依頼書生活6
「ここか。」
俺は指定された場所に来ていた。
指定された場所はただの一軒家の前。
時間よりも早く来たからか、そいつは来ていなかった。
あの依頼が来てから考え続けた。
行くか行かないかを。
結局行くことにしたのだが。
だが、もちろんそれ以外にも考える。
そして考えて思い出したことがあった。
俺は両親の顔を知らない。
いや、輪郭だけはわかる。
だが、詳しくはわからないのだ。
結構前から俺は一人だったが、なぜ俺は疑問を持たなかったのか。
普通に依頼所なんかやっているのだろうか。
親に仕送りすらしてもらってないのになんで俺はアパートに住んでいるんだ。
全部思い出せなかった。
だが、今日。それも解消されるだろう。
依頼主。俺の弟を名乗るやつだ。
名前は覚えない。
それは依頼主との関係を依頼の間だけにするためだ。
だから俺は弟と名乗る人であろうと覚えない。
そして俺は時間になるまで待った。
五時半。
その時刻になってもまだ来ていなかった。
だまされたか。
そう思い帰ろうとすると、
「あなたが私の兄ですか……?」
そいつは来た。
パーカーをかぶり、顔は下を向いていたのでこちらのことをわかっていないようだ。
ゆっくりとそいつの方を向く。
そいつはこちらに驚いたようにこちらを向いた。
「なんでいるんですか?私の兄は…。」
「ちなみに俺の名前は……な。」
そう返す。
他人には名前は公開しない主義だ。
「えっと、僕の兄と同じ名前なんですが…。」
「多分、俺がお前の兄とやらだ。」
憶測でしかないが、そう俺は思った。
「だが、俺はお前を知らない。それに俺は両親のことを知らない。」
正直に話す。
これで何か話してもらえると助かるのだが。
「えっ。じゃぁ違うんじゃ……。」
まだ信じられないらしい。
当たり前ではあるか。
「お前の両親の写真あるか。少し見せてくれ。」
何か思い出すかもしれない。
そういう思いで言っただけだが。
意外と強烈だった。
…少しだけ思い出したぞ。
そうだ。俺の両親は…。
自分の失態を俺のせいにして暴力をふるったんだっけな。
あの顔。笑顔で……。
実の子供に暴力をふるい、いろいろやっておいてあいつらは…!
「あの、どうかしましたか。」
そう心配してくれた。
「あぁすまない。思い出したよ。」
一度そいつの顔を見る。
また思い出せた。
そうだったな。
こいつは頭がよくて、おとなしくて、周りに気づかいができて…
完璧な奴だったな。
両親もこいつを大事に思って、大事にしてたっけなぁ。
そのせいで俺はさらに無能の烙印を押され、さらに傷つけられたっけ。
「思い出したよ。そうだったな。俺の親が嫌になったんだったな。」
困惑しているそいつを横目に俺は思い出す。
親の暴行は少しずつヒートアップしたな。
最後にはナイフまで取り出して。
命の危険を感じたんだったな。
それから逃げ出したんだったな。
生きる一心で盗みだってしたな。
そしてあのアパートの大家さん相手に盗みをして、ばれて拾われたっけ。
それから家賃のため、生きるために依頼所を始めたんだったな。
そうだ。なんで忘れていたんだ。
嫌だったからなんだろうが。
こんな過去思い出したくもなかった。
「あのクソ野郎どもが。」
口に出してしまった。
一応隣にあいつがいるのに。
「……さん。いや、兄さん。思い出しましたか…。」
「俺が兄って認めたのか。」
「俺の親が嫌になった。その言葉でわかりますよ。それにクソ野郎どもという言葉も。」
「……すべて、兄が僕の前で言っていたことです。」
へぇ思い出せないだけで俺の体は覚えてるってか。
「僕も兄さんの所にいけないですか。」
「お前にはあの野郎どもがいるだろう。」
こいつは天才だとかいろいろもてはやされていたはずだ。
そんな奴に俺と同じ生活は似合わない。
「僕は、そこまで完璧人間じゃありません。」
そうそいつは言った。
そこからいろいろ話をし始めた。
「兄さんがいなくなってから。最初らへんは親もご機嫌で、すごく平和でした。」
「だけど、兄さんがいなことで仕事のストレスが発散できなくなっていったんです。」
「俺も少しは役に立っていたようで光栄だな。」
こんな役は嫌だが。
「最初はよかったんです。今までよりも酒をたくさん飲むぐらいだったんです。」
あいつらはもともと尋常じゃないぐらい飲んでたが。
よかったのか?まぁさっさとくたばってくれるならいいだろう。
「それでもだめだったらしくて、少し経つと物を壊し始めました。」
「あいつららしいな。」
事実俺がいたころも似たようなことはやっていると今さっき思い出した。
「そして被害は僕にも来ました。兄さんと同じような暴行です。」
「だけど、僕では物足りなかったらしいです。少しずつ薬にも手を出しました。」
「その薬を売っている人たちは銃を持っていて、親を脅し親の手を汚させました。」
「詐欺師を殺したと。そう聞きました。」
その詐欺師がわかる気がする。
あの銃を売っていた連中じゃないか…?
「私は親を警察に突き出そうと思います。」
「突き出した後、俺が保護者として引き取れとかは無理だぞ。」
事前に否定しておく。
「なぜですか。」
「俺のところに来ても幸せじゃないんでな。突き出した後に警察に引き取ってもらえ。」
俺のところに来てもろくに飯も食えない。
「それでもいいです。」
「あのな。俺は金に余裕がない。それにお前は両親が犯罪者だ。」
両親が犯罪者。つまるところ。
「学校でいじめられる。いじめで済んだらいいな。直接的に手を下されるだろうな。」
暴力だけじゃないだろう。
陰湿なことだってされる。
親が犯罪者というだけでそいつは犯罪者というレッテルが子供の中では張られる。
さらには殺人だ。
学校から退学が打診される可能性だって高い。
「わかるか。現実だ。自分がどんなに清くても、最終的に評価するのは周りの人間だ。お前ことなんか関係ない。」
俺にはわかる。依頼所をやってれば。
そういう人間の裏は見てきた。
「そうですか。ならいいです。」
でも。とそいつは一拍おいて、
「たまには手紙をください。僕は、一人になりたくありません。」
こいつは強い。
そう思った。
自分の弱さを他人に言える。相当すごいことだ。
「まぁいいだろう。そんぐらいやる。」
そういって俺は背を向けてアパートに戻る。
「兄さん!あなたはこれからどうするんですか?」
そう問いかけてきた。
俺はこう返した。
「これからも桜依頼所をよろしくお願いします。」
俺はこれからも依頼書生活だ。
そして俺は歩き出した。
~終わり~
最後の回です。ここまで読んでくださった方、このような物語をよんでくださってありがとうございます。様々な至らないところがあったとは思いますが、本当にありがとうございます。
よければ辛口でも構いませんので評価等お願いします。




