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〈chapter:03-02〉

【前回のあらすじ】


はやくもジョージさんは、同居人のカノンちゃんに凄まじい不安を与えています。

「イ・ヤ! ぜったいにイヤです!」


 その日。

 私はパパから『その話』を持ちかけられたとき、私は即答で首を振りました。


 その反応はもはや脊髄反射。

 コンマ一秒たりとも考える余地はありません。


 そんな私の目の前では困り顔のパパが、

 コメツキバッタのようにペコペコと頭を下げてきます。


「そ、そんなぁ……カノンちゃん、お願いだよぉ~。パパについてきてくれよぉ~」

「だからぜったいにイヤですよ! なんで私が、パパの出張についていかなくちゃいけないんですか!? それも海外に! 数年単位で! これじゃあせっかくの辛く苦しい中学受験が、ぜぇ~んぶ無意味になっちゃうじゃないですか!」

「そ、それはそうかもしれないけど……」


 私の長く苦しかった茨の受験生活。

 はてに掴んだ市内でも有名な進学校の合格。

 その険しい道のりを誰よりも近くで見守ってくれていたパパは、途端に語尾を萎ませます。


 いや、まあぶっちゃけ? 


 私が周囲の反対を押し切ってまでそこまで偏差値の高い学校に進んだのは、そこに愛しのナオきゅんが進学したためであり、もしナオきゅんがいるのであれば、そこが外国でもどこでも喜んでお供するのですが……

 ですが私に対して異常とも呼べる愛情を持っているパパに、その事実は伏せておきます。

 ガチで修羅と化しますから。


 とにかく私はどうしても、ナオきゅんといっしょの学校生活を送りたいのです。

 そのためにはこの話、なんとしてもここで完全に蹴らねば!


「で、でもさでもさぁ~、だったら生活は、どうするの? パパやママがいなくて、カノンちゃんどうやってひとりで生活していくつもりなのさ? こう言っちゃなんだけどカノンちゃん、家事とか苦手でしょ?」

「……? 家事ができないのなら、メイドを雇えばいいじゃない?」

「うんカノンちゃん。そこは嘘でもいいからパパに夢を見せてほしかったかな」

「パパ? 人はね、夢だけじゃ生きていけないんだよ……」


 イマドキの女子中学生が自炊できると思うなよ?


「だからつべこべ言わずに、せっせと海外から仕送りしろやぁーっ!」

「うう……ウチの娘がヤクザすぎる……っ!」


 仕事先ではわりと有望視されている(らしい)企業戦士は娘の恐喝に屈し、リビングの隅で膝を抱えてシクシクと泣き出してしまいました。


 ふっ。

 愚か者め。

 パパの分際で、私に口答えするのが悪いのです。


 ちなみに我が茉莉家のヒエラルキーは『ママ』→『私』→『パパ』の順。

 しかしママは非常にパパに甘いという、

 むしろ『上下関係』というより『ジャンケン』のような、絶妙な力関係が構築されています。


 なので。


「もうっ、カノンゃん! あんまりパパをいじめちゃあダメでしょ!」


 ここで真打が登場。


 私にとってのジョーカーであるママ|(いちおうパパと同い年のはずですがどう見ても二十代前半にしか見えません)が、すっかり小さくなってしまった一家の大黒柱の背中を愛おしそうに撫でます。


 しかしその視線は私に向けられており、

 笑顔の奥の瞳はどこか、凍てつく冷気をまとっていました。

 

 あかん!

 これはママの攻撃色や!


「ね?」

「うっ、ご、ごめんなさい、ママ……」


 命の危機を察した私は素直に頭を下げました。

 肉体面でも精神面でも、まだまだ私はママには叶いません。


 強者には逆らわない。

 自然界でも通じる茉莉家のルールです。


「うんうん、わかってくれればいいのよカノンちゃん」


 ママはとろけるような笑みを浮かべました。


「だってパパをいじめていいのは、この世界でママだけなんだから……」

「……っ」(ガタガタッ)


 慈愛顔でママに撫でられ続けるパパの背中は、激しく震えていました。

 なにかまた、トラウマでも思い出したのでしょうか?


もちろんカノンちゃんの両親も変態です。

子は親を見て育つ、というヤツですね!


お読みいただき、ありがとうございました。

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