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FALCONMAN ファルコンマン

作者: 孝之

登場人物紹介

トビアス・キートン・・・主人公。幼い頃、強盗に両親を目の前で殺され、孤児院に入った。しかし、そこでブライアン・デックスという少年に出会い、さまざまなトレーニングを課せられる。数年後。逞しく成長し、ブライアンとともに、全世界へ「修行」の旅に出る。修行を終え、ドレイクシティに舞い戻ると、街を守るため、夢の中で見たハヤブサのスーツに身を包んだ戦士「ファルコンマン」に変身し、犯罪と戦う決意をする。逞しい外見とは裏腹に、頼りない部分を持つが、心の底では熱いハートを持っている。

サム・ノーラン・・・ドレイクシティで、ノーラン産業の社長として君臨する大富豪。ブライアンに頼まれ、トビアスの面倒を見ることになった。トビアスの「ファルコンマン」としての行動をバックアップしてくれる。

メアリー・スミス・・・新聞記者。トビアスの幼馴染。彼の思い人でもある。

ジョー・ロドリゲス・・・ドレイク市警に勤務する刑事。誠実な人柄で、汚職の多い市警の中でも、流されず正義を貫く善人。ファルコンマンの協力者。

ブライアン・デックス・・・トビアスが出会った少年。弱いトビアスに対して、トレーニングを課すと同時に、親のように彼を大事にする。戦争で父がおかしくなってしまったらしいが・・・

ケンジ・ゴウダ・・・日本に「修行」しにきたトビアスとブライアンに武術を伝授する武道家。厳しくも、温かい眼差しをもつ人物。

キョウジ・イシイ・・・日本の暴力団を指揮する男。ドレイクシティを仕切っているソニー・シンダッコと交渉するが・・・

アツコ・イシイ・・・キョウジの妻。キョウジにシンダッコとつるむのはやめろと警告するが・・・

ソニー・シンダッコ・・・ドレイクシティの裏社会を仕切る、シンダッコファミリーのドン。キョウジと交渉する。


アメリカ合衆国、汚職警官や巨大犯罪組織が蔓延るドレイクシティ。                


この腐敗した巨大な都市の路地裏で、1人の少年がパジャマ姿で立っていた。

彼の名はトビアス・キートン。

気がつけばこんな所に居た。

真っ暗な夜で、月明かりも無く、光といえば消えかけた街灯が照らすのみ。

闇に包まれたこの道をあても無く歩いていく。

途中で、巨大な影を目撃した。

鳥のような何かだ。

それはゆっくりとこちらへと近づいてくる。

その影は巨大なハヤブサだった。

逃げようとすると、周囲は真っ暗の闇に包まれていて、路地裏ではなかった。

トビアスは目を覚ました。

夢だったのだ。

「またあの夢・・・」

トビアスは小さな頃からこの夢に悩まされており、彼はこの夢が何なのか見当がつかなかった。

時計を見ると、針は12時をさしていた。

ベッドから起き上がり、水を飲みに行こうと階段を降りると、リビングで両親が男3名に銃を突きつけられていた。

トビアスは恐れ慄き、身を隠す。

自分の目の前で彼らが行おうとしているのは殺人だ。

体の震えが止まらないトビアス。

3人組はマスクで顔を隠しており、素顔は確認できない。

3人組のうち体格のいい男が言った。

父は体が震えて、母は過呼吸で苦しそうだった。

「騒ぐな。金を出せ。」その男の声は低く、冷静さに満ちていた。

その男に銃を向けられていた父親は

「あんたらのような者に渡す金はない。私はどうなろうがどうでもいい。だが、妻だけは助けてやってくれ!頼む・・・」と、悲願する。

しかし、男は「黙れ。」と言って母を殺害。

殺人を初めて目撃したトビアスは声が漏れそうになった。

男は母を殺害すると、父に聞いた。

「ガキはいるのか?」

男の問いに父は沈黙を置いた後、言った。

「いない・・・」父はトビアスを巻き込みたくなかったのだ。

息子を傷つけさせない。

これが父の最期の答えだった。

男は父を殺害し、家から出て行った。

目の前で両親を殺され、家を出て泣き崩れるトビアス。

通行していたカップルが警察を呼び、トビアスは警察に保護され、この事件はニュースで報道された。

これはトビアスにとって忘れられないトラウマとなった・・・。  


                                      

数週間後。

トビアスは孤児院に入ることになった。

ドレイクシティの一角にある小さな孤児院だ。

トビアスはここでの生活に不安を感じていた。

「どんなところだろう?」当日、その孤児院に連れてこられた。

「今日からここで一緒に住むことになるトビアス・キートン君だ。仲良くしてやってくれ。」

職員が他の子供たちにトビアスを紹介した。

子供たちは皆、トビアスへ目をやっていた。

翌日、トビアスはまだ誰とも喋っていなかった。

内気な性格であるトビアスは自分から話すことなどできなかったのだ。

しかし、自分より5歳ほど年上の少年がトビアスに話しかけてきた。

「よう、新入り。」

トビアスはその少年を見て、トラウマだった強盗と同じ匂いがした。

怖がって、固まってしまった。

しかし、少年は「トビアスだっけ?いい名前だな。俺はブライアン・デックス。よろしく。」

彼は握手を求めてきた。

トビアスは自然に握手をしていた。

手が勝手に動いたというべきか。

トビアスは彼に不思議な何かを感じていた。

その日の夜。

ブライアンはトビアスに両親の話をし始めた。

「俺の母さんは小さな頃に病気で死んじゃって、父さんだけだったんだ。父さんは戦争を生き延びたんだが、おかしくなっちまってな・・・人を殺したショックで・・・」

この言葉はトビアスの胸に深く突き刺さった。

「お父さんは戦争に行っていたの?」

戦争など考えたことも無かったトビアスはブライアンに言った。

「ああ、自ら志願してな。父さんは「国の為だ。」とか言ってたよ。俺にはよくわからなかった。父さんは俺に武道を教えてくれたり、優しかった。でも、変わっちまった・・・街で歩いてるとき、ジャンキーに絡まれて、そいつを撃ち殺しちまった。父さんは捕まっちまったよ。戦争なんて無くなりゃいいんだ!あれのせいで父さんは・・・」

ブライアンは涙を流していた。

この話は両親を殺されたトビアスにとって身近に感じられた。

1年後のある日、「なあ、トビアス。お前はどうしてここに来たんだ?教えてくれよ。」

ブライアンはおやつを食べながら、こんなことを聞いてきた。

トビアスは少し黙り込み、目をそらしてどう話せばいいのか考え始めた。

目をそらしてもブライアンは真剣な顔でこっちを見ている。

トビアスはブライアンに顔を向けると、過去を話し始めた。

「僕の両親は強盗に殺されたんだ・・・僕が起きたとき、パパとママは強盗に拳銃を付き付けられてた。「金を出せ。」って。

僕は怖くて震えてた。パパは「あんたらのような者に渡す金は無い。」って。

すると強盗は聞いてきた。「ガキは居るのか?」。パパは僕を守るため、「いない。」って答えたんだ・・・そしたら、強盗はパパとママを・・・」

トビアスはあの時のことを思い出して泣いていた。

ブライアンはトビアスを抱きしめて言った。

「強くなれ・・・」。

ブライアンのその言葉に、父を思い出した。

トビアスは自分と両親との過去を話し始めた。

「僕はいじめられたとき、いつもパパに泣きついてたんだ・・・パパは優しい口調で、「大丈夫だ・・・」って僕を抱きしめてくれてた・・・。

でもその日からは・・・」

暗い顔をするトビアス。

トビアスの脳裏に甦る両親が殺されたその夜。

銃を持った強盗が逃げ去っていくのを見た通りすがりのカップルは家の前で泣き叫ぶトビアスを見て、警察に通報。

キートン家の近所の住人は皆、家から出てきてなんだなんだと見に来ていた。

その中には、キートン家の隣人であるスミス家の娘であるメアリーも居た。

彼女はトビアスが小さな頃から好意を寄せていた。

想いを伝えることができずに。

メアリーは両親と一緒に、涙が止まらないトビアスをじっと見守っていた。

警察が到着し、保護されたトビアスのところに髭を生やした警官が傍にやってきた。

「もう大丈夫だ。おじさんたちが捕まえるから。」

その警官の名はジョー・ロドリゲス。トビアスは不安な顔でロドリゲスに尋ねた。

「パパとママは?」

「パパとママはね・・・遠いところに行くんだよ・・・」

ロドリゲスは少し考え込んでつぶやいた。子供に両親は死んだなどとは言えなかった。ロドリゲスがトビアスと一緒にいていると、上司に呼ばれた。

「ロドリゲス。来てくれ。」

上司のもとへ向かうロドリゲス。

話を聞いたロドリゲスはトビアスのところへ戻ってきて言った。

「トビアス君、いいニュースだ。犯人を捕まえた。」

彼の言葉にトビアスは安心した。

しかし、同時に悲しさがこみ上げてきた。

たとえ犯人が捕まったとしても、父と母は帰ってこない。

トビアスはなんともいえない気持ちに包まれた。

トビアスの過去をブライアンは黙って聞いていた。

 

