「だって……お化け怖いんだもん」
まずはここの説明だな
一条戻り橋、それは全国的にも有名な京都の橋の一つだ。
遥か昔の平安時代、この橋は鬼が住み着いていた。
それ故にこの橋は、あの世の入り口とも云われていた……のは有名な話だ。
勿論、「鬼が本当にいたのか?」と聞かれれば「知らん」と答えるしかない。
まぁこんな馬鹿な質問する阿呆はお前くらいだろうが。
何にせよ、今の戻り橋には鬼は住んでいないのだけは確かだ。
そう、今この橋に住んでいる私が言うのだから間違いない……
と言っても私がこの橋に住み着いたのは一週間ほど前なのだがな。
なぜこの橋に住むようになったかって?
そうだな ……少しだけ、昔話をしようか
ちょうどバブル崩壊時期だ。
街には失業者が溢れかえり、人間社会全体が嫌な雰囲気だった。
私には、関係ない話だったがな……
その頃の私は手が着けられなかった。
年上の者には喧嘩をふっかけ、連戦連勝 常勝無敗
またあるときは万引きをしたり、勝手に人のものを盗んだり、他にも色々とやらかしていた。
さすがに警察や両親も黙ってはいなかった。
両親からは家を追い出された。
話が変わるが実はこの両親、本当の親じゃなかった。
私は捨て子だった。
偶然、この両親がまだ幼い私を見つけ、そのまま育ててくれた。
……少しそれたな、話を戻そう。
取りあえず、こんな事ばかりしていたんだ。
警察からは追われるはめになった。
私は必死に逃げたよ
……そして毎日が、戦いだった。
その日の飯も困っていたからな、だが俺には誰にも負けない腕っ節があったからなんとか生きていけた。
この後も、色々とあるがそれは次の機会にしよう。
「あれ見てよ!」
学校帰りの金髪の女子高生が隣の茶髪の女子高生に話しかけている。
「うわっ! 汚ない猫」 茶髪は嫌悪感丸出しの声を上げた。
「そっちじゃないよ! その隣にいる女!」
金髪は少し声を荒げていった。
「はぁ? 女なんていいひんやん」
「なにいってんのよ。そこに……あれ? いない…」
金髪は、おかしいな、と呟きながら橋を見つめていた。
どんなに見つめても、橋の手すりの上に、
汚い黒猫がふてぶてしく鎮座しているだけだった。
「幽霊でもみたんちゃうん?」
茶髪はふざけながら言った。
「まさかー それはないっしょ だって真っ昼間だよ」
真っ昼間だからというよく分からない根拠で、それを否定した
「まっ そんなんより田中の奴がさー由衣に、告ったらしいでー」
茶髪は話題を百八十度回転させた。
「え、マジー?」
金髪はその話題に食いついた。
茶髪はニヤリと口元を歪めながら
「うん、マジ」
といった。
「それで… どうなったわけ?」
金髪は興味津々だった。
「この先は、有料でーす
百円を入れてください」
そう言いながら茶髪は財布を鞄から取り出し
小銭入れを開いた。
「さらば!百円」
金髪は躊躇せず小銭入れに百円をいれた。
「毎度ありー なら立ち話もなんだからマックいこうや 奢るで百円までなら」
「それ、私の金じゃん」
こんな、
会話をしながら金髪と茶髪はサッサとその場を去っていった。
「へー 猫さんも大変だったんですねー」
私が生きていた頃ならきっと考えもしなかっただろう。
(いやー、猫の世界も大変だ)
「あの頃は、若かったんだよ……あと猫さんっていうな阿呆」 猫さんは遠い目をしながら私にいった。
「なら、なんて呼べばいいんです? あと、私は阿呆じゃなくて七海ですよー」
一応、阿呆は否定しておく
(うん、少なくとも阿呆なんて呼ばれたことないし…阿呆な子とは親にいわれてたけど)
「阿呆に名乗る名などない」
「ひ…ひどい」 (猫さん、それはひどいですよ)
「仲良くしましょうよー 猫さん」 私は猫さんの頭を撫でた。
どうやら触ろうと思えば触れるらしい。
「触るな このド阿呆 今日はもう疲れた。私は寝る」
猫さんは橋の名前が彫られている石像の上で丸くなりだした。
カラスの鳴き声が、静かに響いている。
辺りは、段々と茜色に染まり、人の気配はすくなくなっていた。
猫さんは、さも鬱陶しそうな顔をしながら、
手すりをつたって、
橋の名前が彫られている
石像の上で丸くなりだした。
辺りは、すっかり暗闇に染まり、人の気配は微塵も感じない。
夕日が猫さんの体に当たる。その姿はどか哀愁を漂わせていた。
「猫さーん、寝ないで下さいよ。
寂しいじゃないですか それにまだ夕方ですよ」
私はなんとか猫さんを起こそうとした。
「うるさい、大人しくしてないと追い出すぞ」
(今、寝られたら私…暇で死んじゃう)
「だって……お化け怖いんだもん」
私はなんとか猫さんの気を引こうと、
おかしなことを口走っていた。
(お化けが苦手なのは、本当だしね…私、幽霊だけど)
「幽霊がなにいってんだ。いいから寝かしてくれ」
ごもっともな正論が帰ってきた。
それっきり猫さんは何を言っても反応しなかった。
カラスの鳴き声が
「阿呆ー」といっている様に聞こえてきた。
私は戦場で一人取り残された気分だった。
「はぁー」
大きなため息をつきながら、
私は自分が死んだときのことをふりかえった。