い払っていたみたいだけど……」

「え? なになに? ママ、なんて?」

「ん? なんでもないわよ?」


 ぶつぶつと呟いていたママに話しかけると、不自然なまでの笑顔が返ってきました。

 急速に不安が肥大化します。


「あ、でもたしかパパ、たしか叔父さんのことを『アイツはどうしようもない変態だ!』とか言ってなかったっけ?」

「そうね。それは否定できないわ」


 否定してくれないんだ。


「え? やっぱ変態なの? そんな危険人物のもとに一人娘を預けてママは平気なの?」

「大丈夫。ジョージはたしかにクセのある性格ではあるけど、根は素直でいい子だって知ってるからママは平気。パパは……まあ、ママがなんとか説得してあげるわ。だからあとはカノンちゃん次第。言っとくけどこれは最終案で、これ以上の妥協はないからね?」

「……むぅ」


 穏やかな……

 しかし有無を言わせないママの圧力に、しばし黙り込んでしまう私。


 そして。


「……おねがいします」


 けっきょく答えは、それしかありませんでした。


というわけで、ジョージさんの家に居候することになったカノンちゃんでした。


お読みいただき、ありがとうございます。

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