2年後。ブライアンは朝食の時、こんなことを言ってきた。

「お前、武道教えてやろうか?」彼の言葉にトビアスは苦手意識を露わにした。

「僕・・・運動苦手だから・・・」

そう、トビアスは大の運動嫌いだ。当然、体もガリガリで貧弱だ。

ブライアンは少し強引に言った。

「お前、そんな体じゃ強くなれないぞ!?男だろ!」

運動神経抜群で父からしごきを受けていたブライアンはトビアスを連れて、外に出た。

「よし、まずは俺を殴ってみろ。」

突然の彼の言葉に、「えっ!?」としかトビアスは言葉が出なかった。

「いいから殴ってみろ。」

ブライアンは腹筋に力を入れている。

トビアスは力いっぱいパンチをした。

「もっと力を出せるだろ。来い!」

ブライアンはさらにパンチをするように言った。

トビアスはまたパンチをするが、

「もっと来い!」

とブライアンは叫んだ。

何発もパンチをし、へとへとになったトビアス。

他の子供たちは皆2人に注目している。

「よし、これから腕立て伏せ、腹筋、背筋をそれぞれ10回づつだ!」

ブライアンはなかなか止めてくれなかった。

体力の無いトビアスにとって、たったの10回でも100回に聞こえるのだ

それらを終え、夕食時にブライアンが言ってきた。

「よく頑張った。お前なら強くなれる。」

トビアスはなぜこんなに自分を強くさせようとしているのかわからなかった。

次の日からも、ブライアンのトレーニングは続いた。

ブライアンはその度にトビアスを褒めていた。

「お前は日に日に実力がついてる。これからも諦めるな!」

彼の言葉は着実にトビアスを成長させていた。

ブライアンは彼に可能性を感じていたのだ。

月日はたち、10年後。既に孤児院を出て、逞しい男へと成長したトビアスにブライアンが提案してきた。

「なあ、トビアス。日本に行くぞ!」

「日本!?」

「そうだ、トーキョーに修行しにいくんだ。」

ブライアンの提案にトビアスは驚きを隠せなかった。

「費用はどうするんだ?」

「ノーラン産業が出してくれるよ。」

「ノーラン産業?」

「俺の友達だ。」

ブライアンの父はその企業の会長と友達であり、ブライアンも世話になっていた。

「空港へ行く迎えの車を呼んでるから。」

ブライアンは既に迎えを呼んでおり、あと数分で来るらしい。

迎えの高級車が到着し、車から初老の黒人が降りてきた。

「ブライアン、久しぶりだな。元気だったか?」

「サムじい!久しぶり!」

「その呼び方はやめろと言っただろ。懲りん奴だ。おや、新しい友達か?」

サムはトビアスを見て言った。

ブライアンはトビアスを紹介する。

「ああ、俺の親友トビアス・キートンだよ。」

ブライアンに紹介されたトビアスは挨拶した。

「初めまして。トビアス・キートンです。」

「おお、好青年だな。ブライアンとは偉い違いだ。」

サムがそう言うと、ブライアンがヒソヒソ声で言った。

「余計なことを・・・」トビアスはそれを見てクスクス笑った。

トランクに荷物を積み込むブライアン。

「お前の荷物は俺が用意した。安心しろ。」

ブライアンはそう言うと、トビアスとタクシーに乗った。

車は出発し、車内でトビアスはブライアンに聞いた。

「ブライアン、修行って何をするの?」

「刀だ。あと、カラテだな。」

ブライアンが言うと、トビアスはどんなものなのか考えた。

初めて触れる日本武道。

トビアスはドキドキしていた。

空港に着き、彼らを見送るサム。

「もう、ケンジには連絡しておるよ。ゆっくり楽しんできたまえ。」

「行ってきます。」

トビアスとブライアンは手を振りながら、雑踏の中を歩いていった。

飛行機に乗るトビアスとブライアン。

初めて乗る飛行機にトビアスは興奮を抑え切れなかった。

「飛行機に乗ったのは初めてだよ。お金持ちになった気分だ!」

アメリカを出たことが無かったトビアスにとって凄く新鮮なものだった。

ブライアンは微笑んでいた。

飛行機はドレイクシティ国際空港を出発した。 


数時間後。

東京に到着。

「起きろ、トビアス。着いたぞ。」

ブライアンに起こされたトビアスは起き上がると、ブライアンについて行った。

空港を出ると、アメリカとは全く異質の空気だった。

「もうちょっとで迎えが来るから。」

ブライアンがそう言うと、トビアスは気になって聞いた。

「迎えって?」

「俺の友達だよ。」

彼が答えると、車が到着した。

「久しぶり!」ブライアンが言うと、車を運転している男が答えた。

「ブライアン!元気か!?」ブライアンはトビアスに彼を紹介した。

「トビアス、彼は今日からお世話になるケンジ・ゴウダだ。」

ブライアンがそう言い、ケンジは「よろしく。」と言い、握手を求めてきた。

ケンジは日本人だが英語が話せるのだ。

トビアスも「こちらこそ。」と言って握手した。

そのとき、ケンジの顔から凄まじいオーラを感じた。

ブライアンとは違う何かだ。

例えれば、武士道というものか。

ブライアンが兵士なら、ケンジは侍だ。トビアスがそういうことを考えていると、ケンジが「さあ、車へ。」と言った。

車に乗るトビアスとブライアン。

ケンジは車のアクセルを踏み、走り出した。

「音楽でも聴くかい?」彼は後ろをちらっと振り返り、2人に聞いてきた。

ブライアンは「ああ。」と言うと、ケンジはディスクを取り出して再生した。

流れてきた音楽は聴きなじみの無い日本の歌だった。

梶芽衣子の「怨み節」。ブライアンは不満を露わにした。

「ケンジ、お前まだこんなの聴いてんのかよ。音が重いな・・・」

「悪いが、ロックは無いぞ。」

「マジかよ・・・前にロック買ってくれって言ったじゃん!」

ブライアンがそんなことを言っているが、トビアスは静かにこの曲を聴いていた。

ブライアンはトビアスの肩を叩いた。

「おい、トビアス。何寝てんだよ!」

「えっ?寝てないよ。聴いてるんだ。」

トビアスが答えると、ブライアンは「こいつまで・・・」とでも言いたげな顔をした。

そんなブライアンを見てケンジは爽やかに微笑んでいた。

車は山に入っていき、別荘のような場所に着いた。

「ここだ。」

ケンジは車を停め、トランクから荷物を取り出した。

車から降り、ドアを閉めたトビアスは周りを見回していた。

「綺麗なところだな・・・」と言うと、ブライアンが耳元で囁いてきた。

「本音を言えよ。陳家なところだって。」

ケラケラ笑っていた。

トビアスはふざけているブライアンの顔をチラッと見ると、別荘へと歩き始めた。

中に入ると、和風で統一された立派な旅館のような雰囲気だった。

「お前、こんなのいつ建てたんだよ。」

「つい最近さ。」

そう言って、ケンジは部屋の案内をした。

「2階は君たちの部屋だ。自由に使ってくれ。胴着は倉庫に入ってるから。」

トビアスとブライアンの部屋は十分すぎるほど大きな部屋だった。 

「すげえな・・・」ブライアンがトビアスに言うと、「何が陳家だよ。」トビアスは耳元で囁いた。

「ところでケンジ、修行は?」

わざとらしい咳払いをして、次の話題に持っていくブライアン。

「カラテをするか?」ケンジが聞いてきた。

「ああ。なあ、トビアス。」

ブライアンは頷いて、トビアスにも了解を求めた。

「うん。」トビアスも頷いた。

するとケンジは階段を降りていき、胴着に着替えた。

「君たちも胴着を着ろ。終わったら外へ。俺は先に行く。」

そう言ってケンジは外に出た。

トビアスとブライアンはもう一度2階に上がり、倉庫から胴着を出して、着替えた。

1階に行き、外に出ると、ケンジは腕を組んで待っていた。

「まずは君たちの動きを見せてくれ。基本の型だ。」

「待ってくれよ。俺たちはとっくに実戦演習してるんだぜ。いまさら型なんて・・・」

ブライアンは喰らいつくように言った。

「ならば、組み手をするか?ブライアン。」

「そうこなくっちゃ。」

ケンジとブライアンは、「押忍」と挨拶をし、互いに構えた。

「始めっ!」

ケンジが力強い声を出すと、ブライアンは右ストレートを打ち込んできた。

ケンジはそれをひらりとかわし、ハイキックで反撃。怯むブライアン。

「お前、ちょっと見ない間に・・・やるじゃねえか・・・」

「ブライアン、お前はガードがなってない。攻めてばかりで始まらん。」

「うるせえ!」

ブライアンの喧嘩魂が覚醒し、素早い動きでパンチを繰り出した。

ケンジは恐れることなく、まわし蹴りをブライアンに叩き込んだ。

それを見ていたトビアスは目の前で起こっていることが信じられなかった。

あんなに強いと思っていた親友が倒れるとは。

倒れるブライアン。

「喧嘩と格闘技は違う。よく覚えていろ。」

ケンジはブライアンに忠告した。

ブライアンは立ち上がると、地面に座り、トビアスに言った。

「おい、トビアス。勝てよ。」ブライアンが肩を叩くと、トビアスは立ち上がった。

ケンジの前で「押忍」と挨拶すると、ケンジも同じように「押忍」と挨拶した。

「始めっ!」ケンジの力強い声で、組み手は始まった。

落ち着いて相手の動きを見るトビアス。

突然、ケンジがハイキックを仕掛けてきたが、冷静に対処し、ハイキックをガードする。

ケンジは距離を縮めようと、近づいてくるので、すかさずトビアスは距離をとり、相手の行動を窺う。だが、油断したトビアスは、横を取られ、ミドルキックを仕掛けられた。

トビアスは怯み、ケンジは組み手を中止した。

「今日はここまでにしよう。2人ともまだまだだな。鍛えようがあるぞ。特にブライアン。お前は喧嘩をするような態度はやめろ。トビアスはもっと攻めてもいい。まあ、今日はゆっくり休め。」

ケンジはそう言うと、別荘に入っていった

数分後。ブライアンはトビアスに外出しないかと誘った。

「トビアス、飲み物でも買いに行こうぜ。」

「いいよ。」

トビアスは答えると、ブライアンについて行った。

近くの商店街にある売店の前にある自動販売機で缶ジュースを買おうとお金を入れていた。

トビアスが缶ジュースを開け、

飲もうとすると柄の悪い不良がトビアスの持っているジュースを落としてきた。

「おい、外人さんよ。強そうじゃねえか。俺の相手してくれよ。」

不良は指をポキポキと鳴らしながら言った。

不良の背後には、仲間と思われる連中4人がニヤニヤとした表情でこちらを見ている。

通行人は絡まれているトビアスを見ても、見て見ぬふりだ。

彼らは、同じ日本人でも助けようとしないのだから、外国人ならなおさらだ。

ブライアンはトビアスの前に立ち、不良に言った。

「おい、俺の親友に手出すんじゃねぇ。」

しかし、彼は英語で言ったため、相手に通じなかった。

不良は「何言ってんだこいつ?」と、仲間と大笑いした。

そんなとき彼らの大笑いを断ち切るように、トビアスが日本語で話し始めた。

「俺の親友に手出すんじゃねぇって言ったんだよ。」

すると彼らの笑いは沈黙へと変わった。

トビアスはブライアンに、「君は下がってろ。」と英語で言い、不良の前に出た。

「おもしれぇ!ボコボコにしてやるよ!」不良はそう言って、トビアスに殴りかかってきた。すかさずかわすトビアス。

「やっちまえ!」

不良は仲間にそう言うと、彼らはトビアスを殴ったり、蹴ったりと、滅茶苦茶にやり始めた。

しかし、トビアスは反撃しなかった。

これはまずいと思ったブライアンは連中を押しのけ、トビアスを連れて逃げ出した。

「トビアス、行くぞ!」

トビアスをおぶって、何とか別荘まで辿り着いたブライアンは

「ケンジ、トビアスがヤベぇんだ!」

と別荘の前で叫んだ。

ケンジが出てきて、「2階に連れていこう。」と言って、ブライアンに協力した。

2人の協力でトビアスを床に寝かせた。

「酷い傷だ・・・手当てしないと!」

ケンジは救急箱を取り出し、トビアスを手当てした。

「大丈夫なのか?こいつ・・・」

ブライアンは心配そうな顔で聞いた。

「少し休ませてあげよう。」

ケンジはそう言って立ち上がり、階段へと向かった。

しかし、ブライアンはまだ、トビアスの傍で離れようとはしなかった。

「ブライアン、来ないのか?」

「俺はここに居とくよ。」

「彼を安静にさせないと・・・」

「頼むよ。ケンジ。こいつを見守ってやりたいんだ。俺のせいで奴はこんな目に遭ったから・・・」

ブライアンがケンジに頼み込むと、ケンジは頷き、黙って階段を降りていった。



場所は変わり、ドレイクシティの路地裏。月明かりも無く、わずかな街灯が照らすのみ。トビアスはその路地裏を歩いていると、巨大な影を目撃した。それは鳥のような何か。ゆっくりとこちらへ近づいている。やがてその姿を現した巨大な影は、ハヤブサだった。トビアスは小さな頃のように逃げようとはせず、ずっとそこに立っていた。ハヤブサはトビアスの前で羽ばたき、「トビアス・・・」とエコーのかかった声で呼んだ。

