夢…?
それから、緊張の糸がずっと張っていたおかげで異様に長く感じた1日も終盤に差し掛かった。
つまり…深夜になったのだ。
だから、私とエリカは、深夜0時を回る前に、ホタル取りに行くと嘘の理由でみんなを説得した。
その結果、この館の外の密林に誘導することに成功することができた。
そして、今の時刻はは深夜23時を回る頃だ。
つまり…
あともう少しで、屋敷は……
……?
あれ…?
にしても……
後ろに誰かいるような。
そんな凍てついた視線が私には感じられた。
気のせいだと思って、なんとか平常心を保とうとしていたが…無駄だった。
何故なら…本当にその男は私の背後にいたからだ。
嗚呼。
近づいてくる。
少しずつ…少しずつ。
歩み寄って来る足の音。
ブーツと地面に生える野草が擦れた時に聴こえる微かな音。
それらの音が、私の耳元に迫りつつあった。
私は背筋を凍らせ、瞬きすらできなかった。
というのも、茂みの音をできる限り消しながら、歩み寄ってくるような…大地を慎重にブーツで踏みしめるような…そんな音が、私の背後から聞こえてきたのだ。
あれ……にしても。
なんだ…?この殺気は。
まるで、後ろから…人を斬るような。
そして…何よりも生臭い血の匂いがする。
その生臭さは目を背け、鼻を覆いたくなるほどのものだ。
しかし…この時、その殺気と血の匂いを嗅ぎ付けた愚かな私は、頬に汗を伝わらせながら、緊張と警戒の糸を切らさないようにしながら、後ろを振り向いた。
しかし……
そこにいたのは。
執事ゾルゲさんだった。
『なんだ!ゾルゲさんだったんですね!!良かっ…!!』
『……』
『………』
『…………?』
何?この感覚……
あれ…?
痛い。
腹が疼く。
まるで"腹でも剣で貫かれた"ような痛みが、私の全身を貫き、襲った。
痛い。痛い。
なんかとてつもない空腹感も感じてきた。
まるで……餓死寸前のような。
あ……そっか。
……
私。この目の前の男に腹を貫かれたんだ。
腸のどこかを貫かれたのだ。
そして、この目の前の男は異様な落ち着きを見せながら、私に残酷な真実を告げた。
『君の友達のエリカは死んだ。私が殺したからな。…君達を屋敷の中に設置された闇の爆弾で、悪夢の深淵に落とせなかったのは非常に残念だが、普通に死んだとしても十分苦しんでくれるだろうからな』
エリカ……
う…そ。
エリカ…!
エリカァ!!
……駄目だ。これ。
いくら抵抗しても、いくら生きようとあがいても、身体から力が抜けてく。
『君は死ぬ。この悪夢の中で死に、二度と現実世界でも目を覚ますことはない…!』
私の物語はここで終わるんだ。
私……ここで死ぬんだ。
大切な友達も…大切な主も…そして……何よりも大切な親友…何一つ守れずに。
嫌だ。
でも……これは全て自己責任だ。
全て……私の責任なんだ。
だって、私は………
無力なんだから。
(………………)
そんなことを考えていると、突然、聞こえるはずのない日本に残された私の大切な人達の声が聞こえてきた。
『愛理!!愛理!!』
『お父さんだ!!お父さんはここにいる!!!お母さんもいるぞ!!』
あれ…?
お父さんとお母さんの声が聞こえた。
その声は…私の涙腺をズタズタに引き裂いた。
ごめん…!
ごめんね!!
長生きできなくてごめん!!!
お父さん!!お母さん!!
大好きだよ!!!
『バイタルが安定してきた!!目覚めるぞ!!!』
『……え?』
バイ…タル……?
なんで……病院の言葉が……ここ…で…?
……?
あれ……?
私。
生きてる。
胸から心臓の鼓動が感じられる。
だから、私は目を覚ました。
目を覚ますことができたんだ。
私が目を覚ますと、病院にいたお父さんとお母さんは私に抱きついてくれた。
そして……たくさん、たくさん…私のために涙を流してくれた。