〈chapter:03-03〉
【前回のあらすじ】
カノンちゃんのご両親が登場です。
「と、とにかく私はぜったいに、パパの出張にはついていかないからね! 出張にはママとふたりで行ってよ! そして夫婦水入らずでイチャイチャしてくればいいじゃない!」
「カノンちゃんいいこと言った! さすが私の娘! ねえ草一郎さん、カノンちゃんもああ言ってることだし、そろそろこの機会に新しい家族でも……」
「えぇー。俺はどっちかというと、カナエより、カノンちゃんと親子のスキンシップを深めたいっていうかぁばばばぱぱぱっ!」
突如として奇声をあげるパパ。
その右腕はママによって背中で捻りあげられ、完全に関節が極められています。
ママは相変わらず優しい微笑みを浮かべていますが、その瞳は笑っていません。
「……ねえ、カノンちゃん?」
「は、はいママ!」
「パパはいったい誰のもの?」
「髪の毛の一本から血の一滴に至るまで、すべてママ様の所有物でございます!」
「そうよね? そうに決まっているわよね? よかったわ。いくら可愛いカノンちゃんとはいえ、もし草一郎さんが私よりも愛しているなんてことになったら……私、カノンちゃんに嫉妬しちゃうかも」
てへぺろっ、と可愛らしく舌を出しておどけてみせるママ。
しかしその背後には般若の幻影が浮かんでいます。
あまりに圧倒的な本能的恐怖によって私の身体はガタガタと小刻みに震えていました。
やばいやばい。
ママの嫉妬、マジやばい。
ここで返答を間違えば殺される……っ!
「そうだ。不安だからちゃんと、草一郎さんにも聞いてみよぉ~っと♪」
いやぁあああ!
死亡フラグキタぁあああああっ!
「ねえねえ、草一郎さぁ~んっ♪」
背中にぶわっと冷たい汗が沸く私の眼前で、ママがやさしく、関節を極め続けたことによりすでに顔面蒼白なパパに背後から囁きかけます。
「ねぇねぇ草一郎さん? あなたにとって、一番大切な人はだぁ~れだっ?」
「そ、それはもちろん、カノンちゃ──」
「うぉぉぉ足が盛大に滑ったぁあああああっ!」
間に合えぇえええええっ!
パパが口を開くと同時に動き出していた私は水面から飛び出すトビウオのように勢いよく床を蹴り、
カジキマグロの鼻のように鋭く肘を前方に突き出します。
グシャ!
狙い済まされたその一撃は獲物の顎を捉え、脳を激しくシェイク!
「えぶッ」
パパは白目を剥き、奇声を漏らしてその場に倒れ伏しました。
「え? カノンちゃん、いま草一郎さんなんて? えっ?」
「いやママ、それは大いなる誤解、勘違いだよ」
だから落ち着いて。
そのハサミを棚に戻して。ね?
「で、でもでも……」
ほんの少し目を離した隙に、確実に内臓まで届きそうな刃渡りの洋裁鋏を握り締めてガタガタと震えているママを細心の注意を持って宥めます。
基本的には明るく優しく誰にでも好かれるママですが、そこにパパが絡むと途端にヒス&ピーキーに早変わり。
とくに今みたいに目から光が消えているときはマジでエマージェンシーです。
「ふ、ふぇぇぇん……やっぱり草一郎さんって、私よりカノンちゃんのほうが……」
「あ、有り得ない有り得ないよ! ママ、それは有り得ない! パパが世界一ラブしてるのはママ以外には有り得ない! それは鉄板!」
だからその刃先をこっちに向けないで!
おねがい!
「で、でもさっき、草一郎さんはたしかに『カノンちゃん』って……」
「それはね、えっとアレだよ、アレ……そう、パパはきっと『もちろんカノンちゃんよりもママが大事!』って言おうとしたんだよ。そうに決まっている!」
「そ、そうかなぁ……?」
「そうそう! それ以外には有り得ないよ!」
「うーん……そうかなぁ……」
ママは右手(IN凶器)を頬に当て、小首を傾げて悩む仕草。
そして……
「……いや、やっぱりそうかも……っていうかうん、そうだよね、そうに決まっているわよね! 草一郎さん、私も愛してるぅーっ!」
ようやく通常モードに戻ったらしいママは、ぽいっ。
ハサミを床に投げ捨てて、白目を剥いたままのパパに構わず抱きつきます。
そのままちゅっちゅっと、口づけの嵐。
「草一郎さん好き好き、らいしゅきーっ♪」
「……」(ぐったり)
抱擁されているパパは、すでに死人みたいな顔色をしていました。
もうおわかりですね?
カノンちゃんのママはヤンデレです。
お読みいただき、ありがとうございました。