「トビアス・・・」

「トビアス・・・起きろ!」

ハヤブサの声はブライアンの声へと変わり、トビアスは飛び起きた。

夢だったのだ。

「トビアス、飯の時間だ。」

「またあの夢・・・」

トビアスがつぶやく。

「何だ?」

ブライアンは不思議そうな顔をして聞いた。

数分後、2人は1階に降り、ケンジが用意してくれた食事を食べていた。

ご飯を豪快に食べながら、ブライアンは今日あったことについてトビアスに聞いた。

「なあ、トビアス。お前、日本語できたのかよ。何でケンジと話さなかったんだ?それに、あいつらに絡まれても殴ろうとはしなかったし。」

彼の言葉にケンジが口を挟んだ。

「彼の行いは正しい。武道家は、手を出してはならない。」

「なら黙ってボコボコにされるのか?」

ブライアンは彼に反論するが、ケンジは黙っている。

トビアスも黙って食事をしていた。

「喋れよ~。」

ブライアンは愚痴っていた。

食事が終わり、トビアスとブライアンは風呂に入る。

「ああ、最高だ!日本に来てよかったよ。なあ、トビアス。」ブライアンは湯船に浸かりながら、言った。

「トビアス、お前今日見た夢何だったんだ?」

ブライアンは突然こんなことを聞いてきた。

ブライアンの質問に、トビアスは幼少の頃から見ていた誰にも言ったことが無かった夢を打ち明けた。「僕は、小さな頃からその夢を見てた・・・ドレイクシティの街の路地裏に1人で立っていて、歩いていくと大きなハヤブサがこっちに向かってくる。ハヤブサは僕の名前を呼んだ・・・「トビアス・・・」。いつもそこで目が覚めるんだ・・・。」

「お前、導かれてるのかもな。」

「導かれてる?何に?」

「そのハヤブサにだよ。」

「そんな。ただの夢だよ。」

笑って済まそうとするトビアスに、ブライアンは真剣な顔で聞いてきた。

「お前、復讐してやろうって考えなかったのか?」

重い内容の質問に、一瞬戸惑うトビアス。

「復讐?両親の?」

「そうだ。」

「そんなこと考えたこと無い。余計に悲しくなるだろ・・・自分の手を汚すだけだ・・・」

「そのハヤブサはお前に復讐しろって言ってたんだよ。」

「勝手な思い込みはよせ!ただの夢だ!」

普段あまり大きな声を出さないトビアスが珍しく大きな声を出した。

ブライアンは黙り込む。

少しして、ブライアンは言った。

「正直になれよ。心のどこかでは復讐を誓ってたはずだ。」

彼の言葉はトビアスの心を突いた。

トビアスは心のそこでは、自らの手で復讐しようとしていたが、自らの手を汚しても、何も残らないと考え、必死に復讐心を抑えていたのだ。

ブライアンは見抜いていた。

「俺がお前に声をかけたのは、お前の闇に包まれた心に、光を照らすためだ。」

「僕が両親の仇を討つためと?僕は復讐なんて汚いことはしない。」

トビアスはきっぱりと言った。

「復讐じゃない。いずれわかるさ。俺の言ったことの意味をな。」

ブライアンはそう言い残し、風呂を出た。

1人残されたトビアスはずっと考え込んでいた。

(いったい彼は僕に何をしたいんだ?何を求めているんだ?)

トビアスにはまだ彼の言った言葉は理解できなかった。

寝床に就いても、まだそのことについて考えていた。

ブライアンは隣の布団で寝ている。

彼の目的はトビアスにはまったくわからない。

考えれば考えるほど謎が深まるばかりだ。

トビアスは眠りに就いた。

気がつくと、トビアスはドレイクシティの自宅のベッドに居た。

ふと傍を見ると、父と母が座っていた。

「パパ・・・どうしてここに?」

トビアスが問いかけると、父は答える。

「お前はまだまだ強くならなければならない。恐れるな。戦え。」

父に続き、母も言った。

「トビアス。あなたなら強くなれる。」

2人の言葉にトビアスは何も言うことは無かった。

父と母のビジョンは消えていき、いつの間にか路地裏に居た。

「またか・・・」

トビアスはつぶやくと、いつものように巨大なハヤブサがゆっくりと飛んできた。

トビアスは幼少時代とは違い、逃げようとは考えなかった。

もう恐れるようなものではなかった。

ハヤブサは「私を受け入れろ・・・」と言ってトビアスと一体化した。

突然、目覚まし時計が鳴り響き、飛び起きるトビアス。隣を見ると、ブライアンは居ない。

既に起きているようだ。

トビアスは1階へ降りると、ケンジとブライアンは柔術の稽古をしていた。

トビアスが居るのに気づいたブライアンは稽古を止め、聞いてきた。

「おお、トビアス。起きたか。今、柔術をやってるから、着替えろよ。」

トビアスは2階に行き、倉庫から胴着を取り出して、それに着替えた。

1階に降り、ケンジとブライアンの稽古が終わるのを待った。

稽古が終わると、ケンジはトビアスとブライアンにこんなことを言った。

「トビアスとブライアンで組み手をしてみろ。」

彼の提案に押され、トビアスとブライアンは向かい合う。

親友であり、ライバルでもある2人の戦いだ。

「始めっ!」

ケンジの掛け声で、2人は組み合う。

トビアスは投げられまいと、抵抗を試みる。

しかし、ブライアンの方が一歩優勢だ。

お互い足を掛け合う。

同時に倒れる2人。

「2人とも、いいぞ!」

ケンジは褒めてくれた。

その次の日から、トビアスとブライアンは数多の修行に挑んだ。

滝に打たれ精神を鍛え、腕立て伏せ、腹筋と背筋、ランニングを経て、ついに刀の修行まで辿り着いた。その頃には、トビアスは幼少時代から悩まされていた夢を見なくなっていた。

ブライアンの言った「お前の闇に包まれた心に光を照らすため。」とはこのことだったのか?

トビアスはそう感じていた。

ケンジに刀を渡されるトビアス。

「これが最後の修行だ。そしてそれと同時に、今日でお別れだ。」

ケンジは涙をこらえながら言った。

トビアスとブライアンも必死に涙をこらえていた。

「今から2人には、その刀で己の力をぶつけてもらう。今まで培ってきた技術を結集し、この修行に挑んで欲しい。」

向かい合い、深呼吸するトビアスとブライアン。

間にケンジが立ち、「始めっ!」と掛け声で修行を開始した。

始まりと同時に刀を振りかざすブライアン。

トビアスはそれを受け止め、態勢を整える。

なおも襲ってくるブライアンに対し、冷静に対処するトビアス。

しかし、隙をついたブライアンは執拗に攻撃を仕掛け、トビアスを後退させる。

ぶつかり合う2人の刀。トビアスは横に移動し、ブライアンの激しい攻撃から逃れた。

油断したブライアンにトビアスは刀を首に向け、囁く。

「君の負けだ。」トビアスはゆっくりと彼の首から刀を離すと、床に正座した。

「油断しちまったぜ。全く・・・」

ブライアンもそう言いながら床に正座した。

「素晴らしい戦いだった。まさに最後の修行に相応しい戦いぶりだったよ。短い間だったが、君たちに武道を教えることで俺も強くなれた気がした。ありがとう。」

「こちらこそ。」

トビアスはケンジに頭を下げた。

「じゃあ、帰ろうか?」

ブライアンがトビアスの顔を見て言った。

トビアスは頷いて、2階へ向かい、着替えた。ブライアンも着替える。

着替えが終わり、ケンジの車に荷物を積む。それが終わり、車に乗る2人。

ケンジは車を走らせる。車内で、ケンジは聞いてきた。

「ブライアン。帰りも飛行機で帰るのか?」

「俺はな。トビアスはサムの自家用機で帰らせる。」

ブライアンが答えると、トビアスが驚いた表情でつぶやいた。

「なんで?一緒に帰らないのかい!?」

「行くところがあるんだ。」

「どこへ?」

「お前の知らないところ。」

ブライアンは行き先を教えようとはしなかった。

トビアスは納得がいかなかった。

一緒に帰れると思っていたから。

空港に着くと、ブライアンはトランクから荷物を取り出し、ケンジに軽く挨拶した。

「ケンジ、じゃあ、またな。」

ブライアンが挨拶すると、トビアスも挨拶した。

「ケンジ、ありがとう。また会おうな。」

「おお。またな。」ケンジはそう言うと車に乗り、走り出した。

去っていく車を見送る2人。

トビアスとブライアンは滑走路に行くと、既にサムの自家用機は到着していた。

「おかえり。」サムは2人を見て言った。

「ただいま。」

トビアスは返事をしたが、ブライアンはしなかった。

しかし、ブライアンは飛行機に乗ろうとするトビアスに最後の言葉を告げた。

「トビアス。ケンジと俺は、お前に教えることは全て教えた。お前は強くなった。だから、俺が居なくても生きていける。それに、サムじいがお前の面倒を見てくれるから。じゃあ。」

ブライアンはそう言い残すと、走り去っていった。

消えていく彼の背中に、トビアスはずっと手を振っていた。


機内で、トビアスは窓から外を見ながら、サムに聞いた。

「なあ、サム。ブライアンはどこに行くんだろう・・・」

「さあな・・・ああ見えてもあいつ、何か考え事でもあったんじゃないか?」

サムはグラスを手にしながら答えた。

「ところで、僕が帰ることは誰かに伝えたの?」

「いや。まだ誰にも伝えてない。君の周りにはね。きっとみんな驚くよ。」

サムがそう言うと、トビアスは笑った。

数時間後、自家用機はドレイクシティに到着。

トビアスはサムの車に乗り、彼の豪邸に向かった。

豪邸に着くと、トビアスはその巨大さに圧倒された。

ショッピングモールほどの広さはあるであろう庭に、手入れされた花々。

こんなところに今から住むのだから、興奮が止まらない。

「これ全部、サムの家なの?」

「そうだ。ブライアンもよく遊びに来ていたよ。」

サムはトビアスに豪邸を案内する。

「広すぎて迷いそうだな~。」

トビアスは目を光らせて言った。

「大げさな青年だ。全く。」

サムは笑みを浮かべながらつぶやく。

「なあ、サム。少し、外に行ってきてもいいかな?」

「いいぞ。気をつけてな。」

サムは出て行くトビアスを見送った。

トビアスはバスに乗り、スミス家へと向かった。

家のインターホンを押すと、メアリーが出てきた。

彼女は驚きの表情を隠せなかった。

「トビアス・・・あなたなの?」

「やあ、メアリー。久しぶり。」

トビアスは彼女の前で緊張しながらも言った。

「今までどこへ?」

「孤児院を出た後、日本に行ってたんだ。」

「まあ・・・1人で?」

メアリーが尋ねると、トビアスは沈黙の後、口を開いた。

「ちょっと友達とね・・・」

「どこに行ってたのか心配してたわ・・・」

「ごめん・・・何も言わずに・・・ところで今夜、一緒に食事しない?」

トビアスは勇気を振り絞って誘った。

「行きたいけど・・・私、彼氏に夕食を誘われてるの。ごめんね。」

「そうか・・・わかった。じゃあ、またね。」

「じゃあね。」

メアリーはドアを閉めた。

ドアから離れたトビアスは歩き始めると、浮かない顔をし始めた。

自分が居ない間に、メアリーは恋人ができていたのだ。

なんとも言えない気持ちでバスに乗り、夜の街でダイナーに寄った。

座り込んで、メアリーのことばかり考えていた。

ウィトレスがやってきて、注文を聞かれる。

「お客様、ご注文は?」トビアスは自分の世界に入っている。

「ご注文は?」トビアスははっと目を覚まし、言った。

「チーズバーガーとポテト、コーヒーをお願いします。」

「かしこまりました。」

ウェイトレスはそう言って、トビアスのテーブルから離れていった。

トビアスはふと考えた。なぜ自分はこんなところにいるんだ?

