表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/3

楔子 ― 時間の彼岸を見渡す位置に立つ

なり微風が広々とした草原を吹き渡る。詩人のような赤髪の少女は、手に持った年代物の七弦琴をじっと見つめ、ひび割れた木目を軽く撫でる。

 もしあの時、もう一つ願いがかなうなら、あなたは…?

 彼女は顔を上げて見渡した後、再び頭を下げる。

「まあいいか。神であっても、きっと…」


「お姉さん!詩人のお姉さん!今日もお話してくれる?」

 詩人は振り返る。そこには、6〜7歳くらいの黒髪の少年が、興奮に満ちた瞳で手を振りながら走ってくる。詩人は帽子の縁を引っ張り、顔の表情を少年に見られないようにする。


「気分があまり良くないんだ。」

「えー!どうして?」 少年は落ち込んだ顔で詩人を見上げる。詩人は少し照れくさく、顔をそらすが、少年は詩人のマントの端を掴んだ。


「お願いだから、詩人のお姉さん、私に『英雄』の話をしてよ!勇者が魔王を倒す話とか、騎士が暴君を倒す話とか!」


 詩人は、できるなら少年の瞳を見たくないと思う。

 眩しすぎるからだ。


「それなら、詩集とか物語の本とか持ってない?家に帰って、お父さんお母さんに読んでもらうから—」

「はは、小さな年頃で他人から物語の道具を騙し取ろうとするんだね。」詩人は苦笑し、七弦琴の弦を指で軽く弾く。稀に一、二の音が弦から浮かび上がる。


「君のことをある人が思い出させるんだ。」

「誰?有名な王様?それとも強い戦士?勇敢なの?」 少年の目は輝き、期待に満ちている。


「いや、君みたいな感じだから、そんな話を思い浮かべてしまうんだ。」

「えっ、じゃあ英雄の話じゃないの…?」

「私がいつ話すって言ったんだよ!まったく、どっちも似たり寄ったりだ!あの少年、なんだかんだで『勇者伝説』の豪華版を持っていったんだぞ!」


「彼も英雄の話が好きなの?詩人のお姉さん、その少年を私に紹介してよ!きっと気が合うと思うんだ!」


 詩人は突然、鋭い眼差しで少年を見た。

「君、本当に『英雄』の話が好きなのか?」

「うん!」


「じゃあ質問だ。」詩人はマントを軽く振り、草地にあぐらをかいて座る。

「『英雄』とは何だ?」


「それは、他人を救う人に決まってるじゃん!」 少年は迷わずに答える。自信に満ちた口調だ。

 やはり子供だな、と詩人は苦笑する。


「それなら…『救う』とは何だ?」

「えっと…」 少年は頭をかきかき、少し困惑する。

「困っている人を助けることだよね!」


「ふふ、君、本当に『英雄』が何なのか分かってるのか?」 詩人は軽い調子で、七弦琴の弦を指でゆっくり調整する。


「昔、ある人が言ったんだ。『英雄』とは『救う』ことで、救われる者に『幸福』をもたらす者だと。でもその英雄自身は?」当時の私は訊こうと思ったが、少年の答えが予想できたので黙っていた。」


「それで?その人は最後には自分の夢見た『英雄』になったの?」

「…君、その人に興味があるのか?」


「興味あるよ!英雄の話が一番大好きなんだ!」

 少年は詩人の隣に楽しそうに座り、輝く瞳で詩人を見つめる。


「この話、長くて私が歌うのも面倒なんだけど?」

「大丈夫!何日でも話してくれればいいよ!」


「千零一個月夜を越えても構わない…?」 詩人は指で数えて、笑いながら言う。

「そんなに話すなら、私も伝説級の吟遊詩人になっちゃうかもね。」


「いいよ、いいよ!月夜の英雄伝説、なんだかカッコいい話になりそうだね!」


「ふう、まあいいか…」 詩人は喉を軽くクリアして、静かに話し始める。


 ---


「もし君が結末を知っていたら、

 きっと彼を哀れんだだろう。

 もし君が当時の背景を理解していたら、

 彼を嘲笑してしまうだろう。

 だが、彼の願いを知っているなら、

 きっと最後まで彼を支持することはできないだろう…」


 詩人は一度言葉を止め、続けるかどうか考えるように見えたが、最終的にはゆっくりと言った。


「そして君が最も知るべきことは――

 英雄の物語は、決して彼自身のためには書かれていないということ。」


 詩人の声は次第に低くなり、弦楽器が終曲の音を奏でるように響いた。


「すべての人が『幸福』を手にした時、

 誰が英雄の結末なんて気にするだろう?」


 少年は一瞬、言葉に詰まり、返答する前に詩人は黙り込んだ。

 夜の空は次第に暗くなり、早く出た満月が夜の始まりを告げる。

 弱い星明かりが詩人の歌に新しい音符を加え、

 遠い過去の「英雄」の物語が静かに奏でられるのであった…。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