家に帰れば豪華な食事はたくさんあるのに。

馬鹿らしくないか?

心の中で自分自身に問いかけていると、酒に酔って他の客に掴みかかっているサラリーマンが居た。

トビアスは仲裁しに行く。

「ミスター。お酒を飲んでこんなところに来ちゃダメですよ。他の客が迷惑ですから。」

するとサラリーマンはトビアスに掴みかかってきた。

「ああ?何だこの若造。」

サラリーマンが殴ろうとすると、トビアスは腕を捻り、素早く取り押さえた。

周りは、トビアスに拍手を送っていた。

「あんた、今殴ってたら、失業してたよ。」

トビアスはそう言って警察を呼んだ。

警察が到着すると、髭を生やした刑事がトビアスに尋ねた。

「君かね?酔っ払いを拘束したのは。名前は?」

「トビアス・キートン。」

トビアスは名乗ると、刑事はまじまじと顔を見つめてきた。

「君は、まさか・・・」

「どうかしましたか?」

「あの時の少年か?」

刑事の顔は見覚えがあった。

「思い出したあのお巡りさんか!」

「思い出してくれたか。ジョー・ロドリゲスだ。」

ロドリゲス刑事は握手を求めてきた。握手をするトビアス。

「君の行動は勇敢だ。正義感が強いんだな。」

「いえ、当たり前のことをしただけですよ。」

トビアスはそう言って店を出た。

街を歩いていると、タクシーに乗ろうとするメアリーと彼氏と思われる男が居た。

その男は端正な顔立ちで、高級そうなスーツを着ていた。

トビアスはその光景を見て、溜息をついた。

しかし、トビアスは心の中で、あることを思いついた。

自分はもう大富豪の家に住んでいるんだから、あの男が着ているようなスーツなんて簡単に手に入るじゃないか。

すっかり、トビアスの頭の中には、贅沢な暮らしを満喫できるという妄想が出来上がっていた。

トビアスは帰宅すると、サムに頼み込んだ。

「ねえ、サム。スーツが欲しいよ。」

「何だ?いきなり。好きな女でもできたか?」

サムに言われ、顔を赤らめるトビアス。

「まあね。」

「高級スーツならクローゼットに入ってるから、好きなのを持っていくといい。」

「ありがとう。」

トビアスはクローゼットを開け、ずらりと並んだスーツを見ていった。

中には、タキシードもあった。

トビアスは自分の気にいったスーツを、部屋に持っていった。


ある高級レストランでは、この街を牛耳っているイタリアンマフィアのドンであるソニー・シンダッコと、日本で暴力団を指揮しているキョウジ・イシイが話し合っていた。

「ミスターイシイ、当然わしの取り分は半分以上だな?」

「半分以上?舐めんじゃねえぞ、おらっ!」

キョウジはシンダッコを殴ろうと、掴みかかるが、シンダッコの手下である構成員が、一斉に銃を向けてきた。

身構えるキョウジの手下たち。

しかし、シンダッコは彼らを制した。

「まあ、待て。お前らは銃を下ろせ。」

構成員は銃を下ろした。

「ならば、半分をお前に分け与えよう。お前の家に送ってやる。これでいいだろ。」

「半分か?まあ、いいだろう。お前を信じてやる。」

キョウジは立ち上がると、ホテルを出た。

構成員と車に乗ると、助手席に座っていた妻のアツコが話しかけてきた。

「交渉はうまくいったの?」

「ああ、なんとかな。」

「いい加減あいつらとつるむのやめなさいよ。どんな奴らかわからないわ。私を誘拐して、身代金を要求するかも・・・」

「そのときは俺が守ってやるさ。安心しろ。」

キョウジはアツコの肩に手を置いて言った。


翌朝のノーラン邸。

目が覚めたトビアスは地下のジムで体を鍛えていた。

ゆっくりとバーベルを持ち上げては下ろす、持ち上げては下ろす。

これを繰り返していると、サムがやって来た。

「起きてたのか。朝食は?」

「後で食べるよ。」筋肉トレーニングをしながら、トビアスは答えた。

「何か仕事しないのか?こう、人の役に立つ仕事とか」

「ノーラン産業に入ろうかな~?」

「新入社員になるのか?」

「ああ。」

「やめておけ。上下関係が厳しいから。」

「なら、仕事はしないよ」

「若造が。」

サムは苦笑いして言った。

すると、トビアスは筋肉トレーニングを止め、別の話題に話を移した。

「サム、今この企業で何か造ってるものってある?」

「造ってるものか?そうだな、今のところ軍隊向けに製造したステルススーツと、特殊バイク、速さを極限まで追求したランボルギーニの改造車の試作品ならあるが。何れも軍用に考えている。まあ、お前には縁の無い代物だ。」

「それ、見せてよ。」

「ダメだ。他に知られては困る。企業秘密だからな。」

サムはきっぱりと断った。

しかし、トビアスは頼み込む。

「聞いてくれ、僕はなりたいものがあるんだ。」

「なりたいもの?」

「そうさ。この街に巣食う犯罪と戦う、こう、何か強いものに。」

「それで、今造ってる物を見せて欲しいと?」

サムが問いかけると、トビアスは頷いた。 

「わかった。見せてやろう。ただし、絶対に他には口を割るなよ。ついてきたまえ。」

サムは考え込んだ後そう言って、階段を上がる。

彼についていくトビアス。

サムの車で、ノーラン産業開発部へと向かった。

開発部に着くと、そこは厳重なセキュリティ体制が敷かれており、カードキーでなければ入れないようになっていた。

地下に降りてカードリーダーにキーを通し、ドアを開けるサム。

長い通路を歩いていくと、巨大な貯蔵庫のような場所に来た。

その中には、様々なメカがあり、ハイテク兵器の試作品がズラリと並んでいる。

奥のガラスケースには、サムが言っていたスーツが、厳重に保管されていた。

「どうかね?」

「凄いよ・・・こんなもの見たの初めてだ・・・」

「これが、現在製作中のステルススーツの試作品だ。防弾仕様、そして、兵士に負担をかけないように、できるだけ軽く衝撃に強い素材を使った、画期的なスーツだ。」

「横のマフラーみたいなのは?」

「これか?」

サムは、ガラスケース越しに指し示すと、ガラスケースを開け、マフラーのようなものを取り出した。「これは特殊な素材で造った、ウィング型パラシュートだ。風を切ると、グライダーのように頑丈になる。従来のマッシュルーム型パラシュートとは違い、コントロール性に優れている。」

「それを、スーツに着けることは?」

「もちろん。そのために造った。どうだ、試着してみるか?」

「ああ、試着したい。」

「よし、ついてきたまえ。」

サムはスーツをアタッシュケースに収納し、トビアスをバーチャルトレーニングルームまで案内した。「凄い・・・」

トビアスは思わずつぶやいた。

「さあ、スーツを着て。」

サムはアタッシュケースをトビアスに渡すと、コントロールルームに入った。

トビアスはスーツを着ると、準備をした。

スーツは重そうな外見とは裏腹にかなり軽かった。

「本当に軽いな!」

「別名フェザーライト(羽のように軽い)スーツだからな。さあ、始めるぞ。」

「OK。」

トビアスは、ファイティングポーズをとる。

シュミレーションがスタートした。

CGのロボットがこちらに殴りかかってくる。

すかさずかわし、ロボットにアッパーを喰らわせ、ハイキックをきめた。

サムは拍手しながら、装置を止めた。コントロールルームから出てきて、トビアスに聞く。

「どうだ?動きは。」

「最高だ。とても動きやすい。」

「これで街に出るのか?」

「いや、これを自己流に改造する。ところで、さっき言ってた車とバイクは?」

「軍用機専用ガレージにある。どっちも試乗してみるか?」

「ああ。」

トビアスとサムは、軍用機専用ガレージへと向かった。そこには、陸、海、空の様々な兵器が保管されていた。例のバイクと、車もその中にあった。

トビアスはバイクのハンドルを握っていると、「試乗するか?」サムに聞かれた。

トビアスは頷く。トビアスとサムは、地下2階の広場へと向かった。

トビアスは、ヘルメットを被り、バイクに跨った。

サムはそんなトビアスを場外から見守っていた。

バイクを走らせるトビアス。

「乗り心地はどうかね?」

「最高だ。小回りもきくし。」

トビアスはバイクから降りると、車に乗った。サムも一緒に。

車を運転するトビアス。助手席で、サムがこの車について説明する。

「この車は防弾仕様、銃撃はびくともしない。バズーカ砲の衝撃にも2発までなら耐えられる。」

「2発以上は?」

「緊急脱出装置が作動する。どうだ、気に入ったか?」

「ああ。ところで、この色は何とかならないかな?」

「塗装したいのか?塗装なら、開発部に頼めばすぐにできる。何色だ?」

「黒と金、赤で頼む。」

「随分派手だな・・・」

サムはそう言うと、開発部に連絡する。

「もしもし、私だ。例の試作品を塗装して欲しい。何だって?いや、特別なお客様からの要望だ。頼むぞ。」電話を切ると、サムはトビアスに言った。

「特別に塗装するように頼んでおいた。」

「ありがとう。」

トビアスは感謝すると、サムと握手した。

トビアスは豪邸に戻ると、アタッシュケースに入れて持ち帰ったステルススーツを地下に持ち込み、塗装していた。

全体をマットブラックに、一部を金色に。

サムはトビアスの作業風景をじっと見守っていた。

トビアスは、スーツをスプレーで塗り終わると、特殊加工された防弾ガラスを素材に、ある形に切断しはじめた。

やがて出来上がったその形は、ハヤブサだった。

「なぜ、ハヤブサなんだ?」

「僕にとって特別な存在だから。僕を光へと導いてくれた・・・」

ハヤブサのエンブレムを赤く塗装し、スーツに接着する。

「よし。出来上がり。」

スーツは軍用の武骨な外観から、トビアスの求めていた思いが反映され、より洗練されたものへと生まれ変わっていた。

「おっと、忘れてた。サム、海外に特注してこれを造って欲しいんだ。」

トビアスはそう言って、デスクからデザイン画を取り出し、サムに渡した。

デザイン画を受け取ったサムは、つぶやいた。

「ファルコンマン・・・か。わかった。日本企業と交渉して、共同制作する。サンプルが送られたら、強度を確かめないとな。完成品が出来上がるまでに、トレーニングするといい。」

「ありがとう。恩に着るよ。」

トビアスはスーツをアタッシュケースに入れ、クローゼットへと保管した。

5日後。

サンプルが送られてきた。

厳重な箱に入ったそれを開けると、トビアスのデザイン画どうりの出来だった。

トビアスはハンマーをマスクにハンマーを向ける。

振り下ろすと、マスクは簡単に壊れてしまった。

「もう少し強度が欲しいな。」

「よし、依頼してみよう。」 

一週間後。完成品が送られてきた。

完成品は試作品よりも洗練され、軽くなっていた。

トビアスはハンマーでそれを叩くが、ひび1ついかなかった。

「完璧だ。」

トビアスはサムに握手を求めた。

笑顔で握手に応じるサム。 


一方、街にあるカジノではキョウジが酒を飲みながら、構成員と日本語で話をしていた。

「シンダッコの奴、割と簡単に応じやがったな。」

「アニキの気迫にビビったんすよ。」

構成員がそう言うと、キョウジは大笑いし、構成員も同じように大笑いした。

「シチリアのゴミどもに金取られたら溜まったもんじゃねえからな。この街は俺たちのものだから。」

キョウジはまた大笑いした。

突然、キョウジの携帯に電話がかかってきた。

「もしもし。おお、アツコか。何だと?わかった、すぐ行く。待ってろ。」「どうしたんすか?アニキ。」

「家に爆弾が送られたらしい。アツコが危ねえ!」

キョウジは拳銃を持って車に乗り込んだ。

構成員たちもそれぞれの車に乗り、アツコの居るアパートへと急いだ。

アパートに到着すると、爆発で粉々になり、火災が発生していた。

既に、警察や消防が駆けつけており、野次馬がたくさんいた。キョウジはアツコが死んだ悲しみのあまり、叫ぶことしかできなかった・・・。

 現場には、ジャーナリストのメアリーとレイも取材しに来ていた。

「今回はスクープだよ。」

「人が死んでるのよ?スクープなんて言葉は慎みなさい。」

メアリーは、レイにピシャリと言った。

現場には、ロドリゲス刑事も捜査のため訪れていた。

制服警官に尋ねるロドリゲス刑事。

「通報は?」

「向かいの病院からです。」

警官が言うと、破片などを見て言った。

「酷いな・・・犯人は?」

「シンダッコファミリーだと思われます。」

「シンダッコ?偉い奴にやられたな・・・ここを爆破するのに何か目的でもあったのか?」

「このアパートには、イシイ組の夫婦が住んでいましたが。」

「狙いはその2人かもな。シンダッコとイシイの間で何かトラブルを起こしたのかも・・・」

ロドリゲスは推測する。 

数分後。

シンダッコの経営するホテルで、キョウジとシンダッコが話をしていた。

「金の代わりが爆弾か?お前のせいでアツコは死んじまったんだぞ!」

「そんなもの私には関係ない。お前らのような米食い虫にやる金は無いからな。ここはわしのホテルだ。今すぐこの場所でお前の頭をぶち抜いても何も起こらない。警察を回収しているからな。どうあがいても無駄だ。」

シンダッコはキョウジに銃を向ける。

キョウジは、座っていたイスを蹴り、「行くぞ!」と、構成員を連れてホテルから出た。

シンダッコは、タバコを吸いつつ、微笑んだ。


翌日。

シンダッコの構成員たちは、麻薬の取引のため、車に積んでいた。

「今夜、取引が始まる。相手に撃たれない保証は無い。防弾チョッキも忘れるな。」

シンダッコは構成員たちに説明する。

夜になり、シンダッコは中国系マフィアであるトライアドの到着を待った。

やがて彼らが到着し、ドンが降りてきた。

「早いな。シンダッコ。」

「当然だ。大切なお客様だからな。」

シンダッコはドンに言った。

「ブツは?」

「これだ。」

シンダッコが、アタッシュケースを開けると、ドンは興奮していた。

「お前さん、これは最高級の代物じゃないか・・・幾らだ?」

「50万。」

「よし、払おう」

ドンが金を出そうとすると、空から何か飛んでくる。

「あれは何だ?」それは、一直線にシンダッコたちの方へと向かってきていた。

「撃て!」構成員たちに命令するシンダッコと、ドン。

しかし、銃弾など効かず、無数の羽とともにそれは降りてきた。

ファルコンマンだ。

ファルコンマンは構成員に銃撃されるが、防弾仕様のスーツで全て跳ね返す。

構成員の銃を奪い、投げ捨て、パンチで気絶させる。

背後からもナイフで襲ってきたが、ナイフを持った腕を掴み、そのままねじ伏せた。

またもや背後から襲ってくるが、回し蹴りでKO。

ファルコンマンはあっという間に構成員を倒すと、ドンに目を向ける。

「助けてくれ・・・私は関係ない・・・」

ドンは体を震わせて言った。

「嘘つけ。」

ファルコンマンは殴り倒した。

気絶するドン。

取引現場の物陰で、そんなファルコンマンとマフィアのやりとりを見ていた若者は、友達3人のもとへと向かっていた。

「おい、バットマンみてえなコスプレの男がマフィアと戦ってるぞ!」

「マジかよ?」

「どうせ嘘でしょ。」

「ここはドレイクだぜ?バットマンが居るのはゴッサムだろ。」

彼らは信じていなかった。

「いいから来いよ!」

彼が言うと、友達3人は「しょうがないな」とでも言いたげな顔をして、ついて行った。

彼らが見に行くと、ちょうどファルコンマンは、逃亡しようとしていたシンダッコを取り押さえていた。それをみた若者の友達は、「おい、動画!動画!」慌てて携帯電話を取り出し、記録する。彼らに気づいたファルコンマンは言った。

「君たち、警察を呼んでくれ。こいつらの後始末を。」

ファルコンマンはそう言い残し、バイクで去っていった。

「かっこよすぎだろ!」

「ドレイクにもヒーロー誕生だな。」

「You tubeにアップしましょうよ!」

彼らは、ファルコンマンが去っていった後、ガヤガヤと騒いでいた。

数分後、警察が到着。構成員たちを連行する。

ロドリゲス刑事は若者たちに注意していた。

「君たち、こんな時間まで何してたんだ!もし彼らに見つかったら撃たれてたかもしれないんだぞ!」「ごめんなさい・・・それよりこれ観てよ刑事さん!」

若者は、携帯電話を取り出し、動画を観せた。

「ドレイクにヒーロー誕生だ!」

若者はまだはしゃいでいる。

「こいつか・・・捕まえないと。」

「何で!?マフィアをやっつけてくれるんだぜ!?刑事さんたちにとっても俺たちにとっても大切な存在じゃないか!」

「漫画や映画とは違う。彼は無法者だ。」

ロドリゲス刑事は彼らに言うと、「おい、彼らは自宅に送り届けろ。」と言って、部下に指示する。

翌朝。

ノーラン邸。

トビアスは疲れて眠っていた。

「いつまで寝てるんだ。ファルコンマン。動画サイトにもアップされて。有名人になりよって。」

サムにたたき起こされた。

「僕は獲物探しで疲れてるんだ。寝かせてくれよ・・・」

トビアスは起き上がろうとしない。

「可愛いお客さんが来てるぞ~」

サムはトビアスの耳元で囁いた。

「ホントに!?」

トビアスは飛び起きると、シャツを着て、部屋を出た。

開かれたドアのところにメアリーは居た。

「ハーイ。凄い豪邸・・・」

彼女はトビアスに挨拶した。

「ああ、まあね。ところでメアリー、どうしたの?何か用かな?」

「明後日、お寿司食べに行かない?」

メアリーの方から食事を誘われ、ドキッとするトビアス。

「明後日?どうして僕なの?彼氏は?」

「レイのこと?仕事が忙しいんですって。彼、新聞社であたしよりも上司だから。一緒に来てくれる?」「いいよ。絶対に行く!楽しみだね。」

「ええ。あたしも楽しみにしてるわ。ところで、あなた新聞読んだ?」

「いや・・・読んでないけど。」

「ファルコンマンよ。」

「ああ、それならネットで観たよ。彼、かっこいいよね。」

「彼の写真を撮ったら、報酬が弾むらしいのよ!」

「それはよかった。君の両親も喜ぶよ。」

「写真を撮ったら、あなたにも見せてあげるわ。」

「ありがとう。楽しみにしておくよ。」

「じゃあね。」

メアリーはドアを閉めると帰っていった。

トビアスが部屋に戻ろうとすると、サムが傍に来て言った。

「モテモテ君だな。」

サムに肩を叩かれたトビアスは、頬を赤らめた。

「照れよって。ファルコンマンは悪党には強いが、女の笑顔に弱いな。」

サムは笑って、トビアスに絡んでいた。                              

警察署では、麻薬捜査官数名と、ロドリゲス刑事が話しあっていた。

「何がファルコンマンだ。ただのコスプレ男じゃないか。」

「変なのが現れたよな・・・」

麻薬捜査官数名は、馬鹿にした態度でファルコンマンを批判していたが、ロドリゲス刑事は、真剣な顔で話した。

「確かに彼は無法者ですが、役に立たないということは無いと思います。彼は我々よりも行動が早い。」「君はヒーロー否定派では?」

「そうですが・・・」

ロドリゲス刑事は、若者たちの前ではファルコンマンを敵視する仕草を見せていたが、本心は、ヒーローを必要としていた。

ドレイクシティの犯罪率は、高くなる一方であるため、この状況を変える抑止力として、救世主を誰よりも強く求めていた。

同じ時間。メアリーは仕事を終え、電車に乗っていた。

駅に着き、電車から降りて、人通りの少ない路地を早足で歩いていると、物陰から2人のホームレスが襲ってきた。

「おい、姉ちゃん。金をよこせよ。」

「体でもいいぜ。」

と言って近づいてくる。

バッグを振って抵抗するメアリー。

そこにファルコンマンが登場。

ファルコンマンはホームレスを背負い投げで倒し、殴ってくるもう1人の腕を掴み、ねじると、気絶させた。去ろうとするファルコンマン。

「待って!」

メアリーは慌ててカメラを出そうとするが、ファルコンマンは、「夜道は気をつけるんだ・・・」と言って、走り去っていった。                                               

その頃、キョウジの経営する日本料理店の厨房では、構成員たちと、キョウジが小さなテーブルの周りに座っていた。

「てめえらがアパートを張ってたらこんなことにはならなかったんだよ!」

テーブルを蹴って、構成員を殴り倒すキョウジ。

「すみません・・・アニキ・・・」

殴られて、鼻血を出した構成員が謝った。

キョウジはその構成員を蹴ると、話し始めた。

「てめえら、よく聞け。シンダッコは獄中だ。もし、あいつが出てきたとしても、脅せば奴は屈する。この街は俺たちが支配する。」

キョウジは構成員たちに言うと、脅かすためのトラのマスクを被り、刀を取り出した。

すると、殴られた構成員が言った。

「クレイジータイガー・・・」

「なかなかいい名前つけてくれるな。」

キョウジはそう言うと、構成員を刺し殺した。

「てめえらもこんな目に遭いたくなきゃ、言葉には気をつけろ。」

クレイジータイガーは、そう言い残し、厨房を出ていった。

店から出たキョウジは、マスクと刀をバッグに入れ、車に乗った。

すると、電話がかかってきた。

電話に出るキョウジ。

「もしもし。誰だ?」

「名乗る程の者ではない。私の名よりも、現在の状況のほうが重要だ。シンダッコは脱獄した。彼は君に殺し屋を差し向けている。安全な場所に逃げるんだ。」

電話の相手は、ボイスチェンジャーで声を変えていた。

「君に協力しよう。シンダッコを生け捕りにすれば、報酬は弾むぞ。」

「幾らだ?」

「100万だ。」

「奴はどこに居る?」

「赤線地区にある安ホテルだ。奴が護衛に守られて入っていくのを見た。」

「わかった。裏切るなよ。」

「当然だ。」

謎の男は電話を切った。

キョウジは携帯電話をしまい、構成員たちに連絡するため、店に戻った。

「てめえら、仕事だ。シンダッコの野郎を生け捕りにすれば100万渡すとさ。行くぞ!」キョウジは、構成員を連れて、車に乗り、安ホテルへと向かう。


一方、ノーラン邸では、トビアスがニュースを観ていた。

「シンダッコファミリーのドン、ソニー・シンダッコが脱獄しました。目撃者によると、シンダッコは、数人の護衛と赤線地区の安ホテルへと向かっていたとのことです。警察は、行方を追っていて・・・」

トビアスは立ち上がると、地下へと向かう。

サムが声をかける。

「新車で行くのか?」

「ああ。」

トビアスは、ファルコンマンに変身すると、サムから譲り受けた専用車「ジェットポーター」に乗り込み、出動した。

豪雨の中、安ホテルに到着し、潜入するファルコンマン。

ベランダの物陰に身を潜み、売春婦と話しているシンダッコを拘束するため、様子を伺う。

突然、部屋の外から銃声が聞こえた。

次の瞬間、ドアを蹴り破り、キョウジと構成員たちが侵入してきた。

シンダッコを脅すキョウジ。

「こいつを連れて行く前に、金になるようなものがないか探す。」

キョウジはそう言って、部屋を出た。

構成員たちが、シンダッコに銃を向けている。

突入するファルコンマン。

銃を向ける構成員に回し蹴りを喰らわせ、残りを殴り倒す。

シンダッコを連れて、脱出しようとすると、部屋に戻ってきたクレイジータイガーが、背後から刀で襲ってきた。

素材の柔らかい部分である腕を切りつけられ、流血するファルコンマン。

「まだまだだな。ハヤブサ坊主。」

クレイジータイガーはそう言って、反撃の隙を与えず、ファルコンマンを窓の外へと蹴り落とす。

地面へと落下したファルコンマンは、ダメージを受けながらも路地裏へと走り、ジェットポーターに乗り込み、走り出した。

ノーラン邸に戻ったトビアスは、ファルコンマンのマスクを脱ぎ、地下のトレーニングルームにあるベンチに倒れた。サムが裁縫道具を持って地下に降りてきた。

「何で切られた?」

「日本刀だよ。」

「イシイか?」

「トラのマスクを被ってた・・・」

痛みに耐えつつ話すトビアス。

「腕の部分は刃物に弱いからな。気をつけろ。」

「ああ・・・。武器を使わない身としては、銃よりも刀のほうが脅威だ。」

「少し、息抜きをしろ。メアリーをドライブに誘うとか。そうだ、明日、彼女と食事に行くんだろ?」「そうだよ。」

「ポルシェを貸してやろう。」

「ポルシェ?いいのかい?」

「彼女を喜ばせたいんだろ。いい車で行かなきゃな。」

サムは、笑顔で言うと、トビアスも満面の笑顔を返した。

その頃、レイは安ホテルへと取材に来ていた。

「ここで争った形跡が・・・」レイは写真を撮る。

すると、警官3人は銃を向けてきた。

「何のつもりだ?撃つな!」

レイは手を上げながら、言った。

すると、警官たちは発砲し、レイを撃ち殺した。

警官たちの背後から、フードつきローブを着て、カラスのマスクで顔を隠した男が、ボイスチェンジャー越しに言った。

「よくやった・・・」警官たちは、金で雇われた汚職警官だった。

レイの死体を袋に詰めて、車で逃走する男。

翌朝。連絡が取れなくなったレイを心配して、警察に連絡するメアリー。

「もしもし、昨日からレイ・リーガンと連絡が取れなくなって・・・家に寄ったのですが居なかったんです・・・捜してもらえますか?はい。わかりました。ありがとうございます。」

メアリーは、電話を切ると、車に乗り、ノーラン邸へと向かった。

メアリーはノーラン邸に着くと、庭にあるイスに座っていたサムが声をかけてきた。

「やあ、メアリー。トビアスならまだ寝てるが・・・起こそうか?」

「ええ、お願い。」

メアリーが答えると、サムはドアを開け、トビアスの部屋へと向かい、ベッドで寝ているトビアスを起こす。

「トビアス、起きろ。メアリーが来てるぞ。」

「彼女が?」

トビアスは起き上がると、シャツを着て、部屋を出ていった。

「おはよう、メアリー。何か用かな?」

「昨日の夜からレイと連絡がつかないのよ・・・彼の家に行ってもまだ帰ってなくて・・・」

「えっ?何かあったのかな・・・警察には?」

「もちろん知らせたわ。

彼、安ホテルへ取材に行ってたらしいんだけど・・・」

「安ホテル?ニュースで出てたところだよね?」

「ええ、シンダッコが護衛と行ってた場所よ。彼、無事だといいんだけど・・・」

「今日は食事に行くの止めておくかい?」

「警察が捜してくれるらしいから、食事は行きましょう。」

「ホントに大丈夫?」

「ええ、警察に任せるわ。じゃあね。」

メアリーは、そう言って、ノーラン邸を出ていった。

「安ホテル・・・お前が行ってた場所じゃないか・・・」

「そうだな・・・もしかして奴らの仕業かも・・・」

トビアスは地下に行き、ファルコンマンに変身。

専用バイク、ジェットサイクルで、警察署へと向かった。

警察署に到着し、裏路地にジェットサイクルを停めると、ベランダをつたってロドリゲス刑事のオフィスへと降り立った。

ファルコンマンに驚いて、銃を向けるロドリゲス刑事。

「手を上げろ!不法侵入で逮捕するぞ!」

「落ち着け、ロドリゲス刑事。言っておくことがあるんだ。」

ファルコンマンは彼を制止し、冷静に説明する。

「市警にイシイへの内通者が居る可能性が高い。新聞記者のレイが行方不明だ。」

「知ってる。通報があったからな。」

「レイは内通者に殺され、死体を遺棄されたかもしれない。僕に協力してくれ。」

「なぜ、そんなことがわかる?」

「レイは警官と一緒に居たはずだ。それに、あの日本料理店は怪しい。張り込みをする必要があるね。イシイの尻尾を掴めるかもしれない。」

ファルコンマンはそういい残すと、窓から飛び去っていった。

「待て!」

ファルコンマンの飛んでいった窓から叫ぶロドリゲス刑事。

「どうした!?ロドリゲス。さっきの声は?」

麻薬捜査官が銃を構えながら入ってきた。

「ファルコンマンが・・・我々市警に協力して欲しいと・・・」

「ファルコンマンだと?」

そう言って、麻薬捜査官は、窓を見ると、ファルコンマンはジェットサイクルで走り去っていった。

「クソッ!逃がしたか・・・で、奴はどんな頼みがあるって?」

「イシイが経営している日本料理店が怪しいので、張り込んでくれと。なぜ、そこなのかはわかりませんが・・・調べてみる必要はあるでしょう。シンダッコが行方不明になった今、イシイが何をするかわからない。」

「わかった。奴の言ってることは嘘でも、ダメもとで調べてみろ。制服警官を数名送る。署長には俺が伝えておく。」

「ありがとうございます。」

ロドリゲス刑事は、礼を言うと、署を飛び出して車に乗り込んだ。

その夜。

トビアスは、自室のクローゼットから、スーツを取り出して、それに着替えていた。

「さすがにファルコンマンに変身して行かないんだな。お姫さまを乗せる王子みたいでかっこいいと思うが。」

「地味すぎるよ。ファルコンマンは。」

「逆だろ。派手すぎる。」

「色の問題だよ。」

「何だ、色の問題か。」

トビアスとサムはそんな会話をしながら、ガレージへと向かった。

赤のポルシェに乗り込むトビアス。

「トビアス、ホントは食事に行くためじゃないんだろ。トランクにスーツは入ってるから。それと、新機能が入ったからな。」

「新機能?」

「ウェイクアップコールだ。スーツを着た後、試してみな。」

「ありがとう。じゃ、行ってくるよ。」

「気をつけてな。頑張って来いよ。」

サムは、出発していくトビアスを見送った。

街に出たトビアスは、周囲からの視線を我が物にしていた。

老若男女問わず、様々な人々が、赤いポルシェに乗るトビアスへと視線が向いていたのだ。

この街には、大富豪があまり居ないため、トビアスやサムのように、高級車に乗る人間は少ないのだ。

大きな公園で、メアリーが待っていた。

「凄い車ね!自分で買ったの!?」

ポルシェを見て、彼女が言った。

貰ったと言ってはかっこ悪いと思ったトビアスは、「ああ。自分で買った。」

と言うと、メアリーは助手席に乗り、「あなた、嘘つきね。正直に貰ったって言いなさいよ。」

と笑顔でトビアスの鼻に触れた。

頬を赤らめるトビアス。

「じゃあ・・・行こっか?」

「ええ、行きましょう。あたし、お腹ペコペコだわ。」

メアリーは笑顔で言った。

アクセルを踏むトビアス。

街は、ネオンサインがとても綺麗だった。

犯罪の多い都市とは思えないほどだ。

日本料理店に着き、入店するトビアスとメアリー。

店内はとても広く、日本風の造りだった。

席は座敷で、白人や黒人、アジア人など関係なく、皆楽しく食事をしていた。

日本人のバンドが、舞台で歌を歌っている。

「いいお店だわ。たまにはこういうところもいいわよね。」

「そうだね。」

トビアスはそう言いつつ、周りを見回していた。

ロドリゲス刑事を発見。

「メアリー、知り合いを見つけたから、挨拶に行ってくるよ。先に座ってて。」

「知り合い?ええ、わかったわ。」

メアリーは、2階へと上っていった。

うまく誤魔化したトビアスは、ロドリゲス刑事のもとへと向かう。

「刑事さん、なんでここに?」

「ファルコンマンに頼まれたんだよ。

張り込みをしてくれと。君はどうしたんだ?デートか?」

ロドリゲス刑事は小さな声で言った。

「まあね。ところで、ファルコンマンはここが怪しいって?」

「イシイが経営している店だから警戒しろと言われたんだ。」

「彼、今日は来るって?」

「さあ、奴からは何も・・・それより、ガールフレンドが待ってるぞ。行って来い。」

「ありがとう。」

トビアスは、2階へと上がった。

「長かったわね。どうしたの?」

「ちょっと長話になっちゃって・・・ごめんね、待たせて。」

「大丈夫よ。ところでトビアス、あなた何食べる?」

「僕はねぇ、何にしよっかな・・・決めた。カツ丼にする。」

「じゃあ、あたし、お寿司で。」

「かしこまりました。」

注文を聞いて、1階に下りていく店員。

メアリーは、トビアスに話しかけてきた。

「ねえ、トビアス。あたし、この前、ファルコンマンに助けられたの。」

「ホントに?」

「ええ、仕事から帰る電車を降りて、たまたま街灯の少ない道を歩いていると、男2人に襲われて・・・でも、空からファルコンマンがやってきて、やっつけてくれたの。」

「それはよかった。彼はヒーローだからね。」

「彼に言ったのよ。「待って!」って。でも彼は、そのまま行っちゃった。写真が撮れなかったのよ。」「まあまあ、次があるかもしれないじゃないか。彼だって、悪党退治で忙しいんだよ。」

「そうよね。」

メアリーがそう言うと、電話がかかってきた。

「誰かしら?トビアス、ちょっと電話してくるね。食事が来たら、先に食べてて。」

「わかった。なるべく早く済ませてね。」

トビアスに言われると、メアリーは、1階へと下りていった。

メアリーは、あまり人の通らないトイレの前で電話に出た。

「もしもし?」

「・・・」

無言電話だ。

「酷いいやがらせ・・・」

メアリーが言った途端、背後から何者かに襲われた。

声が出せないように口を手で押さえつけられ、気絶させられた。

襲ったのは、構成員だった。

2人がかりで、メアリーを奥へと連れて行く構成員。

「この女どうします?」

「オークションに売り出す。アメリカ人は価値が高いからな。」

構成員の問いに答えたのは、フードつきローブを羽織り、カラスのマスクをつけた男だった。

横からクレイジータイガーが口走る。

「あんたの目的は人身売買か?シンダッコを拉致してやったんだから、縄張り争いに協力してくれよ。」「私に指図するな。お前は私の思う通りについて来ればいい。さもないと、私の部下がお前を蜂の巣にするぞ?」

「わかったわかった。俺はあんたには指図しないよ。あんたが何者か、よくわかったからな。ところで、ハヤブサ坊主は放っておくのか?」

「ファルコンマンのことか?見つけ次第捕らえろ。絶対に殺すな。」男は、そう言い残し、奥の部屋へと入っていった。

一方、トビアスは、カツ丼を食べながら、メアリーの帰りを待っていた。

「遅いな・・・」

トビアスは1階へと降りてゆき、ロドリゲス刑事のもとへと向かった。

「刑事さん!メアリーが帰ってこないんだ。」

「奴らが動き出したか・・・」

ロドリゲス刑事は、店の奥へと向かう。ついて行くトビアス。

「君はついてくるな。危険だ。何が起こるかわからん・・・」

「じゃあ、僕は警察に通報してくる。」

トビアスは、そう言って出口へと走っていった。

「あの男・・・正気か?」

ロドリゲス刑事は、銃を取り出し、事務室らしき場所へ潜入した。

入っていくにつれ、バンドの音楽が消えていく。

ロドリゲス刑事は、警戒しながら進んでいく。

誰も居ないようだ。気配が無い。

さらに進んでいくと、ベッドに人が倒れているのを発見した。

ゆっくり近づくと、女性だった。

ロドリゲス刑事は、女性を起こす。

「メアリーか?」

「ここはどこなの!?あなたは?」

「私は刑事だ。助けに来た。もう安心するんだ。」

彼女を起こそうとすると、クレイジータイガーと構成員たちが戻ってきた。

「逃げるぞ!私の手を離さないで!」

メアリーの手を握って、走り出すロドリゲス刑事。

途中で目撃する、レイの死体の入った袋・・・目を当てられないメアリー。

彼らはメアリーを殺しては意味が無いためか、彼らは銃を撃って来なかった。

客たちが居る店内へと出てくると、何者かがいきなり銃撃してきた。

混乱して、逃げる客たち。

周りを見渡しても、撃ったのは構成員たちではなかった。

制服警官だ。

彼らは悪徳警官だった。

メアリーと共に身を隠すロドリゲス刑事。

ロドリゲス刑事と制服警官の銃撃戦になる。

そのとき、店の入り口から、ファルコンマンが登場。

ファルコンマンは銃を撃ってくる制服警官を殴って気絶させると、ロドリゲス刑事とメアリーのもとへと向かう。

「ファルコンマン!」

メアリーはファルコンマンに抱きついた。

「もう大丈夫。」

彼女を安心させるファルコンマン。

「ロドリゲス刑事。彼女を安全な場所へ!」

「わかった。」

ロドリゲス刑事はメアリーを連れて、店を出ていった。

2人を逃がし、クレイジータイガーの方へと体を向けるファルコンマン。

クレイジータイガーは言った。

「また会ったな、ハヤブサ坊主。俺の店をグチャグチャにしやがって。責任は取ってもらうぞ。」

「やだね。あんたらのような犯罪者にペコペコするような俺じゃない。」

「なかなかいい度胸してるじゃねえか。てめえら、八つ裂きにしちまえ!」

クレイジータイガーは、構成員たちに命令した。

刀を装備する構成員たち。

構えるファルコンマン。

(あのときの修行を思い出せ・・・)

心の中で自分に言い聞かせる。

構成員のうち1人が奇声をあげて襲いかかってきた。

すかさず刀を避け、顔面にハイキックを喰らわせる。

構成員たちは、回り込み、ファルコンマンを囲んだ。

奇声をあげ、今にも襲い掛かろうと、刀を構える構成員たち。

ファルコンマンは落ち着いて、彼らの様子を窺う。

不意に襲ってきた構成員の刀を奪い、投げ捨て、蹴り飛ばす。

それと同時に襲ってきた他の構成員も素早く投げ飛ばした。

雑魚を倒したファルコンマンは、クレイジータイガーと対峙する。

「なかなか鮮やかだ。武器を使わずに倒すとは。でも、この俺は倒せない!」

刀で突進するクレイジータイガー。

ファルコンマンは、すかさず避け、背後に回ってキックで反撃する。

「この野郎!」

容赦なく刀を振り回すクレイジータイガー。

それを避けるファルコンマン。

彼ら2人の戦いに、マスクの男が飛び込んできた。

目にも止まらぬ素早さで、キックを仕掛けるマスクの男。

ファルコンマンは吹っ飛ばされる。

起き上がったファルコンマンは言った。

「卑怯だな・・・2対1なんて。」

なおも襲い掛かるマスクの男とクレイジータイガー。

いつの間にか戦いはファルコンマンとマスクの男の戦いになっていた。

圧倒的な格闘術で、翻弄されるファルコンマン。

このままではキリが無いと、腕につけられたボタンを押す。

一方、ノーラン邸地下のガレージでは、ジェットポーターのライトがぽつぽつと点滅していた。

発進音をうならせるジェットポーター。

その音を聞いたサムが、ガレージに下りてきた。

「お目覚めか・・・」

彼がつぶやくと、ジェットポーターは物凄いスピードで、無人走行した。

街を走るジェットポーター。

ハンバーガーショップの前で、遊んでいる子供たちが、走っていくジェットポーターを見て、

「すげえ!」

「かっこいい!」

と騒いでいた。

ジェットポーターは、日本料理店を突っ込んで、ファルコンマンの前で停まった。

ジェットポーターに乗るファルコンマン。

それを追おうとするクレイジータイガーとマスクの男。

しかし、ファルコンマンは猛スピードで、走り去っていった。

入れ違いに、警察が銃を構えて侵入。

「動くな!逮捕する!」

マスクの男はフックショットを放って逃走。

「この野郎!裏切るんじゃねえ!」

取り残されたクレイジータイガーは、刀を落として、警察に逮捕された。

一方、ロドリゲス刑事とメアリーは、路地裏に逃げていた。

「もうすぐ警察が来る。」

ロドリゲス刑事がメアリーに言ったとたん、ファルコンマンの乗ったジェットポーターが到着。

「速いな・・・彼女は君が連れ帰るのか?」

「ああ、家まで送る。」

「わかった。気をつけろ。彼らは何も知らずに君を逮捕しようとしている。油断するな。」

「了解。」

ファルコンマンはメアリーをジェットポーターに乗せ、走り出した。

それを見送るロドリゲス刑事。

「ありがとう。ファルコンマン・・・」

ジェットポーターを警察車両は追跡していた。

「改造車両、停まりなさい!車から降りるんだ。」

警察の忠告を無視し、さらにスピードを上げるファルコンマン。

「掴まって!」

メアリーに言うと、物凄いスピードで、住宅街へと走る。

警察の追跡から逃れ、裏路地にジェットポーターを停めるファルコンマン。

「じゃあ、僕はこれで・・・」

メアリーを降ろして、別れを告げようとする。

「待って!」メアリーが止め、顔を向けるファルコンマン。

「あなたはどうして、あたしが危ないとこだったのを知ってたの?」

そう言われ、ファルコンマンは少し考え込むと、

「トビアスから聞いたんだ。」と言い残し、走り去っていった。

「肝心なときにカメラ忘れちゃった・・・」

去っていくファルコンマンを見送りながら、彼女はつぶやいた。


市警本部の取調べ室。

ロドリゲス刑事は、クレイジータイガーのマスクを取ったキョウジに尋問していた。

「誰が黒幕だ!?」

「サツに言うことなんかねえよ。」

「警官は、お前の他にもう1人居たと証言してる。奴は何者だ?」

「フンッ。知らねえな、そんな奴。」

キョウジがそう言うと、ロドリゲス刑事は溜息をついて、取調べ室を出た。

麻薬捜査官が結果を聞いてくる。

「どうだ?」

「いえ、奴は何も・・・もう1人の男は逃走したらしいんですが、奴はそいつのことは話そうとしません・・・」

「困ったな・・・」

「それと、制服警官は、私を撃ってきました。あれは何だったんです?」

「何?俺はそんな警官に見張らせていないぞ!」

「嘘じゃありません。彼らは私が民間人を救出し、店から出ようとしたとき、いきなり撃ってきた。」「信じてくれ!俺は何もしていない。まして、優秀な君を殺すなんて・・・」

「なら、奴らに雇われたとか?」

「その可能性はある。マフィアに金で雇われた警官なんて、この街で何度も見てきたよ。君も同じだろ?」「だからといって、それを放っておくのですか!?ファルコンマンを追うより、奴らのアジトを引っ掻き回して、悪徳警官を見つけるのが先でしょう!?」

「そんなこと俺に言われても困る。署長に言え。わかってくれるかどうかわからんが・・・」麻薬捜査官がそう言うと、ロドリゲスは、署長の居るオフィスへ向かった。

「署長。イシイのアジトを調査するべきです!」

「なぜだね?奴はもう逮捕し、アジトは調査した。」

「イシイだけじゃない!黒幕を逮捕しなければ。」

「黒幕?」

「ええ、イシイと居たマスクの男です。」

「奴は逃走した。それに身元不明だ。捜しようが無い。」

「だからこそ、彼らの裏で暗躍しているであろうマスクの男を捜すため、アジトを再度調査すべきでは!?奴らが何をしでかすかわからない。」

「その必要は無い。イシイに聞き出せばいい。奴が何者か。」

「奴は一向に答えようとしません。」

「そのうち答えるよ。刑務所に行けばな。」

署長が言うと、ロドリゲス刑事は溜息をついて、オフィスを出た。


翌朝。メアリーはノーラン邸へと来ていた。

「おはよう、トビアス。」

「メアリー、昨日はごめんね・・・」

「大丈夫よ。あなたのせいじゃないわ。それより、あなた、ファルコンマンに助けを求めたって本当?彼が言ってたんだけど・・・」

「彼がパトロールで、街をクルーズしてたんだ。急いで彼に「メアリーを助けて!」って知らせたよ。」「そう、ありがとう。あなたが彼を呼んでいなかったらあたし、どうなってたか・・・」

「彼の写真は撮った?」

「肝心なときにカメラを持ってなかったのよ・・・がっかりだわ・・・」

「次は撮らせてもらえるよ。きっと。」

「そうね、カメラを忘れずに持ち歩かないと。」

「ところでメアリー、ちょっとゆっくりしていかない?」

「そうしたいけど・・・仕事が立て込んでるのよ。ごめんね。また時間が空いたら、お願いするわ。じゃあね。」

メアリーはドアを開け、出ていった。

トビアスが部屋へ戻ると、サムがテレビを観ていた。

「トビアス、お前、ヤバイことしでかしてるじゃないか。」

サムはそう言って、テレビに映るジェットポーターを指差した。

「マスコミめ~。僕の悪いところばかり映してるな。」

「そりゃ、当然だろ。あいつらはお前を応援してるわけじゃないからな。むしろ敵視してるから。動画サイトにアップしてる奴らとは違って。」

「やっぱり、僕は邪魔者なのかな~」

「そんなことはないだろう。お前が活躍しなけりゃ、犯罪はどんどん増えるぞ。彼らは、正直じゃないだけなんだ。」

「そう思ってくれるのは嬉しいけど・・・」

トビアスはつぶやくと、地下に下りて、厳重に保管してあるファルコンマンスーツを見つめた。

そんな彼を見守るサム。

2人は階段を上がると、緊急ニュースが報道されていた。

「臨時ニュースです。ただ今、街の中心部で、脱獄した囚人たちが人々をさらおうと、トラックに積み込んでいます・・・避難してください!」

映像には、何台ものトラックが人々を荷台へと積み込んで、パニック状態だった。

それを観たトビアスは、地下へと下りていく。

ファルコンマンに変身すると、ジェットサイクルに跨り、出動した。


街でロドリゲス刑事は警官たちと、市民を避難させていた。

橋をバリケードで封鎖する警官たち。

警官たちに必死に助けを求める女性が居た。

「息子がまだ向こうにいるのよ!逃げる途中ではぐれてしまって・・・息子を助けて!」

ロドリゲス刑事は冷静にその女性に言った。

「SWATが救助しますから、安心してください!」

彼が言った途端、ジェットサイクルが橋を飛び越えていった。

ロドリゲス刑事は言い直す。

「ファルコンマンが助けに行きますから、安心してください!」

ファルコンマンが橋を飛び越えた先は、逃げ惑う人々とトラックでパニック状態だ。

逃げ遅れたメアリーが男の子とともに走っている。

「メアリー!」

ファルコンマンはメアリーのもとへと走っていった。

「ファルコンマン!」

「もう大丈夫。SWATが救助に来るから。」

ファルコンマンがそう言うと、SWATのヘリが到着し、人々を救助し始めた。

ヘリに乗り込むメアリーと男の子。

SWATの隊員がファルコンマンに聞く。

「ファルコンマン!どこへ行くんだ!」

「止めに行く!こんな状況、放っておけない。」

そう言って、ジェットサイクルで去ろうとすると、メアリーが止めた。

「待って、写真を!バッグからカメラを取り出そうとすると、ファルコンマンは言った。

「写真なんて撮らなくてもいいじゃないか。君の瞳に写ってる。いつもね。」

ジェットポーターで走り去っていくファルコンマン。

上昇していくヘリの中でメアリーはつぶやいた。

「トビアス・・・トビアスなの?」

メアリーには、ファルコンマンの正体がわかっていた。

混沌の中を走るファルコンマン。

スピードを上げて走っていると、物陰から何者かに襲われた。

転倒してしまうファルコンマン。

転ばせた相手は、クレイジータイガーだった。

「ハヤブサ野郎。俺が相手だ。」

刀で挑みかかってくるクレイジータイガー。

素早く避けるファルコンマン。

「動物園から脱走したトラか。」

「うるせえ。それより、すんなり逃がしてくれるなんてお前の友達(ロドリゲス刑事)の部下は親切な警官だな!」

「彼らはあんたのボスに金で雇われただけだ。勘違いするな!」

「フンッ。お前の正義とかいう信念にはイライラさせられるよ。」

襲い掛かってくるクレイジータイガー。

ファルコンマンは回り込み、膝蹴りを喰らわせる。

怯んでもなお刀を振り続けるクレイジータイガー。

それに対し、ファルコンマンは飛び蹴りを喰らわせた。

刀を落とすクレイジータイガー。ファルコンマンはクレイジータイガーを地面に倒すと、奴のマスクを取り、何度も殴りつけた。

「あの男はどこにいる!」

「知らねえ!」

「とぼけるな!」

「仕方ねえな、言ってやるよ。奴は空港に向かってる。急がないと奴は逃げちまうぞ。」

クレイジータイガーのマスクを取られたキョウジは観念して、マスクの男の居場所を教えた。

上空から、ロドリゲス刑事の乗ったヘリがやってくる。

ファルコンマンは、そのヘリに叫んだ。

「奴を頼む。俺は黒幕を追うから!。」

ファルコンマンはジェットサイクルに乗り、走り去っていった。

残されたキョウジは、ロドリゲス刑事に手錠をかけられた。

応援に連行させ、ロドリゲス刑事はヘリに乗り込むとパイロットに言った。

「ファルコンマンを追ってくれ!」

上昇するヘリコプター。

ファルコンマンは、車で逃走するマスクの男を追っていた。

奴は飛行機に乗り、飛び立とうとする。

奴の飛行機にジェットサイクルで並走し、飛び移った。

機体にしがみつくファルコンマン。

強風に襲われるが、見事ポッドの中から侵入に成功。

ダメージを受けつつ、中に入ったのも束の間、マスクの男から襲撃を受ける。

吹っ飛ばされるファルコンマン。

バック宙を使った素早い動きで近づき、攻撃を仕掛けるマスクの男。

すかさずファルコンマンは反撃した。

隙をついて、マスクをパンチで割るファルコンマン。

顔を手で覆い隠す男。

「正体を見せたらどうなんだ?」

ファルコンマンはゆっくりと近づきながら言う。

すると、男は、

「お前こそな。」

聞き覚えのある声で言い返した。

手をどけたその顔を見たファルコンマンは驚愕する。

「ブライアン・・・」

「久しぶりだな。トビアス。言っておくが、私の名はブライアンじゃない。アレックス・ブライヤーだ。」

「なぜ君が・・・こんなことを・・・」

「フッフッフッ・・・教えてやろうか?なぜこんなことになったのか。お前をノーランの自家用機で帰らせた後、私は組織であるXと交渉し、イシイ・キョウジを雇った。

ドレイクシティの住民たちを組織に売りつけるためだ。アメリカ人は莫大な金になるからな。しかし、お前に邪魔された。お前はファルコンマンとなり、正義の味方をする。そしてお前の存在で、この街はやがて朽ち果てる・・・」

アレックスは目にも止まらぬスピードでファルコンマンに近づいてきた。

「ブライアン!」

「その名前で呼ぶな!」

アレックスの攻撃にファルコンマンは反撃できない。

「どうした?その程度か?」

痛めつけるアレックス。

ファルコンマンは壁にある緊急爆破装置に目やり、それを押した。

「どうした?一緒に死にたいのか?」

「いや、やっとわかったんだ。君はあのときのブライアンじゃない。」

「ほう、それがどうした?」

「僕は君を助けない。」

ファルコンマンは機内の窓を飛び出した。

それを見て、断末魔の叫び声をあげるアレックス。

飛行機は海の上で大爆発した。 

飛行機から脱出し、空港を目指して飛ぶファルコンマン。

ヘリに乗って追ってきたロドリゲス刑事が叫んだ。

「ファルコンマン!怪我は無いか!?」

ファルコンマンは空を飛びながらガッツポーズをしていた。

安心するロドリゲス刑事。


翌朝。

ノーラン邸に戻ったトビアス。

自室から出て、サムを呼ぶトビアス。

「サム!」

しかし、返事がない。

「どこ行ったんだろ?」

と言いながら、庭に出ると、テーブルでサムがメアリーと、もう1人、眼鏡をかけた女性がコーヒーを飲んでいた。

「おお、トビアス!戻ってきたか。お前も来いよ!」

トビアスに気づいたサムが呼んだ。

「サム、この人は?」

「彼女か?ノーラン産業の新入りだ。お前をいろいろとサポートしてくれる。」

サムが紹介すると、眼鏡をかけた女性は、シャツの胸ポケットに入れた、ウサギの人形のキーホルダーがついたペンをカチカチと言わせ、

「サーシャ・ケンジントンよ。あなたがトビアス・キートンね。噂は聞いてるわ。よろしく。」握手を求めてきた。

「いい噂かな・・・?よろしく。」

トビアスはそう言って、握手に応じた。

「彼女は優秀だからな。仲良くしてやってくれ。」

サムが言った。

トビアスは頷き、彼らを背にすると、笑顔を崩し、自室に戻る。

心配したメアリーがトビアスを追って自室に来た。

「トビアス、どうしたの?」

「僕のせいで、親友が死んでしまった・・・」

「あなただけじゃないわ。あたしだって、大切な人を亡くしてしまった。でも、彼らの分をあたしたちが生きていかなきゃ。」

「そうだね・・・」

「それと。」

メアリーはトビアスの頬に触れてきた。

「ファルコンマンの写真を撮るのは諦めたわ。だって、いつも傍にいるから・・・」

メアリーはトビアスに軽くキスした。

「すまない、メアリー・・・ずっと隠してた・・・」

「いいのよ。」

メアリーはそう言って、部屋を出ていった。

ベッドに座っているトビアスは、ポケットから2枚の写真を取ると、つぶやいた。「ありがとう・・・」その写真に写っているのは、自分とアレックスではなく、ブライアン、そして両親だった。

自らを光へと導いてくれた存在。

きっと、天国で見守ってくれているだろう。


夕方。オフィスから外を眺めるロドリゲス刑事。そこにファルコンマンが飛びこんできた。「ようやく解決したね。」「ああ、一応な。だが油断するな。我々警察が強力な武器を使うほど、奴らも同じように強力な武器を使うようになる。この街はまだまだ、平和には程遠い。」「そうだね。」「早速、新手の犯罪者が現れた。身元不明、君のように漫画に出てきそうな奴だよ。これを残していった。ウソ吐きのピノキオだ。」ロドリゲス刑事は、そう言って、ビニールに入った機械仕掛けの鼻を見せた。

ファルコンマンはそれを見て、「そいつの起こした事件があったら、この番号に連絡して。」と言って、サム・ノーランの名刺を渡した。それを見たロドリゲス刑事は、驚愕しつつ、「よし。わかった。」と言った。

ファルコンマンはガッツポーズをすると、窓を飛び降り、夕焼けの大空へと飛び去っていった・・・


ありがとうございました。ただ今、外伝を連載しようと考えています。この作品を読んで、気に入ってもらえれば、ぜひ読んでいただけると幸いです。

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